俺の異世界生活の始まりを聞いてくれ……

はぐれメタボ

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俺の異世界生活の始まりを聞いてくれ……

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「ごめんね~」

  顔の前で両手を合わせて謝っているのは虹色に輝いて見える美しい銀髪を腰のあたりまで伸ばした少女だった。
  美少女では無い。
  少女の美しさを美少女などと言う言葉に当て嵌めることなど許される筈がない。
  この世の美を表す言葉をどれほど積み上げたとしても少女の美しさを表すことなど出来ないだろう。
  無垢な少女のあどけない可愛らしさと劣情を誘う女の色気を併せ持つその身体は、幼くは無いが成熟してもいない。
  10代後半の少女特有の不完全故の完成された美を持っていた。

「ねぇ、九条 燈理くん?
  ぼくの話聞いてる?」

「え⁉︎ な、なに?」

  本物の美しさを生まれて初めて目にして、惚けていた俺を覗き込む様に少女が顔を近づけてきた。

「うぉ⁉︎」

  反射的に身を引いてしまった。
  自分の顔が赤くなっているのがわかる。
  しかし、少女はそんな事を気にする素振りも見せない。

「大丈夫? ここに来るまでの事思い出せる?」

「お、俺は……」

  そうだ、俺は何でこんな所で少女に謝罪されているんだ?
  たしか俺は放課後、いつものパン屋で買ったアンパンを口にしながら傾き始めた太陽に照らされながら歩いていた。
  その時、視界の外から悲鳴が聞こえて来た。

「ん?」

  俺がそちらに目を向けると白い軽トラがこちらに突っ込んで来る。
  運転手は居眠りか何かの発作なのかハンドルを握ったまま伏している。
  俺は好んで読んでいる漫画や小説で似た様な状況を目にする度に、自分なら軽く避けられる、何で避けないんだ?と思っていた。
  しかし、実際に目の当たりにするとそれが何もわかっていない愚かな考えだったと理解するしかない。
  高速で迫って来る鉄の塊に目にした恐怖で一歩も動けない。

「きゃー!」

  誰かの悲鳴が遠くに聞こえ、軽トラとの距離がゼロへと近づく。
  そして…………

  ドガァァァアッ!

  …………俺の横を掠めた軽トラは後ろに有った工務店の資材置き場へとつっこんで行った。

「はぁ、はぁ、はぁ」

  俺はいつの間にか轟音を鳴らしていた心臓を落ち着ける為か荒い息を繰り返していた。

「君、大丈夫か!」

  近くに居たサラリーマン風の男が俺の肩を叩き声を掛けて来る。

「は、はい。大丈夫……です」

「ここは危ないから離れた方が良い」

「はい」

  俺はサラリーマンに促され事故現場から離れ、近くのコンビニの前まで移動する。
  コンビニの前に有った自動販売機でスポーツドリンクをかい店内と外を隔てるガラスを背にして一気に飲み干した。
  下手をしたら死んでいた。
  俺が助かったのはまさに偶然と言うしかない。
  今になって背中を冷たい物が通り過ぎて行った。
  目の前に止まっていた自動車の持ち主の老人が、車の後ろで冷や汗を流す俺を不審な目で見ながら車に乗り込んで行った。
  そろそろ帰ろう。
  ようやく落ち着きを取り戻して来た心臓を意識した。
  この恐怖も、明日学校で今日の事故の話題を提供すればバカな友人達との一騒ぎに出来るだろう。
  空になったスポーツドリンクの缶を捨てる為、ゴミ箱へ一歩、踏み出した。

  ガギァァアン!!

「キャー!」

  猛烈な衝撃と先程も聞いた悲鳴が飛び込んで来た。
  なんだ?
  何が起きた?
  混乱する頭で必死に状況を理解しようとするが、何故かあたまが回らない。
  考えようとすると集中出来ず、なんだかフワフワした感覚に襲われる。

「ジイさんがコンビニに突っ込んだぞ!」

「おい、学生が巻き込まれてるぞ!誰か救急車!」

「おい君、しっかりしろ!」

  俺の周りでざわざわする大人をなんだかテレビを見る様に現実感無く見回す。
  突っ込んだ場所は本棚が有ったのだろう。
  辺りには沢山の雑誌が散らばっている。
  俺の身体は雑誌に包まれているかの様な状態だ。
  ただの雑誌なら別に良い。
  だが、俺を包んでいる雑誌はまだ、生まれてから17年しか経ってない俺は、購入するコトが叶わない大人の嗜好品の類いだった。

「…………エロ本に……包まれ……て…………死ぬとか……ダサ過ぎ……」

  こうして俺の17年の生涯は終わった。

「……って俺死んでんじゃん!」

「はい、貴方は先程お亡くなりになりました。
  いや~ほんとごめんね」

  虹の様な銀髪の少女が顔の前で可愛く両手を合わせて謝ってくる。

「え、な、何です……」

「実は……私は神様なんだけどさ……春の陽気に誘われて……ちょっと、ちょっとだけ居眠りしちゃったのよ、20年くらい」

「は、はぁ」

  普通なら自分を神様だなどと言う奴は大丈夫かと心配するか、関わらないように距離を取るだろう。
  しかし、少女のあまりの美しさを目にしていた俺の頭は、『さもありなん』と理解するだけだった。
  神様でも無ければあの美しさはあり得ないだろうと納得する。

「それで寝ている内に予定外に君が死んじゃってね。
  いや~ごめんごめん。
  今度からは気をつけるよ」

「いやいやいや!え⁉︎なに⁉︎
  俺、神様のミスで死んだの⁉︎」

「うん、そう」

  「軽!⁉︎
  神様、軽!
  『コップ割っちゃいました、てへ』
  みたいなノリで謝ってるけど俺死んでるだよ!」

「まぁまぁ、悪かったって、お詫びに転生させてあげるから許してよ」

「え⁉︎
  転生って漫画や小説で良くあるあれですか?」

「うん。
  同じ世界に生まれ直す事は出来ないけど別の世界なら転生しても問題ないし、何ならぼくが今と同じ身体を作って転移にしても良いよ」
  
「マジっすか⁉︎」

「うん、それに今回のお詫びに君の望みを2つ叶えてあげるよ」

「そ、それってチートを貰えるって事ですか?」

「うん」

  そこからが長かった。
  神様と相談し俺のチートを決めて行く。
  そして、数々のチートから俺が選んだのはスマホとネットショップの2つだ。
  …………言いたい事はわかる。
  この2つはとても流行ったがあまりにもチートが過ぎるとして最近は少し嫌われ気味だ。
  しかし、コレは俺の人生の掛かった選択だ。
  チート上等、俺Tueeeで良いじゃないか。
  わざわざ危険なモンスターと戦う必要はない。
  ネットショップで買ったものを売るだけで問題なく暮らして行けるだろう。
  スマホでネットに繋げは内政チートもドンと来いだ!

「えっと、スマホって言うのはケータイの事だよね。
  あとネットショップって奴に魔法で繋げる様にすれば良いかな?」

「はい、それでお願いします」

「じゃあ、行くよ?
  今回はほんとごめんね」

「いえ、ここまでして頂いてありがとうございます、神様」

「ふふふ、ぼくの名前はアルミスだよ。
  バイバイ、燈理くん。
  ぼくは君の人生を応援しているよ」

「はい、アルミス様…………あ、もし今回のミスが無かったら俺はどれ位生きられたんですか?」

「んとね~」

  アルミス様は懐からメモ帳を取り出しペラペラとめくる。

「君は52年後、69歳の時に本屋で地震に遭って、倒れてきたエロ本に押し潰されて死ぬ予定だったみたい」

「………………マジ……ありがとうござました」

  俺は心の底から感謝しながら意識を手放した。



  木々の間から漏れ出した光が閉じられた瞼を透かし俺の意識を呼び覚ました。

「ん?」

  上半身を起こした俺は辺りを見回す。
  小さな丘の上に生えた大きな木の根元に居た様だ。
  目の前には土を踏み固めた道が視界の届く限り続いている。
  そして、丘の下には周囲を塀で囲まれた町が見える。
  その様相はとても日本とは思えない。
  やはりここは異世界なのだろう。
  俺の手元には鞄が1つと鞘に収まった剣が一本ある。
  鞄の中を改めると携帯食だと思われる物と水の入った革袋、幾らかの硬貨が入った袋などが入っている。
  それに、この世界の基本的な知識はいつの間にか頭の中に入っている。
  改めて、アルミス様に感謝する。
  鞄の中を確認した俺はズボンのポケットに手を突っ込んでそこに硬い板状の物体がある事を確認し、ニヤリと微笑む。
  人生の勝利を確信しながらポケットから取り出したそれを見る。

「…………………………」

  俺の手に有ったのは手の平に収まるくらいの板状の機械だ。
  本体の半分を占めるボタン。
  上の方には小さな液晶画面がある。

  ピッ!

  試しに5と描かれたボタンを押してみる。
  すると小さな液晶画面に『5』と表示される。
  そして、俺の頭にアルミス様との会話が再生される。

『居眠りしちゃったのよ、20

『スマホって言うのはの事だよね』

「ガラケーじゃねぇか!」

  俺は手にしていたそれを、まさに神様から賜ったそれを全力で地面に叩きつけた。
  神様、ガラケーはスマホじゃ有りません。
  せめて、せめて最近のモデルならネットを見る事も可能だっただろう。
  だが、アルミス様から貰ったケータイは初期も初期、メールやカメラすら付いてない、マジで携帯できるだけの電話だった。
  アンテナを伸ばすヤツだ。
  なんてこった。
  俺のチート生活の両輪の内の1つが早々に使えない事が発覚したのだ。

「くっ!ネットショップの方はどうなんだ⁉︎」

  俺は何故か知っている魔法の使い方により、ネットショップを起動させる。

「おお!」

  目の前に俺にしか見えない画面が現れる。
  それは、パソコンの画面と同じ様に表示されている。
  俺も利用した事がある大手通販サイトだ。
  
  俺は試しに購入してみる事にした。
  やはり中世ヨーロッパ風のこの世界では塩を手に入れて売るのが鉄板だろう。
  早速、塩を購入リストに追加して購入画面に進む。

「ん?」

  通販サイトの購入画面。
  そこに表示された文字を見て俺は動きを止める。

【お届け先を入力して下さい】

「………………」

  俺は画面を睨みつけるが、入力するべき住所や郵便番号は埋まらない。
  更に言うと支払いはどうすれば良いのだろうか?
  まだ、学生である俺はカードの類は持ってない。
  前に利用した時は着払いにしていた。
  だが……コレは……
  俺の背中に冷や汗が流れ出す。
  俺は異世界初日にして神様から貰った超絶チート2つが全く使えない事に気づいてしまった。

  こうして俺の異世界での新たな人生はハードモードで始まりを迎えるのだった。

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感想 1

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みんなの感想(1件)

やじるし
2018.08.19 やじるし

素晴らしい作品ですね! 続きを楽しみにしています!

異世界……スマホ……うっ、頭が…

???「まるで将棋だな」

2018.08.19 はぐれメタボ

感想ありがとうございます。
今の所は続きは全く考えていませんが今連載で書いている物が完結すれば続きを考えるかも知れません。

異世界にスマホはズルいですよね。
まるで将棋です(笑)

_:(´ཀ`」 ∠):

解除

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