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第一章

12 〜えっ、そうなんですか

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『じゃあ注文しようか』

 ジーサはそう言うと、丸テーブルの中央に置いてあったガラス細工をつついた。

『マット、今日のメニュー何~』

 〔うるせー!!ジーサ、この忙しい時に俺に聞くな!注文係に聞け!!〕

 ジーサの言葉に、硝子細工から男性の声が響く、その声を聞いたミエルが、ジーサをたしなめる。

『ジーサ、いくら親しいとは言え、何故この忙しい時間に副料理長に聞くのですか』

『あ、いや、デザートおまけにつけてもらおうと思って、』

 〔え、ミエル総代?!〕

 ザッジの答えにかぶる様にマットと呼ばれた焦った様な男の声がした。

『マットすみません。係に聞きますので』

 〔あ、いや、その大丈夫です。
今日は蒸し白身魚の香草餡かけと、根野菜のグリル木の実和え、スープは鹿の干肉と玉ねぎで、今日はパンも有りますので、パンに変えることもできます。すみません、注文は係にお願いします〕

 ミエルに謝られ、マットと呼ばれた男性は、戸惑いながらメニューを言った。

『マット、乙女達いるからデザート付けてねー』

 〔ッチ…わかった〕

 ジーサの言葉に舌打ちをしながらも、マットは返事をした。

『えっと、みんな麦で良いかな』

「あ、パンでお願いします。それと、少なめにして欲しいのですが」

 ジーサの言葉に智美は今朝出てきた雑炊の様なものを思い出し、パンに変えて欲しいと願う。
雑炊の様なものは米じゃなくて麦だったと思う。

「愛もパンが良い!あと愛はそんなに食べられないから少しずつがいい!」

 両側からの女性陣の要望を聞くと、ザッジはもう一度硝子細工をつついた。

『注文したいんだけどいい?』

 〔はい、クレマチスですね、お伺いします。〕

 こんどは、女性の声で返答があった。

 智美はクレマチス?と思いながら声の響く硝子細工に目を向けると、細工の部分がクレマチスの花だった。

 それは香水瓶のように中に青泉水が入っていて、上の栓の部分がクレマチスの花をモチーフにしたガラス細工だった。
智美は、それはテーブルセンターに花を飾るのと同じ意味の装飾品だと思っていたが、どうやらそれは、通信機器の役目もあるものだったようだ。

『男性用4人前、女性用2人前で、女性用はパンにしてね~。
あと、マットにクレマチスに六人だからって、伝えといてくれる』

 〔はい、承りました。副料理長にお伝えしておきます〕

 すんなり返事を返してくる声は少し笑っているようだったが、戸惑わないところをみると、よくあることなのかもしれない。
量の事を言わなかったジーサに智美は戸惑の目を向けると、彼はにっこり笑って言った。

『残しても、だれも文句は言わないよ、何なら俺が食べてあげるし』

「ありがとうございます。食べられない量でしたらお願いします」

 そう、すまなそうに微笑み返していると、ジーサの気が自分に向いてないのが、不満だったのか愛子がジーサに話しかけて、気を引き始めた。

 智美の左隣にいる、カイ皇子は先ほどからザッジ団長と話していてというか、話しかけられているので、両隣に気を遣わなくて良くなった智美は、料理が来るまでの間メモを取ろうと、自分の服の中に入れていた借りた万年筆を出し、背もたれに置いていたメモ紙を膝の上に置いて、先ほど聞いた団長の名前を覚えている限りと、テーブルのガラス細工の使用について書いていた。

『それって…』

 ふと、左隣りから声が聞こえて、智美は手元を見ているカイ皇子に気付いた。

「覚えられないので、メモを取らせてもらってます、すみません」

 こんな時に何か書いているのをとがめられたと思った智美がそういったが、カイの目線は智美の手元に有り怪訝な表情のままだ、どうやら、万年筆を見ているのだと気付いた智美は、言い訳のように言葉を続けた。

「あ、このペンは私が筆記用具を持ってないので、ミエル様にお借りしてまして、後で別のものを用意してもらうまでお借りしてるんです」

 そう言いながら、書き終わったので、失くさないように大事に服の中胸元にしまう。いわゆる自分が知っている万年筆と違い、キャップはねじ式で返しがなく、キャップの部分にストラップの様に房が付いていてその房が胸元から出ていていた。カイ皇子は仕舞う様子をものも言わずじっと見ている。

『サトミ様、言い忘れましたが、それは帯に刺して持ち運ぶものですよ』

「えっ、そうなんですか」

 向かいの席に座っているミエルにそういわれて、智美は戸惑うが自分の今着ている服は表に帯が出ておらず、すんなり刺す事が出来ないので、どうしようもない。

 カイ皇子はその様子を無言で自分のピアスを触りながら見ていた。



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後書き

無駄に細かくてすみません。
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