望む世界

不思議ちゃん

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キチンと殺せる

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 特に何かをしたわけではない……はずだ。

 何故警戒されてるのか分からないが、落ち着いて考える余裕ができたのはありがたい。

 いや、そもそも俺に対して警戒してる事自体が違う可能性も。

 ……それを考え出したらきりがないか。

 今一度、警戒される理由を考えるが……何も分からない。

 調子が上がってきて更に楽しくなるところだったのに、冷めてしまう。

 包丁とトンカチの感触を確かめつつ、顔を動かさないようにしながら周囲の確認をする。

 鉈は……あそこか。
 ただ、鉈に持ち替えたところで好転するわけでもない。

 包丁とトンカチよりも手数が落ちるため、むしろ状況は悪くなると思う。

 いや、所詮は机上の空論か。
 もしかしたらうまい具合に事が運ぶかもしれない。

 今は薙刀の子が大人しいけれども、また同じように攻められたら今度は無理かもしれない。

 まだしばらくは持つと思うが、包丁とトンカチの耐久はガンガン減ってるだろう。
 これも不安要素の1つだ。

 何も考えられてないが、薙刀の子が落ち着き始めている。

 そろそろ時間切れになりそうだし、まだ完全に立ち直ってない今しか、仕掛ける機会はないか。

 疲労が残る体に鞭打ち、走って近づいていく。

 薙刀の子は反応が一瞬だけ遅れていたが、すぐに構えなおし、カウンターを狙っているようだ。

 このまま突っ込んでいくのは自殺行為だろう。
 だが、未来が見えるのだからその心配は必要ない。

 見えなかったら突っ込んでいなかったし、さっきまでの打ち合いで死んでいる。
 そもそも、ここまでたどり着けていない。

 そう考えると俺はまだ、この世界を楽に生きているのだろう。

 相手の間合いに入り、突き出された薙刀を包丁で逸らせたのは、たまたまだった。

 少し雑であったため、負荷がかかり過ぎてさらに壊れやすくなってしまったけど、できた隙を逃さないようトンカチを振るう。

 しかし、それは俺の間合いにまで近づく1歩、2歩の時間で引き戻された薙刀によって防がれる。



 ここにきて初めて、リーチの差がウザいと感じた。

 これまでの打ち合いは相手も動いていたから距離を詰めるのも楽だったが。
 今回は動いておらず、俺自身で距離を詰めなければならない。

 面倒なのは最初だけで、動かし方なんて何通りもあるから問題はない。
 けど、格上の相手に対しては面倒なのが段違いだ。

 そもそも勝てないから戦わないのが正解なのだが。

 格上といっても同じ人なのだから、殺し方を知っていたら誰でもできる。

 もしかしたらいるかもしれないが、超人なんて漫画の世界だけ。
 人は脆く、弱い存在であることに変わりはない。

 今、相手にしているのが、その超人と人の両方を兼ね備えた相手だ。

 つまり、面倒なだけでキチンと殺せるって事。

 疲れ果てて思考がグチャグチャになっている気がするが。
 過程はどうあれ、目指す結果はただ1つ。
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