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もう少しだけ、このままで。
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「あの、どちら様でしょうか?」
その声に顔を上げると。
目の前に猿の人形があった。
「うわっ!」
しかもこの猿。あのオモチャたちが動くアニメーション映画の第三弾に出てくる、シンバルを持った猿だ。たしかダークディセプシ○ンというホラーゲームのモデルにも使われていたはず。今も僕の顔の前でバンバンシンバルを叩いている。しかしなんでこんなものがこんなところに———と思ってさらに上を見ると、一人の女性がいた。
「挨拶が遅れて申し訳ありません。私はこの子の母親なのですが…あなたは誰ですか?」
シンバルは止まらない。明らかに警戒されている。しかしこれは事実じゃない。それなら、弁解の余地がある。
「こちらこそ、紹介が遅れてすみません。たまたま一人で歩いていたらこの子が一人だったので。とりあえずここであなたが迎えにくるのを待っていたんです」
「———本当にそうなの?」
隣の小学生に確認をとる。隣の小学生は頷きながら。
「私の暇つぶしに付き合ってもらってました」
正直でよろしい。なかなかいい奴じゃないか。シンバルもようやく鳴り止んだ。警戒は少しは解かれたらしい。
「いきなりすいませんでした。もしこの子に何かあったらと思うと怖くて、もしあなたが誘拐犯だったら関節という関節を全て逆に曲げて、逆に格好良いみたいな姿勢にするところでした」
「絶対格好良くないですよ!」
「…格好悪い?」
「もはや格好良い悪いの問題じゃない!」
「(笑)?」
「笑えねー!」
カエルの子はカエル、この親にしてこの子あり、って感じだ。しかしやっと帰れる。
「あの、僕はもう帰るんですけど…駅までの道を教えてもらえませんか?」
「そんなこと言わずに少し家に寄っていってください。小さいですが飲食店を営んでおりますので」
僕もわざわざそんな申し出を断るほど野暮じゃない。正直怖いけど。それでも付いていくと———あの店主のお店が見えてきた。
◆ ◆ ◆
それからしばらく滞在させてもらい(チャーシュー麺は食べていない)、母親が駅まで送ってくれることになった。しばらくして、奥さんは話し始めた。
「好きな女の子はいないんですか?」
このセリフはさっきも聞いた気がする。似たもの夫婦ということか。羨ましい限りである。
「好き、という感情がよくわからないです」
異性といてドキドキするのが好きという感情なら、思春期の人間はみんなが皆のことを好きということになる。それはそれで素晴らしいのだが。しかしそんなことはあり得ない。じゃあ誰にでもドキドキするのを前提として考えて、特定の人に特別な感情を抱くことがあるのかと言われれば、それもわからないと答えるほかない。
「じゃあ、誰かに好かれたとかは?」
「僕は人に好かれにくいそうです」
「見ず知らずの子を助けられるくらい優しいのに?」
「優しい、というよりは自己満足ですね」
自己満足。あの小学生を助けたのだって、嫌な思いをしたくないから、自分の行動に意味を持たせるための自己満足。これまでも、これからも。自分さえ得できれば誰が得をしようが損をしようが関係ない。ただ、相手が損をしたときに自分に被害が及ぶ可能性があるから、極力相手に寄り添う振りをする。これも結局自己満足。
「自己満足、ねえ。自己を満足させるわけですね。素敵じゃないですか」
「…は?」
この人は一体何を言っているんだろう。もしかして僕と同類なのだろうか。しかし、この場合は同じであって欲しくない。クズは僕だけで十分だというのに。
「自分を満足させられない人間が、果たして誰かを満足させてあげることができるでしょうか?」
いや。でも。
「それは…捉え方の問題じゃないですか」
「そうですね。ただ、捉え方は人が変われば百八十度変わります。私は素敵だと思いましたよ」
それでも。
「もっと良い方法があったはずなんです。でも僕は言葉を上手く使えなくて、人間関係を築くのが苦手になって。自己満足な考え方だと、自分が得をしない限り周りは得をしないんですよ?」
「自分が得をして、周りも得をして。結局みんな得をする。最高にハッピーじゃないですか。それに言葉を上手く使えない、と仰いましたけど。心を形にするのが言葉という手段なのに、簡単なはずがあると思いますか?」
「でもそれだと、僕は誰にでもドキドキする、最高に最悪な浮気野郎になるんですが」
「人の好みは選別差別と言いますからねえ」
「千差万別ですね!」
こんなところも似ているのか。確かに———言葉じゃ心を形作るのは困難だな。
その声に顔を上げると。
目の前に猿の人形があった。
「うわっ!」
しかもこの猿。あのオモチャたちが動くアニメーション映画の第三弾に出てくる、シンバルを持った猿だ。たしかダークディセプシ○ンというホラーゲームのモデルにも使われていたはず。今も僕の顔の前でバンバンシンバルを叩いている。しかしなんでこんなものがこんなところに———と思ってさらに上を見ると、一人の女性がいた。
「挨拶が遅れて申し訳ありません。私はこの子の母親なのですが…あなたは誰ですか?」
シンバルは止まらない。明らかに警戒されている。しかしこれは事実じゃない。それなら、弁解の余地がある。
「こちらこそ、紹介が遅れてすみません。たまたま一人で歩いていたらこの子が一人だったので。とりあえずここであなたが迎えにくるのを待っていたんです」
「———本当にそうなの?」
隣の小学生に確認をとる。隣の小学生は頷きながら。
「私の暇つぶしに付き合ってもらってました」
正直でよろしい。なかなかいい奴じゃないか。シンバルもようやく鳴り止んだ。警戒は少しは解かれたらしい。
「いきなりすいませんでした。もしこの子に何かあったらと思うと怖くて、もしあなたが誘拐犯だったら関節という関節を全て逆に曲げて、逆に格好良いみたいな姿勢にするところでした」
「絶対格好良くないですよ!」
「…格好悪い?」
「もはや格好良い悪いの問題じゃない!」
「(笑)?」
「笑えねー!」
カエルの子はカエル、この親にしてこの子あり、って感じだ。しかしやっと帰れる。
「あの、僕はもう帰るんですけど…駅までの道を教えてもらえませんか?」
「そんなこと言わずに少し家に寄っていってください。小さいですが飲食店を営んでおりますので」
僕もわざわざそんな申し出を断るほど野暮じゃない。正直怖いけど。それでも付いていくと———あの店主のお店が見えてきた。
◆ ◆ ◆
それからしばらく滞在させてもらい(チャーシュー麺は食べていない)、母親が駅まで送ってくれることになった。しばらくして、奥さんは話し始めた。
「好きな女の子はいないんですか?」
このセリフはさっきも聞いた気がする。似たもの夫婦ということか。羨ましい限りである。
「好き、という感情がよくわからないです」
異性といてドキドキするのが好きという感情なら、思春期の人間はみんなが皆のことを好きということになる。それはそれで素晴らしいのだが。しかしそんなことはあり得ない。じゃあ誰にでもドキドキするのを前提として考えて、特定の人に特別な感情を抱くことがあるのかと言われれば、それもわからないと答えるほかない。
「じゃあ、誰かに好かれたとかは?」
「僕は人に好かれにくいそうです」
「見ず知らずの子を助けられるくらい優しいのに?」
「優しい、というよりは自己満足ですね」
自己満足。あの小学生を助けたのだって、嫌な思いをしたくないから、自分の行動に意味を持たせるための自己満足。これまでも、これからも。自分さえ得できれば誰が得をしようが損をしようが関係ない。ただ、相手が損をしたときに自分に被害が及ぶ可能性があるから、極力相手に寄り添う振りをする。これも結局自己満足。
「自己満足、ねえ。自己を満足させるわけですね。素敵じゃないですか」
「…は?」
この人は一体何を言っているんだろう。もしかして僕と同類なのだろうか。しかし、この場合は同じであって欲しくない。クズは僕だけで十分だというのに。
「自分を満足させられない人間が、果たして誰かを満足させてあげることができるでしょうか?」
いや。でも。
「それは…捉え方の問題じゃないですか」
「そうですね。ただ、捉え方は人が変われば百八十度変わります。私は素敵だと思いましたよ」
それでも。
「もっと良い方法があったはずなんです。でも僕は言葉を上手く使えなくて、人間関係を築くのが苦手になって。自己満足な考え方だと、自分が得をしない限り周りは得をしないんですよ?」
「自分が得をして、周りも得をして。結局みんな得をする。最高にハッピーじゃないですか。それに言葉を上手く使えない、と仰いましたけど。心を形にするのが言葉という手段なのに、簡単なはずがあると思いますか?」
「でもそれだと、僕は誰にでもドキドキする、最高に最悪な浮気野郎になるんですが」
「人の好みは選別差別と言いますからねえ」
「千差万別ですね!」
こんなところも似ているのか。確かに———言葉じゃ心を形作るのは困難だな。
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