RGB:僕と浮世離れの戯画絵筆 ~緑色のアウトサイダー・アート~

雪染衛門

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第三章 ろくでなしのロク

23. 正義スイッチ

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突然、緑光ろくみつの後ろ向きな歩みを止めたのは、東雲しののめだった。

いまや日常と化した“緑色”への嫌がらせに加担することなく、
たったひとり、立ち向かおうとしている。

その目は、どんな差別的な言葉よりも鋭かった。

「マジでうぜーわ、イロハラ」

「えあっ、ちょ、東雲しののめさん……。僕は大丈夫だから」

「どこが大丈夫なわけ?」

「それは、僕が緑……」

「それがおかしいって言ってんの!」

緑光の言葉を遮るように、東雲はさらに鋭い目で男子たちを睨む。

すると彼らは、慌てて言い訳をはじめた。

「ぼたん、落ち着けって」

桃山ももやまは、鳩尾みぞおちをさりげなく庇いながら、東雲に向き直った。

緑光ろくみつはさ、どうせ御空藍みそらあいとか古い漫画に感化されてんだよ。
なんの取柄もない地味な主人公が輝くのなんて、あくまで漫画のなかだけ。夢見すぎじゃね」

さらに言い添えるように、にやりと笑う。

「その証拠に、こいつの進路希望はいまだ真っ白なまま」

その一言で、クラス中の視線が再び緑光のタブレットに集まる。

思わずぎゅっと手に力が入った。
そんな緑光を庇うように、東雲がすっと前に立つ。

「うちのカーチャンも言ってた。アニメやゲームは、将来なんの役にも立たないって」

桃山に同調するように男子生徒が口を挟む。
親の言葉を借りれば説得力が増すと、信じているのだろう。

東雲は黙ったまま、耳を傾けている。

東雲しののめさん、動絵アニメに疎いって……言ってたし……)

彼らの言い分に納得してしまうのも、時間の問題かもしれない。

魂の色ソウルカラーのおかげで、こんなに楽で、わかりやすくなったんだ。
娯楽に感化されて夢見たって、不幸になるだけ。わかるだろ?」

鳩尾を庇うように腕を構えていた桃山も、緑光の沈んだ顔を見て手応えを感じたのだろう。
警戒を解き、ますます語気を強めた。

「オタクはオタクらしく、バカみたいに量産される都合のいい設定に、
自分を重ねて妄想してりゃいいんだよ」

緑光を見下ろすように、言い放つ。

「誰の視界にも入らないよう、静かに、地味に生きてくれよ。
それが緑色のだろ?」

緑光は、目を逸らすしかなかった。

どれだけ罵られても、もう何も感じない。
はじめはうずいていたひたいの傷も、身も心もこの環境に慣れてしまった。

庇われるほうが、むしろ違和感だ。

(僕は大丈夫なんだ。大丈夫で、いなきゃいけないんだ)

自分を奮い立たせるように、心のなかで何度も何度も言い聞かせた。

「緑色は、漫画の主人公どころか、何者にもなれない。
誰にも認識されず、退場むだじにするだけ。
残っても、どうせ主役を引き立てる

その言葉に、緑光はかつて診断で見た“緑色の性格的特徴”を思い出す。

(……僕はわかってる。緑色が犯罪者予備軍だっていうなら、
事前に知れて、ラッキーだって受け止めればいいんだ)

“世界の敵”になりうる存在なら、そうならないようりをひそめて生きていけばいい。

僕の我慢が、世界平和に繋がるのなら。
それはシンプルで、ある意味カッコいい生き方なんじゃないかって。

桃山ももやまくんの言葉はキツいけど、一理ある、と思う……)

緑光は、ざわつく心を押し殺し、“友情”として受け取ろうとさえしていた。

「娯楽は娯楽。その範疇はんちゅうを越えたらダメってことを、俺は緑光ろくみつに教えてやってるんだ」

「で? 教えてどーすんの?」

東雲が、桃山の台詞をバッサリ切り捨てる。

織部おりべくんと、結婚とかするわけ?」

「けっけけけけ、けっこんっ!?」

唐突すぎるワードに、緑光は盛大に赤面し、
クラスも一斉に(なんで?)という顔になる。

だが東雲は、真顔で言い切った。

織部おりべくんのこと、全否定しまくってさ。……責任とか取れんの? ってなるじゃん」

「責任も何も、魂の色ソウルカラーが間違えるわけないだろ」

「てかさ、それがフツーにイロハラだっつってんの!」

東雲の剣幕に、桃山は再び防御姿勢を取る。

「百歩、いや百万歩譲って、それが思いやりだったとしてもさ?
“諦めろ”ってゆーことが、織部おりべくんのためになるって、ガチで思ってんの?」

誰かがひそひそと囁く。

――ぼたんの“正義スイッチ”が入っちゃった、と。

(ああ、まずい。はやく止めないと……)

の東雲は、“正義スイッチ”が入ると誰にも止められない。
緑光は、彼女と出会った入学式の時から、それを知っている。

慌てて言葉を探しながら、なんとか東雲をなだめようと、一歩踏み出す。

(僕は、本当に大丈夫なんだよ。
東雲しののめさんから見たら、許せない光景かもしれないけど……。
でも僕も男だし、いつまでも女子に守られるばかりじゃ――)

「ちょっと黙って!」

「は、はいぃぃ!」

渾身こんしんの勇気で踏み出したはずが、それ以上の気迫にあっけなく押し返された。

そして彼女は、ほんの一瞬だけ、躊躇ためらうように視線を落とす。
緑光にしか届かない、ほんのわずかな感情の揺れ。

(……東雲しののめ、さん……?)

だがその疑問が形になる前に、東雲は再び前を向き、まっすぐに言葉を放った。

「……あたしには選べる自由ないから、よくわかんないけど」

その一言に、緑光の眉がぴくりと動く。

(選択の自由が……ない? なのに?)

御三家色ごさんけしょく”、“勝ち組色エリートカラー”。
その象徴ともいえる“赤色”の彼女が、どうして――
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