妖怪のお客さん

埴谷台 透

文字の大きさ
15 / 15

15話 かぼちゃがそんなに好きですか?

しおりを挟む
 私の前にオレンジ色の立派な西洋カボチャが置かれている。
 というか私が置いた。
 対面にはそのカボチャをペシペシ叩く猫又がいる。
 「どこでこんなかぼちゃを手に入れたのだ」
 「玄関の前に置いてあった。邪魔になるとまずいので持ってきた」
 「だよな。お前がすぐに食えないカボチャを買ってくるとか、料理を進んでやる気になったとは思えない」
 猫又がひどいことをいう。真実だけど。
 「あれか、ハロウィンとかいうやつ。確か今日だろ」
 「そういう日本人の勘違いイベントに乗るつもりはないんだけど、心当たりといえば……」
 「あの陰陽師か」
 「あいつは私にジャック・オー・ランタンを作れと言うつもりか」
 「奴は仮にも陰陽師だからそれはないと思うが。多分」
 自信なさげに猫又が答える。
 あいつ、賀茂泰成かもやすなりは私の敵だ。やることなすこととんでもない。役に立ったと思ったら結局最後にしっぺ返しをくらうのだ。特に金銭的に。
 「捨てた方がいいような気がするが」
 「私もそう思うけど、食べ物を粗末にするのはちょっとね」
 そこへインターホンのチャイムがなった。
 『依代よりしろさーん、依代さーん、依代魅矢子よりしろみやこさーん、開けてくださーい、魅矢子さーん! み、や、こ、ちゃーん!』
 あいつは小学生か。
 慌て玄関に行き扉を開けると、加茂泰成が笑顔で立っていた。
 「黙れ! 何がみやこちゃんだ、帰れ!」
 「まあまあ。先に送ったカボチャは受け取ってくれたみたいですね」
 「なぜカボチャだけ置いていった」
 「私が手渡ししようとすると受け取らないでしょう?」
 「当たり前だ」
 「依代さんは食べ物を粗末にするような人ではないし、そういう事で先に届けました」
 しばしの沈黙。
 ここで締め出したらまた騒ぎ出すかと思うと通すしかない。無念。
 
 今度は私と加茂の間にカボチャ、猫又は部屋の隅から見ている。
 「で、このカボチャで何をする気だ。私がハロウィンで浮かれるような人間に見えるか。そもそもキリスト教の……」
 「やだなあ。ハロウィンはキリスト教のイベントではなくて、古代アイルランドのケルト人の祭りが起源の……」
 「そんなことはどうでもいい! なにをする気かと聞いている!」
 加茂はいつもの怪しげな笑顔を浮かべている。
 「このカボチャはある妖怪が欲しがると思って、ここの霊気を使ったら現れるかなーと」
 「貴様」
 「それがですね、あの水木しげる先生の『日本妖怪大全』にものっていない妖怪なのですよ。いい感じのカボチャを見つけたので試してみようかなと。ハロウィンは関係ないです」
 いかん。少し興味がわいてしまった。妖怪の話を書いている私としては。
 「それは危険な奴ではない?」
 「調べた範囲では無害な様です」
 「なぜ断言しない」
 「その妖怪は広島県世羅町にしか伝わっていないというもので、詳細な資料がないんですよ」
 「ならお前がカボチャを持って広島へ行けばいいだろうが」
 「こんないい霊場スポットがあるのを利用しない手はないかと」
 「霊場スポットとかいうな」
 加茂は私の抗議を無視して、懐から御札を取り出した。
 「妖怪の通り道を使って釣って見ようと思いまして」
 「ちょっと待て!」
 加茂の手から御札が飛んでカボチャの上の空間に吸い込まれる様に消える。
 すると黒いうずが現れて、そこから茶色っぽいものが落ちてきた。
 それはカボチャにぶつかるとそのまま跳ねて床に落ちる。まるで人参に手足がはえたような姿をしていた。
 そいつはカボチャに気づいたのか、私と加茂とカボチャを交互にみる。
 「どうぞ」とにこやかに加茂は人参モドキにうなずいて見せた。
 それはカボチャに駆け寄ると一生懸命に転がし始めた。とても楽しそうである。
 「これ?」
 「そうです。名前は『かぼちゃころがし』というそうです」
 そのまんまではないか。
 しばらく私達は『かぼちゃころがし』の方に目を向ける。
 「もしかしてカボチャを転がすだけ?」
 「そうみたいですね。だからなんだという話は伝えられていませんし」
 「そんな地域限定の妖怪がここにきたのは何でなの」
 そこで猫又が離れた場所から解説してくれた。
 「最近ろくなカボチャがなくて困っていたところに、良さげなカボチャの気配を感じてフラフラっと来たそうだ」
 また『かぼちゃころがし』の方を見ると、そいつは転がすのをやめて私と加茂の顔を交互に見た。
 「猫又、なんか言いたげだけど?」
 「そのカボチャが気に入ったので貰えませんか、だと」
 私は反射的に「どうぞどうぞ」と答えた。
 すると『かぼちゃころがし』はお辞儀をして、カボチャごと消え去った。
 「あの……これだけ?」
 「そうみたいですね。いやーまさか本当に現れるとは」
 「何も起こらなくて済んだのはいいけど、ここで何かを試すな」
 「あはははは」
 「笑って誤魔化すな。そうだ、何か見返りを持ってきたろうな?」
 「ええと、あのカボチャのつもりだったのですが。依代さんの手料理でハロウィンパーティをしたら楽しいかと」
 「お前……帰れ」
 私は加茂の襟首を掴んで無理矢理立たせると玄関まで押していく。
 「そんな邪険にしなくても」
 「いい見返りがあった。玄関前の魔法陣を消してもらおうか」
 「え……それではお邪魔しました~」
 加茂はそう言って九字を切ると魔法陣が浮き上がる。そして魔法陣の中央に立つと「急急如律令! 疾!」と唱えて姿を消した。
 「だから消せと……」
 
 猫又がトテトテと玄関前までやってきた。
 「やはりあの魔法陣は物理的に破壊すべきではないか」
 「そうしたいのはやまやまなんだけど」
 私はハロウィンだというのにがっくりとうなだれた。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

アリエッタ幼女、スラムからの華麗なる転身

にゃんすき
ファンタジー
冒頭からいきなり主人公のアリエッタが大きな男に攫われて、前世の記憶を思い出し、逃げる所から物語が始まります。  姉妹で力を合わせて幸せを掴み取るストーリーになる、予定です。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発

ハーフのクロエ
ファンタジー
 アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...