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第一話
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「ナイジェル、昨日トーマと市場に行って来たのだが」
そう話しかけたのはリンカだった。
三十路を迎えているはずなのだが、まるでそう見えない。
艶やかな黒髪はほんの少し洒落っ気なのか片側だけ飾り紐と一緒に編み込まれ、緑石の飾り玉を使った髪飾りで無造作に括られ、萌黄色の異国風の衣装には牡丹という異国の花が縫い取られていた。
初めてあった頃よりは身綺麗なのだが、それでも異国風の美少年に見えてしまう。
「また、二人だけで行ったのか?」
話しかけられて顔を上げたナイジェルは眉を顰めた。
トーマとはナイジェルとリンカの息子で三歳になる。黒髪に淡い緑の瞳の少年で小づくりな顔がとても愛らしい。
最近はスライに作ってもらった小さな木剣を振り回して、クルバンと剣術の稽古という名の遊びに熱中している。
ナイジェルも人のことを言えないが、軍総司令官の第二夫人という立場にありながら、気軽にどこかに出かけてしまう。半年前の内乱で腕を切断しかけたほどの大怪我の後遺症で左腕が動かないにもかかわらずだ。
「いや、ちゃんと護衛はつけていたよ。……バハディル殿の所のユーリィが亡くなっただろう。何か子供が喜ぶ様なものを供えたいと思ってな」
「……そうか」
悲しそうにトーマの髪を撫でながら言うリンカにナイジェルもそれ以上は言えなかった。
バハディルには二十人近い子供がいるがその中でもシャノンの産んだユーリィを特に可愛がっていたようだ。
流行り病で、ちょっとした風邪をひいたと思っていたのだが、みるみる悪化して呆気なく亡くなってしまった。
母親のシャノンは勿論、バハディルの落ち込みようは凄まじく一時は大隊長の仕事が出来なくなったほどだ。
クルバンを初めとした息子たちが補佐して何とか乗り切ったようだが、未だに暗い表情をしている。
「トーマが選んだのか?」
「はい! うまにのったきへいのにんぎょうなんです。ユーリィすきかな?」
まだ幼児のトーマには人が亡くなると言うことを本当には理解していないのだろう、無邪気な物言いにナイジェルはほんの少し笑みを浮かべる。
「その時にな、師匠が持っていた剣と似たものが、質屋に置かれていたのを見かけたのだ。トーマや護衛といたせいか良家の奥様に間違われてな、値段を吹っかけられてしまったよ」
そう言ってちょっと膨れる。
その場にいたアイーシャやアナイリンは呆れた顔になる。
エルギン辺境伯を辞し、今は悠々自適な隠居となったバスターはアナイリンの二番目の娘のセアラを膝に乗せ、食事をとらせていたが苦笑いを浮かべる。
「残念だったな」
「うん、だからナイジェルも一緒に行かないか?」
「何故だ?」
「ああ、店主が女性だったからな。ナイジェルが一緒だったら、確実の値下げしてくれるだろう?」
「俺が行ったとて、値下げするかな?」
苦笑しながら、首を傾げるナイジェルに皆何とも言えない表情になる。
三十を超えたがその白皙の顔はシミやしわなどは見受けられず、精悍さが増し、アジメール王国の軍制を一手に担う威厳に満ちた美貌は衰えること知らない。
見慣れているはずのリンカやアナイリンでさえ、時々陶然と見惚れてしまう。
「瑞穂の国の物もたくさん置いてあったから、良い気晴らしになるんじゃないかと思ってな。最近のナイジェルは考え事をしていることが多いから」
リンカはやや心配そうな視線を送ってくる。
見渡すと家族も、後ろに控えたスライを初めとする使用人たちも似たような表情をしている。
最近のナイジェルは何か物思いに耽っていることが多い。
すぐそばまで近づいても気づかないことが度々あった。それを皆心配しているのだ。
考え事ではないのだが……。
ナイジェルは苦笑する。
時々、ぼうっと世界遠くなったと思ったら、ほんの少しの間記憶が無くなっているのだ。
敵意のない者の接近は許してしまうが、それほど問題がないと思っている。
数日に一度やってくるくらいで、疲れがたまっているからと結論付けていた。
その事を言うと心配するので黙ってはいるが。
後々、ナイジェルはこの事を黙っていたことを酷く後悔することとなる。
バハディルは屋敷内の祖廟の中で頭を垂れていた。
目の前の小さな墓石は息子のユーリィのものだ。
「バハディル様」
青白い顔でシャノンが祖廟の入口に立っていた。傍らにはヴェーラがシャノンを支えるように立っている。
「今日も来てくださったのですね」
「当たり前だ、ユーリィは俺の息子だからな。それよりもシャノンまだ顔色が良くない」
シャノンに対して労りの言葉を呟く。その言葉に涙腺が緩んだのかポロリと涙の粒が零れる。
「……ユーリィは幸せ者です。こんなにもお父様に愛されているのですから」
「……そう思ってくれているだろうか」
「ええ、きっと」
そう言うと静かに涙を流し続けていた。バハディルは沈痛な表情だった。
その様子をヴェーラは複雑な思いで見ていた。
ユーリィはとても可愛い子だった。素直で、家族皆愛していた。
……そう、まだ少年だった頃のあの方を思い起こさせる顔立ちだった。
その淡いくすんだ金髪も薄い萌黄色の瞳も。
バハディルは溺愛していたと言っても良い。父親として本当に愛していたのだろう。
だが時々、ふと狂おしいほどの目であの子を見ていた。
シャノンを慰めるバハディルを見ながら、ヴェーラは昔を思い起こしていた。
ヴェーラはバハディルとは幼馴染で十歳の頃には結婚の約束を互いの父親がしていた。
家門を誇り、少し傲慢なところがあったが、下の者に面倒見が良く優しい所が好ましいと子供心に思っていた。
エルギン辺境防備隊に入り、小隊長になった頃結婚したが、この頃から頻繁にある少年の名前を口にするようになった。
辺境伯の甥にあたり、きっと贔屓されて入ったに違いないと声高に詰っていた。
生意気だ、従卒の癖に俺を無視したと鼻息も荒く言っていた。
バハディルは家柄をひけらかすし、尊大な態度故に誤解を受けることが多い男だが、それほど気性の悪くない男だ。
今までこんなに誰かを詰ったことはなかった。
相当問題のある少年なのかと当時からの部下のオンソリに聞いた。
「いや、むしろ大人しい礼儀正しい少年ですよ。バハディル小隊長にもね。なんであんなに怒っているんでしょうね?」
不思議そうにオンソリは首を捻っていた。
事件が起きたのは暫く経ってからだった。
少年の所有する剣を勝手に持ち出して侮辱したらしい。オンソリは止めようとしたらしいが、激高してどうにも出来なかったようだ。
少年はその年齢の少年とは思えない剣技を見せ、バハディルたちを返り討ちにしたらしい。
その事をオンソリから聞いて、茫然とした。
エルギンの騎兵の家族にも知れ渡ったらしく、仲良くしていた騎兵の妻たちにやや避難がましい目で見られた。
その事も辛くないといえば嘘になるが、バハディルがそんな事をしたのが信じられなかった。
「旦那様」
「すまないなヴェーラ、嫌な思いをしているだろう」
「いえ……そんなことは」
剣術の合同演習の時の事件なので、その事自体は処分の対象にされなかったようだが、バハディルの評判は地に落ちた。
何しろ、従卒が小隊長を叩きのめしたのだから。
それでも外聞を気にした直属の大隊長によって、三日の謹慎を言い渡された。
その時に相当きつい嫌味を言われたようだった。
落ち込んでいるかと思って声を掛けたヴェーラだったが、バハディルはどこか満足したような表情をしていた。
「……やはりあれは本性ではなかったな」
部屋から出て行こうとしたヴェーラの耳に小さな声が聞こえた。
「え?」
振り返ったが、それ以上は何も聞けなかった。
オンソリがぽつんと言っていたが、
「バハディル小隊長の剣技は地位相応ですよ。あのナイジェルという少年が化け物ですね。あれに勝てるのは小隊長以上者でも何人いるか分かりませんな」
その後、バハディルは世間話のようにナイジェルの話をすることがあるが、とても少年とは思えない話ばかりだった。
大規模な盗賊団が国境を抜けるという事件があったのだが、従卒として直属の大隊長の傍に控えていた時、運悪く包囲を突破して大隊長に襲い掛かってきた盗賊の首を切り飛ばしたとか。
「告罪天使」と渾名されるようになった紛争時の活躍もそうだった。
ヴェーラにしたらすごい速さで出世していたように見えたが、バハディルやオンソリに言わせると「若さと辺境伯の甥」というのがかなり足かせとなっていたようだ。
どんな少年か気になり、用事を作って見に行ったことがあった。
将来女性が群がりそうな綺麗な少年だと思った。
バハディルが何か自慢しているのか、他の少年たちはうんざりとしたようにバハディルの講釈を聞いていた。
ナイジェルは礼儀正しい態度だったが、民政院の成り立ちについて関わった親族の自慢も含めて話し始めた時視線を上げ、感心したような表情をした。
いくつか質問をして、バハディルもそれに丁寧に答えていた。
「よく分かりました、ありがとうございます」
笑みを浮かべて礼を言う様子にバハディルはぽかんと口を開けていた。
顔を赤らめて、精一杯の威厳を保ちながら
「また、教えてやってもいいぞ!」
と言うのに対して、少しだけ目を見張り、苦笑を浮かべると「よろしくお願いします」と言っていた。
先ほどまでのどこか取り繕ったような礼儀正しい態度は消えていた。
それからのバハディルは様々な情報収集に励んでいた。
元から明晰な頭脳とそれを集めるだけの資金と人材と身分に事欠かなかったので、周りは出世の為に励んでいるように周囲からは見られたが、ヴェーラが見るところ実際は唯々ナイジェルに感心されたいと言うことだった。
辺境伯にも意見を求められることもしばしばあり、皮肉なことにそれが昇進につながっていった。
「ナイジェル殿は恐ろしいお方なのかもしれません。剣術だけなのかと思っていたのですが」
彼とその傍らにいる人間は順調に出世していっているらしい。自然と周りに影響を及ぼしてしまうのだろう。
そう話しかけたのはリンカだった。
三十路を迎えているはずなのだが、まるでそう見えない。
艶やかな黒髪はほんの少し洒落っ気なのか片側だけ飾り紐と一緒に編み込まれ、緑石の飾り玉を使った髪飾りで無造作に括られ、萌黄色の異国風の衣装には牡丹という異国の花が縫い取られていた。
初めてあった頃よりは身綺麗なのだが、それでも異国風の美少年に見えてしまう。
「また、二人だけで行ったのか?」
話しかけられて顔を上げたナイジェルは眉を顰めた。
トーマとはナイジェルとリンカの息子で三歳になる。黒髪に淡い緑の瞳の少年で小づくりな顔がとても愛らしい。
最近はスライに作ってもらった小さな木剣を振り回して、クルバンと剣術の稽古という名の遊びに熱中している。
ナイジェルも人のことを言えないが、軍総司令官の第二夫人という立場にありながら、気軽にどこかに出かけてしまう。半年前の内乱で腕を切断しかけたほどの大怪我の後遺症で左腕が動かないにもかかわらずだ。
「いや、ちゃんと護衛はつけていたよ。……バハディル殿の所のユーリィが亡くなっただろう。何か子供が喜ぶ様なものを供えたいと思ってな」
「……そうか」
悲しそうにトーマの髪を撫でながら言うリンカにナイジェルもそれ以上は言えなかった。
バハディルには二十人近い子供がいるがその中でもシャノンの産んだユーリィを特に可愛がっていたようだ。
流行り病で、ちょっとした風邪をひいたと思っていたのだが、みるみる悪化して呆気なく亡くなってしまった。
母親のシャノンは勿論、バハディルの落ち込みようは凄まじく一時は大隊長の仕事が出来なくなったほどだ。
クルバンを初めとした息子たちが補佐して何とか乗り切ったようだが、未だに暗い表情をしている。
「トーマが選んだのか?」
「はい! うまにのったきへいのにんぎょうなんです。ユーリィすきかな?」
まだ幼児のトーマには人が亡くなると言うことを本当には理解していないのだろう、無邪気な物言いにナイジェルはほんの少し笑みを浮かべる。
「その時にな、師匠が持っていた剣と似たものが、質屋に置かれていたのを見かけたのだ。トーマや護衛といたせいか良家の奥様に間違われてな、値段を吹っかけられてしまったよ」
そう言ってちょっと膨れる。
その場にいたアイーシャやアナイリンは呆れた顔になる。
エルギン辺境伯を辞し、今は悠々自適な隠居となったバスターはアナイリンの二番目の娘のセアラを膝に乗せ、食事をとらせていたが苦笑いを浮かべる。
「残念だったな」
「うん、だからナイジェルも一緒に行かないか?」
「何故だ?」
「ああ、店主が女性だったからな。ナイジェルが一緒だったら、確実の値下げしてくれるだろう?」
「俺が行ったとて、値下げするかな?」
苦笑しながら、首を傾げるナイジェルに皆何とも言えない表情になる。
三十を超えたがその白皙の顔はシミやしわなどは見受けられず、精悍さが増し、アジメール王国の軍制を一手に担う威厳に満ちた美貌は衰えること知らない。
見慣れているはずのリンカやアナイリンでさえ、時々陶然と見惚れてしまう。
「瑞穂の国の物もたくさん置いてあったから、良い気晴らしになるんじゃないかと思ってな。最近のナイジェルは考え事をしていることが多いから」
リンカはやや心配そうな視線を送ってくる。
見渡すと家族も、後ろに控えたスライを初めとする使用人たちも似たような表情をしている。
最近のナイジェルは何か物思いに耽っていることが多い。
すぐそばまで近づいても気づかないことが度々あった。それを皆心配しているのだ。
考え事ではないのだが……。
ナイジェルは苦笑する。
時々、ぼうっと世界遠くなったと思ったら、ほんの少しの間記憶が無くなっているのだ。
敵意のない者の接近は許してしまうが、それほど問題がないと思っている。
数日に一度やってくるくらいで、疲れがたまっているからと結論付けていた。
その事を言うと心配するので黙ってはいるが。
後々、ナイジェルはこの事を黙っていたことを酷く後悔することとなる。
バハディルは屋敷内の祖廟の中で頭を垂れていた。
目の前の小さな墓石は息子のユーリィのものだ。
「バハディル様」
青白い顔でシャノンが祖廟の入口に立っていた。傍らにはヴェーラがシャノンを支えるように立っている。
「今日も来てくださったのですね」
「当たり前だ、ユーリィは俺の息子だからな。それよりもシャノンまだ顔色が良くない」
シャノンに対して労りの言葉を呟く。その言葉に涙腺が緩んだのかポロリと涙の粒が零れる。
「……ユーリィは幸せ者です。こんなにもお父様に愛されているのですから」
「……そう思ってくれているだろうか」
「ええ、きっと」
そう言うと静かに涙を流し続けていた。バハディルは沈痛な表情だった。
その様子をヴェーラは複雑な思いで見ていた。
ユーリィはとても可愛い子だった。素直で、家族皆愛していた。
……そう、まだ少年だった頃のあの方を思い起こさせる顔立ちだった。
その淡いくすんだ金髪も薄い萌黄色の瞳も。
バハディルは溺愛していたと言っても良い。父親として本当に愛していたのだろう。
だが時々、ふと狂おしいほどの目であの子を見ていた。
シャノンを慰めるバハディルを見ながら、ヴェーラは昔を思い起こしていた。
ヴェーラはバハディルとは幼馴染で十歳の頃には結婚の約束を互いの父親がしていた。
家門を誇り、少し傲慢なところがあったが、下の者に面倒見が良く優しい所が好ましいと子供心に思っていた。
エルギン辺境防備隊に入り、小隊長になった頃結婚したが、この頃から頻繁にある少年の名前を口にするようになった。
辺境伯の甥にあたり、きっと贔屓されて入ったに違いないと声高に詰っていた。
生意気だ、従卒の癖に俺を無視したと鼻息も荒く言っていた。
バハディルは家柄をひけらかすし、尊大な態度故に誤解を受けることが多い男だが、それほど気性の悪くない男だ。
今までこんなに誰かを詰ったことはなかった。
相当問題のある少年なのかと当時からの部下のオンソリに聞いた。
「いや、むしろ大人しい礼儀正しい少年ですよ。バハディル小隊長にもね。なんであんなに怒っているんでしょうね?」
不思議そうにオンソリは首を捻っていた。
事件が起きたのは暫く経ってからだった。
少年の所有する剣を勝手に持ち出して侮辱したらしい。オンソリは止めようとしたらしいが、激高してどうにも出来なかったようだ。
少年はその年齢の少年とは思えない剣技を見せ、バハディルたちを返り討ちにしたらしい。
その事をオンソリから聞いて、茫然とした。
エルギンの騎兵の家族にも知れ渡ったらしく、仲良くしていた騎兵の妻たちにやや避難がましい目で見られた。
その事も辛くないといえば嘘になるが、バハディルがそんな事をしたのが信じられなかった。
「旦那様」
「すまないなヴェーラ、嫌な思いをしているだろう」
「いえ……そんなことは」
剣術の合同演習の時の事件なので、その事自体は処分の対象にされなかったようだが、バハディルの評判は地に落ちた。
何しろ、従卒が小隊長を叩きのめしたのだから。
それでも外聞を気にした直属の大隊長によって、三日の謹慎を言い渡された。
その時に相当きつい嫌味を言われたようだった。
落ち込んでいるかと思って声を掛けたヴェーラだったが、バハディルはどこか満足したような表情をしていた。
「……やはりあれは本性ではなかったな」
部屋から出て行こうとしたヴェーラの耳に小さな声が聞こえた。
「え?」
振り返ったが、それ以上は何も聞けなかった。
オンソリがぽつんと言っていたが、
「バハディル小隊長の剣技は地位相応ですよ。あのナイジェルという少年が化け物ですね。あれに勝てるのは小隊長以上者でも何人いるか分かりませんな」
その後、バハディルは世間話のようにナイジェルの話をすることがあるが、とても少年とは思えない話ばかりだった。
大規模な盗賊団が国境を抜けるという事件があったのだが、従卒として直属の大隊長の傍に控えていた時、運悪く包囲を突破して大隊長に襲い掛かってきた盗賊の首を切り飛ばしたとか。
「告罪天使」と渾名されるようになった紛争時の活躍もそうだった。
ヴェーラにしたらすごい速さで出世していたように見えたが、バハディルやオンソリに言わせると「若さと辺境伯の甥」というのがかなり足かせとなっていたようだ。
どんな少年か気になり、用事を作って見に行ったことがあった。
将来女性が群がりそうな綺麗な少年だと思った。
バハディルが何か自慢しているのか、他の少年たちはうんざりとしたようにバハディルの講釈を聞いていた。
ナイジェルは礼儀正しい態度だったが、民政院の成り立ちについて関わった親族の自慢も含めて話し始めた時視線を上げ、感心したような表情をした。
いくつか質問をして、バハディルもそれに丁寧に答えていた。
「よく分かりました、ありがとうございます」
笑みを浮かべて礼を言う様子にバハディルはぽかんと口を開けていた。
顔を赤らめて、精一杯の威厳を保ちながら
「また、教えてやってもいいぞ!」
と言うのに対して、少しだけ目を見張り、苦笑を浮かべると「よろしくお願いします」と言っていた。
先ほどまでのどこか取り繕ったような礼儀正しい態度は消えていた。
それからのバハディルは様々な情報収集に励んでいた。
元から明晰な頭脳とそれを集めるだけの資金と人材と身分に事欠かなかったので、周りは出世の為に励んでいるように周囲からは見られたが、ヴェーラが見るところ実際は唯々ナイジェルに感心されたいと言うことだった。
辺境伯にも意見を求められることもしばしばあり、皮肉なことにそれが昇進につながっていった。
「ナイジェル殿は恐ろしいお方なのかもしれません。剣術だけなのかと思っていたのですが」
彼とその傍らにいる人間は順調に出世していっているらしい。自然と周りに影響を及ぼしてしまうのだろう。
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