自力で始める異世界建国記

モリタシ

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第一章 建国前夜編

9話 ゴブリンの事情

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「実は…」

バースは少し重い空気で話し始めた。

なんでも、ゴブの母親、つまりこの部族の王妃が重い病を患ったらしく、その薬の材料を探しにゴブは森に入ったらしい。

なんで一人でいかせたのか疑問に思い聞いてみると、ゴブの部族は少し離れたところの別の部族と戦争状態にあるらしく、戦力が拮抗している状態の中、最高指揮官にあたる王子と護衛を村から離れさせてしまうと、急襲される恐れがあったんだとか…。

「だったら他の奴に行かせるとかも選択肢としてはあったんじゃ…」

「その薬に使うガブの葉という材料が、ゴブ様以外見たこともなければどんなものかもわからなかったんです…」

…ゴブだけはそれを知っていて、ゴブ以外には取ってくることが出来なかったってことか。

「ゴブ様は部族一賢く、森に入るあらゆる種族と積極的に交流していることもあって普通のゴブリンの何倍も知識を持ってるんです。」

聞くとゴブは積極的な学習以前にそもそも優秀らしく、この集落自体もその恩恵を受けているという。
本来集落の半数が上位種ということはあり得ず、ゴブが発案した鍛錬法で上位種が増えたらしい。

でも鑑定で見たときは賢さが3だったんだが…。
アイテムボックスのくだりもあったし、知識がすごいっていうのは理解できるんだが、賢さ3ってあまりにも低いよな…。

「ゴブリンの賢さの平均はどれくらいだ?」

「15から20くらいですね。それ以外の能力値も大体それくらいです。」

おかしい。
ゴブのレベルはもう上位種間近なのにも関わらず、平均を大きく下回っている…。
最初に鑑定した時の弱すぎるっていう違和感はやっぱり合ってたのか…。

「不思議ですよね、ゴブ様の能力値は明らかに低すぎるんです。実際の功績と能力のギャップがありすぎる…」

黙り込む俺の考えを読むようにバースは話出す。

「ただ、ゴブリンの歴史の中で、同じ事例が一つだけ存在するんです。それは数百年前に存在した、ゴブリンキング、その存在は数億人に一人といわれるほど稀な存在なんですが…」

「ゴブリンキング?」

随分仰々しい名前が出てきたな。

「はい、かつてのゴブリンキングも通常種の時は他のゴブリンよりも遥かに能力が低かったと伝わっています。ですが、上位種への変化とともに能力が覚醒したそうです。」

おいおい、まじかよ。
じゃあ俺はもしかしたら将来のゴブリンキング様に、ゴブなんてふざけた名前つけてしまった可能性があるのか。

「ん?でもなんで王子であるゴブが最高指揮官なんだ?ゴブの父親は?」

「偉大な我らの部族長は1ヶ月ほど前に王妃と同じ病に倒れました…。」

そういうことか、それでゴブが最高指揮官になるわけか。
でも父親も病で亡くして、母親も同じ病に伏せているとなると、ゴブは気が気じゃないだろうな…。

「ゴブ、本当は王妃が心配なんだろ?俺のことはいいから、取ってきた材料で早く薬を作って飲ませてやったらどうだ?」

察するに、ゴブの帰還を祝う会ってのもあるんだろうが、ゴブがここに残ってくれてるのは俺に気を使ってだよな?

だが、俺の言葉にゴブは悲しそうに俯いた。
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