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第一章
出会い
しおりを挟むさみしい
さみしい
さみしい
胸を掻きむしりたくなる程の
切ない想いが体中に響く
溢れそうになる涙をこらえ
ひたすら足を動かし駆けていく
行かなきゃ
あの子の所へ
夢中で山道を走り続け
息もたえだえになった頃
鬱蒼と茂る木々の隙間から崖が見えた
ガクガクと震える足に鞭打って
崖の下にぽっかりと空いた洞窟に入っていく
中は薄ぼんやりと明るい
目をこらしゴツゴツした岩に
足をとられないよう
慎重に進む
洞窟の中に響くのは
自分の呼吸音だけ
そこでようやく気がついた
あの子の声が 聞こえない
最悪の事態が頭をよぎる
早く辿り着きたいのに
足が思うように動かない
嫌な予感を何度も振り払い
歩き続けていると
洞窟の奥が明るくなってきた
この奥に目的地があると
もつれそうになる足を叱咤し
急な坂を下る
最後は転がるようにして辿り着いた
そこは光りに満ち溢れていた
眩しさに目蓋を閉じる
目をかばいながらその先を見れば
光る湖の畔に立つ黒い影を見つけた
ドクリ
心臓が大きく波打った
こちらの気配に気づいたのか
影が振り返る
フード付きの外套を被っていて
顔は見えない
だが背はスラリと高そうだ
望んだ人ではなかったことに落胆し
居てはいけない所に人がいて驚愕する
「ここは危険だ!
すぐに出るんだ!!」
考えるより先に叫んでいた
だが、人影が動く気配はない
言葉が通じないのかもしれない
とにかく外に出さなくてはと
焦りながら人影に近づく
「我ら 構うな
其方 出て行くが良い」
少しくぐもった男の声がそう告げると
もう用は無い
と言わんばかりに背を向けた
何も知らないくせに、勝手な事を!!
湧き上がる怒りのままに駆け出し
男の腕にしがみついた
「ここはっ 本当に危険なんだ!
ここで誰かを死なせる訳には
いかないんだ!!」
背の高い男を下から睨みつける
だから 見えた
フードの中が
布に覆われた口元の上
金色に輝く 双眸
一気に頭が冷えていく
どうしてここに人がいるの?
この人は、何者なの?
「どうして・・・」
呆然と見上げることしかできずにいると
男が動いた
しがみついたままだった僕の腕をつかみ
そして眉間にシワをよせた
だが、パッと水面に顔を向けた
つられてそちらを見るが
穏やかな水面が広がっているだけだ
「来たか」
こちらを気にする事なく、一心に見つめている
何が来たのか意味がわからず
もう一度水面を見る
発光する程、魔力が溶け込んだ水の中で
まともに生きられる物はいない
だからどこまでも澄んだ水が広がるだけ
そのはずなのに
水の底に滲む小さな黒いしみ
もっとよく見たくて
目をこらしていると
肩をつかまれた
ビックリして、振り向けば
「其処 危険だ」
「あ」
気がつけば、水際ギリギリまで来ていて
慌てて一歩下がる
その間にもぐんぐんと
大きくなっていた影は
スルリと水面から姿を現した
隣にいる男と同じ外套を羽織り
フードを被っている
その腕には幼い子供が
抱えられていた
見覚えのある白い服
頭に被せられたレースのベールで
顔ははっきり見えないが
あの子だと確信した
ずっと願っていた光景が
目の前で起きているはずなのに
起こるはずがない、と混乱する
幼い子供を抱えたまま
一歩、また一歩と
水面を歩いてくる姿を見て
夢を見ているのだと思った
僕の願望が見せる夢を
「危険だ、下がれ」
だから隣にいる男の声も
どこか遠くに聞こえた
だが、突然腕を引かれ
男の背が視界一杯に広がり
目を瞬かせる
その視界のすみで
何かが弾けた
「え?」
また、弾ける
足元の岩だけでなく、天井の岩も砕け
破片が辺りに降り注ぐ
だが、僕に当たる事はない
かばって、くれてる…?
だけど、何から?
何が起こってるの?
戸惑っている間にも
あちこちで岩が砕け散っていく
どうしたらいいのかわからず
立ちつくすしている僕の耳に
あの子のすすり泣く声が
聞こえた気がした
「待てっ」
何で夢だと思ったのだろう
男の背から飛び出した途端
全身を襲う強い圧迫感に膝をつく
呼吸すらままならず
無力な己に、現実だと思い知らされる
黒く塗りつぶされていく視界に
あの子が写った
ー サラッ ー
ブツリ
闇に呑まれた
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