復讐から始まる異世界魔法戦記 ~ただの復讐ざまあ系として書き終えるつもりが作中のキャラたちが勝手に別の物語を始めてしまいました

アサギリナオト

文字の大きさ
19 / 64

第10話

しおりを挟む
「みんな、あと少しだ!」


 フラットが言った。

 生徒たちは見渡す限りの平原を一日中歩き続け、監獄塔から二番目に近い街に到着した。


「さすがにくたびれたぜ……」


「一日歩くだけでこんなにしんどいなんて……」


 オゼットとステイルが先頭を歩いていたフラットとクラウスに追いついた。


「ゲイル」


「うん。わかってる」


 続いてゲイルとエニスがフラットたちに合流した。


「リリアさん。着いたよ」


「……」


 生徒たちは全員靴擦れを起こしており、それぞれが足に痛みを抱えていた。

 レミにはまだ少し余力があるが、リリアにはしゃべる元気も残されていなかった。


「もう疲れた。足が痛くて動けない。早く家に帰りたい」


 そんな思いがリリアの表情から滲み出ていた。

 貴族である彼らは馬車での移動が当たり前。

 魔法使いは飛行魔法に頼るのが日常。

 丸一日歩き続けただけでも十分な頑張りを見せたと言えるだろう。


「みんな、まずは一言〝お疲れさま〟と言わせてほしい。今までの生活から考えれば、地獄に等しい一日だったと思う」


「「「……」」」


「特にリリア。君はもともと体力に恵まれているわけではない。それなのによくここまでついてきてくれた。疲労が重なると気分が落ちやすくなる。今日一日はこの街でゆっくり休もう」


 フラットの言葉がリリアの胸に響き、彼女はその場で涙を流し始めた。


「リリアさん……?」


「ごめん……。なん……か……、すごく感動しちゃって……」


 レミがリリアの体を抱き寄せ、彼女の泣き顔を周りに見せないようにした。


「私、また……、自分が被害者だって思い始めてた……。貴族の私が……、なんでこんな辛い思いをしなきゃならないんだって……」


 生徒たちにはリリアの気持ちが痛いほどわかった。

 貴族の自分が……、魔法使いの自分が……。

 自問自答しながら歩き続けたのは彼女だけではない。


「みんながいてくれて良かった……。私一人じゃ絶対に無理だった……」


 彼女の言葉は他の生徒たちの胸にも静かに響いていた。


「ら、らしくねえこと言うなよ……。俺まで泣きそうになってくるじゃねえか」


 クラウスが言った。


「気持ちはわかるよ。今までの俺たちじゃ考えられない一日だった」


「昨日の今日でここまで変われるなんて、自分でも笑えてきちゃう」


 そう言ってゲイルとエニスが笑みを浮かべた。


「宿まであと少しの辛抱だ。レンガさんに譲ってもらったお金のおかげで野宿は避けられる。――――みんな、ここからは魔法で顔を隠すんだ」


 生徒たちは監獄塔からの脱獄囚扱いを受けている。

 フラットの発言は手配書が出回っている可能性を見越した判断だった。


「ゲッ、そうだ……。俺たち脱獄犯だった……」


「これからは人前に出るたびにビクビクしなきゃなんねえのか……」


 オゼットとステイルが言った。


「俺たち何も悪いことしてないのに……」


「無能者に対する暴言の数々。器物損壊。看守に向けた攻撃魔法の使用。おまけに強盗……」


「って、俺たち結構ヤバいことやってんじゃん!」


「あら、今さら気づいたの?」


 ゲイルとエニスが夫婦漫才みたいなやり取りを繰り広げていた。


「私たちはともかく、今のリリアに変身魔法は無理だよ」


 レミが言った。


「クラウス。レンガさんから譲り受けたマジック・アイテムの中に使えそうなものはあるか?」


「いや、囚人を取り押さえるための捕縛リングと仲間との通信用リング。あとは制限付きの回復アイテムしかねえ」


「……戦闘には役立ちそうだが、逃走用としては心もとないな」


 フラットとクラウスが言葉を交わした。


「回復アイテムでリリアの体力を全快させることはできるが……」


「先のことを考えれば、さすがにもったいねえ気がする」


 そう言ってクラウスはリリアの方を見た。


「リリアの容姿は目立つからな……。どうにかして顔を隠さねえと……」


 するとリリアが言った。


「ねえ、目立つってどういう意味?」


「ああ?」


「一応、言い訳を聞いといてあげる。私の顔がなんだって言うのよ?」


 リリアの目が少し細くなる。


「なんだ? 可愛いとでも言ってほしいのか?」


「っ――⁉」


「実際、目立つんだからしょうがねえだろ。周りの目を引かれちゃ色々と面倒だ」


 クラウスが言った。


「なあ、クラウス。一つ聞いてもいいか?」


 悪ノリのコンビの片割れであるオゼットがたずねた。


「レミの顔をどう思う?」


「なっ――⁉」


 オゼットの言葉にレミが困惑する。


「かなり可愛い」


「っ――⁉」


 クラウスは普通に答えてしまった。


「それじゃあ、エニスは?」


 続いてステイルがクラウスにたずねる。


「普通に可愛い」


「なっ――⁉」


 あまり容姿を褒められたことのないエニスが顔を真っ赤にする。


「「それで――――リリアは?」」


 調子に乗った悪ノリコンビが畳みかけた。


「この中で一番可愛い」


「っ――⁉」


「つーか、なんなんだよさっきから……? お前らワケわかんねえぞ」


 クラウスがオゼットたちに言った。

 するとリリアがクラウスのお尻を後ろから蹴っ飛ばした。


っ……。いきなり何しやがんだ⁉」


 前のめりに転んだクラウスが振り向きざまにリリアに怒鳴りつける。

 顔を真っ赤にしたリリアがクラウスの体に連続して蹴りを入れた。


「ちょ、こら、やめろ――!」


 二人のやり取りを悪ノリコンビは面白そうに眺めていた。

 オゼットがゲイルの肩に腕を絡ませる。


「ゲイル。お前も気をつけろよ」


「は?」


「女性は素直な褒め言葉にとても弱い」


 そう言ってステイルも反対側からゲイルの肩に手を置いた。


「オゼット! ステイル!」


 エニスが怒った。

 悪ノリコンビはすぐさま彼女から距離を取る。


「みんな、まだまだ元気そうだね……」


「これなら変装についても問題なさそうだな……」


 レミとフラットが苦笑いを浮かべながら言った。

 その後、生徒たちは街に入り、手頃な価格の宿屋を探して二人一組で別々の部屋に泊まった。

 レミとフラット。

 オゼットとステイル。

 ゲイルとエニス。

 クラウスとリリアのペアである。

 そして次の日――――

 フラットは明朝に宿を抜け出し、一人で情報収集を行った。


「(どういうことだ……?)」


 街の住人たちから話を聞き終えた彼が宿に戻る。


「フラット。部屋にいないから心配したよ」


 宿の受付にいたレミがフラットのもとまでやって来た。


「すまない。ドレッドノートの動向について情報を集めていたんだ」


 フラットの表情が冴えない。

 レミは何か問題が起きたことを察した。


「……何かあったの?」


「おそらくだが――――ドレッドノートはこの街に来ていない」


「え?」


「監獄塔から最短ルートで王都を目指した場合、馬を休ませるために必ずこの街を経由する必要がある。――――私たちはまたも殿下の罠にはめられた」


「それって、どういう……」


「ドレッドノートはその恐ろしい見た目のせいで人々の印象に残りやすい。しかし、ここ数日、住人の中に彼らの姿を見た者は誰一人いない」


「それって、つまり――――」


「ああ。殿下率いるドレッドノートの部隊は――――王都には向かわなかったということだ」


「そんな……」


 レミが愕然とした表情を浮かべる。


「みんな、ここまで来るのにすごく頑張ったのに……」


「これが殿下の目的なのかもしれない。私たちの心がここで折れるか否か、それを試すために……」


「……」


 生徒たちの覚悟はティゼルにも十分に伝わった。

 次に試されているのは絶望から這い上がる力である。

 一度や二度の挫折で諦めるようでは戦争は止められない。


「それじゃあシンクは、キースを連れて一体どこに……」


「そのことについてだが、私には一つ心当たりがある」


 フラットがティゼルたちの向かった場所についてレミに説明した。



 ――――――――――――――――――――



 一方その頃、ティゼルたちはというと――――


「……殿下。一つおたずねしたいことがあります」


 キースが言った。


「この馬車は一体どこに向かっているのです? 王都ではありませんよね?」


「ふっ、そろそろ気づく頃だと思っていた。――――そう。貴君の移送先は王都などではない」


 ティゼルが彼の質問に答える。


「これが殿下のおっしゃっていた保険ですか? 偽の情報を僕たちに与え、塔に残った生徒たちを別の場所に誘導するために……」


「ああ。時間稼ぎとしてはそれで十分だった。今頃あやつらも気づいているのではないか? 私が貴君を連れて向かった本当の行き先についても、な」


「一体なんのための時間稼ぎです? 私はこれからどこに連れていかれるのです?」


「質問が多いな。――――まあ、いい。いずれわかることだ。事前に話しておこう」


「……」


「我々が向かっているのはオルディア王国・ブラウン侯爵家が治める領地――――貴君が一番よく知っている場所だ」


「……まさか」


「そう。我々の真の目的地はブラウン領の中心――――貴君の生家だ」


 そう言ってティゼルは仮面の奥で不敵な笑みを浮かべた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。

タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。 しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。 ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。 激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。

ダンジョンをある日見つけた結果→世界最強になってしまった

仮実谷 望
ファンタジー
いつも遊び場にしていた山である日ダンジョンを見つけた。とりあえず入ってみるがそこは未知の場所で……モンスターや宝箱などお宝やワクワクが溢れている場所だった。 そんなところで過ごしているといつの間にかステータスが伸びて伸びていつの間にか世界最強になっていた!?

僕のギフトは規格外!?〜大好きなもふもふたちと異世界で品質開拓を始めます〜

犬社護
ファンタジー
5歳の誕生日、アキトは不思議な夢を見た。舞台は日本、自分は小学生6年生の子供、様々なシーンが走馬灯のように進んでいき、突然の交通事故で終幕となり、そこでの経験と知識の一部を引き継いだまま目を覚ます。それが前世の記憶で、自分が異世界へと転生していることに気付かないまま日常生活を送るある日、父親の職場見学のため、街中にある遺跡へと出かけ、そこで出会った貴族の幼女と話し合っている時に誘拐されてしまい、大ピンチ! 目隠しされ不安の中でどうしようかと思案していると、小さなもふもふ精霊-白虎が救いの手を差し伸べて、アキトの秘めたる力が解放される。 この小さき白虎との出会いにより、アキトの運命が思わぬ方向へと動き出す。 これは、アキトと訳ありモフモフたちの起こす品質開拓物語。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

『専属メイド全員が重すぎる愛で迫ってくる!~大学生の僕、11人?の美女に24時間甘やかされ尽くす生活~』

まさき
青春
僕は、ちょっと普通じゃない日常を送ることになった――それは、専属メイドが全員僕のことを溺愛してくれる暮らしだ。 朝は髪を整えてくれるリナ、朝食で笑顔を見せてくれるミユ、どの瞬間も全力で僕を甘やかす。掃除、料理、悩み相談まで、僕のためだけに動くメイドたち。 「ご主人様の笑顔が見たいんです」 その一言で、僕の毎日はちょっとドキドキ、ちょっと幸せ。 全員が僕を独占したいと競い合う日常の中、僕はどうやってこの溺愛地獄(?)を生き抜けばいいのか――!? 甘々、至れり尽くせりの日常ラブコメ、開幕。

巻き込まれ異世界召喚、なぜか俺だけ竜皇女の推しになった

ノラクラ
ファンタジー
俺、霧島悠斗は筋金入りの陰キャ高校生。 学校が終わったら即帰宅して、ゲームライフを満喫するのが至福の時間――のはずだった。 だがある日の帰り道、玄関前で学園トップスターたちの修羅場に遭遇してしまう。 暴君・赤城獅童、王子様系イケメン・天条院義孝、清楚系美少女・柊奏、その親友・羽里友莉。 よりによって学園の顔ぶれが勢ぞろいして大口論!? ……陰キャ代表の俺に混ざる理由なんて一ミリもない。見なかったことにしてゲームしに帰りたい! そう願った矢先――空気が変わり、街に巨大な魔法陣が出現。 赤城たちは光に呑まれ、異世界へと召喚されてしまった。 「お~、異世界召喚ね。ラノベあるあるだな」 そう、他人事のように見送った俺だったが……。 直後、俺の足元にも魔法陣が浮かび上がる。 「ちょ、待て待て待て! 俺は陰キャだぞ!? 勇者じゃないんだぞ!?」 ――かくして、ゲームライフを愛する陰キャ高校生の異世界行きが始まる。

処理中です...