復讐から始まる異世界魔法戦記 ~ただの復讐ざまあ系として書き終えるつもりが作中のキャラたちが勝手に別の物語を始めてしまいました

アサギリナオト

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第6話

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「キース。君はどうしたい?」


 ティゼルと副隊長が話し込んでいた頃、囚われの身となった生徒たちは〝これから〟について再び話し合っていた。


「僕は……、わからない……」


 キースは膝を抱え、ずいぶんと暗い表情を浮かべていた。


「おい、キース! 少しはシャキッとしろ! やっちまったモンは今さらどうしようもねえだろ!」


 そう言ってクラウスがキースの尻を叩いた。


「わからない……。僕にはもう……、何がなんだか……」


 キースの様子がいつも彼と明らかに違っていた。

 クラウスや他の生徒たちが彼を心配する。


「僕も最初からシンクが嫌いだったわけじゃないんだ……。僕はむしろ彼のことをすごく応援していた……」


「……どういうこと?」


 レミがそうたずねる。


「王立魔法学院の生徒はほとんどが貴族の推薦入学だ。平民が学院に入るには倍率の高い一般入試をクリアしなきゃならない」


「「「……」」」


「今年の一般入試の合格者はたったの四人。合格者とその家族は泣いて喜んだそうだ」


 その合格者のうち二人がティゼルとフラットである。


「だけど不合格者とその家族は哀れなものだ。身の程をわきまえず、貴族社会に飛び込もうとした愚か者と周囲から後ろ指を指される」


 他の生徒たちはキースの話に聞き入っていた。

 彼が魔法や貴族関連以外の話を口にするのは非常に珍しい。


「そして、その中の一人に――――僕の友人がいた」


「「「っ――⁉」」」


 キースの言葉に生徒たちが驚愕の表情を浮かべる。


「今のって……、一般入試を受けた人たちの話……だよね?」


「ええ。――――確かにそう言ったわ」


 ゲイルとエニスが事実確認を行う。


「意外だな、キース。まさかお前に平民のダチがいたとは」


 クラウスが言った。


「僕も入学前までは普通に平民の友だちと遊んでたんだ。その中で特に仲が良かった子の名前がメリー・ルーク。かつて僕を救ってくれた恩人で、僕の一番大切な女の子だった」


「「「……」」」


「僕たちには夢があった。一緒に王立魔法学院に入学して学院を卒業しよう。そしていつか世界の歴史に名を遺すほどの立派な魔法使いになるんだって。だから僕は彼女が入試に合格できるよう精一杯努力した。もちろん僕の家の力に頼らず、本人の実力を伸ばす意味でね」


「だが、届かなかった……」


 フラットが言った。


「うん。彼女は入学前から魔法が使えていたけど、魔力の保有量が合格ラインとされている規定の数値にギリギリ届かなかったんだ」


「魔力の限界値は生まれたときから決まっている。努力じゃどうにもならない世界だ」


 キースが何を言いたいのか、フラットを含む他の生徒たちも気づき始めていた。


「不合格通知を受け取った日から、彼女は自室に閉じこもったままだ。どんなに話しかけても返事すら返してくれない。そして僕は王立魔法学院に入学し、彼女とは疎遠になった」


「「「……」」」


「そんなときに出会ったのが一般入学者の一人であるシンクだ。彼の魔力量は確かにすごかった。他の一般入学者についても同様だ。彼らがメリーの代わりに選ばれたのなら、僕も仕方がないと思ったさ。――――だけどっ!」


「シンクは魔法使いとしての素質がゼロだった」


 キースの代わりにフラットが言った。


「彼は学科の成績は良かったけど、実技の方はひどいものだ。しかも彼は魔法の力を開花させる努力を早々に諦め、勉学のみに集中するようになった。それなら何も王立魔法学院じゃなくてもよかったじゃないか」


「「「……」」」


「一般入試で一人の合格者が出るということは、確実に他の受験生が一人落ちるということだ。僕は彼の姿を見るたびに思ったよ。――――なんで君なんだ? なんで君が学院ここにいて、メリーが苦しまなきゃならないんだって。いくら魔力があっても肝心かんじんの魔法が使えなきゃ、なんの意味もないじゃないか」


 キースのやりきれない思いが他の生徒たちにも伝わり、心が大きく揺さぶられる。


「そうか。だから君は少しでも早くシンクを学院から追い出そうとしていたのか」


 フラットが言った。


「それ、どういう意味?」


 レミがたずねる。


「知っての通り、オルディアは絶対魔法主義の国だ。魔法が使える者は平民でも特別扱いされる」


「……」


「もし王立魔法学院から早期退学者が出た場合、不合格者の受験生は退学者数と同じ数だけ途中入学の席が用意される。そしてそれは入試試験の成績順じゃなく――――貴族に推薦された者が最優先で選ばれるんだ」


「「「っ――⁉」」」


 フラットのその言葉に生徒たちは再び驚愕の表情を浮かべた。


「じゃあ……、キースがシンクを追い出そうとしていた本当の理由って……」


「ああ。シンクが平民育ちの無能者だからじゃない。――――自身の推薦でメリー・ルークを途中入学させるためだ」


 フラットのその言葉に、生徒たちが一斉にキースに視線を向ける。


「言い訳なんてするつもりはない。僕が周囲の空気に毒され、彼を見下していたのは事実だ。生まれ持った素質に一番悩んでいるのは当の本人だってわかっていたはずなのに……」


「「「……」」」


「でも……、それでも僕はやっぱりアイツが嫌いだよ……。アイツは自分が無能者と自覚した上で、スパイ活動のために数少ない一般入学の席を他の受験生から奪ったんだから……」


 キースにとっては、メリーと一緒に叶えたかった夢をティゼルに奪われたも同然だった。


「……確かに思うところはあるよな」


「まさかシンクへの嫌がらせにそんな背景があったなんて」


 オゼットとステイルが言った。


「同情なんて必要ない。僕が戦争が始まるきっかけを生み、数多くの魔法使いが死んだ。それは紛れもない事実なんだから」


 そう言ってキースは再び自分の膝の中に顔をうずめた。

 檻の中がしんと静まり返る。

 生徒一人ひとりが、それぞれの考えを頭に浮かべていた。


「レミ」


「……なに、フラット?」


「君はこれからどうするべきだと思う?」


「……たぶん、フラットと同じ」


「……」


「私だけじゃないよ。他のみんなもきっと同じことを考えてる」


 キースとリリアを除いた7人の生徒がやる気に満ちた表情を浮かべていた。


「みんなわかってるのか? 成功確率は限りなくゼロに近い」


 そう言ってフラットが前に出る。


「それでもやるっきゃないでしょ」


「……だな」


 オゼットとステイルが立ち上がり、フラットと向かい合う。


「俺にもエニスと一緒に叶えたい夢があるからね」


「そのためならなんだって協力するわ」


 ゲイルとエニスが三者の間に立つ。


「なら人手は一人でも多い方がいい。――――俺も手伝うぜ」


 5人の輪の中にクラウスが加わった。


「力不足かもしれないけど、私も自分にできることを精一杯やる」


 そして最後にレミが輪の隙間を埋めた。


「リリア。キース。君たちはどうする?」


 フラットが言った。


「……僕は」


 キースはまだ気分をヘコませている。


「一人じゃ無理でも、今はみんながついてるよ」


 レミがキースに声をかけた。


「……」


 キースの頭の中で色々な考えがぐるぐる回る。


「こんな僕に……、〝これから〟が許されていいのか……?」


「「「……」」」


「君たちを戦争に巻き込み、大勢の仲間を死なせてしまったこの僕に……」


 キースは膝を抱えながら体を震わせていた。


「おいおい、それはさすがに学院長に失礼じゃねえか?」


 クラウスが言った。


「学院長はお前を復活させるために禁断の蘇生魔法まで使ったんだぞ」


 レミとフラット、そしてキースが驚いた表情を浮かべる。


「クラウス。それ、本当?」


 レミがクラウスにたずねた。


「そういやお前ら気絶してたんだっけか? 学院長は最後にこう言ってた。シンクの心に一番影響を与えたキースだからこそ、アイツの心を変えられるかもしれないってな」


「学院長が……、僕を……」


 キースの目から大粒の涙が溢れ出す。

 彼はひとしきり泣いたあと、制服の袖で目元を拭った。


「ミス・マドールに託されたこの命、決して無駄にはしない!」


 その瞬間にキースの顔つきが変わった。

 彼は立ち上がってリリアの前まで移動し、彼女に手を差し伸べた。


「リリア・コンストール嬢。どうかこの僕に貴殿をお守りする許可をいただきたい。貴殿がご自身の足で前を歩けるようになるまで、この僕が――――いや、我々が貴殿をお守りいたします」


「キース……」


 リリアは貴族令嬢だが、レミやエニスと違ってとても打たれ弱い生徒だ。

 そんな彼女がキースの励ましを受け、勇気を振り絞る。


「ありがとう、キース。でも大丈夫。ちゃんと自分の足で歩けるから」


 そう言って彼女はようやく腰を上げた。

 二人が追加されて生徒たちの輪が大きく広がる。


「みんな、覚悟はできているな?」


 フラットが言った。


「私たちにはそれぞれ夢がある。それを叶えるために私たちが最初に取るべき行動は――――」


 生徒たちが一斉に息を吸い込んだ。


「俺たちの手で、戦争を止める!」
「僕たちの手で、戦争を止める!」
「私たちの手で、戦争を止める!」


 例の惨劇を生き残った九人の生徒たちは声を揃えてそう言った。
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