神々の間では異世界転移がブームらしいです。《サイドストーリー》

はぐれメタボ

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盃を満たすは神の酒

エルフとドワーフ

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  シシナの町の冒険者ギルドのクエストボードは空きも多く、張り出されている依頼書も最高でCランク、依頼難易度と報酬が噛み合わず、放置されている依頼も多くある。
  これはシシナの町が特別なわけではなく、田舎の小さなギルドではよくある事だった。
  この町のギルドの受付嬢であるアイナはいつも通り、書類を整理し、受け付け業務をこなしていた。
  しかし、彼女には1つ心配事が有った。
  現在、クエストボードに貼られ、多くの冒険者にスルーされている依頼書だ。
  依頼の内容はゴブリン退治、近隣の村から依頼された依頼で、よくある非常にポピュラーな依頼だ。
  アイナが気にしているのは、その依頼を出した村がアイナの故郷だからだ。

ギィ

  立て付けの悪いスイングドアを潜り、見覚えのない2人の冒険者がギルドに入って来た。
  背中に戦鎚を担いだガッシリとした体格のドワーフと、弓を肩に掛けた緑色の髪を後ろで纏めたエルフの2人組だった。
  2人はカウンターに向かう事はなく、クエストボードを流し見る。
  おそらく別の街に向かう途中でこの町に立ち寄り、一応依頼書を確認しに来たのだろう。
  移動中に立ち寄った町に、ギルドが有れば依頼を確認するのは冒険者として当然の行動だ。
  割りのいい依頼が有ればラッキーくらいの行動なのだろう。

「どうだ、バッカス?
  良い依頼はあるか?」

「こっちは特に無いな。
  ありがちなゴブリン退治くらいじゃ」

「じゃ、明日にでも移動するか?」

「そうじゃのぅ、大きな街に行けば割りの良い依頼もあるじゃろぅ」

  アイナはそんな2人の会話を聞き流す。
  今まで幾度となく聞いた会話だ。
  いつもならこのままギルドを出て戻る事はない。
  しかし、今日は違った。
  エルフの冒険者がアイナの故郷の依頼書を手にしたのだ。

「ああ!」

「どうした!ジン!」

「おい!バッカス、コレを見ろ!」

「コレは…………ただのゴブリン退治の依頼じゃぞ?
  それも他の物よりかなり報酬が安い」

「バカバッカス!そこじゃねぇ!
  依頼を出している村を見ろ!」

「こ、この村は!」

「分かったか?」

「うむ、この依頼は受けなければなるまいて」

  アイナが戸惑っていると2人はカウンターへ依頼書を持ってやって来る。

「この依頼を頼む」

「は、はい。
  あの、この依頼は報酬がかなり安くなっていますが大丈夫でしょうか?」

「ああ、問題ねぇ」

「あ、ありがとうございます」

「なんでお主が礼を言うんじゃ?」

「この村はわたしの故郷なんです。
  なんとかしたかったのですが田舎のギルドの受付嬢程度の給金では家族に仕送りするだけでギリギリでして……」

「そうか、任せな、ゴブリン共は俺たちが蹴散らしてやるからよ」

「うむ、安心するが良い」

「はい、ありがとうございます」




「グキィィ」

  逃げ出そうとしたゴブリンの頭をバッカスの戦鎚が叩き潰す。

「そいつで最後か?」

  弓に矢をつがえ、油断なく辺りを伺いながらジンが尋ねる。

「みたいじゃな、念の為もう少し見回ってから村長に報告に行くかのぅ」

  ジンとバッカスは周囲を探索し、村へと報告に戻るのだった。




「この度は村をお救い下さり、ありがとうございました」

  ジンとバッカスに深々と頭を下げ、礼を述べる村長。

「満足に謝礼もお支払いする事も出来ず、申し訳ありません」

「気にしなくて良いさ」

「ではせめて夕食をご用意したのでお召し上がり下され」

  村長に促されジンとバッカスは夕食をご馳走になる事にした。
  用意されたのは蒸した芋や野菜のスープ、鶏肉の炒め物の料理だった。
  正直、ご馳走と言うほどの料理ではない。
  しかし、貧しい村人達が食材を持ち寄り用意してくれた料理だ。
  ジンとバッカスはありがたくいただく事にした。
  村の中心の広場にかがり火が焚かれ、村人達はようやく訪れた平和を大いに呑み、騒ぎ、踊り、楽しんでいた。
  そんな村の中央の席に案内された平和の立役者であるジンとバッカス。

「こんな田舎の村ではこの程度の酒くらいしか有りませんが、よろしければ……」

  村長が何本かの酒樽を、持って来てくれた。

「「………………」」

  ジンとバッカスは無言で視線を交わす。
  そんな2人の冒険者に酒を注いだ木製の素朴な杯を手渡す。
  酒を受け取った2人は、杯に満たされた酒が、かがり火を反射する光を楽しんだ後、同時に杯を煽った。
  そして…………

「かぁ~美味い!」

「これじゃ、これじゃ、やはり採算を度外視してでもこの村を守ったのは正解じゃった!」

  ジンとバッカスは口々に酒の味を褒めながら料理を味わう。
  特に鶏肉の炒め物と酒の相性は抜群だった。
  この村で作られている酒は、村の近くで豊富に取れる木の実や果実を使って作られている物だ。
  その作り方は先祖から代々村人達に伝わってきた物であり、その酒は村人にとっては大して珍しい物ではなく、日常的な飲み物の1つだった。
  しかし、それはずっとこの酒を作り続けてきた村人達だからの話である。
  時折、村を訪れる行商人に、ついでとばかりに余っていた酒を売ることがある。
  行商人に売られたその酒は、数々の商人や仲買人の手を経て王侯貴族を相手にするような大商会の一押しの商品となっている事を村人達は知らなかった。
  透き通る様に軽い口当たり、鼻から抜ける濃厚な果実の香り、甘い木の実の味わいが一体となったその酒は、まさに極上と言って差し支えない一品だった。
  ジンとバッカスが大した報酬も貰えない、移動中の食費や使用した武器の整備の費用などを差し引けば赤字でしかないこの村の依頼を受けたのは、この村が極上の酒を作り出すと噂の村だと気がついたからだった。
  その日、ジンとバッカスは振舞われる酒を大層機嫌よく飲み干して行くのだった。


「ジン殿、バッカス殿、ありがとうございました。
 近くにきた際は是非またお立ち寄りください」

  村長は改めて2人にお礼を言い、依頼完了の書類と報酬の銀貨を手渡した。

「ああ、ところで村長、もし可能ならあの酒を売ってくれないか?」

「酒をですか?
  構いませんよ、どれくらい入り用ですか?」

「売れるだけ売って欲しい」

  村長は若い村人達数人に酒樽を運ばせて来た。
  大きな樽が3つもある。
  それを見てジンとバッカスはにやけそうになるのを我慢する為、顔中の筋肉を酷使する事になった。

「こ、こんなによろしいのですか⁉︎」

  ジンが3つの酒樽と引き換えに差し出した皮袋には小金貨が3枚と沢山の銀貨が入っていた。
  村長が村中を掻き集めて用意した冒険者ギルドへの依頼料を軽く超える大金だ。

「おいおい、これでも帝都の相場では安い方だぞ」

「そうじゃ、お主達の酒の正当な価値というものじゃ。
  キチンと売り出せばこの村はもっと豊かになるじゃろう。
  その資金にでも当てると良い」

  村長の目に熱いものが溢れそうになっていた。
  自分達が代々受け継いで来たものが、力ある冒険者の2人に高く評価されたのは得難い程の感動だった。

「しょ、少々、お待ち下され!」

  酒樽をマジックバッグに仕舞い、いざ旅立とうとしていた2人を待たせ、村長は家の奥へと駆けて行った。

「なんじゃ?」

「さぁな」

  程なくして村長が戻って来た。
  その手には小さな酒樽が2つ。
 
「この酒をお持ち下され」

  そう言うと酒樽をジンとバッカスに押し付ける。

「これは?」

「これはこの村の酒、それも特別上等なものです。
  婚礼や出産などの特別な祝い事の時にだけ飲む特別な酒なのです」

「いいのかのぅ、そんな大切な酒を貰ってしまって?」

「はい、ジン殿とバッカス殿に是非飲んで頂きたいのです」

「そうか……ありがとよ、大切に飲むよ」

「また、困った事があればワシら、Cランクパーティ〈溢れる盃〉を頼るといいぞぅ」

  ジンとバッカスは村長と握手を交わし、拠点にしている街を目指し歩き始めた。

 
  後日、村長から貰った特別な酒を口にして、感動で涙を流すエルフとドワーフが居たらしい。
  そして、この村は数年後、酒の名産地として有名になって行く事になる。
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