死に戻りを回避したいだけなのに、改変したストーリーは僕を追いかけてくる

犬白グミ

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【第1章】転生モブ、死に戻りは許さない

13 失われなかった魔力

「…………うぅん。その質問はよくされるんだけど、わからないっていつも答えてる」

 はぐらかすようなリカルドの態度と言葉に違和感を覚える。
 そして今更ながら気づいた。
 僕がした質問は、いかにもリカルドに好意を抱いた子が口にしそうな発言だったと。

 そんなつもりはまったくなかったのだけど、リカルドはまたかと思ったのかもしれない。

 ノエに一目惚れだと誤解されているのはまだいいけど、本人にまで勘違いされたくはない。
 でも、わざわざ否定するのもおかしいよな。

 それ以上追求もできず、気まずくなった僕は腰を上げた。

「あ……そこの露店で飲み物でも買ってくるよ……」
「僕が行くよ。助けてくれたお礼もしたいし。飲み物ぐらいだったらもらってくれるだろ?」

 リカルドが僕の腕を掴んで座らせると、品よくすっと立ち上がる。
 それから大通りに並ぶ露店のほうに走り出した。

 遠ざかるリカルドの背中を眺めながら、ふと思う。
 ルシオとリカルドは本当に結ばれないのだろうかと。

 強制力という言葉がある。
 まだ何が起こるかわからないのではないのか。

 小さく首を振った。
 いや、ありえない。
 ルシオは魔力なしの男との婚姻を王命されるのだから、リカルドを選ぶわけがない。

「それなら……」

 ひょっとして、リカルドの代わりにルシオと婚姻する誰かが、強制力で死に戻る可能性があるのか?

 ありそうだなと思ったが、否定したかった。
 そんな強制力、あってたまるか。

 考え込んでいると、すぐに紙コップを携えたリカルドが戻ってくる。

「アーロン、どっちがいい?」

 右手に甘いクリームが乗ったラティーと左手に何も乗ってないラティーを持っていた。
 ラティーは王都で流行っていて、珈琲と茶をブレンドしてたような味だ。

 僕は迷うことなく左手に手を伸ばして、「ありがと」と受け取る。

「甘いものは苦手?」
 リカルドが再びベンチに座りなおして、首を傾げて訊いた。

 僕はリカルドが手にするクリームたっぷりのラティーに視線を送る。

「嫌いじゃないけど……」

 嫌いじゃないが、リカルドは甘いものが好きだと知っていたから、甘くないほうを選んだだけだ。

 僕は食に関してこだわりがない。でも漫画の中のリカルドは、わりと偏食気味だった。
 特に甘いものが好物で、死に戻ってからは大量の甘いお菓子をルシオから贈られていた。

 もしかして、このリカルドは違う? 

 リカルドを一瞥すると、訝しげに訊く。
「リカルドはそっちでよかった?」

「あぁ。甘いの好きだよ」

 リカルドの答えになぜかほっとした。

 リカルドはスプーンで掬って、クリームを満足げに口に入れる。
 頬を緩めて肩を弾ませている仕草が、なんとも微笑ましい。

 リカルドから目を離せないままでいると、屈託のないリカルドの瞳がこちらを向いた。

「アーロンも食べたい?」

 僕は急いで首を左右に振る。
 無意識にリカルドに見惚れていた事実に、少し気恥ずかしくなった。

 しばらく黙ってラティーを味わっていると、不意にリカルドが天を仰ぐ。

「雨だ」

 僕も倣って空を見上げるけど、信じられないほどの青空だ。

 しかし、確かに僕の頬をぽつりと雨粒が濡らした。
 陽光に照らされた雨が降る。

 前世の世界では狐の嫁入りなんて言葉があったけど、この世界にはなかった。

 おもむろにリカルドが胸の前で手をかざす。
 砂糖を焦がしたような水魔法の匂いがした。
 同時に、青く輝く光の粒子が溢れて、リカルドと僕を包み込む。

「水魔法……」

 リカルドが得意とする水魔法を発動したのだ。
 激しくなった雨粒は、僕たちを濡らすことなく魔力に弾き飛ばされる。

 原作では馬車事故によって魔力回路が損傷し、リカルドは魔力ゼロになる。
 だから、これは失われるはずだった魔力だ。

 でも、今ここにある。
 その事実に涙腺は緩んだ。

 リカルドの放った青い光に守られながら、泣きそうになるのをこらえる。

「…………はじめて会ったときも、アーロンはそんな顔をしてた。どうして?」
 リカルドが訊く。

 あのときも泣いてしまったな、と失態を思い出した。
 僕の情緒はリカルドによって容易に掻き乱されるようだ。

「説明が難しいのだけど……悲しいわけじゃないんだよ」 

 正直に答えると、僕は腕を動かす。
 すると青い光も薄いベールをまとったように優しく動いた。

 そうして、僕とリカルドは雨がやむまで寄り添っていた。





 翌日。
 王都の中で一番大きな書店を訪れた。

 児童書が並んだポップなエリアを抜けて、魔導書のシックな落ち着いたエリアも通り過ぎる。
 一番奥、小説が並べられた遥か高く天井まで続く書棚に辿り着いた。

 本棚をコツコツと叩いて合図を送ると、そこに右手を添える。
 そっと本のタイトルを囁いた。

「『緋色の魔法』」

 この書棚は魔力が込められていて、タイトルを呼べば本が飛び跳ねて、ゆっくりと手の中に落ちてくる仕組みになっている。

 しかし、待っても一向に本は落ちてこない。

「あれ……なんでだ?」

 本棚に添えていた右手に振動が伝わる。
 そんな本は存在しないという本棚からの返答だ。

 『緋色の魔法』という本のタイトルを知ったのは、転生前だった。
 漫画の中でリカルドが面白いと言っていて、読んでみたいと思ったのにな。

「……もしかして、まだ発売されてないとか?」

 改めて考えてみれば、漫画の冒頭は、十九歳の主人公リカルドが婚姻するシーンからはじまる。  
 リカルド十六歳の現在は、物語はまだはじまってないのだ。

 理解していたはずなのに、なんとなく頭の中で抜け落ちていた。
 今から、まだ三年もあるのか――。

 いつ発売されるんだろう?
 読みたいと思った本の発売が、相当待たないと読めないなんて悔しい。
 こんな気持ち、僕しか体験できないだろう。

 仕方がない。
 帰るか。

 くるりと踵を返すと、背後に控えていたクルトが不思議そうな顔をした。

「アーロン様、何も買われないのですか?」
「うん。また今度にするよ」

 店を出ると、正午の陽の光が降り注いでいる。
 馬車まで戻る途中で、自身の影を見つめながら、何気なく呟いた。

「三年後か……」

 ――三年後、僕が改変した物語は、形を変えて新たにはじまる。







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