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第一章 運命の出会いと王国動乱篇
第十五話 A⑤ 愛しき想い人
「アリス様!お急ぎを!」
悪魔界、アリスの領地から離れた荒野にある召喚門を目指して<鮮血の花嫁>アリスとその配下レイナードは走っていた。
すると目の前に、おぞましい血肉と臓物でできたような荒野にそびえ立つ巨大な召喚門に次々と人間に召喚された悪魔達が入っていくのが目に入る。
悪魔は人間界に召喚される際必ずこの召喚門に入り、霊道を通って人間界に渡る。
アリス達がここに来たのには理由がある。
魔道具を通してエルマーの様子はずっと把握していたがここにきてアリス達の予想を上回る程の異常事態になったのだ。
「まさか、、エルマーたんのお父様もお兄様達も殺されていたなんて、、!きっとエルマーたんの心は深く傷ついているはずだわ。」
選定の儀から1ヶ月経ちようやく悪魔界にいるアリス達もその情報を掴むことになる。
ーー遅すぎたっ、、、!
ギリっとピンク色の唇を噛みアリスは美しい顔を歪めて深く後悔をする。
「フリッツなるダールベルク家の息子が戦場に光屈折魔法で結界を張っていたようです。行商人でさえ隣で人が殺し合ってるのに気づかないまま通り過ぎてましたよ。王都の虐殺も反魔法の結界で情報は統制されていましたし、、。ご自身を責めないで下さい。」
アリスの隣に控える執事服を着た黒髪美青年の悪魔・レイナードが理路整然とアリスをフォローする。
「でも、、っ、!私はエルマーたんを守るって誓ったのに、、っ、!他ならぬ自分自身に!」
長年悪魔界で、時には人間界にまで行きエルマーを見守り一方的に愛してきたアリスは傷つくエルマーの側に自分が居ないことに悔しさを感じて涙を流す。
レイナードはそんな主を心配してそっと紳士的に胸ポケットからハンカチを出して、アリスの頬を伝う涙を拭き取ると、
「エルマー様の元に御使を送りました。必ず貴方がエルマー様をお迎えに上がると。」
「ゔん。」
涙ぐみながらレイナードの言葉にアリスは少し落ち着きを取り戻す。
「今こそ我らの出番です。泣いてる場合ではありません!あの愛しき御方を救いに行きますよ。」
レイナードが頼もしい笑みを浮かべて荒野に蹲り少女のように泣くアリスに手を伸ばして立つように促す。
アリスが頼もしい配下に微笑みレイナードの手を取ろうとすると、
「急報!アリス様!もはや一刻の猶予もありません。ブラームス家全滅であります!エルマー様も今まさに命を狙われております!」
突如空にゲートが開き、アリスの前に降り立った配下の悪魔がアリス達にとんでもない事実を報告する。
アリスとレイナードは驚愕に目を見開く。報告に馳せ参じた悪魔はテレビ型魔道具の前にずっと張っていた監視役だ。
「もはや、こうなったら強引にでも他人の召喚に割って入り召喚主を殺してその足でエルマー様の元へ行くしかありません!」
いつもは冷静なアリスの右腕レイナードが彼らしくないめちゃくちゃな理論を組み立てる。
「でも、、!遠く離れた地に召喚されたらいくら私でも間に合わないわ!」
アリスは額に汗を流しながら、頭を急速回転させて何か打開策を捻り出そうとする。
ーーどう考えても間に合わない!エルマーが殺されちゃう!
暴虐の女王が真紅の瞳を絶望と悲しみに曇らせて心が折れそうになる。
レイナードはそんなアリスを横目に汗を流して悔しそうに顔を歪ませる。
すると、再び空を割ってゲートが現れて先ほどとは別の配下の悪魔が降ってきて地に跪き報告を上げる。
「続報です!エルマー様が悪魔を召喚しようとしています!それも上位の!」
アリスとレイナードはギョッとした表情で顔を見合わせると、直ぐに2人共召喚門に視線を移す。
「奴です!奴が召喚されようとしてます!」
配下の悪魔が慌てた様子で指差す先には先日アリスの軍団がボコボコにしてお灸を据えた悪魔男爵ツィリルが邪悪な笑みを浮かべて召喚に応じて門に入ろうとする所だった。
「アリス様!」
「ええ!わかってるわ!」
長年の付き合いで言葉を交わさずとも通じ合ってるのか息の合った動きで2人が瞬時に動き出す。
レイナードが糸魔法で悪魔男爵ツィリルを絡め取り、霊道に入り切る前に動きを止めると、
アリスは瞬きする程の速さで地を蹴り、翼を広げてツィリルの元まで一瞬で距離を詰める。
「ウォッ⁈血染め⁈」
アリスに気づいたツィリルが驚愕の表情で振り返ると自分の体が動かない事に気づく。
「レイナァアアドォオオ⁈」
ツィリルが遠くから自らを縛り付けるレイナードに気づくと困惑と怒りが同居したような表情でレイナードに目を奪われる。
レイナードは驚愕に目を見開くツィリルを嘲るように笑い注意を引くと旅立つ主人に餞の言葉を送る。
「さぁ!お行きなさい!可愛いあの子の元へ!」
その隙にアリスがツィリルに飛び掛かり背中にしがみ付いて霊道に押し込むと、レイナードの糸が切れる。
「どうやら運は我らに味方したようですね、アリス様。いや、この場合はエルマー様か?」
窮地の王子を救いに召喚門の彼方へ消えた主を見送りレイナードは安堵した表情で呑気なことを呟く。
ーーアリス様が向かわれたのならもう大丈夫ですね。
レイナードは踵を返して、長い艶のある黒髪を揺らしながら主人と同じ真紅の目を細めて居城へ向かう。
「貴方が愛しの王子を救いに行ってる間は私も私の仕事をすることにします。」
雷鳴が降り注ぐ荒野の中、目的を果たしたレイナードは一人悠然と仲間達が待つ城へ歩き出す。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
「よ、止せっ!血染め!俺を見逃したくれたのでは無かったのか⁈」
エルマーの召喚に応じて霊道を通る悪魔男爵ツィリルが格上の大悪魔アリスに強引に召喚に割って入ってこられて必死に抵抗する。
「それとこれは関係無いわ。貴方の罪は私の愛しい坊やに召喚されたということだけよ。」
アリスの理不尽な物言いに身を捩って抵抗しながら背中にしがみ付く血染めの花嫁を振り返ると、彼女は凍りつくような冷酷な表情でツィリルを凝視している。
ーー殺される!
訳が分からない状況ながら、ツィリルは本能的に殺されることを察知して人間形態から第二形態、悪魔の獣の姿に変身する。
「血染めぇえええ!なんでも自分の思い通りになると思うなよ!悪魔界の新参者がぁっ!」
ツィリルは背中から4つの黒い羽を生やし、頭はおぞましい八つ目の蜘蛛、黒い体毛に覆われる上半身の下は八つ足の蜘蛛というおぞましい姿に変えてアリスを振り落とそうとする。
「それが本音かしら?まだ懲りて無かったのね。」
涼しい顔でツィリルを抑えつけながらアリスは地を這う虫ケラを見るような目で見下す。
アリスは左手でツィリルの首根っこを掴んだまま右手の掌に<神域>の能力を発動させる。
異世界から転生して来た者に神から贈られるという絶対的なスキルだ。
アリスの<神域>は自身・他人を問わず血を自在に操るという幅広い応用が効く使い勝手の良い能力だ。
「滅魔の血槍」
アリスの右手の掌から血でできた硬質で赤い槍が創造されてツィリルの首を後ろから貫く。
そこから血が吹き出して返り血がアリスの美しい顔と純白のドレスを赤く染め上げる。
「ごばばぉっ」
ツィリルが醜悪な蜘蛛の口から血を吐いて苦しむと異形の身体が痙攣して暴れ出す。
「すぐに死ねないのも不憫よね。楽にしてあげるわ。」
アリスが美しい顔に酷薄な笑みを浮かべて左手でツィリルの後頭部を掴むと、恐ろしい程の怪力で胴体から頭部を引きちぎる。
ツィリルの首から下は霊道の次元の彼方に飛んでいきアリスの視界から消えていく。
黒い巨大な翼を広げてアリスは自由になった身体で霊道の流れに身を任せると、重い衝撃がアリスの体を突き抜けて頭の中が前後左右に激しく揺らされる。
ーー何度召喚されてもこれには慣れないわね!
目眩に襲われながら、初めて人間界に召喚されて時召喚主の顔に出会い頭に吐瀉物を吐き出したことを思い出す。
霊道の前後左右も無いと錯覚するようなあやふやな空間が揺れ始めてアリスの目の前が白く染まる。
一瞬、意識が飛んで世界が無くなる。
それから体の感覚が徐々に戻ってきて、重い目蓋を開けると目の前には召喚された時に出る朝露のような霧の中に立っていることに気づく。
足元にはほのかに赤く光る古い魔法陣が描かれており、空気は埃っぽくて咳き込みそうだ。
ーーお婆ちゃん家の押し入れの中の臭いだこれ。
遥か昔、前世の人間だったころに嗅いだ祖母の家の押し入れの臭いを思い出して鼻をつまむ。
呑気にそんな事を考えてると辺りを包む霧が晴れてきて、目の前に小さな人影が立っていることにすぐに気づく。
ーーあぁ!どうしよう⁈どんな顔すれば良いの⁈
アリスの心臓は跳ね上がり、鼓動がバクバクと早まり美しい顔を紅潮させて緊張にピンク色の唇が揺れる。
ーー慌てて来たから気持ちの準備できてないよ!あぁ、何でこんなときにレイナードの奴はいないのよ!
この場にいないアリスの有能な右腕に理不尽な怒りをぶつける。
アリスの気持ちに整理がつかないまま霧は晴れていき、自身が古びた蔵の中にいる事に気づく。
木造りの天井には蜘蛛の巣が張り、魔法陣の周りには本や刀剣、古道具などが山積みにされている。
高い位置に開けられた窓からは強い陽射しが入ってきており、今が朝だということをアリスに知らせる。
「おい!悪魔!」
聴き慣れた愛しい声がアリスに向けて発せられてるのに意識をハッと周りの景色から目の前に向けると金髪の天使がアリスを真っ直ぐに見つめていた。
「僕と契約しろ!対価なら何でも払う!お前の力を僕に貸せ!」
アリスのよく知る愛しき天使は傷だらけになり、服は所々破けて白くてスベスベな肌を血で汚している。
最期に見たときよりも髪は伸びていて肩ほどまで伸びた金髪は艶があってとてもキレイだ。
しかし、その翡翠の瞳には悲しみと絶望、怒りと憎悪が渦巻いていた。
悪魔界、アリスの領地から離れた荒野にある召喚門を目指して<鮮血の花嫁>アリスとその配下レイナードは走っていた。
すると目の前に、おぞましい血肉と臓物でできたような荒野にそびえ立つ巨大な召喚門に次々と人間に召喚された悪魔達が入っていくのが目に入る。
悪魔は人間界に召喚される際必ずこの召喚門に入り、霊道を通って人間界に渡る。
アリス達がここに来たのには理由がある。
魔道具を通してエルマーの様子はずっと把握していたがここにきてアリス達の予想を上回る程の異常事態になったのだ。
「まさか、、エルマーたんのお父様もお兄様達も殺されていたなんて、、!きっとエルマーたんの心は深く傷ついているはずだわ。」
選定の儀から1ヶ月経ちようやく悪魔界にいるアリス達もその情報を掴むことになる。
ーー遅すぎたっ、、、!
ギリっとピンク色の唇を噛みアリスは美しい顔を歪めて深く後悔をする。
「フリッツなるダールベルク家の息子が戦場に光屈折魔法で結界を張っていたようです。行商人でさえ隣で人が殺し合ってるのに気づかないまま通り過ぎてましたよ。王都の虐殺も反魔法の結界で情報は統制されていましたし、、。ご自身を責めないで下さい。」
アリスの隣に控える執事服を着た黒髪美青年の悪魔・レイナードが理路整然とアリスをフォローする。
「でも、、っ、!私はエルマーたんを守るって誓ったのに、、っ、!他ならぬ自分自身に!」
長年悪魔界で、時には人間界にまで行きエルマーを見守り一方的に愛してきたアリスは傷つくエルマーの側に自分が居ないことに悔しさを感じて涙を流す。
レイナードはそんな主を心配してそっと紳士的に胸ポケットからハンカチを出して、アリスの頬を伝う涙を拭き取ると、
「エルマー様の元に御使を送りました。必ず貴方がエルマー様をお迎えに上がると。」
「ゔん。」
涙ぐみながらレイナードの言葉にアリスは少し落ち着きを取り戻す。
「今こそ我らの出番です。泣いてる場合ではありません!あの愛しき御方を救いに行きますよ。」
レイナードが頼もしい笑みを浮かべて荒野に蹲り少女のように泣くアリスに手を伸ばして立つように促す。
アリスが頼もしい配下に微笑みレイナードの手を取ろうとすると、
「急報!アリス様!もはや一刻の猶予もありません。ブラームス家全滅であります!エルマー様も今まさに命を狙われております!」
突如空にゲートが開き、アリスの前に降り立った配下の悪魔がアリス達にとんでもない事実を報告する。
アリスとレイナードは驚愕に目を見開く。報告に馳せ参じた悪魔はテレビ型魔道具の前にずっと張っていた監視役だ。
「もはや、こうなったら強引にでも他人の召喚に割って入り召喚主を殺してその足でエルマー様の元へ行くしかありません!」
いつもは冷静なアリスの右腕レイナードが彼らしくないめちゃくちゃな理論を組み立てる。
「でも、、!遠く離れた地に召喚されたらいくら私でも間に合わないわ!」
アリスは額に汗を流しながら、頭を急速回転させて何か打開策を捻り出そうとする。
ーーどう考えても間に合わない!エルマーが殺されちゃう!
暴虐の女王が真紅の瞳を絶望と悲しみに曇らせて心が折れそうになる。
レイナードはそんなアリスを横目に汗を流して悔しそうに顔を歪ませる。
すると、再び空を割ってゲートが現れて先ほどとは別の配下の悪魔が降ってきて地に跪き報告を上げる。
「続報です!エルマー様が悪魔を召喚しようとしています!それも上位の!」
アリスとレイナードはギョッとした表情で顔を見合わせると、直ぐに2人共召喚門に視線を移す。
「奴です!奴が召喚されようとしてます!」
配下の悪魔が慌てた様子で指差す先には先日アリスの軍団がボコボコにしてお灸を据えた悪魔男爵ツィリルが邪悪な笑みを浮かべて召喚に応じて門に入ろうとする所だった。
「アリス様!」
「ええ!わかってるわ!」
長年の付き合いで言葉を交わさずとも通じ合ってるのか息の合った動きで2人が瞬時に動き出す。
レイナードが糸魔法で悪魔男爵ツィリルを絡め取り、霊道に入り切る前に動きを止めると、
アリスは瞬きする程の速さで地を蹴り、翼を広げてツィリルの元まで一瞬で距離を詰める。
「ウォッ⁈血染め⁈」
アリスに気づいたツィリルが驚愕の表情で振り返ると自分の体が動かない事に気づく。
「レイナァアアドォオオ⁈」
ツィリルが遠くから自らを縛り付けるレイナードに気づくと困惑と怒りが同居したような表情でレイナードに目を奪われる。
レイナードは驚愕に目を見開くツィリルを嘲るように笑い注意を引くと旅立つ主人に餞の言葉を送る。
「さぁ!お行きなさい!可愛いあの子の元へ!」
その隙にアリスがツィリルに飛び掛かり背中にしがみ付いて霊道に押し込むと、レイナードの糸が切れる。
「どうやら運は我らに味方したようですね、アリス様。いや、この場合はエルマー様か?」
窮地の王子を救いに召喚門の彼方へ消えた主を見送りレイナードは安堵した表情で呑気なことを呟く。
ーーアリス様が向かわれたのならもう大丈夫ですね。
レイナードは踵を返して、長い艶のある黒髪を揺らしながら主人と同じ真紅の目を細めて居城へ向かう。
「貴方が愛しの王子を救いに行ってる間は私も私の仕事をすることにします。」
雷鳴が降り注ぐ荒野の中、目的を果たしたレイナードは一人悠然と仲間達が待つ城へ歩き出す。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
「よ、止せっ!血染め!俺を見逃したくれたのでは無かったのか⁈」
エルマーの召喚に応じて霊道を通る悪魔男爵ツィリルが格上の大悪魔アリスに強引に召喚に割って入ってこられて必死に抵抗する。
「それとこれは関係無いわ。貴方の罪は私の愛しい坊やに召喚されたということだけよ。」
アリスの理不尽な物言いに身を捩って抵抗しながら背中にしがみ付く血染めの花嫁を振り返ると、彼女は凍りつくような冷酷な表情でツィリルを凝視している。
ーー殺される!
訳が分からない状況ながら、ツィリルは本能的に殺されることを察知して人間形態から第二形態、悪魔の獣の姿に変身する。
「血染めぇえええ!なんでも自分の思い通りになると思うなよ!悪魔界の新参者がぁっ!」
ツィリルは背中から4つの黒い羽を生やし、頭はおぞましい八つ目の蜘蛛、黒い体毛に覆われる上半身の下は八つ足の蜘蛛というおぞましい姿に変えてアリスを振り落とそうとする。
「それが本音かしら?まだ懲りて無かったのね。」
涼しい顔でツィリルを抑えつけながらアリスは地を這う虫ケラを見るような目で見下す。
アリスは左手でツィリルの首根っこを掴んだまま右手の掌に<神域>の能力を発動させる。
異世界から転生して来た者に神から贈られるという絶対的なスキルだ。
アリスの<神域>は自身・他人を問わず血を自在に操るという幅広い応用が効く使い勝手の良い能力だ。
「滅魔の血槍」
アリスの右手の掌から血でできた硬質で赤い槍が創造されてツィリルの首を後ろから貫く。
そこから血が吹き出して返り血がアリスの美しい顔と純白のドレスを赤く染め上げる。
「ごばばぉっ」
ツィリルが醜悪な蜘蛛の口から血を吐いて苦しむと異形の身体が痙攣して暴れ出す。
「すぐに死ねないのも不憫よね。楽にしてあげるわ。」
アリスが美しい顔に酷薄な笑みを浮かべて左手でツィリルの後頭部を掴むと、恐ろしい程の怪力で胴体から頭部を引きちぎる。
ツィリルの首から下は霊道の次元の彼方に飛んでいきアリスの視界から消えていく。
黒い巨大な翼を広げてアリスは自由になった身体で霊道の流れに身を任せると、重い衝撃がアリスの体を突き抜けて頭の中が前後左右に激しく揺らされる。
ーー何度召喚されてもこれには慣れないわね!
目眩に襲われながら、初めて人間界に召喚されて時召喚主の顔に出会い頭に吐瀉物を吐き出したことを思い出す。
霊道の前後左右も無いと錯覚するようなあやふやな空間が揺れ始めてアリスの目の前が白く染まる。
一瞬、意識が飛んで世界が無くなる。
それから体の感覚が徐々に戻ってきて、重い目蓋を開けると目の前には召喚された時に出る朝露のような霧の中に立っていることに気づく。
足元にはほのかに赤く光る古い魔法陣が描かれており、空気は埃っぽくて咳き込みそうだ。
ーーお婆ちゃん家の押し入れの中の臭いだこれ。
遥か昔、前世の人間だったころに嗅いだ祖母の家の押し入れの臭いを思い出して鼻をつまむ。
呑気にそんな事を考えてると辺りを包む霧が晴れてきて、目の前に小さな人影が立っていることにすぐに気づく。
ーーあぁ!どうしよう⁈どんな顔すれば良いの⁈
アリスの心臓は跳ね上がり、鼓動がバクバクと早まり美しい顔を紅潮させて緊張にピンク色の唇が揺れる。
ーー慌てて来たから気持ちの準備できてないよ!あぁ、何でこんなときにレイナードの奴はいないのよ!
この場にいないアリスの有能な右腕に理不尽な怒りをぶつける。
アリスの気持ちに整理がつかないまま霧は晴れていき、自身が古びた蔵の中にいる事に気づく。
木造りの天井には蜘蛛の巣が張り、魔法陣の周りには本や刀剣、古道具などが山積みにされている。
高い位置に開けられた窓からは強い陽射しが入ってきており、今が朝だということをアリスに知らせる。
「おい!悪魔!」
聴き慣れた愛しい声がアリスに向けて発せられてるのに意識をハッと周りの景色から目の前に向けると金髪の天使がアリスを真っ直ぐに見つめていた。
「僕と契約しろ!対価なら何でも払う!お前の力を僕に貸せ!」
アリスのよく知る愛しき天使は傷だらけになり、服は所々破けて白くてスベスベな肌を血で汚している。
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