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第35話 世界を覆う暗雲
しおりを挟む机いっぱいに広がる魔法陣の上には虹色に光る世界地図が浮かび上がっている。
「お主たちの知るこの世界アークランドは妾たちがゼフィールを封印するその前からその名で語り継がれておる」
アークランドは魔王ゼフィールがこの世界を支配する遥か昔から存在し、当時世界各地に存在した先住民、俺たちの先祖たちによりそう呼ばれていたそうだ。
先祖たちは、己の中に眠るマナを利用して『魔法』という技術を確立させた。
魔法により、大気を含む外側へ流出するマナの量が飛躍的に増えたことで自然界のバランスが崩れ、その崩れた歪がゼフィールを生み出したと言われている。
ユリウスがそんなことを言っていたのを思い出した。
「ねぇヴィンセント。この緑色の光はなに?」
よく見ると、大陸各国の位置する箇所が丸く一際強い光を放っていた。
シルフィードやオンディーヌの辺りは丸い光を塗りつぶすように緑色に滲んだ光でマーキングされている。
「この斑点は穢化したマナだ。大聖典の辺りを中心に広がっているから間違いないと思う」
「その通りじゃ。星護教団により既に二箇所の大聖典が失われておる。そのせいで封印されていた穢化したマナが噴出し、魔物が大量に増えた世界を表しておる。このままでは均衡を保っていたマナのバランスが大きく崩れてしまう。そうなれば魔物の群れが各国に襲い掛かり、世界中が大混乱に陥る。そして何よりも厄介なことが・・・」
「魔王ゼフィールの再来」
「うむ。分かりやすくするためにもう少し時間を進めてみようかの」
ダニエラが机に向かい手をかざすと、緑色に光る斑点が次第に大きくなっていき、やがて地図の半分以上が緑色の斑点に侵食されていった。
「これって・・・!」
「ああ。星護教団の仕業だろうな。あいつら以外にセラフィック・フォースを狙う人間はいないはずだ」
「連中の目的はゼフィールの復活じゃ。でなければ『大聖典』を狙う理由がないからの」
薄々感じていたが魔王ゼフィールの復活が目的なら奴らの行動も繋がる。
気になることがあるとすれば、どうしてヤツらはエレメントを集めているのかということだ。
『大聖典』を持ち去る時にエレメントを利用していたのはこの眼で見ている。
本当にそれだけなのだろうか。
いや、考えるのは後だ。
戦争を食い止めなければいけないこの状況では星護教団の方まで手が回らない。
先ずは目の前のことに集中だ。
ふと視線を上げるとシルヴァーナが真っ直ぐ手を挙げていた。
「異議があります」
「異議とは穏やかではないな。何じゃ」
「族長は覚悟を決めてギルド創設したのですよね?」
「今は大事な話をしておるのじゃ。ギルドの話は後でも・・・」
真っ直ぐ挙げられた手が振り下ろされビシッとダニエラを指差した。
「アテナ」
『はいは~い』
次元の裂け目から軽やかに現れたアテナが長机に向かい手をかざす。
すると、机全体が白い光に包まれぼんやりとかすれた映像が映し出された。
今と全く変わらない姿のダニエラと、まだ幼さの残るシルヴァーナが何やら話をしている。
次第に声も聞こえてくる。
『・・・ーナ! シルヴァーナよ! “ぎるど”じゃ!』
『ギルド・・・?』
『そうじゃ! なんでも外界では“ぎるど”なるものが流行っておるようなのじゃ! 仲のいい人間同士でチームを組むんじゃと! 実に興味深いのぅ!』
『興味ありません。チームを組んで何か良いことがあるんですか?』
『もちろんじゃ! お互い寂しくなくなるぞ!』
『だったら今のままで十分じゃないですか。いちいち立ち上げるのも面倒ですし族長と組むのはちょっと』
『んなっ?!』
何だこれ。
「いや、これはその・・・」
しどろもどろするダニエラを尻目に、シルヴァーナは容赦なく公開処刑を続ける。
『妾とお主で“ぎるど”を結成する! これは決定じゃ!』
『もういいです勝手にしてください。貸すのは名前だけですからね』
『よし! 今この瞬間を以てお主は妾の公式執事となった。女の子じゃからメイドか? 洗濯に買い出しに掃除。何からやってもらおうかのぅ。ぐふふ。想像するだけでも楽しみじゃ♪』
『なっ?! どうしてそんな話になるのですか! まさか初めからそのつもりで!?』
『わはは! 取り下げはきかぬぞ!』
『最低です。いつか出ていってやる・・・』
しばらく響いていたダニエラの大笑いが、小さくなる映像とともに彼方へ消えていった。
「・・・・・・」
何とも言えない空気が流れる。
「覚悟が聞いて呆れます。忘れたとは言わせません」
「嫌じゃの~。ちょっとしたじょーくではないか。わはは」
『私が言うのもなんだけど、こいつ腐ってるわね』
シルヴァーナとアテナは揃って深いため息をついている。
どうやらダニエラは性格が破綻しているらしい。
何も今公開しなくても・・・シルヴァーナも我が強いな。
「『大聖典』は各国に存在していますよねぇ? ということはノームズにもあるのですかぁ?」
「もちろんじゃ。『大聖典』を以てゼフィールを封印したのは妾たちじゃ。ゼフィールの身体を五分割にして、な」
「五分割?!」
「それほど完全体のゼフィールが強力だったのじゃ。元々サラマンド、オンディーヌ、シルフィード、ノームズの四国は、妾たち五大賢者それぞれがゼフィールの四肢を封印した『大聖典』を監視する目的で創った国なのじゃよ」
なるほどな。
各国の王たちは五大賢者の子孫にあたるというわけだ。魔導士として優秀なのも頷ける。
・・・ん?
どうして王子の俺はこの事を知らなかったんだ?
こんな大事な話を聞かされないはずはないと思うんだが。
いや、父上のことだ。俺の才能の無さに呆れてわざわざ話す気にもならなかったんだろう。
実際、魔法以外の何を達成しても褒めてくれたことなど一度もない。
魔導書を持たない、それだけの理由で。
ヴィゴーが生まれてからはヴィゴーばかり気にかけていたしな。
「ちょっと待ってくださいな。封印は五分割にしたはずですよね。封印場所が一つ足りないですわ」
「うむ。なかなか良い着眼点じゃ。金髪の」
「私にはローズという麗しい名がありますわ」
「ははは! すまんすまん」
確かにローズの言う通りだ。
妙に気になるな。
「いい加減姿を見せい。性格が悪いにも程があるぞ」
ダニエラにだけは言われたくないと思う。
って、一体誰に向かって言っているんだ?
なぜか皆の視線が俺に集中する。
「お主に言っておるのじゃよ。ガブリエル」
「・・・はい?」
ダニエラの一言を聞いた瞬間、全身の力が一気に抜けた。
自分の体ではないような感覚。
誰かに身体を乗っ取られていくような。
「あの時と同じ・・・」
抵抗する間もなく、俺の意識はそこで途絶えた。
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