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第八章 赤恥をかくのはごめんだ
78. 銃声
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(……青ウサギ)
じくじくと澱む感情が百里香の胸を満たす。
青色、青色、青色――胸が張り裂けそうになった、その刹那。
極限まで張り詰めていた青ウサギの鏑矢が、鋭い破裂音とともに放たれた。
鎖の輪を射貫いた矢は壁へ突き刺さり、衝撃で狐鼠の両腕ごと縫い止める。
手錠の金属音が地下通路に弾け、狐鼠の歯ぎしりが空気を震わせた。
床に転がった赤いライトが、ぼやけた輪郭を描く。狐鼠はそれを睨み、助けを求めるような――それでいて逃げろとも取れる、どっちつかずの声で、その名を叫ぶ。
「阿紫!」
必死さと狂気が入り混じるコール。
それをかき消すように広がる伯林青色の翼。
鼻から上は鉄紺色の仮面に覆われ、奥に潜む表情は見えない。
(……青ウサギの英雄画)
百里香が、この少女漫画から飛び出したような麗しき戦乙女を見るのは二度目だった。視線は無意識に仮面の奥へ吸い寄せられる。だが――
「……くっ」
青ウサギの苦しげな声に、百里香は連れ戻される。
ひどく消耗しているのか、青ウサギはすぐに膝をつく。
なぜか、周囲には浮夜絵と思しき刀剣が散らばっていた。
(これは……)
百里香は無意識に息を呑む。
青ウサギの力が制御を失ったように見える。片喰の姿と重なった。
(もしかして、私が流した音楽のせい……?)
その予感を肯定するかのように、青ウサギの視線が絡む――
――その瞬間、視界が反転した。
ショウは肩で荒く息を吐きながら、被害者女性のスマホを睨んでいた。
「……あの音源、か」
耳の奥に、まだ余韻のような重みが残っている。
(俺の力を、無理やり引き出しやがった……)
だが、音色は女性の魂の色と重ならない。気配が違う――
(……彼女の能力じゃない)
直感を断ち切るように、散らばった刀剣のなかからスラリと刃音が走る。
宝剣を拾い上げた戦乙女が、落画鬼の背を狙った。
落画鬼は簪でそれを受けるが、哀れなほどの呻き声をあげてよろける。
動きが鈍い。先の浮夜絵師の弱体が効いている。
(いまのうちに、やらねえと……)
ショウはGペンを咥える。顎に力が入らない。
頬に力を込め、無理やり噛み締めた。シィィ――熱を帯びた息が漏れる。
その真横を、猟犬のけたたましい鳴き声とともに鋭い風が掠めていく。
「……AI術士か」
猟犬が三匹。落画鬼の倒れる間すら許さず、すかさず喰らいつく。
量産が売りの割に、心もとない数。それだけAI術士の限界を示している。
(――余計なことしやがって)
全身が泥のように重い。指先の痺れ、視界の端の暗さ――身体の限界を悟りながらも、なお視線を走らせた。
それは、あまりにも唐突だった。
乾いた銃声が、背後を撃ち抜く。
世界が一瞬、静止した――直後、女性の悲痛な叫び声が裂ける。
霞む視界の向こう、AI術士が拳銃を手にしている。
銃口からは、煙がまだ細く立ち上っていた。
ショウは低く唸る。
「……お前、何を……」
鋭い視線を浴びても、微動だにしない無機質な瞳。
その先には、崩れ落ちた警察官の姿――
「……なんで、なんでっっ……!?」
女性が全身を戦慄かせ、声を絞り出す。悔恨の色が滲んでいる。
(……まさか、こいつ……)
ショウのなかで、何かが弾けた。
急に体が軽くなる。重さも痛みも消え、殺意だけが血を巡らせる。
粛清の名を借りたその衝動が、鈍い身体を突き動かした。
「ショウくん、危ないっ!」
突然、勿忘草の声。ショウの意識が引き戻される。
背後に影が落ちた。
「そっちに気を取られてる場合かよぉ」
鋭利なねずみ男の声が、首筋を裂く寸前の鋭さで撫でる。
反射的に身体をずらし、不意打ちをかわすが、足が思うように動かない。
ふらつく身体を立て直す隙に、ねずみ男がショウを飛び越え、床を転がる赤いライトへと駆け寄る。
「……チッ」
ショウは歯噛みしながら視界の揺れを押さえつけ、追いかけようと一歩踏み出した――瞬間。
今度は、背筋を刺すような異変が駆け抜けた。
ぼやけた視界の先、猟犬に喰らいつかれたはずの落画鬼の影が、黒い染みのように揺らぎはじめる。錯覚じゃない。肌の奥が、確かに警鐘を鳴らしている。
「まだ、だっ……!」
声を絞り出すも、踏み出した足は鉛のように沈み込み、動かない。
(――動け。さっきみてえに)
頭ではそう叫んでいるのに、身体は従わない。
そして――闇が裂けるように、落画鬼は三体へと分裂した。
じくじくと澱む感情が百里香の胸を満たす。
青色、青色、青色――胸が張り裂けそうになった、その刹那。
極限まで張り詰めていた青ウサギの鏑矢が、鋭い破裂音とともに放たれた。
鎖の輪を射貫いた矢は壁へ突き刺さり、衝撃で狐鼠の両腕ごと縫い止める。
手錠の金属音が地下通路に弾け、狐鼠の歯ぎしりが空気を震わせた。
床に転がった赤いライトが、ぼやけた輪郭を描く。狐鼠はそれを睨み、助けを求めるような――それでいて逃げろとも取れる、どっちつかずの声で、その名を叫ぶ。
「阿紫!」
必死さと狂気が入り混じるコール。
それをかき消すように広がる伯林青色の翼。
鼻から上は鉄紺色の仮面に覆われ、奥に潜む表情は見えない。
(……青ウサギの英雄画)
百里香が、この少女漫画から飛び出したような麗しき戦乙女を見るのは二度目だった。視線は無意識に仮面の奥へ吸い寄せられる。だが――
「……くっ」
青ウサギの苦しげな声に、百里香は連れ戻される。
ひどく消耗しているのか、青ウサギはすぐに膝をつく。
なぜか、周囲には浮夜絵と思しき刀剣が散らばっていた。
(これは……)
百里香は無意識に息を呑む。
青ウサギの力が制御を失ったように見える。片喰の姿と重なった。
(もしかして、私が流した音楽のせい……?)
その予感を肯定するかのように、青ウサギの視線が絡む――
――その瞬間、視界が反転した。
ショウは肩で荒く息を吐きながら、被害者女性のスマホを睨んでいた。
「……あの音源、か」
耳の奥に、まだ余韻のような重みが残っている。
(俺の力を、無理やり引き出しやがった……)
だが、音色は女性の魂の色と重ならない。気配が違う――
(……彼女の能力じゃない)
直感を断ち切るように、散らばった刀剣のなかからスラリと刃音が走る。
宝剣を拾い上げた戦乙女が、落画鬼の背を狙った。
落画鬼は簪でそれを受けるが、哀れなほどの呻き声をあげてよろける。
動きが鈍い。先の浮夜絵師の弱体が効いている。
(いまのうちに、やらねえと……)
ショウはGペンを咥える。顎に力が入らない。
頬に力を込め、無理やり噛み締めた。シィィ――熱を帯びた息が漏れる。
その真横を、猟犬のけたたましい鳴き声とともに鋭い風が掠めていく。
「……AI術士か」
猟犬が三匹。落画鬼の倒れる間すら許さず、すかさず喰らいつく。
量産が売りの割に、心もとない数。それだけAI術士の限界を示している。
(――余計なことしやがって)
全身が泥のように重い。指先の痺れ、視界の端の暗さ――身体の限界を悟りながらも、なお視線を走らせた。
それは、あまりにも唐突だった。
乾いた銃声が、背後を撃ち抜く。
世界が一瞬、静止した――直後、女性の悲痛な叫び声が裂ける。
霞む視界の向こう、AI術士が拳銃を手にしている。
銃口からは、煙がまだ細く立ち上っていた。
ショウは低く唸る。
「……お前、何を……」
鋭い視線を浴びても、微動だにしない無機質な瞳。
その先には、崩れ落ちた警察官の姿――
「……なんで、なんでっっ……!?」
女性が全身を戦慄かせ、声を絞り出す。悔恨の色が滲んでいる。
(……まさか、こいつ……)
ショウのなかで、何かが弾けた。
急に体が軽くなる。重さも痛みも消え、殺意だけが血を巡らせる。
粛清の名を借りたその衝動が、鈍い身体を突き動かした。
「ショウくん、危ないっ!」
突然、勿忘草の声。ショウの意識が引き戻される。
背後に影が落ちた。
「そっちに気を取られてる場合かよぉ」
鋭利なねずみ男の声が、首筋を裂く寸前の鋭さで撫でる。
反射的に身体をずらし、不意打ちをかわすが、足が思うように動かない。
ふらつく身体を立て直す隙に、ねずみ男がショウを飛び越え、床を転がる赤いライトへと駆け寄る。
「……チッ」
ショウは歯噛みしながら視界の揺れを押さえつけ、追いかけようと一歩踏み出した――瞬間。
今度は、背筋を刺すような異変が駆け抜けた。
ぼやけた視界の先、猟犬に喰らいつかれたはずの落画鬼の影が、黒い染みのように揺らぎはじめる。錯覚じゃない。肌の奥が、確かに警鐘を鳴らしている。
「まだ、だっ……!」
声を絞り出すも、踏み出した足は鉛のように沈み込み、動かない。
(――動け。さっきみてえに)
頭ではそう叫んでいるのに、身体は従わない。
そして――闇が裂けるように、落画鬼は三体へと分裂した。
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