復讐から始まる異世界魔法戦記 ~ただの復讐ざまあ系として書き終えるつもりが作中のキャラたちが勝手に別の物語を始めてしまいました

アサギリナオト

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第12話

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「お顔をお上げください、殿下! 一国の王子がそのように頭をお下げになっては!」


 フラットが珍しく取り乱していた。

 レミは彼の横をすり抜け、ルキウスの前に出る。


「ルキウス殿下。詳しくお聞かせいただけますか?」


「レミ……?」


「一国の王子が学生に頭を下げてお願いするなんて普通じゃないよ。きっと、とんでもない事態が起きてるんだと思う」


 レミはルキウスに顔を向けたまま、横のフラットに言う。


「殿下のご依頼を受けるかは別として、話はちゃんと聞いておくべきだよ」


「……」


「お願いします、殿下。シンクが一体何を考えているのか、ご説明ください」


 その声に、ルキウスはゆっくりと頭を上げた。


「実を言うと、これはあくまで私の推測だ。だが私の弟なら、やりかねない――――そういう類いの話だ」


 生徒たちが息を潜める。


「おそらくティゼルは、この戦争を止めるために死ぬつもりだ」


「「「っ――⁉」」」


「それも部隊の力に頼らない独断専行で。副隊長すら聞かされていない話だろう」


「ちょっと待てよ!」


 ――――と、クラウスが叫ぶ。


「そもそもこの戦争の言い出しっぺはアイツじゃねえか! 俺たちが悪かったのは重々承知だが、なんで自分で始めた戦争を自分で止めんだよ⁉」


「口を慎め、クラウス。この方を誰だと思っている」


 フラットがたしなめる。


「……確かにその通りだが、この戦争はティゼルが望んだものじゃない。それは君たちも理解しているはずだ」


「「「……」」」


「世界が魔法使いの破滅を望み、父上がその意思を汲んで準備を始めた。ティゼルはそれに反対し、止めるために〝王立魔法学院の生徒〟としてオルディアに潜り込んだ」


 ルキウスは淡々と続ける。


「だが現実を見て、考えを改めた。今のままでは戦争は止まらない。だから今回の計画を立てたんだ」


「詳しくお願いします」


 ――――と、レミが促す。


「まず最初の事件だ。オルディア潜入と学院の魔法使いの殲滅は、どんな形でも言い訳が立つほど綿密に組まれていた。教師や生徒の殺害には私怨も絡んだだろうが、そこはひとまず置いておこう」


「「「……」」」


「しかし、今回は話が別だ。正式な宣戦布告はまだオルディア王に届いていない。キース君を伴っているとはいえ、部隊を率いてブラウン領へ踏み込めば条約違反だ。リュオールは不利に立たされる。――――ティゼルはこの条約違反を一体どうやって釈明するつもりだい?」


 その問いに、誰も答えられない。

 レミがフラットを見上げる。


「今回の遠征はキースの覚醒で急遽決まったようなものだ。事前の根回しがあるとは思えない」


 フラットが言った。

 そして彼は、はっと息を呑む。


「そうか。そういうことだったんだ……」


「……?」


ゆえに殿下は先ほどあのようなことを……」


 フラットがルキウスを見る。

 ルキウスは小さくうなずいた。


「そう。最初から言い訳を用意する気はないんだ。目的を果たしたティゼルは、そのまま命を絶つつもりなんだから」


「「「っ――」」」


「弟の素顔を知る者は地元でも少ない。王族の権能でいくらでもごまかせる」


「では、その目的とは一体……。ティゼル殿下は何をお考えなのです?」


「おそらく、だが――――」


「「「……」」」


「ティゼルの目的は、オルディア王国の現国王――――ギルダート・ハイデン・オルディアの暗殺」


「「「……⁉」」」


「それだけじゃない。ティゼルはオルディア王家の者を全て排除する気でいる。それも、たった一人で」


 ざわめきが走る。


「ば、バカな……! ティゼル殿下は何故そのようなことを――⁉」


 フラットが問う。


「戦争が始まれば、罪なき多くの命が失われる。ティゼルはそれを防ぐため、人々をオルディアの思想から解放するつもりなんだ。王家が滅べば国は変わる。国が変われば人心も変わる。魔法使いたちが心を入れ替えれば、戦争をする理由もなくなる。――――おそらく、そう考えたのだろう」


「「「……」」」


「そして一番の理由は――――君だ、フラット君。」


「っ――⁉」


「オルディア王家が全て滅べば、民を導く新たな指導者が必要だ。無能者と魔法使いを同等に扱う、高貴な意志と血を継ぐ指導者が」


「まさか、それって……」


 レミが何かに気づいた様子だ。


「そう。ティゼルは君を選んだんだよ、フラット君。――――オルディアの民を導く、次代の王として」


「……」


「弟がキース君を連れてブラウン領へ向かったのは、ブラウン侯爵家が穏健派の中で最有力だったからだ。現当主は、君のかつての功績や正体も知っている。君を王座に就ける段取りも含め、その立場を支える後見人として彼を指名するつもりだったのだろう」


「ティゼル殿下は、そのための交渉に……」


 するとレミがフラットの方に振り向いた。


「フラット、それ本当? ブラウン家の当主が穏健派って話……」


「ああ。だから私は、学院ではキースに対して強く出れなかったんだ。カイネル殿下が亡くなられた後、母のことも含めて彼の父君にはとても世話になっていた」


 フラットはうつむく。


「私たちがこの地に足止めされたのは、おそらく時間稼ぎだけが目的ではない……」


「……?」


「ティゼル殿下が私たちを誘拐した真の目的は、私を〝被害者の立場〟に置くためだ。王家の暗殺に私が関わっていると万が一にも疑われないように……」


「そして、その事実を証明する者としてレミちゃんが選ばれた。そこに学院長が加われば、より真実味が増す」


 ルキウスが生徒たちを見渡した。


「つまりティゼルは二本立ての計画を用意していたんだ。一つはリュオール軍の総司令官としての計画。味方の被害を最小限にし、一人でも多くの魔法使いを倒してオルディア領を手に入れる。もう一つは、侵攻作戦を隠れ蓑にした個人としての計画だ。両国の民を一人でも多く救うため、自分一人の命を差し出す。王子としては失格だが、ティゼルの気持ちがわからなくもない」


「一つ、不明な点がございます」


 フラットが顔を上げる。


「私が殿下と初めて会ったのは王立魔法学院の入学後。親交が深まったのは、つい先日のことです。ティゼル殿下は何故この私をお選びになったのです? 知り合ったばかりの友人に未来を託すなど、理解に苦しみます」


「簡単な話だ。――――ティゼルは入学以前から君のことをよく知っていた」


「え?」


「正確には、君が十四歳の年だ。カイネル殿下が亡くなり、君が彼の影武者を命じられた頃。ティゼルはマジック・アイテム越しに、私と〝カイネル殿下〟――――つまり君との交渉を見ていたんだ。弟は君を深く尊敬していた。『自分もカイネル殿下のように立派な王子になりたい』と、ね」


「……」


「後になって、私とティゼルは〝カイネル殿下〟の正体を知り、心底驚いた。弟は文字どおり大はしゃぎだったよ」


「……」


「そして今回につながる。ティゼルは君と同じ学園に通うため、潜伏先を王立魔法学院に選んだ。仮初めの生活でも、君を知るには絶好の機会だった。クラスメイトとして友人にまでなれるとは、さすがに予想していなかっただろうけど」


 ルキウスは静かに結ぶ。


「間近で君を知った弟は確信した。『これで自分の命を惜しむ必要はない。彼になら未来を託せる』――と」


「シンク……」


 フラットは拳を強く握りしめた。

 彼は決してオルディアを裏切らない。

 それはティゼルにもわかっていた。

 彼を現状のしがらみから解き放つには、それ以外に方法がなかったのだ。


「私の話は以上だ」


 ルキウスが言い、短く息を吐く。


「繰り返すようだが、これはあくまで私の推測だ。たとえ真実でも、ティゼルは君たちにとって大勢の魔法使いを殺した仇。一歩間違えれば君たちも殺されていた」


「「「……」」」


「正直、君たちに頼むのは筋違いだ。それでも私はティゼルを止めたい。何も告げず、全てを一人で背負い込んだ愚かな弟を、孤独に死なせたくはない」


 彼はもう一度、深く頭を下げた。


「頼む。どうか力を貸してくれ。ティゼルを止めるには、君たちの力が必要だ」


「「「……」」」


 生徒たちが沈黙する。

 迷っているわけではない。

 ただ話の大きさに一瞬だけ言葉を失っただけだ。


「みんな、聞いたとおりだ。私たちの進む道は決まった」


 フラットが言った。


「戦争を止めるためにシンクも止める。――――何よ、これまでとほとんど同じじゃない」


「やることが一つ増えただけだ。それに今はルキウス殿下も一緒だ。これほど心強いことはない」


 エニスとゲイルが笑った。


「ただの冷たいヤツかと思ってたけど」


「シンクって、意外と人間らしいとこあるんだな」


 そう言ってオゼットとステイルが茶化した。


「やれやれ……。命を懸ける理由がまた一つ増えちまった……」


「見返りにイイ男の一人や二人、紹介してもらわなきゃ割に合わないわね」


 クラウスとリリアも肩をすくめた。


「君たちは、それで本当にいいのかい?」


「「「……?」」」


「こんなことを言うのも何だが、戦争を止めたいなら何もしないのが一番だ。そうすれば民の命は救える。君たちも危険に晒されない。このままティゼルを放置する方が賢明かもしれない」


 ルキウスの問いに、レミはきっぱり首を振った。


「殿下。私たちを甘く見ないでください」


「……」


「この旅で私たちは多くを学びました。理屈だけでは心は動かない。人にはそれぞれ人生経験という名の背景があるからです。――――それを教えてくれたのは、他ならぬシンクです」


 レミは言葉を続けた。


「シンクが一体何と戦っているのか、それは今でもわかりません。シンクは私たちの理解を超えた先にいる。それでも私たちは同じ人間です。彼一人に全部を押し付けて見殺しにするなんて、私たちにはできません」


「直接会って話し、真相を明らかにする。それでも尚、彼が信念を貫くと言うのなら、幾ばくかは諦めもつくでしょう。しかし、このまま黙って見過ごせば――――私たちは一生後悔する」


 そう言ってフラットも頷いた。


「ルキウス殿下。どうか我らをお導きください。必ずやその願いに応えてご覧に入れます」


 生徒たちは一斉にひざまずいた。


「それは、つまり――――君たちは私の指揮下に入ってくれる、ということかな?」


「無論です」


 フラットが恭しく頭を垂れる。


「そうか。それなら話は早い。これから一緒にブラウン領へ向かおう」


「「「はっ」」」


「その前に服をどうにかしないと。王立魔法学院の制服のままじゃ目立ちすぎる。人数分のサポートアイテムも必要だ」


 金銭面の問題が解決したのは大きい。

 ここからが彼らの力の見せどころだ。


「私の指揮下に入るなら部隊名が必要だね。そうだな――――」


 ルキウスはしばし思案し、九人の生徒に新たな部隊名を授けた。
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