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第四章
48 〜我慢…ですか?
しおりを挟む勘違いを、助長した理由
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カイはタンザの言葉に、何か返そうとしていたところに、扉を叩く音がする。
返答をタンザがすると、中に入って来たのはミエルとアル皇子で、愛子の着替えが終わったのでそろそろこちらに戻って来るとの事だった。
『私も一応、建物の前まで赴こう。タンザお前も同行する事を許可する』
『分かりました』
アル皇子の言葉に、タンザが返事をすると、アル皇子は目線でカイを呼んだ。
その視線に応えるように、しぶしぶ智美のそばを離れると、タンザがスッと智美に近づいて来た。
智美は自分だけ座っているのも変かと思い、立ち上がると、そばに来たタンザに声をかけられた。
『サトミ様、お伝え出来なくて申し訳ありませんでした』
「…何がでしょう?」
タンザの言葉に智美は、身に覚えがなく聞き返す。
『あなたが、カイ皇子の泉侶である件です。
何か変だなとは思ってはいたのですが、泉侶に伝えるのは、当人以外口にしてはならない慣例がありますし、カイ皇子があの様子で安心してしまいまして』
「あの様子?」
『はい、普段見たことのない、貴方への執着と囲いようは、まさに泉侶に対する行動だったので」
タンザの言葉に、ピンと来ない智美は思い返す。
「そうなんですか?私には分からなかったのですが?確かに距離感は近いなぁとは思ったんですが、基本礼儀正しくされてましたし…」
智美の言葉に、タンザはああと何か思い当たる事があるらしい。
『あれは、多分我慢していたんだと思いますよ』
「我慢…ですか?」
『ええ、最初が最初だったので、アル皇子に【清き乙女】の事がはっきりするまでダメだと、釘を刺されてたので、時たま我慢出来なかったようですが』
笑いながら言うタンザの言葉で、最初とは何の事だろうと智美は思っていると、話している間に割り込むようにカイがやって来て、手を引かれた。
『サトミ、そろそろ行くぞ』
そう言って引き寄せられて、タンザから離される。
その様子をさして咎めるわけでもなく、タンザは微笑んで見ていた。
案内された場所は、以前カイに連れてきてもらった場所の様だ。
ミエルも庭までは入れるようで、そこ迄は先導する様に前を歩いていた。
そして、ここにも当たり前の様に、カイがついて来ている、というか手を取られてエスコート状態だ。
先程邪険にしたからか、雰囲気がさらに甘くなったように感じるので、何となく智美はいたたまれない。
大体最初は、腰に手を回して引き寄せる様に歩こうとした、だが、恥ずかしかった智美は抗ったので、手を取られると言う状態になった。
智美は歩きながら思い返す、苛立った思いがタンザの言葉で少し緩和した。
カイの行動で、距離感の近さに比べ事務的な所作に感じていた矛盾は、我慢していたからという事なのかと思うと一応納得はできた。
かと言って、すんなりカイに好意を示せるかというと、それはまた別の問題で、それに外見はどう見ても年下なのに、17も年上だった事にもまだ途惑っている。
ミエルが先導しているが、その間には愛子が一人でいる、その後にカイと智美が連れ立ち、その後ろに、アル皇子と後ろにつきそうタンザと続いている。
愛子は最初メリルを連れていたが、白い螺旋階段から先は連れては行けないので、そこでわかれていた。
階段を上がり切り、外に一旦出るとやはりそこは、心洗われる様な綺麗な庭園で、初めて見る愛子は感嘆の声をあげている。
智美も二度目ではあるが、感嘆のため息が出た。
陽の光溢れる庭は、光輝いている様に瑞々しく見える。生命溢れる花々の様子は目を奪われるが、やはり最初に見た夜明けの光景は、言葉を失い己の心をも癒す光景だったなと智美は思った。
『お待ちしておりました。』
そこに女性の声がして、智美はハッと我に返り声の方を見ると、ミエルと同じような形式の服装をした女性が、建物の扉の前で立っていた。
『待たせてすみません、ランソルデ』
『いえ、たいしてお待ちしておりませんよミエル総代、ご無沙汰しております、アル皇子、カイ皇子』
『お元気そうで、何よりですリュティア様』
『久しぶりです』
ミエルと気軽に話し、アル皇子の言葉は敬っていて、カイも返事をしている人は、ミルクティー色の髪にペールブルーの瞳でアラフォーぐらいに見える、凛とした女性だった。
着ている服はミエルと同じ濃紺の生地だが、刺繍が光沢のある薄い水色の糸で施されている。
智美がつい観察する様にみていると、ミエルが女性の紹介を始めた。
『彼女は女性青泉使を纏めている、ランソルデのリュティアです。
私はここから先は入れないので、彼女に案内を頼みます。』
そう言うと、ミエルは少し言い淀んだが、近くに居る愛子から紹介した。
『ランソルデ、…こちらは【清き乙女】達のアイコ様とサトミ様です。』
『初めまして、ランソルデを務めさせていただいております、リュティアと申します。』
どうやら、聴きなれないランソルデと言うのは女性の青泉使のトップの称号のようだと思いつつ、挨拶をする。
「智美です、よろしくお願いします」
「愛で~す。よろしくね」
愛子の軽い挨拶に、幼子を見るような面差しをリュティアは見せた。
『それでは、ご案内致します』
そう言うとリュティアが片手を上げると、建物の扉でもある大きな硝子窓が開いた。
開きはしたが、硝子なので見えてはいたが、扉から数歩内側に、垂幕の様にカーテンがかかっていて、中の様子は全く見えていない。
空いた扉から愛子は何の途惑いも無く我先に入っていく、リュティアが入り、智美も続いて入ろうと足を踏み出すが、カイが手を握ったったままで、動きが止まる。
握られた手から目線を相手に向けると、そこにはなんだか置いていかれる子供の様に、不安げな顔をしたカイがいた。
「カイ皇子?」
何だか離してくれと言い辛く、ただ智美は名を呼ぶとカイは仕方なしに手を離した。
カイの様子に気を取られながらも、智美は扉の先に進んだ。
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後書き
カイ、野性の感発動中
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