12 / 12
第12話 リョーマの休日
しおりを挟む
膝から崩れ落ちる私を受け止める手。この温かさに覚えがある。
「まーた泣いてんのか」
高速で目を瞬くと明らかになる全貌。ボサボサ頭から伸びる茶筅髷。逆光の中、相変わらず暢気に笑う彼。
「泣き虫なとこは似てねえな」
それから何度も彼の名を声に出した。親の名前より呼んだ。もう呼べないかもしれないから……。
「私思い出したの、じーちゃんの話」
止まらない涙が何よりも別れを悟らせる。
「安土龍真。“傘下の剣豪”と呼ばれた男……私の御先祖様」
二ッと悪戯っぽく笑うリョーマ。
「遅刻理由も強ち嘘じゃなかった! 先祖蘇ったし」
「何言ってんだ、お前」
ごめんねとありがとう、夢が叶って嬉しかった。色々伝えたい時に限ってしょーもない会話ばかり続く。
「穴だらけにしちまった。ゴメンなさい」
壊れた傘を恭しく差し出すリョーマ。
「もう使えねえか?」
「そも使わないわ!」
こんな話してる場合じゃない。引き留めたい。
「マジで帰んの? そっち大変なんでしょ」
リョーマにとって元の世界は過酷、だから。
「俺には俺の好きがある、向こうにな」
なんで? 怖くない? 不安じゃない? いつ殺されるかわからない世界で……。
「お前が笑ってることが、俺の好きを貫いた答えだ」
「いかないで」が言えなかった。代わりに泣き面くしゃくしゃにして笑ってた。
一筋の星が瞬き、ボロい釣瓶に足をかけるリョーマ。
「お前の味、ずっと覚えとく!」
「最後まで飯の話かよっ」
嬉しいのに素直になれない。
「じゃあ、またな!」
リョーマの身体がゆっくり沈む。見つめ合う視線が井戸に遮られる。堪らず駆け寄ろうとした瞬間、親指を立てた拳が突き上げられる。I'll be backとか言いそう。思わず吹き出した。
光が消える。もう会うことはない。
この世界はリョーマにとって息抜きになったかな。
カタナの言葉がまた過る。
『きっと、幸せじゃなかった』
そんなことなさそうだよ。リョーマなら大丈夫。だって日本一規格外の侍だから。
――目まぐるしく情報が飛び交う現代、だからこそ『好き』を忘れたくない。好きは人を想う優しさをくれる。躓いても乗り越える勇気をくれる。私は、自分の好きを信じてる。
でももしまた見失いかけたら、見上げるんだ。神棚に飾った二本目の傘を。
「お! 俺の家だ」
井戸から顔を出したリョーマの前に聳える天守閣。老いた声を精一杯張り上げ、若き主君を探す宿老の足音。
唐傘を開き、その影の中で不敵に笑う。
「いつもうるせーな、ジイは」
「まーた泣いてんのか」
高速で目を瞬くと明らかになる全貌。ボサボサ頭から伸びる茶筅髷。逆光の中、相変わらず暢気に笑う彼。
「泣き虫なとこは似てねえな」
それから何度も彼の名を声に出した。親の名前より呼んだ。もう呼べないかもしれないから……。
「私思い出したの、じーちゃんの話」
止まらない涙が何よりも別れを悟らせる。
「安土龍真。“傘下の剣豪”と呼ばれた男……私の御先祖様」
二ッと悪戯っぽく笑うリョーマ。
「遅刻理由も強ち嘘じゃなかった! 先祖蘇ったし」
「何言ってんだ、お前」
ごめんねとありがとう、夢が叶って嬉しかった。色々伝えたい時に限ってしょーもない会話ばかり続く。
「穴だらけにしちまった。ゴメンなさい」
壊れた傘を恭しく差し出すリョーマ。
「もう使えねえか?」
「そも使わないわ!」
こんな話してる場合じゃない。引き留めたい。
「マジで帰んの? そっち大変なんでしょ」
リョーマにとって元の世界は過酷、だから。
「俺には俺の好きがある、向こうにな」
なんで? 怖くない? 不安じゃない? いつ殺されるかわからない世界で……。
「お前が笑ってることが、俺の好きを貫いた答えだ」
「いかないで」が言えなかった。代わりに泣き面くしゃくしゃにして笑ってた。
一筋の星が瞬き、ボロい釣瓶に足をかけるリョーマ。
「お前の味、ずっと覚えとく!」
「最後まで飯の話かよっ」
嬉しいのに素直になれない。
「じゃあ、またな!」
リョーマの身体がゆっくり沈む。見つめ合う視線が井戸に遮られる。堪らず駆け寄ろうとした瞬間、親指を立てた拳が突き上げられる。I'll be backとか言いそう。思わず吹き出した。
光が消える。もう会うことはない。
この世界はリョーマにとって息抜きになったかな。
カタナの言葉がまた過る。
『きっと、幸せじゃなかった』
そんなことなさそうだよ。リョーマなら大丈夫。だって日本一規格外の侍だから。
――目まぐるしく情報が飛び交う現代、だからこそ『好き』を忘れたくない。好きは人を想う優しさをくれる。躓いても乗り越える勇気をくれる。私は、自分の好きを信じてる。
でももしまた見失いかけたら、見上げるんだ。神棚に飾った二本目の傘を。
「お! 俺の家だ」
井戸から顔を出したリョーマの前に聳える天守閣。老いた声を精一杯張り上げ、若き主君を探す宿老の足音。
唐傘を開き、その影の中で不敵に笑う。
「いつもうるせーな、ジイは」
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
白い結婚は無理でした(涙)
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。
明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。
白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。
小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。
どうぞよろしくお願いいたします。
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる