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 そのころ、アルヤに対するゴットロープの態度はますます悪化しており、彼は美しい令嬢たちとの恋をアルヤに隠すことなく楽しむようになっていた。
 アルヤの前でも平気で令嬢の肩を抱き、ときには見せつけるようにキスをしていた。それらはアルヤが読書をするためにベンチに座っているときに行われ、相手の令嬢も面白がって見せつけているようだった。


(我慢しなきゃ……)


 荒れる父と祖父の関係は、修復しそうにない。
 母は心労がたたり、領地に療養へ行ってしまって帰ってこない。
 兄からは手紙すら届かない。
 同じ学園にいても兄のいる建物へ向かう勇気はなく、会ったところで何を言えばいいかもわからないまま月日が流れた。


 コレッティ子爵家がこのような状態のときに、アルヤの婚約まで駄目になってしまったら……大好きな祖父の心が壊れてしまう……。
 そう考えると、とてもじゃないがゴットロープが嫌だなどとは言えなかった。


(お祖父様はベルタ叔母様のことを本当に心配していたから、関係を修復してくれたクリスティーヌ様のことを可愛がるのは当然なのよ……)


 それを寂しく思ったことは、一度や二度ではない。

 コレッティ子爵家の夜会に現れたクリスティーヌは驚くほど華奢で清廉な美少女だった。
 所作が洗練されていて、とても学園に通ってない男爵令嬢には見えなかった。

 それを見て嫉妬もしたし、本当の孫娘は私なのにお祖父様を取られてしまったと心の中で妬み、評判の悪い王太子殿下の愛妾になるなんてお気の毒ね、とまで思った。

 そして。
 そんなふうにクリスティーヌのことを考えれば考えるほど、自分が嫌いになっていく――


 ゴットロープに眼鏡を掛けるよう強要され、容姿へのコンプレックスは日ごと増していったのはこの頃だった。

 アルヤの変化に気付いたのは侍女のネネだけだった。
 祖父も父もコレッティ子爵家の政治的な立場の回復に忙しく、アルヤのことなど見ている暇はない。

 ネネがいくら伝えようとしても、侍女と話している暇など父と祖父にはなかった。
 ネネは母に手紙まで出してくれたようだが、母が帰ってくる気配はない。


(ネネ以外……誰も私を見てくれない……)


 私はこの物語の主人公じゃないんだから、仕方がない――

 そうやって自分の生きる世界を物語に置き換え、自分は煌びやかな注目されるべき主人公ではないからと、アルヤは必死に自分を宥めていた。


 そう思わなければ、壊れてしまいそうだった。

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