僕らの街を取り戻せ!

浅草あおい

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僕らの街を取り戻せ!

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 少年が愛した故郷は、変わり果ててしまった。かつて緑に溢れていた街には、巨大な化学工場が建ち並んでいた。なんでも、綺麗な水が必要とのことで、住民たちの反対には耳を貸さず、政府と企業が手を組んで、短期的なお金儲けのためだけに大量の工場が建てられた。しかし、利益だけを追求した計画には無理があったのだろう。ある日工場の1つが事故を起こし、有害な物質が一面にばら撒かれた。街は汚染され、少年たちは避難を余儀なくされた。
 
 少年は怒っていた。事故を起こした企業に怒っていた。計画を認可した政府に怒っていた。そして何より、愛する街の愛する自然を守れなかった自分自身に怒っていた。少年は、故郷を取り戻すため行動を始めた。デモを行い、署名を集め、政府に意見書を提出した。しかし、彼らが復興にむけて動き出すことはなかった。
 
 政府は政府で、少年のことを疎ましく思っていた。問題を起こした際の対処法はただ一つ、皆が忘れるまで何もしないことだ。しかし、放っておけばやがて皆忘れてくれるものを、少年が騒ぎ立てるせいで、いつになっても批判が収まらない。そんな状況だから、少年が自分で防護服を着て除染作業を始めたと聞いたときには、その途方もなさに絶望して諦めてくれないかとさえ思っていた。
 
 少年の除染作業は、孤独で辛いものだった。故郷を取り戻したい、ただその一心で、来る日も来る日も重労働を続けていた。
 
 やがて、少年の思いに胸を打たれ、少年の行動に協力する者が現れた。協力の輪は瞬く間に広がっていき、除染作業は佳境を迎えた。
 
 政府もついに復興支援を行うと発表し、少年たちの除染作業に協力を始めた。さらに、少年に対し、勇気ある行動を表彰すると発表した。
 
 少年は、自分の活動が認められた嬉しさと、もう少しで故郷を取り戻せる喜びで、最高潮の気分だった。
 
 さあ、僕らの街を取り戻すまであと少しだ!



 
 

「ところで長官、どうしてあれほど嫌っていた少年に協力し、あまつさえ表彰しようと思ったのですか?」
「それはキミ、あの街を取り戻せたら、また工場を動かせるではないか、、、」
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