SNS

りんご

文字の大きさ
上 下
1 / 1

やめた

しおりを挟む


次は本気の恋をしよう。

年末の忘年会ラッシュで、街はクラブ帰りの若者や散々呑んだくれたサラリーマンたちで賑わっている。道のあちこちには、泥酔した人々がうずくまる。


もう終電の時刻だ。


私は寒空の下、バスで東京に帰ろうとしている男を見送った。

「ブロックとかすんなよ!また来るから!」
半分キレた口調でそう言う男。


もう二度と会わない。無表情より冷たい顔で、手をポケットに突っ込む。最悪だった。

この男のおかげで男遊びは懲りた。
当時ハタチだった私は、バイト先で1番人気の容姿端麗な先輩に言い寄られ、関係を持つようになってからというもの、自分のレベルを試したくなった。

ー自分は、どれほどのレベルの男まで落とせるのかー

本当にバカで若くて浅はかな考えだと、誰しも言うだろう。しかし、同じ考えが胸の奥に潜む女は少なくないはずだ。
ちょっと怖くて、きっと楽しくて、なんだか悪い感じ。


相手探しは全て、出会い系アプリだった。自分を試すのだから、スタートの基準はバイト先の容姿端麗な先輩より顔の良い人。


モテる男と遊ぶのは楽しかった。見ているだけで幸せになれるし、話している時に相手が楽しそうにしていたり、また会いたいと言わせて連絡を取るのも、気分が良かった。

しかし、試し始めて3ヶ月目。経験人数は付き合った人数の何倍かになった頃。
相手の猛アプローチに気圧された。その人のデザイナーという職に対しての興味だけで、タイプじゃない男に会った。欲しいものはなんでも買ってやる、サプライズが大好き、芸能人とも繋がりがある。普通にパパ活をするような女のたちには最高の条件なのかもしれない。

だが、私はその"上から"が大嫌いだった。お金に物を言わせて身体を欲する姿も自分のスタンスに合わない。私の"自分試し"はお金に重きを置いていない。容姿だけが物を言っていた。これでは特に何も試せていない。つまらなかった。

そんな男を拒絶して、こんな寒空の下、終電の時間帯にバス停まで見送っている。
ブロックすんなよって言われたが、別れた後速攻でブロックした。

この男に触られた時、初めて出会い系を後悔した。気持ち悪くて、怖くて、なんてバカなことをしたのかと、やっとわかった。もうこれで男遊びはやめようと思った。自分を試すのも、もうやめよう。
もう十分だ。


私のフルネームも、誕生日も、好きな食べ物も、趣味も何も知らない男に抱かれて何をしてたんだろう。

急にあさましくなって、悲しくなった。


寒い夜の風に身を震わせて帰路につく。


人を心から愛したいと思った。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する


処理中です...