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はじめての過去
しおりを挟む「明日も降りそうだね。」
空は濁ったまま、雪はどんどんと積み重なって行く。
水を汲みに来たが、井戸へも雪が入り込みこれがまた重労働だ。
「そうだね。」
ゆっくりとしか動かない井戸の縄をウィンスが代わりに引っ張ってくれる。
「そういえば、ウィンス達はいつユウと出会ったの?」
「昨年の今頃だよ。」
井戸から桶が上がってくれば、それを引っ張り出す。
「そっか、なら何とか大丈夫だったんだね。」
食料問題は。と続けようとして顔を上げればウィンスの顔は曇っていた。
「…ピアンとキャメルは昨年来たんだ。
僕等は、一昨年から居た。」
息を飲んだ。
出会った頃にラークは物取りをしていたと言うような事を言っていた。
僕等、というのはラークとウィンスの事をさしているのだろう。
もしかしたら、ユウの居ない期間は2人きりで想像もつかない過酷な日々を過ごしていたのかもしれない。
ウィンスは、何処か刹那気な顔をしてそれ以上は言葉を続けなかった。
____________
何だか、あずましくない。
北国では居心地が良くないとかそう言う意味なのだが、兎に角あずましくない。
何がと聞かれればこの雰囲気がだ。
家の中には口を閉ざしたウィンスと、
不安な目をしたピアンに、先程
「ラークは明日の露店に行かないってさ。」
と発言したキャメルがいた。
天候に似て何処か空気がどんよりとしている。
先程汲んだ水がぐつぐつと煮える音だけが耳を通り抜けた。
「…ちょっとラークのところに行って聞いてくるよ。」
最初に口を開いたのはウィンスだった。
ラークはキャメルに露店に出ないと伝えていつの間にか外に出たようだが、私には居場所の検討もつかないのでお願いする事にした。
それに私よりも、ウィンスへの方が話したい事が話せるだろう。
突然…否、突然でもなかったかもしれない。
露店に行かないと言ったのには驚いたが、ラークにも思うところがあったのだと思う。
実際、最初に籠を編んだきり物作りにラークは参加していなかったのだから。
いつまでも沈んだ気持ちではいられない。
明日の準備をすべく煮えた水に花達を落とし煮詰めて気を紛らわした。
「ピアン、布に糸を巻いてしばってくれる?」
不安げな彼女にも手伝って貰い、水に滲みでた綺麗なピンクから残った草等を取り除いた。
ザルでもあればいいのだがここは手作業だ。
縛った布を水に濡らし落としてしばらく漬け込んでいく。
20分程たったぐらいで
「わぁ!綺麗!」
絞って水洗いすれば淡いピンクの色になり、先程まで不安な目をしていたピアンが声をあげる。
「ここから色が落ちにくいようにこれに漬け込むよー」
「これは何?」
興味が湧いたのかキャメルも顔を覗かせた。
「灰を水で溶かしたものだよ。」
どろりとしたそれに布を漬け込み20分程経っただろうか。
布を水洗いすれば変色し淡い紫になっていた。
紐で適当に縛ったところは色がついておらず、綺麗に模様になっていた。
「これを乾燥させたら完成。明日までに乾くといいけど。」
作業が終わる頃には先程の空気はなくなっていた。
明日出品する物を数えて
カゴが10個に
ヘアバンドが5個
あみぐるみが3個
ミサンガは2本
昨日は出かけていたので主にキャメルが作ってくれたものだ。
もう少し品数はあった方がいいかもしれないと午後は3人でヘアバンドとミサンガを作って行った。
「帰ってこないね…」
「明日は露店で朝早いし二人は寝てていいよ。」
日が暮れてもラークとピアンは帰って来る気配がない。
二人を寝室へと促し薄暗い中一人あみぐるみを作っていく。
2つ程作りウトウトとし始めた頃だっただろうか。
ギィっと戸の開く音がして顔を上げた。
「ただいま。」
苦笑いを浮かべたキャメルがそこには居た。
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