【完結】好きでもない婚約者に酔いしれながら「別れよう」と言われた

佐倉えび

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 執筆に夢中になること数か月。
 アルヤはゴットロープのことなど、もはやどうでもいいという心境に至っていた。

(カール君の謎の部分がうまく展開できない……)

 なんたってアルヤ自身が平凡な人生を送っているのだ。
『転』の部分など、思いつくのは一苦労だ。
 しかも高位貴族や王家のことなんてわからない。
 末端の子爵令嬢が王宮に行くことなど、デビュタント以来ないのだから。

(あーー。城の庭園とか散策してみたいなぁ……)

 城の庭園は事前に申請を出して、しかるべき審査を受けて許可書をもらうか、城で働いている人の紹介状(この人がこの時間に来るよ、という書類)があれば通れる。
 ただアルヤにはさっぱり縁のないことだった。

 親友のマーセイディズが、婚約者と一緒に行ったと聞いて羨ましかったのでよく覚えている。
 城の庭園は令嬢たちの憧れのデートスポットだ。

(マーセイディズは幼馴染の婚約者とラブラブだから散策も楽しいよね……)

 煩雑な手続きをこなしたところで、大した会話もないゴットロープと行っても楽しくない。

(そういえばこの間、また私の悪口で盛り上がってたなぁ……しかもアレ、不敬だよねぇ……)

 ゴットロープは相変わらずアルヤに見せつける。
 それは令嬢との戯れにとどまらず、先日は令息との悪口を聞かされた。

「王太子殿下、ビョーキになったらしいな?」
「そうそう、お妃様たちは降嫁でご愛妾様は下賜だって」
「えーーー。マジかよ、羨ましいー。ご愛妾様って、すげえ可憐な美少女だって話……っつうかさ、お前の婚約者の親戚じゃなかった?」
「それな」
「残念だったな……ちょっと間違えば、お前が婚約者だったかもな?」
「俺が何度も考えたことを、お前が言うなよ」
「悪い悪い。とはいえ、男爵令嬢ならワンチャンあるけど、今はもう身分がなー。俺ら子爵令息……しかも功績のない学生じゃ、下賜はしてもらえないよなぁ」
「噂じゃ宰相閣下が娶るとか言われてるんだぜ?」
「マジかよ、いくら天才でも三十過ぎのおっさんじゃん!!」
「でもカヌレ伯爵家だよ」
「あぁぁぁぁああああ、金も地位も名声も実力もある……」
「そうそう、俺らには到底及ばないやつだよ……なんだよ、お気の毒に、みたいな顔すんなよ」
「いやだって、俺はさ、どのみち掠りもしねぇけど、お前は婚約者の親戚っていう、かなり惜しい位置にいたわけだし?」
「ほんっと、あいつ、うぜぇから!!」
「まぁまぁ、ほら、あそこで本なんか読んじゃって、健気じゃん……遠くから見れば、見れなくもない……あぁ聞こえたかな……どっか行っちゃうみたいだよ? 追わなくていいの?」


「追わなくていいの?」の後に続く、ゴットロープの言葉には耳を塞いだ。
 嫌な気持ちになる言葉は耳を塞げばいいし、見たくない場面は視界から外せばいい。
 ゴットロープへの恋心など初めからないアルヤにとっては簡単なことだった。

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