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恋だと気付く音(side 鳥海玲音)
37.悪意のSNS
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それから暫くは、玲音の夢に花岡が登場するようになった。
内容はいつも同じで、ステージ上の彼が演奏する場面。
客席からは分からなかった顔が鮮明になっているのは、実際に近くで見たそれを夢の中に投影しているからなのかもしれない。
すぐ別の内容に移るような短い夢だが、朝起きてもボンヤリと記憶に残っている事がある。
そういう時は不思議と、少しだけ一日が良い物になるような気がした。
ただ、玲音だって忙しい中学3年生である。
毎日の勉強や学校行事行事の中で定期演奏会の記憶は少しずつ薄れていく。
忘れた訳ではないが、時折ふと思い出す程度になった頃に田中が言った。
「レオさ、また遊びだしたん?」
久しぶりに女子の誘いに応じて欲を発散した翌日の事だった。
「最近断られるって女子が言ってたけど、再開?」
EDにでもなっていたのかとニヤリと笑う田中に蹴りを入れつつ、玲音は内心で首を傾げる。
そう言われてみれば確かに、ここ数か月は誰とも肌を重ねていない。
後腐れのない相手に誘われれば断らない自分にとって珍しい事だった。
(そういう気にならなかったんだよな…)
何故なのか、その理由を探してみるもこれと言った決定打は無い。
「…綺麗なもん見たからかも」
「はい?」
怪訝な顔をする幼馴染を視界の端で見つつ、無意識で発した自分の言葉に妙に納得する。
あの定期演奏会で玲音は『正しい中学生の姿』を見た。
自分とは別世界の、青春漫画のような1ページ。
ステージ上で輝く花岡蒼良の姿はその象徴のように思えた。
(俺には無理だから尚更だな)
時折、ただ毎日を消化して生きていると感じる事がある。
だから友人と騒いで大笑いして、性的な快楽に一時の刺激を求めて。
何事にも熱くならず夢中にもならない気楽な日々の筈なのに、どうしてかそれを持て余して。
(俺が花岡みたいな人間だったら、姉ちゃんも安心なんだろうけどな)
きっと人には生まれた時から相応・不相応が決まっているのだ。
出来ない事には手を出さず、傍観者でいる方がずっと賢い。
だからもう、玲音の中に音楽は鳴らない。
その日から、花岡を思い出す事はなくなった。
前述したが、中学3年生は忙しい。
夏休みに入ると、田中と一緒に塾に通い始めた。
主に素行の問題で推薦が絶望的な彼等に、田中の母親が激怒したのがきっかけである。
塾長に志望校を聞かれて答えると、彼は学校の担任と全く同じ反応をした。
「通学のしやすさも大事だけどね、君の成績なら今から頑張ればもう少し上の進学校も視野に入ってくると思うよ?」
そうは言われても私立なんてもっての他だし、玲音は高校生になったらバイトする気満々だった。
莉緒にこれ以上、金銭的な負担をかけたくなかったからだ。
結局志望校は変えず、(母の圧力に屈して)猛勉強する田中に付き合って勉強に勤しみ、晴れて二人揃って合格を果たしたのだった。
卒業式が終わり暇な時間が増えると、ふと藤が丘中の定期演奏会の事を思いだした。
長らく記憶の底に沈めていた花岡も、今年が最後のステージの筈だ。
それにしては莉緒が大人しいなと思い、何となく尋ねてみる。
「莉緒、今年は定演行かねえの?」
「あ…、えっと藤ヶ崎中のだよね?なんかね、今年はやらないみたい。ほら、顧問の先生が変わったから色々違うみたいなの」
「ふーん」
そんなもんなのかと思いながら、ほんの少しガッカリしてもいた。
部屋に戻って『藤ヶ崎中吹奏楽部』をSNS検索してしまったのは、そんな気持ちの現れだったのかもしれない。
しかし、直ぐにそれを後悔する事になる。
「は……?」
検索ワードに出たきたのは『定演中止』『崩壊』
『凋落』『戦犯』の文字。
「なんだよ、これ…」
そして、続いて現れた『花岡蒼良』の文字に、心臓が嫌な音を立てる。
玲音は急いで画面を消してスマホを裏返した。
およそ似つかわしくない単語に囲まれた彼の名前を見たくなかったから。
内容はいつも同じで、ステージ上の彼が演奏する場面。
客席からは分からなかった顔が鮮明になっているのは、実際に近くで見たそれを夢の中に投影しているからなのかもしれない。
すぐ別の内容に移るような短い夢だが、朝起きてもボンヤリと記憶に残っている事がある。
そういう時は不思議と、少しだけ一日が良い物になるような気がした。
ただ、玲音だって忙しい中学3年生である。
毎日の勉強や学校行事行事の中で定期演奏会の記憶は少しずつ薄れていく。
忘れた訳ではないが、時折ふと思い出す程度になった頃に田中が言った。
「レオさ、また遊びだしたん?」
久しぶりに女子の誘いに応じて欲を発散した翌日の事だった。
「最近断られるって女子が言ってたけど、再開?」
EDにでもなっていたのかとニヤリと笑う田中に蹴りを入れつつ、玲音は内心で首を傾げる。
そう言われてみれば確かに、ここ数か月は誰とも肌を重ねていない。
後腐れのない相手に誘われれば断らない自分にとって珍しい事だった。
(そういう気にならなかったんだよな…)
何故なのか、その理由を探してみるもこれと言った決定打は無い。
「…綺麗なもん見たからかも」
「はい?」
怪訝な顔をする幼馴染を視界の端で見つつ、無意識で発した自分の言葉に妙に納得する。
あの定期演奏会で玲音は『正しい中学生の姿』を見た。
自分とは別世界の、青春漫画のような1ページ。
ステージ上で輝く花岡蒼良の姿はその象徴のように思えた。
(俺には無理だから尚更だな)
時折、ただ毎日を消化して生きていると感じる事がある。
だから友人と騒いで大笑いして、性的な快楽に一時の刺激を求めて。
何事にも熱くならず夢中にもならない気楽な日々の筈なのに、どうしてかそれを持て余して。
(俺が花岡みたいな人間だったら、姉ちゃんも安心なんだろうけどな)
きっと人には生まれた時から相応・不相応が決まっているのだ。
出来ない事には手を出さず、傍観者でいる方がずっと賢い。
だからもう、玲音の中に音楽は鳴らない。
その日から、花岡を思い出す事はなくなった。
前述したが、中学3年生は忙しい。
夏休みに入ると、田中と一緒に塾に通い始めた。
主に素行の問題で推薦が絶望的な彼等に、田中の母親が激怒したのがきっかけである。
塾長に志望校を聞かれて答えると、彼は学校の担任と全く同じ反応をした。
「通学のしやすさも大事だけどね、君の成績なら今から頑張ればもう少し上の進学校も視野に入ってくると思うよ?」
そうは言われても私立なんてもっての他だし、玲音は高校生になったらバイトする気満々だった。
莉緒にこれ以上、金銭的な負担をかけたくなかったからだ。
結局志望校は変えず、(母の圧力に屈して)猛勉強する田中に付き合って勉強に勤しみ、晴れて二人揃って合格を果たしたのだった。
卒業式が終わり暇な時間が増えると、ふと藤が丘中の定期演奏会の事を思いだした。
長らく記憶の底に沈めていた花岡も、今年が最後のステージの筈だ。
それにしては莉緒が大人しいなと思い、何となく尋ねてみる。
「莉緒、今年は定演行かねえの?」
「あ…、えっと藤ヶ崎中のだよね?なんかね、今年はやらないみたい。ほら、顧問の先生が変わったから色々違うみたいなの」
「ふーん」
そんなもんなのかと思いながら、ほんの少しガッカリしてもいた。
部屋に戻って『藤ヶ崎中吹奏楽部』をSNS検索してしまったのは、そんな気持ちの現れだったのかもしれない。
しかし、直ぐにそれを後悔する事になる。
「は……?」
検索ワードに出たきたのは『定演中止』『崩壊』
『凋落』『戦犯』の文字。
「なんだよ、これ…」
そして、続いて現れた『花岡蒼良』の文字に、心臓が嫌な音を立てる。
玲音は急いで画面を消してスマホを裏返した。
およそ似つかわしくない単語に囲まれた彼の名前を見たくなかったから。
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