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第一話 その①
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○月〇日○曜日 晴れ
今日はご飯を食べた。
お腹ペコペコだったので、食べたあとすっごく幸せな気分になれた。
昨日はご飯食べてなかったので余計に気分あがった。
明日はバイトの面接だ。憂鬱だけど頑張ろう。
◇◇◇
私の名前は一ノ瀬軽芽! 「いちのせ」が苗字で「かるめ」が名前。最近無職になったので、次の働く場所を探してるところです。
現在の時間は午前十時、目覚めた瞬間は生きていくことのあまりの難儀さに絶望していたけれど、数分間目をぱちぱちさせながら天井を見つめていたらちょっぴり元気が湧いてきて、
「よっしゃー! 今日もがんばろ!」
と叫びながら起き上がりました。起き上がった瞬間、壁を這う小さな黒い蜘蛛(たぶんアダンソンハエトリかな)と目が合って、つい私はにっこりしてしまいました。可愛いよね、小さい蜘蛛さんって。
さて、今日はお昼からバイトの面接の予定があります。コンビニです。コンビニのバイトって、やることが本当に多くて大変ですよね。色んな人たちが来るので接客は大変だし、お金のやり取りは気をつけなくちゃいけないし。
大変さを理解したうえで、私はコンビニバイトをしようとしています。それは何故か? 理由は簡単。私が、今までコンビニのバイトしかしたことがないから。やったことがない仕事に取り組むのって、怖くないですか? 私は怖いです。なので、いつもコンビニを選んでしまいます。
情けないですよね、自分でも思います。新たな仕事にチャレンジしてみようって、少しでも思えていたなら、こんな人生は歩んでなかったのかな。
いえ、後悔していても仕方ありません。私は今日の面接のためにきっちりと朝食をとり、身なりを整えて、時間通りに指定の場所へ向かわねばなりません。
ベッドから出て、床を踏みしめ歩きだした瞬間。
その時私の脳内は、朝ご飯はどうしよう、という思考でいっぱいでした。
ご飯と納豆にしようかな? でも納豆は面接終わりの夕飯として取っておいて、ご飯とふりかけで済ませようか。ご飯に塩をかけるのもいいかも。
食事のことに気を取られていたから、こんなことになったのかもしれません。
端的に言うと、私は床に置いていた紙の束をうっかり踏んでしまい、足を滑らせてしまいました。
その紙の束は、私がずいぶん昔に描いた漫画でした。たしか中学生の頃描いたものだったかな。昨晩懐かしく読み返していたのですが、寝る前に「まあここらに置いとくか」くらいのノリで放置していたんです。そのせいでこんな目にあうとは。昨晩の私の行動を恨みます。
この漫画、床に投げ出していた人間が言うことではないかもですが、結構、私のなかではお気に入りなのです。
もしかしたら多くの人々が、「黒歴史」だといって馬鹿にするような、そんなものなのかもしれません。
ですが私は黒歴史という言葉は嫌いです。だってこれも、大切な私の過去で、私の一部なんですから。「黒歴史」と呼び嘲笑することで、今の自分はそこから遠い位置にいるのだと、無関係なのだとアピールすることは、自分の愚かさや幼さと向き合っていないことと同じなのではないでしょうか。
愚かさを見つめて、目を逸らさず、自らにどうあるべきかと問い続ける。
未熟な創作物を、自分の一部として受け入れる。
これらはとても大切なことだと思うのです。
思いっきり話が逸れました。
ご飯の内容など吹っ飛んで、「あ、これはやばいかも」と思う間もなく、私の頭部はゴガッという不穏な音を立てます。ああ、本気でやばいです。
意識は遠のき、視界は暗闇に包まれます。そんななか私が考えたことは。
走馬灯くらい流れてほしかった……(見ることができたら創作のネタにできたかもしれないのに……)。
でした。
◇◇◇
さあ、ここで私の物語は終わってしまうのか!? いえいえそんなことはございません。まだまだ始まったばかりでございます。
さて、私はなんと無事に目を覚ますことができたのでした。いやー良かった、めでたしです。
ただ、問題がありました。
「ここ、どこお……?」
目を覚ました私の視界にうつっていたのは、蜘蛛がいて床に紙類が散らばっている、私の部屋……ではありませんでした。
空にはふわふわとしたピンク色の雲が浮き、それを囲む空もまた薄いピンク色。かわいいです。地面もなんだか綿菓子のようにふわふわしていて、もうふわふわです。どこもかしこもふわふわふわふわ。
周辺にお家、遠目にお城が見えるのですが、その見た目はとてもファンシーというか、なんだか可愛らしいです。
なんだろう、この……。ファンタジーのような世界観。全然知らないはずです。でも既視感があります。なぜだろう。
考えて考えてはっとしました。そうです、これは私が考えたんです。
さっき足を滑らせる原因となった、私が描いた漫画。その世界観と、とても似通っているのです。
不思議な世界を、不安な気持ちを抱えながら、私は見まわすのでした。
今日はご飯を食べた。
お腹ペコペコだったので、食べたあとすっごく幸せな気分になれた。
昨日はご飯食べてなかったので余計に気分あがった。
明日はバイトの面接だ。憂鬱だけど頑張ろう。
◇◇◇
私の名前は一ノ瀬軽芽! 「いちのせ」が苗字で「かるめ」が名前。最近無職になったので、次の働く場所を探してるところです。
現在の時間は午前十時、目覚めた瞬間は生きていくことのあまりの難儀さに絶望していたけれど、数分間目をぱちぱちさせながら天井を見つめていたらちょっぴり元気が湧いてきて、
「よっしゃー! 今日もがんばろ!」
と叫びながら起き上がりました。起き上がった瞬間、壁を這う小さな黒い蜘蛛(たぶんアダンソンハエトリかな)と目が合って、つい私はにっこりしてしまいました。可愛いよね、小さい蜘蛛さんって。
さて、今日はお昼からバイトの面接の予定があります。コンビニです。コンビニのバイトって、やることが本当に多くて大変ですよね。色んな人たちが来るので接客は大変だし、お金のやり取りは気をつけなくちゃいけないし。
大変さを理解したうえで、私はコンビニバイトをしようとしています。それは何故か? 理由は簡単。私が、今までコンビニのバイトしかしたことがないから。やったことがない仕事に取り組むのって、怖くないですか? 私は怖いです。なので、いつもコンビニを選んでしまいます。
情けないですよね、自分でも思います。新たな仕事にチャレンジしてみようって、少しでも思えていたなら、こんな人生は歩んでなかったのかな。
いえ、後悔していても仕方ありません。私は今日の面接のためにきっちりと朝食をとり、身なりを整えて、時間通りに指定の場所へ向かわねばなりません。
ベッドから出て、床を踏みしめ歩きだした瞬間。
その時私の脳内は、朝ご飯はどうしよう、という思考でいっぱいでした。
ご飯と納豆にしようかな? でも納豆は面接終わりの夕飯として取っておいて、ご飯とふりかけで済ませようか。ご飯に塩をかけるのもいいかも。
食事のことに気を取られていたから、こんなことになったのかもしれません。
端的に言うと、私は床に置いていた紙の束をうっかり踏んでしまい、足を滑らせてしまいました。
その紙の束は、私がずいぶん昔に描いた漫画でした。たしか中学生の頃描いたものだったかな。昨晩懐かしく読み返していたのですが、寝る前に「まあここらに置いとくか」くらいのノリで放置していたんです。そのせいでこんな目にあうとは。昨晩の私の行動を恨みます。
この漫画、床に投げ出していた人間が言うことではないかもですが、結構、私のなかではお気に入りなのです。
もしかしたら多くの人々が、「黒歴史」だといって馬鹿にするような、そんなものなのかもしれません。
ですが私は黒歴史という言葉は嫌いです。だってこれも、大切な私の過去で、私の一部なんですから。「黒歴史」と呼び嘲笑することで、今の自分はそこから遠い位置にいるのだと、無関係なのだとアピールすることは、自分の愚かさや幼さと向き合っていないことと同じなのではないでしょうか。
愚かさを見つめて、目を逸らさず、自らにどうあるべきかと問い続ける。
未熟な創作物を、自分の一部として受け入れる。
これらはとても大切なことだと思うのです。
思いっきり話が逸れました。
ご飯の内容など吹っ飛んで、「あ、これはやばいかも」と思う間もなく、私の頭部はゴガッという不穏な音を立てます。ああ、本気でやばいです。
意識は遠のき、視界は暗闇に包まれます。そんななか私が考えたことは。
走馬灯くらい流れてほしかった……(見ることができたら創作のネタにできたかもしれないのに……)。
でした。
◇◇◇
さあ、ここで私の物語は終わってしまうのか!? いえいえそんなことはございません。まだまだ始まったばかりでございます。
さて、私はなんと無事に目を覚ますことができたのでした。いやー良かった、めでたしです。
ただ、問題がありました。
「ここ、どこお……?」
目を覚ました私の視界にうつっていたのは、蜘蛛がいて床に紙類が散らばっている、私の部屋……ではありませんでした。
空にはふわふわとしたピンク色の雲が浮き、それを囲む空もまた薄いピンク色。かわいいです。地面もなんだか綿菓子のようにふわふわしていて、もうふわふわです。どこもかしこもふわふわふわふわ。
周辺にお家、遠目にお城が見えるのですが、その見た目はとてもファンシーというか、なんだか可愛らしいです。
なんだろう、この……。ファンタジーのような世界観。全然知らないはずです。でも既視感があります。なぜだろう。
考えて考えてはっとしました。そうです、これは私が考えたんです。
さっき足を滑らせる原因となった、私が描いた漫画。その世界観と、とても似通っているのです。
不思議な世界を、不安な気持ちを抱えながら、私は見まわすのでした。
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☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
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