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「ニコルに幸せにしてもらえる御仁が羨ましいね」

 物思いに耽っていた理子の背に声がかかった。

「……あぁ。お父様ね」

 声の主を察して端的に言い、振り返った。
 詳しく言うならば『お父様が決めた次の婚約者様ね』だ。

「隣に座っても?」
「いいえ、そちらになさって?」

 手のひらで横の席を示す。
 カルロス・アレグリアは肩をすくめて指定されたソファーに腰かけた。

「で? ニコルが幸せにするのは誰? あのフェリクス坊やじゃないんでしょ?」
「私よ」
「なんだって?」
「わ・た・し!! 私が私を幸せにしないで、誰が私を幸せにするというの?」
「へーーー? 恋愛ごっこが大好きで、恋愛小説ばかり読んで、顔だけ王子様のフェリクス坊やと婚約までしたニコルが? やっぱり君、本当に中身が入れ替わったんだね?」
「お父様に聞いたのね」

 理子はニコルに転生した際、父にすべてを話した。
 父は理解したとも言わず、つまらなそうな表情のまま「そうか」と言っただけだった。

 父はニコルを亡き母の形見として大切にしている。
 実に貴族らしい人なので、表立ってニコルを甘やかすこともなければ可愛がることもない。

 他人からは冷めた親子関係に見えるだろう。

「お父様はフェリクス様がいずれ浮気をするだろうとわかっていて婚約者にしたのね……今ならよくわかるわ。止めても無駄だったのよ、ニコルは」

 恋に恋している女の子だ。
 止めればもっと厄介なことになる。
 フェリクスに純潔をささげ、家出でもされたらたまったものではないだろう。

 だからフェリクスと婚約させて、ニコルにはよりいっそう淑女教育を課した。そのかいもあって、ニコルはフェリクスと適切な距離を保っていた。

(体を触ろうとするフェリクスを拒むたびに、モブ顔の癖にって言われてたんだけどね……フェリクスの言いたいことは、モブ顔の癖に勿体ぶってんじゃねぇってところかしら?)

 わかりにくいが、父はニコルが可愛くて仕方がないのだ。
 頃合いでニコルに諦めさせ、予定通りカルロスと婚約させるつもりだったのだろう。

 手塩にかけて後継教育を施した幼馴染のカルロスと――

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