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戻ってきた私
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肌触りのいい服と布団。静かな空気。はっとした。目を開けるといつもの天井が見えた。起き上がって部屋の中を見回す。
帰って来た。
ユリウス殿下はいない。私は一人で寝ていた。外は少し明るくなり始めたところ。たった二日しか経っていないと言うのに、とても久しぶりに感じた。
殿下は自分の部屋だろうか。一緒に寝ていないと言うことは中身が私じゃないって気が付いたのかな。
そっと扉を開け、殿下の部屋に入る。裸足で歩くとペタ、と鳴った。
まだ寝ている。目を閉じる殿下に近付き、手を伸ばした時だった。すごい勢いで腕を引っ張られ、あっという間にベッドに押さえ込まれた。胸がぐっと押される。
「どういうつもりだ」
冷ややかな表情と声だった。なんで、と一瞬戸惑い、私とエレナを間違えていることに気がついた。どうやらエレナとは仲良く出来なかったらしい。
何か言おうにも苦しくて声が出ない。とりあえず苦しいから離して欲しい。殿下を見ると、殿下はハッとしたように力を緩めた。
急に解放され,それまで押さえられていた苦しさから少し咽せる。
「エレナ……?」
「ええ、少し加減していただけると嬉しかったのですが……」
少し無理して笑顔を作ると、殿下は驚きの表情を浮かべたまま私を見た。起き上がると、抱き締められた。殿下らしくないな、と思った。
「申し訳ございません、今回のことはわたくしにも予定外のことでして」
多分私の未練が招いた事態だろうけど、はっきりと戻りたいと思ったわけではない。まあだからこそ二日で戻ってきたのだけど。
殿下は私から離れ、「おかえり」と微笑んだ。そう、そうだ。ここが私の生きる場所。
「ただいま戻りました」
「驚いたよ。……すまなかった」
いやまあ寝ているところに勝手に入ったの私だし。それは気にしないで欲しい。しかしどうして私だと気が付いたのだろうか。何も言っていないのに。聞くと、殿下は微笑んだ。
「雰囲気が違うからね」
雰囲気?顔も声ももちろん魔力も同じ。それなのにそう変わるものなのだろうか。
「君の方がかわいい」
……ものすごく機嫌が良い。
よく分からないけどまあいいや。
「ところで、君は僕の魔法を魔法で相殺できる?」
殿下の魔法を?私の魔法で?
「それは手加減ありですか?」
「いいや。手加減なしで突然」
そんなの考えるまでもない。他の人の魔法ならともかく。
「無理です。出来る方がいるのなら連れて来て欲しいですわ」
微笑むと、殿下は「そうだよね」と言った。
……そういう人がいたの?いや、ちょっと待って、一人心当たりがある。
「もしかしてエレナが?」
殿下は頷いた。
なんとまあ。魔法をうまく使うとは本人から聞いていたけど、そこまでとは。
「しかも魔力で脅せば魔力で防御する。正直、感心したよ」
なんでそんな状況になるのだろうか。魔法で攻撃したり魔力で脅したり……仲良くしてくれとは言わないけど、それはちょっとやめて欲しい。
「あ、あの、殿下?エレナをいじめたのです、か……?」
ユリウス殿下は「うん?」と爽やかな笑みを浮かべた。
「僕が大事なのは君だけだからね」
急にいなくなったら怒るかなとは思っていたけどまさかエレナに当たるとは。
エレナ、ごめん。
心の中でエレナに謝った。
少し経つと、クリスが部屋に来た。朝ごはんの時間だ。
「おはよう、クリス」
そう言うと、クリスはじっと私の顔を見つめ、そして笑った。
「おはよう、エレナ」
中身が違ったことには気が付いていないようでほっとする。どうやらエレナは上手くやってくれたようだ。
クリスはテーブルの上を見て歓喜の声を上げた。
「唐揚げだ!エレナの唐揚げ久しぶり」
そう、お母さんに聞いたように作ってみた。お城のキッチンを使わせて欲しいと言った時は、料理人が涙目になっていたけど。
朝から揚げ物はキツいかも、とは思ったけど。特に殿下は。いや、何とは言わないけどね。
だけど私はこれを食べないと前へ進めない気がした。
「美味しい!」
クリスが食べて嬉しそうに笑う。お母さんは私には作れないと言った。でも、もしかしたら、とも思っている。だって同じ物を同じだけ入れたら同じ味になるのは当たり前だから。もちろん、調味料は全て私が魔法で作った、お母さんが使うのと同じ調味料だ。
ユリウス殿下も食べて「美味しいよ」と微笑む。
私も一つ口に入れ、しっかりと噛み締めた。
「……美味しい」
美味しい。とても。だけど、違う。これはお母さんの唐揚げじゃなかった。私が作った、私の味の唐揚げ。似ても似つかない。
涙が出た。クリスが「なんで!?」と驚く。
もう食べられない。お母さんの唐揚げは作れない。
それを実感して、私は声を上げて泣いた。
帰って来た。
ユリウス殿下はいない。私は一人で寝ていた。外は少し明るくなり始めたところ。たった二日しか経っていないと言うのに、とても久しぶりに感じた。
殿下は自分の部屋だろうか。一緒に寝ていないと言うことは中身が私じゃないって気が付いたのかな。
そっと扉を開け、殿下の部屋に入る。裸足で歩くとペタ、と鳴った。
まだ寝ている。目を閉じる殿下に近付き、手を伸ばした時だった。すごい勢いで腕を引っ張られ、あっという間にベッドに押さえ込まれた。胸がぐっと押される。
「どういうつもりだ」
冷ややかな表情と声だった。なんで、と一瞬戸惑い、私とエレナを間違えていることに気がついた。どうやらエレナとは仲良く出来なかったらしい。
何か言おうにも苦しくて声が出ない。とりあえず苦しいから離して欲しい。殿下を見ると、殿下はハッとしたように力を緩めた。
急に解放され,それまで押さえられていた苦しさから少し咽せる。
「エレナ……?」
「ええ、少し加減していただけると嬉しかったのですが……」
少し無理して笑顔を作ると、殿下は驚きの表情を浮かべたまま私を見た。起き上がると、抱き締められた。殿下らしくないな、と思った。
「申し訳ございません、今回のことはわたくしにも予定外のことでして」
多分私の未練が招いた事態だろうけど、はっきりと戻りたいと思ったわけではない。まあだからこそ二日で戻ってきたのだけど。
殿下は私から離れ、「おかえり」と微笑んだ。そう、そうだ。ここが私の生きる場所。
「ただいま戻りました」
「驚いたよ。……すまなかった」
いやまあ寝ているところに勝手に入ったの私だし。それは気にしないで欲しい。しかしどうして私だと気が付いたのだろうか。何も言っていないのに。聞くと、殿下は微笑んだ。
「雰囲気が違うからね」
雰囲気?顔も声ももちろん魔力も同じ。それなのにそう変わるものなのだろうか。
「君の方がかわいい」
……ものすごく機嫌が良い。
よく分からないけどまあいいや。
「ところで、君は僕の魔法を魔法で相殺できる?」
殿下の魔法を?私の魔法で?
「それは手加減ありですか?」
「いいや。手加減なしで突然」
そんなの考えるまでもない。他の人の魔法ならともかく。
「無理です。出来る方がいるのなら連れて来て欲しいですわ」
微笑むと、殿下は「そうだよね」と言った。
……そういう人がいたの?いや、ちょっと待って、一人心当たりがある。
「もしかしてエレナが?」
殿下は頷いた。
なんとまあ。魔法をうまく使うとは本人から聞いていたけど、そこまでとは。
「しかも魔力で脅せば魔力で防御する。正直、感心したよ」
なんでそんな状況になるのだろうか。魔法で攻撃したり魔力で脅したり……仲良くしてくれとは言わないけど、それはちょっとやめて欲しい。
「あ、あの、殿下?エレナをいじめたのです、か……?」
ユリウス殿下は「うん?」と爽やかな笑みを浮かべた。
「僕が大事なのは君だけだからね」
急にいなくなったら怒るかなとは思っていたけどまさかエレナに当たるとは。
エレナ、ごめん。
心の中でエレナに謝った。
少し経つと、クリスが部屋に来た。朝ごはんの時間だ。
「おはよう、クリス」
そう言うと、クリスはじっと私の顔を見つめ、そして笑った。
「おはよう、エレナ」
中身が違ったことには気が付いていないようでほっとする。どうやらエレナは上手くやってくれたようだ。
クリスはテーブルの上を見て歓喜の声を上げた。
「唐揚げだ!エレナの唐揚げ久しぶり」
そう、お母さんに聞いたように作ってみた。お城のキッチンを使わせて欲しいと言った時は、料理人が涙目になっていたけど。
朝から揚げ物はキツいかも、とは思ったけど。特に殿下は。いや、何とは言わないけどね。
だけど私はこれを食べないと前へ進めない気がした。
「美味しい!」
クリスが食べて嬉しそうに笑う。お母さんは私には作れないと言った。でも、もしかしたら、とも思っている。だって同じ物を同じだけ入れたら同じ味になるのは当たり前だから。もちろん、調味料は全て私が魔法で作った、お母さんが使うのと同じ調味料だ。
ユリウス殿下も食べて「美味しいよ」と微笑む。
私も一つ口に入れ、しっかりと噛み締めた。
「……美味しい」
美味しい。とても。だけど、違う。これはお母さんの唐揚げじゃなかった。私が作った、私の味の唐揚げ。似ても似つかない。
涙が出た。クリスが「なんで!?」と驚く。
もう食べられない。お母さんの唐揚げは作れない。
それを実感して、私は声を上げて泣いた。
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