RGB:僕と浮世離れの戯画絵筆 ~緑色のアウトサイダー・アート~

雪染衛門

文字の大きさ
42 / 97
第五章 AI術士

41. ごく普通の人

しおりを挟む
「はいデッキブラシ」と、勿忘草わすれなぐさはどこに隠し持っていたのか。唐突に、グラフィティ除去の道具を差し出してくる。アオは渡されるまま、素直に胸に引き寄せると、再び犯人捜しの話題に戻した。

「これだけ証拠が揃ってるのに、落書き犯スクリブラーはまだ特定できないのか?」
「実はもう、アタリはついてるみたいよ」

 想像以上にあっさり答えが返ってくる。アオが冷静な青色でなければ、度肝を抜かれていたことだろう。

落画鬼らくがきが絡んでる事件って、容疑者特定までは難しいことってほぼないのよね。大変なのはそこから先。逮捕に至るまでの証拠不十分なケースが多いからさ。今回は特にそう。殺人の実行犯は別で、彼らは落書き犯スクリブラーから直接、教唆きょうさされたわけじゃない」

 現に捕まった容疑者たちは、ポルノ・グラフィティに関する供述ばかりで、その裏に潜む落書き犯スクリブラーについて、誰も口を割らない。主犯を庇っているというより、本当に知らない様子なのだという。

「だから、元凶を逮捕するには、もう現行犯しかないんだよね」
「ほかの浮夜絵師うきよえしは、この事件に全員、駆り出されてるんじゃなかったのか」

 勿忘草の発言を百パーセント鵜呑みにしていたわけではないが、三日前の夜に聞いていた状況とは変わってきているようだ。それについてアオは勿忘草を咎める気は毛頭ない。一分一秒、状況は常に変化し続けるものと、理解しているからだ。

「ひょっとして、浮夜絵師は万能だと思ってない?」

 アオの気持ちとは裏腹に『浮夜絵師が総力を挙げた上でこのザマかよ』と捉える勿忘草。

のが、浮夜絵師なんだろ?」

 己の発言がいつも通り、曲解されていると察したアオは、先刻の勿忘草の言葉を皮肉めいた口調で復唱する。

「大抵ね、大抵のことはってことね!」

 勿忘草は、アオに相手されることがよほど嬉しいのか、大袈裟に慌てる素振りを見せては補足する。

「でも落画鬼の能力によっては、相手する浮夜絵師にも向き不向きがあるでしょ。画風とか、得意な浮夜絵との相性とかさ」

 張り切って「ゲームでいうところの属性タイプ相性みたいな、ありがちなやつね!」と長々説明したあと、アオの顔色を伺いながら切り出した。

「いくら無敵の浮夜絵師がいたとしても、対峙する落画鬼との相性が悪ければ、意味がないし……」
「それは、無敵とは言わない」

 アオは、本物の無敵を知っていると言った口振りで、素早く反論する。
 勿忘草は(やっぱり、食いつくよね)と彼女を一瞥すると、すぐに胡散臭い笑みを浮かべ答えた。

「うん、そうね! 私のは極端な例え話だと思ってね!」

 アオにとってセンシティブな話題だと知りつつ、ここぞとばかりに続けていく。

「実際、弱点無しの唯一無二な浮夜絵師もいたけど、それでも、そのたぐい稀な能力を使いこなせるのは夜だけで、昼間は一般人と変わらなかったし」

「そうだな。ごく普通の人だった……」

 勿忘草の思惑通り、アオは在りし日の誰かを懐古しているようだった。しかし、彼女はすぐに「とでも言えば、満足か?」と言いたげに白けた目つきを向ける。勿忘草は、その冷めた視線をかわすように両眉をクイッと上げると、話題を戻す。

「だから事件の全貌が明らかになればなるほど、適任な浮夜絵師は絞られる。それにいま日本で起こってる事件は、ひとつじゃないでしょ」

「じゃあなんで五人も殺されてる? その適任とやらは、なにしてるんだ」

 僅かながら苛立ちの色を瞳に宿すアオに、どうどうどうと馬を落ち着かせるが如く、仰々しい仕草を見せる勿忘草。

 そして、彼女に求められるまま素直に答えるべきか(この詳細教えたらきっと嫌な顔されるだろうなあ。無理に言う必要性はないしなあ……)と、様々な思考が脳内を駆け巡ったが、それが一周した頃には口が勝手に動いていた。

「今回、活躍してるのは……言いにくいけど、AI術士ちゃんたちらしいよ!」

 全然、言いにくそうではない満面の笑みを浮かべる勿忘草の狙い通り、眉をひそめるアオ。

 いまにはじまったことではないが、この男は、言葉の端々はしばしでアオの感情を揺さぶろうと仕掛けてくる。彼女の名前を間違えたのもわざとだろう。アオはこうして彼に試されていることを理解しているので、大抵のことは聞き流す。

 だが、あからさまに“AI術士”の話を出されると、どうしても身体が勝手に反応してしまう。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜

KEINO
ファンタジー
貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。 ~あらすじ~ 世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。 そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。 しかし、その恩恵は平等ではなかった。 富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。 そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。 彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。 あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。 妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。 希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。 英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。 これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。 彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。 テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。 SF味が増してくるのは結構先の予定です。 スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。 良かったら読んでください!

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

盾の間違った使い方

KeyBow
ファンタジー
その日は快晴で、DIY日和だった。 まさかあんな形で日常が終わるだなんて、誰に想像できただろうか。 マンションの屋上から落ちてきた女子高生と、運が悪く――いや、悪すぎることに激突して、俺は死んだはずだった。 しかし、当たった次の瞬間。 気がつけば、今にも動き出しそうなドラゴンの骨の前にいた。 周囲は白骨死体だらけ。 慌てて武器になりそうなものを探すが、剣はすべて折れ曲がり、鎧は胸に大穴が空いたりひしゃげたりしている。 仏様から脱がすのは、物理的にも気持ち的にも無理だった。 ここは―― 多分、ボス部屋。 しかもこの部屋には入り口しかなく、本来ドラゴンを倒すために進んできた道を、逆進行するしかなかった。 与えられた能力は、現代日本の商品を異世界に取り寄せる 【異世界ショッピング】。 一見チートだが、完成された日用品も、人が口にできる食べ物も飲料水もない。買えるのは素材と道具、作業関連品、農作業関連の品や種、苗等だ。 魔物を倒して魔石をポイントに換えなければ、 水一滴すら買えない。 ダンジョン最奥スタートの、ハード・・・どころか鬼モードだった。 そんな中、盾だけが違った。 傷はあっても、バンドの残った盾はいくつも使えた。 両手に円盾、背中に大盾、そして両肩に装着したL字型とスパイク付きのそれは、俺をリアルザクに仕立てた。 盾で殴り 盾で守り 腹が減れば・・・盾で焼く。 フライパン代わりにし、竈の一部にし、用途は盛大に間違っているが、生きるためには、それが正解だった。 ボス部屋手前のセーフエリアを拠点に、俺はひとりダンジョンを生き延びていく。 ――そんなある日。 聞こえるはずのない女性の悲鳴が、ボス部屋から響いた。 盾のまちがった使い方から始まる異世界サバイバル、ここに開幕。 ​【AIの使用について】 本作は執筆補助ツールとして生成AIを使用しています。 主な用途は「誤字脱字のチェック」「表現の推敲」「壁打ち(アイデア出しの補助)」です。 ストーリー構成および本文の執筆は作者自身が行っております。

処理中です...