望む世界

不思議ちゃん

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家族構成

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「ねえ、おにーさん」
「なんだ」
「お互いに何も知らないんだから、何か話しながら行こうよ」

 まだあそこを発ってから昼にすらなっていないというのに、黙って歩いてるのは飽きたらしい。

 出会った【ゾンビ】も特に変わりはなく、数も両手で足りる。

 1体、多くても2体で現れるため、最初は楽しそうに突っ込んでいた薫も最後の方は作業になっていた。

「何か、ねぇ……」

 きっと……いや、確実にだな。
 崩壊する前の世界でこのような事を話しても、俺は邪険に扱っていただろう。

 現に、そうしていた。

 前と今じゃ大きく世界は変わったが、俺の対応もここまで変わるものなのだろうか。

「逆に聞くが……何を聞きたい?」

 だから今の俺をあいつが見たとしたら、何と言うだろうか。

「んー……好きな食べ物、とか?」
「生産性がない質問だな」
「あるよ! 私との間に絆が生まれる!」
「そこで冗談を言うあたり、面白いよ」
「私は本気なんだけど……」

 この世界で他人を信じられる人ほど、信用できない奴はいない。
 自分さえ生き残れたらいいのだから、見捨てるなり、囮にするなりすればいい。

 それらは自分がされる可能性もあるんだが。

「おにーさんの家族構成とか?」
「4人家族だよ。両親は海外にある研究所で働いていて、妹は勘当されてるしムショにいる」

 ……どこか既視感があると思えば、薫は妹にも似てるのか。
 性格は真反対なんだが。

「好きな食べ物は教えてくれなくて、家族構成を教えてくれる理由は?」
「教えといて意味があるか、ないかの違い」

 もし、どこかで出会った時。
 少しでも説明が楽になればいいと思ったが……それまでこの情報を覚えてられるのか。

「話してるの、俺ばかりなんだが」
「えへへっ。私が好きな食べ物、知りたいの?」
「それはどうでもいい。家族構成や、俺に──止まれ」
「んっ?」

 ちょっとした住宅街に入ったところで見覚えのあるシルエットが。

「少しだけ楽しめる相手が出てきたよ」
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