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 食事を終え、別れることになる。詩織はアレフに断りを入れて、レーシュの家に共に帰ることになった。
 鍵のかかった扉を、専用の鍵で開け、中に入る。人が入ると同時に、照明用魔法石がパッと灯りをともす。室内の壁際に棚が沢山存在し、そこには所狭しと瓶や何かの素材であるであろうものが並べられたり、吊されたりしていた。
 どれも、レーシュの仕事道具だ。加護堀金師という、魔法石や、宝石、金属などに飾りを施し、それらに何らかの加護――いわゆるステータスアップ系のバフをもたらす存在。それが、レーシュだ。

 恐らく作業中であろう宝石や、指輪の類いが机の上にきちんと整頓されて置いてあるのが見える。仕事部屋とリビングは同一の空間で兼ねているようで、仕事部屋の反対方向を見ると、台所やテーブルといったものが置かれている場所があった。

「それで、どうするの?」
「……どうするっていうか、その、本当にして良いんですか?」

 ここまでほとんど無理矢理ついてきたようなものではあるけれど。詩織はもちろんレーシュのことが好きだが、レーシュはどうだかはわからない。相手が合意の上でなければ、なんというか強引なものになってしまうだろう。
 レーシュが軽く首を傾げる。は、と小さく息を零して、「帰るならきちんと扉だけ閉めていってよ」とだけ言う。端から本気にしていない様子だった。

 詩織は小さく息を飲む。それから、腕を組むレーシュの元に近づいた。壁に背をつけていた彼の頬を、そっと指先で撫でる。まろみのある頬だ。柔らかな皮膚の感触と、目の前の相手の容姿が幼いことから、どうしようもなく――いけないことをしている気になってしまう。罪悪感めいたそれを、けれど直ぐに詩織は心の中で押しつぶした。
 相手は、大人なのだ。だから、詩織も、相手を大人と思って、行動する。

「キス、しますね」
「は? えっ――」

 自分よりも小さな唇。その形を辿るように指先をそっと動かしてから、啄むようにキスをする。レーシュが小さく息を零した瞬間を狙って舌を差し込む。噛まれるかもしれない、と思ったが、レーシュはびくりと体を震わせるだけで、詩織に危害を加えようとすることはなかった。小さな口内を舌先で愛撫していく。上顎を掠め、歯列をなぞるように舌を這わせて、縮こまった舌を解すように絡めていく。口内に唾液が溜まり、それを吸うようにすると、レーシュの体が小さく痙攣する。
 長い時間をかけて口内を愛撫して、それからゆっくりと口を離す。レーシュの顔は真っ赤になっていた。

「はっ……本気……っ?」
「本気です。出来るって言ったじゃないですか。――気持ち悪いなんて思わない」

 囁くように言葉を続けて、それから詩織はレーシュの口元にもう一度キスをする。細い体に指先を這わせると、レーシュが小さく息を飲んだ。

「ま、んっ、て、詩織……」
「どうして?」
「ど、して、って、なん、……っ」

 詩織はレーシュの衣服の上から、彼の中心に触れる。先ほどのキスだけで柔らかく芯を持ち始めたそれを、指先で撫でるようにゆっくりと動かすと、レーシュが首を振った。

「は、待って、待って……っ」
「嫌です」
「ん、だって、それ、触り方、が、……っ」

 すりすりと形を辿るように撫でて、そのままふっくらとした先端の輪郭を指先で辿る。衣服の上から形をなぞるように指先でくすぐると、ぴくぴくと衣服の中で陰茎が震えながら勃起していくのがわかった。
 レーシュは、逃げない。片手を詩織の肩において、もう片方の手を壁に寄せている。詩織が指を動かす度に、腰がひく、ひくと動くのが見えた。

「ま、って、立ったまま……?」
「ベッドが良いんですか?」

 耳元で囁くように声を零すと、レーシュは小さく喘いだ。そうしてから、詩織の手に腰を押しつけるようにして、けれど直ぐにはっとしたような表情を浮かべ、首を振る。僅かに残った理性をとろかすようにして詩織は口元に唇を寄せた。ちゅ、と吸い付くと、快感を知った舌先がそろりとレーシュの口元から出てくる。舌だけで軽くキスをして、そのまま深めの口づけを繰り返してから、詩織はそっと口を離した。
 とろけたような視線が詩織を見つめる。壁に触れていた手が、詩織の肩をぎゅうっと握る。それが恐らく、答えだった。



「んっ、ふ、――う、あ、あっ……」
「可愛い。好きです、レーシュさん」

 ベッドの上。レーシュを組み敷いたまま、詩織はレーシュの唇にキスをする。そうしてから、衣服の前をくつろげて、白魚のような皮膚、その薄い胸板に触れる。桜色の乳首を擽るように指先を動かして、その先端をつま先で刺激すると、レーシュは体を軽く跳ねさせた。

「あ、あ、やだ、やめ、て、そういう、触り方……っ」
「どうして? でも、さっきから、腰ひくひくってしてますよ」
「んっ、んぅ、ちが、う、これ……っ、これは、違う……からぁっ……!」

 ぴん、と爪先で跳ねると、勃ちあがった陰茎がひくりと震えた。先端からはカウパー液が溢れていて、それが窓から差し込む光によっててらてらと光っている。詩織は胸元に唇を寄せて、ちゅう、と乳首を軽く吸った。レーシュが息を詰めて、首を振る。乳首、弱いみたい――なんて思いながら両手で優しく胸を愛撫していると、レーシュが次第に涙声を漏らし始めた。

「あっ、んく、はっ、やだ、ちがう、これ……っ、違う、こんな、胸で、胸で……っ」
「違うことないですよ、可愛い」
「なんで、なんでっ、こん、っな、こと、にぃ……!」
「それは、もう、レーシュさんが悪いです」
「あっ、あっ、なん、なんで……っ!」

 レーシュが首を振る。喉が何かを飲み込むように何度も震えているのが見えた。詩織からしたら、レーシュに『行動で示せ』と言われたから、示しているだけである。レーシュからしたら、恐らく、まさか本当にこんなことをされるとは思ってもみなかったのかもしれないが、もうここまでしているのだから、戻れるはずもない。

「ん、ふ、んっ」
「乳首と、――こっちも、触りますね」

 すり、と先ほどから所在なさげに揺れていた陰茎に詩織は触れる。ぬちぬちと出来る限り音を立てながら、先端を指先で軽く摘まむように擦ると、レーシュは首を振った。

「ん、んぅう、はっ、あッ、あ、んんっ」
「敏感ですね。可愛い」
「かわいくな、うっ――っ」

 レーシュの指先が、服の裾を引っ張る。陰部を隠そうとするような動きだった。ただ、その動きも、詩織の愛撫によってすぐに力が抜けてしまうのか、上手く出来ていない。小さな指先が服の裾を握ったり放したりを繰り返すから、服に皺が出来ている。

「乳首だけでイけそうですね」
「イけな、そんなの、イけな……っ、や、はぁっ……っ」

 小さく笑いながら、詩織はレーシュにキスをする。レーシュの体を貪るような、そんな貪欲さの滲むキスに、必死でレーシュは答えてくる。指先が詩織の肩に触れ、震えながら首に回った。ぎゅう、と抱きしめるようにされて、思わず詩織の胸が強く疼いた。
 可愛い。本当に可愛い。
 ただ、可愛い、と言い続けると確実にレーシュは怒るので(実際に以前怒られたことがある)、出来る限り口に出さないように努めるべきだろう。詩織は必死に言葉を飲み下しながら、レーシュから唇を離す。

「んっ、んぅっ、は、先端、指で、すりすり、されるの、嫌だ……、やだぁ……っ」
「本当に?」

 すり、ともう一度摘まむようにして指を動かす。レーシュの腰がびくりと震えて、小さく呻くような声が喉から零れ落ちて行く。やだぁ、と僅かに舌足らずに言葉を続けて、それから必死に喘ぎ声を噛み殺すように枕に顔を埋めてしまった。ふーっ、ふーっ、という荒い呼吸だけが聞こえる。
 出来る限りえっちは顔を見ながらしたいのだが、レーシュからしたら恥ずかしいどころの騒ぎではないのかもしれない。それなら、まあ、最初くらいは多めに見るべきだろう――なんて思いながら、詩織は茎を指で握る。そうしてから、ゆっくりと緩急をつけながら上下に手を動かした。

 レーシュの太ももが震える。枕に埋めきれなかった声がくぐもって詩織の耳朶を打った。

「んっ、ふあっ、んぐぅ、んっ、んっ」

 手の動きを少しずつ早めながら、もう片方の手で先端を包んで手の平をぐりぐりと回す。レーシュは小さく体を震わせて、それから腰をびくびくとさせる。そうしてから、必死になって首を振る。

「それ、やだっ、やだっ、イく、イっちゃう……! すぐっ、すぐイく……っ、イく、ん、ぐ――っ」

 手の平に向かって精液が吐き出される。とろとろとしたそれだった。萎えてしまった陰茎を眺め、それから深く痙攣する腹部を見つめ、詩織はレーシュの名前を呼ぶ。

「レーシュさん」
「はっ、あ――っ、は、……っ、は」

 枕を取ると、すぐにレーシュの顔が露わになる。真っ赤だった。枕を強く自分の顔に押し当てていたのもあり、半ば酸欠状態だったのだろう。
 ふ、と小さく笑って、詩織はレーシュに口づける。とろけたような視線が僅かに理性を取り戻し、それからレーシュは僅かに視線を震わせて、詩織を見つめた。

 レーシュの体が一瞬にしてこわばる。何を言われるのか、詩織の言葉に恐怖を抱きながらも、目をそらせずに居る――そんな僅かな緊張感の滲む、視線だった。だからこそ、詩織はレーシュの体を抱きしめるようにして、もう一度キスをする。

「んっ、は、ちゅ、詩織……?」
「行動で示してみましたけれど、どうですか?」
「……っ」

 レーシュが僅かに息を詰まらせる。そうしてから、レーシュは詩織の胸を軽く叩いた。あまり痛くはない。恐らく加減されているのだろう。

「レーシュさんの見た目も、性格も、私は大好きなので、こういうこと、沢山出来ます。レーシュさんが良いなら、もっと沢山」
「……君は、俺が、子どもの見た目で……普通に性欲持ってること、気持ち悪く、ないのか?」
「でも、キンドってそもそもそういう種族なんじゃないんですか? レーシュさんは今きちんと大人なんでしょう。だから私も、今のレーシュさんが、好きですよ」

 キンドであるレーシュは、子どもの背格好をしている。けれどそれはキンドにとって普通で、キンドはその姿で大人なのだ。
 だから、性欲を持って居ようが、それこそ酒を飲もうが何をしようが、大人なのだから問題は無い、と、詩織は思う。
 小さく唇を重ねる。そうしてから、不意に詩織は笑った。

「唇かさかさしてる」
「……うるさい」

 少しばかり怒ったような声が返ってくる。レーシュは口元を指先で軽く拭った後、そのまま詩織の首元に腕を寄せた。ちゅ、と唇を食むように軽くキスをして、それから「……行動で、もう少し、示して欲しい」とだけ言う。
 詩織は頷く。一緒に気持ち良くなりましょうね、と囁いて、舌先を絡ませながら、萎えがちの陰茎を優しくすりすりと撫でた。柔らかな熱を孕んでいたそれは、詩織の愛撫によって少しずつまた堅さを増していく。

「んっ、ふ……、は、それ、凄く、気持ちいい……」

 とろけるような甘い声がレーシュの喉から漏れる。詩織の手や指の動きに懸命に反応してくれるレーシュがとてつもなく愛おしくて、詩織はレーシュの名前を呼んだ。そうしてから、首元や薄い胸板にそっとキスを落とす。そうしてから、詩織は自身の衣服をくつろげた。
 女性らしいしなやかな肢体が露わになる。そうしてから、レーシュの上に乗り、レーシュの体を潰さないようにしながら、腰を軽く動かした。立ち上がった陰茎を、陰部で扱くようにして動かすと、レーシュが小さく息を漏らす。

「あっ、ふ、詩織、きもちい……。んっ、んっ、は、凄い、包まれてる、みたいで、もう……っ」
「ん、私も気持ちいい、です、レーシュさん」

 レーシュが舌を伸ばす。ちゅ、とその舌に吸い付くようにして、詩織は腰を少しばかり小刻みに動かす。芯を持った陰茎が、自身の陰部を擦るように動くのがとてつもなく気持ち良い。ゆっくりとした動きは、次第に少しだけ早さを増していく。レーシュの手が詩織の腰のあたりを優しく撫でる。その手つきに背筋がぞわぞわと粟立つのがわかった。どうしようもなく興奮しているのが、詩織自身にも強く感じられる。

「はっ、あ、レーシュさんっ。好き、好きです、んっ、あっ、んぅ……ッ」
「詩織――可愛い、顔、んっ、く、詩織……っ、キス、したい、沢山……」

 レーシュが僅かに声を詰まらせながら詩織を呼ぶ。優しく背を撫でる指先に誘われるように、詩織はレーシュにキスをした。レーシュの舌先が、詩織の口内に恐る恐るといった様子で触れ、ゆっくりと内壁をくすぐるように愛撫していく。口の中から伝わる心地よさと気持ちよさに、詩織の思考が少しずつふやけていくような気持ちがした。背中を撫でていた指先が動いて、詩織の胸に触れる。やわやわと、優しく揉むように愛撫されて、それがとても気持ち良い。

「ん、好き、れ、すっ、レーシュさん……っ」
「ちゅ、俺も、……俺も、好き、好き、詩織……」

 下腹部に灯る熱が、少しずつ苛烈なものになっていく。お互いの中心をこすりつけるように腰を動かし、詩織は小さく息を飲んだ。

「イき……っ、そう、レーシュさ、んっ……」
「ふ、あっ、あっ、俺も、俺も、ごめ、すぐ、イっちゃ、あっ、んっ」

 レーシュの腹部がびくりと震える。ついで、腰が動いた。詩織の陰部に陰茎を押しつけるようにして、レーシュは吐精する。詩織も、ぐるぐると渦巻いていた熱がぱちりと弾けるようにして、達する。零れそうになった声を噛み殺して、詩織は体を震わせた。

 僅かに途切れかけていた呼吸を、ゆっくりと元に戻していく。詩織はレーシュから退こうと体を動かそうとしたが、レーシュがそろりと手を伸ばして詩織を引き留めたので、上手く出来なかった。ベッドに二人して横になる。

 目があった。薄い金色の瞳。それが、愛おしげに詩織を見つめている。だから、詩織も同じように見返した。そうしてから、レーシュの頬に手を伸ばして、軽く摘まむ。直ぐに離して、詩織は小さく笑った。

「……可愛い」
「……またそれを言う」
「嫌ですか?」
「……言われる度に、自分が子どもみたいに思われてるって、思って、嫌だよ。けど」

 詩織は。詩織なら。レーシュは小さく囁いて、それから詩織に体を寄せる。

「……言って、良い」

 その言葉はきっと、レーシュにとって、愛を示す言葉だった。



「あれ」
「何?」

 アレフに買い物を頼まれて、外に出た所で、詩織はレーシュとばったりと出くわした。
 レーシュは仕事関係の道具を購入していたようで、手には荷物がいくつかある。詩織が持ちましょうか、と声をかけようと近づいた瞬間、レーシュが詩織に気付いて顔を上げた。

「何、というか」

 なんだろう、いつも見ている顔と微妙に違いがあるような。詩織は違和感を探るように、じっとレーシュを見つめる。そうしてから不意に、その正体に気付いた。

「唇がぷるぷるになってる!」
「……急に何?」
「だって前までかさかさだったじゃないですか!」

 見た目完全に美少年なのに、唇かさかさしてるのが気になっていたのだ。詩織はじっとレーシュを見つめる。
 レーシュは僅かに眉根を寄せた後、そっと視線を逸らした。そうしてから「前に……、君が言ったからだろ」とだけ続ける。

「唇がかさかさ、かさかさって何度も言われたら流石に治す」
「いやあ……良いと思う。凄く良いと思う」
「何、一体」

 レーシュは小さくため息を零して、そうしてから少しだけ背伸びをして店先に並ぶ瓶を手に取った。中には、やはり、レーシュが仕事に使うであろう素材が入っている。
 それにしたって、唇かさかさ、と確かに言ったものの、まさか直ぐに対応してくるとは思ってもみなかった。詩織はじっとレーシュを見つめ、それから小さく笑う。そうして、レーシュの指に自身の指を絡めた。

「今日お家遊びに行っても良いですか?」
「……勝手にしたら」

 だって君は俺の恋人なんだから、とレーシュは、少しだけ呆れたように言葉を続けた。

(終わり)
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