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第36話 広がるお花畑

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「ならばこれは、我が民のために、内密にしたほうがいいのだな?」

「ええ。うっかり広まって、他国が盗みに来たら、この国の者に被害が出ますから」

「そうだな」

 一件落着……とは言わないだろうけど、まずは話がまとまったらしい。

 でもこの領主様、たぶん一事が万事、こんな調子のはずだ。
 だとすれば前途多難、次々こういうことが起こってるに違いない。

 姫さまの心配が、分かる気がした。これじゃとても、ゆっくり眠るなんてできないだろう。
 これは何とかしなくちゃだ。

「ところでイサとやら」

 領主様が口を開いた。

「そなたが先ほど言っていた不思議な乗り物、作ってみてはくれないか?」
「ごめんなさい、それは難しすぎて無理です」

 あっさりおばさんが謝る。

「あれを作るとなると、こっちで言う熟練の鍛冶屋以上の者が、何人も必要なんです。でもあたし、そういう技術屋じゃないから、保冷箱がせいぜいで」

「そうか、それは残念だ」

 さすがの領主様にも、おばさんがそういう技術屋じゃないのは分かるんだろう。
 暴れだしたりしないで、無理って話を受け入れてくれた。

「だったら……いや、今日はもうダメだな、時間だ」

 領主様が残念そうに、水時計に目をやりながら言う。

「また話を聞かせてほしいものだ。この城には当分おるのか?」
「いつまで、とは決めてません」
「ならば好きなだけいるといい。そう城の者にも言いつけておこう」
「ありがとうございます」

 その日はそこまでで、僕らは領主様の部屋を後にした。



「……どーすんですかあれ」
「困ったわねー」

 領主様と会った翌日、僕らはそんな会話をしてた。

 姫さまなんかからある程度は聞いていたけど、あれほどとは僕だって思ってなかったし、おばさんにも予想外だったみたいだ。

「うちのトップも一時期アレだったけど、まさかあれほどのお花畑がいるなんて、思わなかった。世の中って広いわねぇ」

 イサさんが妙なことを言う。そのトップとやらが誰だか知らないけど、広いも何もここは異世界だ。比べるようなもんじゃない。

「まー領主があんな、頭がお花畑な人じゃ、先が思いやられるわよね」
「それじゃ困るんですってば」

 イサさんは異世界の人だから他人事だけど、僕には死活問題だ。
 何より領主様があんなだったら、姫さまの苦労が絶えない。それだけは何とかしないと、姫さまが可哀想すぎる。

「にしても、わっかんないのよねー」
「何がですか?」

 言ってることが分からなくて、僕は訊いてみた。
 んーとか言いながら、おばさんが答える。
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