【完結】聖獣人アルファは事務官オメガに溺れる

犬白グミ

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8 捜さないほうがよかったか?

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「なぜだ?」
 ルシャードが鋭い眼差しで問いかける。

 俺は口籠った。

 ――あなたが好きだから、結婚すると知りながら、そばにいることはできなかった。

 三十五歳にして未だ未婚であるルシャードは、隣国の王女と結婚する予定だと俺は知っていた。
 その王女がルシャードに会いに王宮を訪問すると人伝てに聞いてしまい、逃げるように王都をあとにしたのだ。
 それを素直に口にしたところで、何も変わらない。

 わかっている。
 ルシャードが俺を抱いたのは、突然の発情期が原因だ。
 いわば事故のようなもの。

 ルシャードは俺に近寄る。
「……捜さないほうがよかったか?」

 答えることができない俺は目を伏せた。
 そんな俺の前でルシャードの足が止まり、視界にルシャードの黒衣が入り込んだ。

「俺に会いたくなかったか?」

 続けて問いかけるルシャードに、俺は首を横に振った。
 何度、会いたいと思ったことか。

「二度と会うことはないと思っていたので、お会いできて嬉しいです」
 俺は感情を抑えて特別な意味がない口ぶりで、心のうちを打ち明ける。

 黙るルシャードにマイネが視線を上げると、黄金の瞳が俺を見ていた。
 改めてその特徴的な瞳に見入る。
 ルシャードに会えたなんて、まだ信じられない。

「伝わってないようだな」
 眉を顰めたルシャードは、短く嘆息した。

「……何のことですか?」
 俺が訝しげに首を傾げる。

「なんでもない。マイネがどのような四年半を過ごしたのか教えてくれないか?」
 そうルシャードに言われて、俺は言葉に詰まった。

 アプト領に移住してすぐにカスパーを出産し、四年間いつもカスパーとともに過ごした。

 しかし、カスパーの存在をルシャードに教えるわけにはいかない。
 ルシャードの子だと知られれば、奪われるに違いない。
 隠さなければならない。 

 俺は、祈るように両手を握り合わせた。

「あれからすぐにアプト領に移って、オメガ病院で働いてました」
「さっき一緒にいた狼獣人とは仲がいいのか?」

 急にルシャードがゲリンのことを訊く。
 何に言及したいのかさっぱりわからない。

「え? そうですね。ここに来てから四年間ずっと一緒に働いてましたから、親しいです」
「狼もオメガか?」
「はい…………あと俺もです。俺もオメガです」

 以前はベータと偽っていた。
 俺は神妙な口調で、はじめて自身のバース性を打ち明ける。
 オメガであることは、もう嘘を吐き通したくなかった。

「そのことなら五年前から知っている」
 さらりと言い放つルシャードに俺は驚く。

「え?」

 五年前と言うならば、王宮ではじめて会ったときではないのか。
 そのときすでに知られていたと言うのか。

「あんな甘い匂いをさせていたら、いやでも気づく」

 咄嗟に俺は頭を下げ謝罪する。
「嘘をついて申し訳ありませんでした」

 本来ならば、謝ってすむ話ではない。
 俺は王宮内で働くためにベータだと偽りの申告をしたのだから。

「もう過ぎたことだ。今は偽らずにオメガとして病院勤務についているんだろ?」
「はい。そうです」

 俺は心の中で、カスパーを出産したのだから当然だと、思いながら。

「マイネはあれからもベータとして生活しているだろう、と考えていたが違ったのだな。何か……心境の変化でもあったのか?」

 ルシャードは何か探るような視線を寄越した。
 ルシャードにしては珍しく直接的ではない言いようだ。

「王宮にいたころは、まだ一度も発情期がなくオメガという自覚がありませんでした。だから嘘をついてもいいという話ではないでしょうが……ごめんなさい」

 そう俺が告げると、ルシャードの眼差しに一気に熱がこめられた。

「もしかして、あの発情期がはじめてだったのか?」

 あの発情期。
 ルシャードは俺と繋がったときのことを言っているのだ。

 そして、四日続いた発情期が終わった翌朝に俺は逃げ出すこととなった。
 最初で最後のルシャードと過ごした夜。
 ルシャードに愛されていると錯覚しそうになるほど甘い時間だった。
 はじめての発情期で記憶が途切れがちだったが、鮮明に覚えている。

 俺がこくりと頷くと、ルシャードが眼前に接近した。






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