僕の愚痴を聞いてほしい。

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9.(レイモンドが泣いているためよく聞き取れない)

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ふう。
大丈夫かい?
疲れてはいないかな?
ああ、ありがとう。
話し続けていると喉が渇くから助かるよ。
さて次は…高等部か。
まずは休暇中だな。


もはや恒例となっていた節目の度に起こるリチャードのミレーユさん閉じ込めたい衝動が、その年はすんなり終結したんだ。
ついに親の方が折れてね、ミレーユさんの進学を断念した。
中等部の大暴れは相当後片付けが大変だったようだよ。だろうね。
だからこの年は僕もゆっくりと過ごす事が出来たんだ。

妹がデビュタントの時期だったから、一緒にドレスを選んで、当日の日程を…決め…て………。
……あんなに小さくて泣き虫だった妹がね、いつの間にか立派な淑女になっていてね…。
「お兄様には華が無いのですから、タイは華やかにしましょうね」なんて僕の服まで選んでくれてさ、もう…、ね、今思い出しても込み上げてきてしまうよ…。
大きくなったなぁ…レイチェル……。
晴れ姿…綺麗だったよ…ううっ…。
す、すまない、最近、妹が嫁いだばかりなん…だ。
良い…男をっ…選んだ…な………うううぅ…。












……もう奴等の話には戻らなくても良い気がしてきたな。
聞くかい?
妹の結婚式の話。
後で?
ああ、それは確かにそうだな、話すとスッキリするものな。
楽しい話の前に胸の靄を吐き出しきるとしよう。


「良いだろう、このハンカチ。ミレーユが私の為に作ってくれたんだ。慣れない栽培に苦戦する姿も愛らしくてな。触るなよ、やらんぞ」
「取らないよ。ブーゲンビリアか。恐ろしく緻密な刺繍だな。うん? 栽培と言ったか?……綿を!?」
「紡いだのも織ったのもミレーユだ。どうだ、凄いだろう。ミレーユは手先が器用だからな」
「それは……凄いな、熱意が」

リチャードのミレーユさん自慢が喧しいくらいで、高等部生活は平穏そのものだった。
不用意にリチャードをつつく勇者はもう居ないから、リチャードの機嫌も頗る良くてね。
しかし一筋縄で行かないのがあの二人だ。
一年が過ぎた頃、安寧は意外な所から壊された。

ある日、学園内をきょろきょろしている見慣れない学生が居た。
その後ろ姿は知らない筈なのに厭に見覚えがあり、僕は比喩でなく血の気が引いた。
誰だかは全く分からなかったけれど、柔らかく波打つ金の髪といい、背格好や仕草といい、その人はミレーユさんの母堂によく似ていたんだ。
女性が振り向く前に僕は急いで背を向けた。

「あら、丁度良かったですわ。レイモ」
「呼ぶな!来るな!用件は分かる、頼むからそこで待っていてくれ」
「仮面を付けておりますからそう警戒せずとも」
「僕は何も聞いていない。何も聞こえない。間違いなく平気ではない。リチャード!おいリチャード!!今すぐ此処へ来い!!!」
「何だ騒々し…ミレーユ!?」

リチャードが呼んだその名に、様子を見ていた生徒や不審者の通報を受けやってきた教師等全員が脱兎の如く逃げ出した。
ミレーユさんはもう長いこと髪の毛一本晒していなかったからね、皆も仮面の人物が誰なのか分からなかったんだ。
当然、僕はその波に紛れて逃げた。

「ミレーユ、何故此処に……はっ、人払いをせねば!…おや? 誰も居ないな。先程まで居た者達は何処へ…」
「リチャード様」
「何だい愛しのミレーユ」
「わたくし、これ以上リチャード様と離れているなんて無理ですわ。耐えられません!もっとお側に居させて下さいませ!」
「それは……私だって夕から朝迄しか共に居られぬのは辛い!だが、野獣の巣窟で可愛いミレーユにもしもの事があったらと私は…」
「わたくしだって、わたくしの居ない場でリチャード様がどう過ごされているのか、毎日心配しておりますのよ」
「ミレーユ、そんなに私の事を…」
「リチャード様…!」

抱き合う二人に、教室で息を殺す皆の気持ちは同じだった違いない。
廊下は邪魔だから帰って家でやってくれと。
僕達が帰れない。



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