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出発準備
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寝る前にベッドでラルフの日記をパラパラとめくる。ユリウス殿下は「もらって来たの?」とベッドへ腰掛けた。
「はい、いただきました」
差し出すと殿下も日記に目を通す。斜め読みをしているので恐ろしい勢いでページがめくられていった。
「なにこれ、君のことばかり」
殿下は面白くなさそうな様子で、日記を机の上へ置いた。確かに私のことばかり。だけど日記にも書いてあった通り、ラルフの気持ちは恋心ではない。
「殿下、わたくしは心が決まりました」
ずっと自分がなにを成すべきか分からなかった。何を求められているのか、何をするべきか。ずっと迷っていた。だけどラルフの想いを読んで気が付いた。
「わたくしは光になりたい。暗く辛い道の先をほんの僅かでも照らすことのできる光になりたい。例えたった一筋の光にしかなれなくとも」
殿下は微笑んだ。
「それは、とてつもなく辛い道かもしれないよ、エレナ」
殿下と比べると私に見えている未来などほんの一部だ。その先がどうなるかなんてのは何も分からない。だけど殿下がそう言うのならそうなのかもしれない。
「誰かが辛い想いをするのです。それならわたくしは喜んで手を上げましょう」
それが皇族になった私の責務。私の全てを捧げよう。
「『聖女』になる覚悟があるの?」
少し前、聖女だと言われ、否定した。私は聖女など必要のない国を作りたいから。だけど今は分かる。それはこれからカイや私達で作るのだ。現在必要だと言うなら聖女でもなんでもなる。それで民の力になれるなら。
「ええ、なりましょう。聖女に」
心は決まっている。微笑むと殿下は困ったように笑った。
「君は僕すらも置いて行くつもりかい?」
「いいえ。例え行き着く先が地獄であっても、殿下はついて来てくださるでしょう?」
殿下も辛い道に引き込むことになろうと、私は殿下の手を離すつもりなど欠片もない。ま、さすがに地獄へ行く気はないけど。
「ご一緒しましょう。最後まで」
殿下はふっと笑った。
「いいね、それ」
なんだか嬉しそうだ。ベッドへ寝転ぶと、灯りが消えた。次いでベッドがきしむ。殿下の温もりが隣へ。
「そろそろ発つつもり?」
ぎくりとした。
「君とクリスがこそこそと話したり、魔法省へ毎日通っては魔力を魔石に込めたりしていることを、僕が知らないと思っていたかい?」
「あ、あの、相談しようと思っていたのですよ?でもその、殿下はいつも忙しそうで……」
以前も勝手に出て行く計画を立てて怒らせてしまったのだ。同じ轍は踏まない。そう思っていたのに……まさか全部気付かれているとは。
おろおろと焦っていると、殿下のくすくすと笑う声が聞こえた。
「分かっているよ」
魔法省の魔石はそろそろいっぱいになる。数年はそれで補えるだろうとお兄様は言っていた。
王都へ帰って来て早数ヶ月。ここも悪くはないけど、そろそろ飽きてきた。騎士団に行き、書類仕事し、適当にうろうろしたりクリスとお茶を飲む毎日。お城の外へは護衛のクルトお兄様がいないと行けないので、中々頼みづらい。一度何も言わずに出かけたらものすごく怒られたのだ。
ここに長く留まろうかとも思ったけど、窮屈な生活はもう疲れた。
「君はこんなところにいるよりも外に出ていた方が楽しそうだ」
それは私じゃなくてもそうだと思うけど。
「しかし殿下は毎日お忙しそうですよね?よろしいのですか?」
ユリウス殿下は私とは違って、毎日色々としているようだ。殿下は「そこなんだよね」と頷いた。
「ここにいたら父上に仕事を振られて君との時間が全然取れない。早く発ちたいな」
ああ、そっちですか。
「明日にでも陛下へお願いしに参ります。よろしいでしょうか?」
「あれ、今度は言って行くの?」
今回は流石に黙って出るわけにはいかないだろう。ただでさえ前回こっそり出たことを一部の貴族から嫌味のように言われることがあるのだから。殿下は黙って出て行くつもりだったのだろうか。
「言った方がいいのでは?」
「あー、うん、まあそうだね……」
急に歯切れが悪くなった。何か不都合があるのかな?
「もう少し待った方がよろしいのでしたら待ちますが?」
急ぐ理由は特にない。私が早く発ちたいだけだから。殿下の仕事の都合がついてからでいい。そう思ったが、殿下は「いや」と続けた。
「いいよ、言ってみようか」
明日陛下に許可をもらって、色々と準備をしたり、殿下は仕事を片付けたりするだろうから……2.3週間後には出発できるかな。
ふふ、と笑みが溢れた。
「はい、いただきました」
差し出すと殿下も日記に目を通す。斜め読みをしているので恐ろしい勢いでページがめくられていった。
「なにこれ、君のことばかり」
殿下は面白くなさそうな様子で、日記を机の上へ置いた。確かに私のことばかり。だけど日記にも書いてあった通り、ラルフの気持ちは恋心ではない。
「殿下、わたくしは心が決まりました」
ずっと自分がなにを成すべきか分からなかった。何を求められているのか、何をするべきか。ずっと迷っていた。だけどラルフの想いを読んで気が付いた。
「わたくしは光になりたい。暗く辛い道の先をほんの僅かでも照らすことのできる光になりたい。例えたった一筋の光にしかなれなくとも」
殿下は微笑んだ。
「それは、とてつもなく辛い道かもしれないよ、エレナ」
殿下と比べると私に見えている未来などほんの一部だ。その先がどうなるかなんてのは何も分からない。だけど殿下がそう言うのならそうなのかもしれない。
「誰かが辛い想いをするのです。それならわたくしは喜んで手を上げましょう」
それが皇族になった私の責務。私の全てを捧げよう。
「『聖女』になる覚悟があるの?」
少し前、聖女だと言われ、否定した。私は聖女など必要のない国を作りたいから。だけど今は分かる。それはこれからカイや私達で作るのだ。現在必要だと言うなら聖女でもなんでもなる。それで民の力になれるなら。
「ええ、なりましょう。聖女に」
心は決まっている。微笑むと殿下は困ったように笑った。
「君は僕すらも置いて行くつもりかい?」
「いいえ。例え行き着く先が地獄であっても、殿下はついて来てくださるでしょう?」
殿下も辛い道に引き込むことになろうと、私は殿下の手を離すつもりなど欠片もない。ま、さすがに地獄へ行く気はないけど。
「ご一緒しましょう。最後まで」
殿下はふっと笑った。
「いいね、それ」
なんだか嬉しそうだ。ベッドへ寝転ぶと、灯りが消えた。次いでベッドがきしむ。殿下の温もりが隣へ。
「そろそろ発つつもり?」
ぎくりとした。
「君とクリスがこそこそと話したり、魔法省へ毎日通っては魔力を魔石に込めたりしていることを、僕が知らないと思っていたかい?」
「あ、あの、相談しようと思っていたのですよ?でもその、殿下はいつも忙しそうで……」
以前も勝手に出て行く計画を立てて怒らせてしまったのだ。同じ轍は踏まない。そう思っていたのに……まさか全部気付かれているとは。
おろおろと焦っていると、殿下のくすくすと笑う声が聞こえた。
「分かっているよ」
魔法省の魔石はそろそろいっぱいになる。数年はそれで補えるだろうとお兄様は言っていた。
王都へ帰って来て早数ヶ月。ここも悪くはないけど、そろそろ飽きてきた。騎士団に行き、書類仕事し、適当にうろうろしたりクリスとお茶を飲む毎日。お城の外へは護衛のクルトお兄様がいないと行けないので、中々頼みづらい。一度何も言わずに出かけたらものすごく怒られたのだ。
ここに長く留まろうかとも思ったけど、窮屈な生活はもう疲れた。
「君はこんなところにいるよりも外に出ていた方が楽しそうだ」
それは私じゃなくてもそうだと思うけど。
「しかし殿下は毎日お忙しそうですよね?よろしいのですか?」
ユリウス殿下は私とは違って、毎日色々としているようだ。殿下は「そこなんだよね」と頷いた。
「ここにいたら父上に仕事を振られて君との時間が全然取れない。早く発ちたいな」
ああ、そっちですか。
「明日にでも陛下へお願いしに参ります。よろしいでしょうか?」
「あれ、今度は言って行くの?」
今回は流石に黙って出るわけにはいかないだろう。ただでさえ前回こっそり出たことを一部の貴族から嫌味のように言われることがあるのだから。殿下は黙って出て行くつもりだったのだろうか。
「言った方がいいのでは?」
「あー、うん、まあそうだね……」
急に歯切れが悪くなった。何か不都合があるのかな?
「もう少し待った方がよろしいのでしたら待ちますが?」
急ぐ理由は特にない。私が早く発ちたいだけだから。殿下の仕事の都合がついてからでいい。そう思ったが、殿下は「いや」と続けた。
「いいよ、言ってみようか」
明日陛下に許可をもらって、色々と準備をしたり、殿下は仕事を片付けたりするだろうから……2.3週間後には出発できるかな。
ふふ、と笑みが溢れた。
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