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41 おかえりマイネ
翌日の午後。
獣人力車が王宮の大きな楼門をくぐった。
「カスパー、もう着くよ」
俺の膝枕で眠るカスパーの肩を揺すって起こすと、すぐに目を覚ます。
アプト領から王宮までの慣れない長距離移動をしたカスパーは、昼食を食べたあと三時間ほどぐっすりと車内で寝ていた。
目を擦りつつ、カスパーが言う。
「おうきゅう、ついたの?」
「うん、着いた。もうすぐ、降りるからな」
そうしてしばらく走ると、車輪が止まり車内の扉が外側に開けられる。
そこには、俺たちよりも早く別荘を出発したルシャードの姿があった。
「マイネ。カスパー」
ルシャードが嬉しそうに名を呼び、到着を心待ちにしていたのがありありと伝わってくる。
その背後には大勢の文官や武官が居並び、俺とカスパーを歓迎するかのように出迎える。
すると、カスパーの姿を目にして、一様に驚きを表す。
注目を浴びた。
「このひとたち、なに?」
怯えたように俺の手をぎゅっと握って、カスパーが呟く。
獣の耳をそばだてながら、ルシャードは周囲を威圧するような鋭い視線を送った。
「気にするな。堂々としてればよい」
ルシャードに背筋を伸ばすように促される。
金ノ宮の玄関ホールに足を踏み入れると、ここでも家令や侍従や侍女が勢揃いで低頭したものだから、カスパーは表情をなくして硬直した。
尻尾を上に向けたまま、ぴたりと止まる。
「ここが、今日からカスパーの住まいになる。カスパーの部屋もあるから、あとで案内してもらえ。ゲリンもこっちに来い」
ルシャードが呼ぶと、後方にいたゲリンがさっと前に出てカスパーに並んだ。
「着いて早々だが、すぐに婚姻の儀がある。マイネは準備をしてくれ。ゲリンはカスパーを頼む」
俺は、カスパーの手を離した。
「カスパー、少しの間だけ離れるけど、ゲリンと一緒にいるんだぞ」
金ノ宮の煌びやかな大理石の床や高い天井や太い列柱に、目を奪われているカスパーがこくこく放心したように頷く。
すべてがカスパーにとっては珍しいだろう。
カスパーとゲリンの案内を侍従に任せて、俺はルシャードの誘導に従った。
向かった先は湯殿だった。
「一緒に入りたいところだが、生憎と時間がない」
おもむろに俺の服を脱がしはじめたルシャードの手を、慌てて止める。
「自分で脱ぎますから」
ルシャードの熱い視線を全身に感じながら、ひとりだけ全裸になり、豪華な湯殿に続く扉の中に進む。
湯気が立ちのぼる広い洗い場で身を清めたあとに、大きな円形の浴槽に肩まで沈んだ。
ぬるりとした白くて甘い香りがする湯だ。
ほっと力が抜ける。
同時に獣人力車から降りたときの、周りからの好奇の目を思い出して、不安が過ぎる。
黄金の人ルシャードの突然の子連れ結婚は、王宮内にあっという間に広まるだろう。
ルシャードの評価が落ちなければよいのだが。
湯殿を出ると、律儀に待っていたルシャードに柔らかなタオルで包まれた。
生まれながらに王族であるルシャードが、誰かの支度を手伝うなど、今まで一度もなかっただろう。
優しく拭かれて、俺は無防備に裸を委ねる。
「おかえりマイネ」
目を細めながら、ルシャードが心の声が漏れたように呟いた。
その言葉に、俺は唇を硬く結び、こくりと頷く。
帰ってきた。
四年半前、事務官だった俺は、ルシャードの妃となって再び金ノ宮に戻ってきた。
時間が止まっていたかのような王宮の景観に、一瞬あの頃に戻ったような錯覚を覚えた。
しかし実際は四年半という、かなり長い時間が横たわっている。
獣人力車が王宮の大きな楼門をくぐった。
「カスパー、もう着くよ」
俺の膝枕で眠るカスパーの肩を揺すって起こすと、すぐに目を覚ます。
アプト領から王宮までの慣れない長距離移動をしたカスパーは、昼食を食べたあと三時間ほどぐっすりと車内で寝ていた。
目を擦りつつ、カスパーが言う。
「おうきゅう、ついたの?」
「うん、着いた。もうすぐ、降りるからな」
そうしてしばらく走ると、車輪が止まり車内の扉が外側に開けられる。
そこには、俺たちよりも早く別荘を出発したルシャードの姿があった。
「マイネ。カスパー」
ルシャードが嬉しそうに名を呼び、到着を心待ちにしていたのがありありと伝わってくる。
その背後には大勢の文官や武官が居並び、俺とカスパーを歓迎するかのように出迎える。
すると、カスパーの姿を目にして、一様に驚きを表す。
注目を浴びた。
「このひとたち、なに?」
怯えたように俺の手をぎゅっと握って、カスパーが呟く。
獣の耳をそばだてながら、ルシャードは周囲を威圧するような鋭い視線を送った。
「気にするな。堂々としてればよい」
ルシャードに背筋を伸ばすように促される。
金ノ宮の玄関ホールに足を踏み入れると、ここでも家令や侍従や侍女が勢揃いで低頭したものだから、カスパーは表情をなくして硬直した。
尻尾を上に向けたまま、ぴたりと止まる。
「ここが、今日からカスパーの住まいになる。カスパーの部屋もあるから、あとで案内してもらえ。ゲリンもこっちに来い」
ルシャードが呼ぶと、後方にいたゲリンがさっと前に出てカスパーに並んだ。
「着いて早々だが、すぐに婚姻の儀がある。マイネは準備をしてくれ。ゲリンはカスパーを頼む」
俺は、カスパーの手を離した。
「カスパー、少しの間だけ離れるけど、ゲリンと一緒にいるんだぞ」
金ノ宮の煌びやかな大理石の床や高い天井や太い列柱に、目を奪われているカスパーがこくこく放心したように頷く。
すべてがカスパーにとっては珍しいだろう。
カスパーとゲリンの案内を侍従に任せて、俺はルシャードの誘導に従った。
向かった先は湯殿だった。
「一緒に入りたいところだが、生憎と時間がない」
おもむろに俺の服を脱がしはじめたルシャードの手を、慌てて止める。
「自分で脱ぎますから」
ルシャードの熱い視線を全身に感じながら、ひとりだけ全裸になり、豪華な湯殿に続く扉の中に進む。
湯気が立ちのぼる広い洗い場で身を清めたあとに、大きな円形の浴槽に肩まで沈んだ。
ぬるりとした白くて甘い香りがする湯だ。
ほっと力が抜ける。
同時に獣人力車から降りたときの、周りからの好奇の目を思い出して、不安が過ぎる。
黄金の人ルシャードの突然の子連れ結婚は、王宮内にあっという間に広まるだろう。
ルシャードの評価が落ちなければよいのだが。
湯殿を出ると、律儀に待っていたルシャードに柔らかなタオルで包まれた。
生まれながらに王族であるルシャードが、誰かの支度を手伝うなど、今まで一度もなかっただろう。
優しく拭かれて、俺は無防備に裸を委ねる。
「おかえりマイネ」
目を細めながら、ルシャードが心の声が漏れたように呟いた。
その言葉に、俺は唇を硬く結び、こくりと頷く。
帰ってきた。
四年半前、事務官だった俺は、ルシャードの妃となって再び金ノ宮に戻ってきた。
時間が止まっていたかのような王宮の景観に、一瞬あの頃に戻ったような錯覚を覚えた。
しかし実際は四年半という、かなり長い時間が横たわっている。
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