・・その狂気は伝染する・・

第三章 狂気と共に明ける明治維新

15代将軍徳川慶喜の決断68

　"ボーッー！ボーッー！"

　蒸気船の汽笛が鳴り艦船は舞鶴港から出港した。艦船の後ろには小型艦と補給船が後を続く。全ての船には船内の通路に溢れるほど人を乗せている。

　「艦長！もう辺りは漆黒の闇ですな。こうも不気味な波風一つ立てない海を見るのは初めてです。」

 船員達は日本列島からまるで灯火が消えたかのように不気味に静まりかえってるのを船内から陸地、海を見て感じとっていた。

　船列の先頭をいく1番艦の厨房では食事が作られている最中であった。

　「かなりの人が乗船してるから、何か体の暖まる物で大量に作れる里芋汁でも作ってくれないか。それと、一人一個の握り飯もまるまるデカいやつを頼むな。」

 山下総督自ら厨房に赴き指示を出す。季節的にはすでに冬であり、海の上ではことさら体が冷える。

　「わかりました！しかし、この船にある食事でこれだけの人数を賄うとすれば2日がやっとです。それまでに無事に神戸港まで辿り着けば良いのですが・・」

 思わず給仕係が口を滑らす。

　「中国地方を廻りこみながら行くので2、3日は要人に備えてもかかるな。なんとか着く様にやるだけだ。」

 後に続く艦船らも食糧やその他の物資は十分ではなかった。補給船はすでに補給済みであり中身は空っからだった。