【完結】好きでもない婚約者に酔いしれながら「別れよう」と言われた

佐倉えび

文字の大きさ
22 / 35

22

しおりを挟む

 アルヤはそんなカールが眩しく見えてしまい、伏し目がちになりながら呟いた。

「私はカール様にそんなふうに言ってもらえるような人間じゃないんです」
「どうしてそう思うの?」
「ずっと……従妹に嫉妬していて、お祖父様を取られてしまったような気持ちになって、そんな自分が嫌いでしたから」
「それって、僕がアルヤさんを好きだと思う気持ちには何の影響もないよね?」
「ない……んでしょうか」

 アルヤは自分を許せないでいる。

 バルト男爵家は新興貴族だから、社交界では軽く見られがちだ。
 その上、クリスティーヌは庶子だ。
 貴族社会の厳しさを思えば、彼女の立場は相当危ういものだっただろう。祖父の庇護が彼女の助けになったのなら、同じ世界で生きる令嬢として喜ぶべきだったのだ。

 アルヤは小説を書くようになってからそんなふうに考えるようになっていた。



「まったく、なんの影響もないね。むしろアルヤさんは寂しかったんだろうな、としか思わないなぁ」
「でも、私は見目の評判も悪くて」
「なおさらどうでもいいかなぁ。僕の周りが煌びやか過ぎて、もはや美醜の感覚がなくなるレベル」
「はぁ……それは確かにそうですね……」

 タルコット公爵家は、当主夫妻はもちろん、侍女やメイドまで美人だった。

「そういうアルヤさんこそ、僕よりベルツ子爵令息のほうが金髪碧眼でかっこいいって思ってるんじゃないの?」

 ゴットロープをカッコいいと思ったことはない。
 むしろ表情や態度が醜くて嫌いだった。
 アルヤは正直にそれを伝えるとカールはものすごくいい顔で笑った。

「もう答えなんか出てるじゃん。アルヤさんはヒーローにするぐらい僕に興味があって、僕はアルヤさんをお嫁さんにしたいぐらい可愛いと思ってる。やっぱり『にくまん』最高」

 そう言いながら頬をふにふに触られた。
 男性に頬を触られたことなどないので、すごく恥ずかしかった。

「そういえばカール様を追いかけていたアーレ伯爵令嬢、最近見ませんね?」

 恥ずかしさを誤魔化すために、見かけなくなったドミニカ・アーレ伯爵令嬢の名を出すと、カールの表情がすっと冷たい雰囲気になった。

「お父上の借金が膨らみ過ぎて、娼館に売られたよ」
「そんなっ……」
「彼女は気に食わない令嬢を階段から突き落としたり……そういうことをしてた問題の多い令嬢だったけど……だからって売られていいかと言われれば、よくはないかなぁ……それこそ修道院に行って反省を促したほうがいいような気がするけど……でも、世の中にはそういう親もたくさんいるんだよね。うちはかなり貧乏な男爵家だけど、父上は『貧乏暇なし、お前らせっせと働けー』とか言う人でよかったよ」

 眉を下げたカールの瞳には悲しみが見えた。

「私は恵まれてますね……」
「うん。すごくいい方たちだよね。僕はコレッティ子爵家が大好きだよ」
「ありがとうございます。説明が足りませんけど」
「そこは改善点だね」
「はい。帰ったらお父様たちと話します」

 力強く言い切ったアルヤに、カールは微笑みながら頷いてくれた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない

くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、 軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。 言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。 ――そして初めて、夫は気づく。 自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。 一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、 「必要とされる存在」として歩き始めていた。 去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。 これは、失ってから愛に気づいた男と、 二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。 ――今さら、遅いのです。

白い結婚を捨てた王妃は、もう二度と振り向かない ――愛さぬと言った王子が全てを失うまで』

鍛高譚
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」 華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。 王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。 そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。 レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。 「お願いだ……戻ってきてくれ……」 王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。 「もう遅いわ」 愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。 裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。 これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。

双子令嬢の幸せな婚約破棄

石田空
恋愛
クラウディアは双子の妹のクリスティナに当主の座と婚約者を奪われ、辺境の地に住まう貴族の元に嫁ぐこととなった……。 よくある姉妹格差の問題かと思いきや、クリスティナの結婚式のときにも仲睦まじく祝福の言葉を贈るクラウディア。 どうして双子の姉妹は、当主の座と婚約者を入れ替えてしまったのか。それぞれの婚約者の思惑は。 果たして世間の言うほど、ふたりは仲違いを起こしていたのだろうか。 双子令嬢の幸せな婚約破棄の顛末。 サイトより転載になります。

死に物狂いで支えた公爵家から捨てられたので、回帰後は全財産を盗んで消えてあげます 〜今さら「戻れ」と言われても、私は隣国の皇太子妃ですので〜

しょくぱん
恋愛
「お前のような無能、我が公爵家の恥だ!」 公爵家の長女エルゼは、放蕩者の父や無能な弟に代わり、寝る間も惜しんで領地経営と外交を支えてきた。しかし家族は彼女の功績を奪った挙句、政治犯の濡れ衣を着せて彼女を処刑した。 死の間際、エルゼは誓う。 「もし次があるのなら――二度と、あいつらのために働かない」 目覚めると、そこは処刑の二年前。 再び「仕事」を押し付けようとする厚顔無恥な家族に対し、エルゼは優雅に微笑んだ。 「ええ、承知いたしました。ただし、これからは**『代金』**をいただきますわ」 隠し金庫の鍵、領地の権利書、優秀な人材、そして莫大な隠し資産――。 エルゼは公爵家のすべてを自分名義に書き換え、着々と「もぬけの殻」にしていく。 そんな彼女の前に、隣国の冷徹な皇太子シオンが現れ、驚くべき提案を持ちかけてきて……? 「君のような恐ろしい女性を、独り占めしたくなった」 資産を奪い尽くして亡命した令嬢と、彼女を溺愛する皇太子。 一方、すべてを失った公爵家が泣きついてくるが、もう遅い。 あなたの家の金庫も、土地も、働く人間も――すべて私のものですから。

婚約破棄されたので公爵令嬢やめます〜私を見下した殿下と元婚約者が膝をつく頃、愛を囁くのは冷酷公爵でした〜

nacat
恋愛
婚約者に裏切られ、蔑まれ、全てを失った公爵令嬢リリアナ。 「あなたのような女、誰が愛すると?」そう言い放った王太子と元友人に嘲られても、彼女は涙を見せなかった。 だが、冷たく美しい隣国の公爵セドリックと出会った瞬間、運命は静かに動き出す。 冷酷と噂された男の腕のなかで、彼女は再び自分を取り戻していく。 そして――彼女を捨てた者たちは、彼女の眩い幸福の前に膝をつく。 「これは、ざまぁを通り越して愛された令嬢の物語。」

遊び人の令嬢が目を付けたのは、私の真面目な婚約者でした

おいどん
恋愛
子爵家の令嬢エリーネと伯爵家の次男のノルトが婚約を結んだのは、半年前だった。 真面目で優秀なノルトに相応しい婚約者であろうとするものの、エリーネには自信がなかった。 ある日、遊び人と噂の令嬢べルティーナとノルトが共にいるところを見てしまう。 「真面目クンは壁さえ破っちゃえばこっちのもんだからね〜」 「きっと、彼女の美しさに嫉妬しているのだわ…」 「…今度は、ちゃんと言葉にするから」

ヴァンパイア皇子の最愛

花宵
恋愛
「私達、結婚することにしたの」 大好きな姉と幼馴染みが結婚したその日、アリシアは吸血鬼となった。 隣国のヴァンパイア皇子フォルネウスに保護されて始まった吸血鬼生活。 愛のある結婚しか許されていないこの国で、未来の皇太子妃として期待されているとも知らずに…… その出会いが、やがて世界を救う奇跡となる――優しい愛の物語です。 イラストはココナラで昔、この小説用に『こまさん』に書いて頂いたものです。 詳細は下記をご覧ください。 https://enjoy-days.net/coconara

『悪役令嬢は、二度目の人生で無言を貫く。~処刑回避のために黙っていただけなのに、なぜか冷徹宰相様から「君こそ運命の人だ」と溺愛さています~』

放浪人
恋愛
「もう、余計なことは喋りません(処刑されたくないので!)」 王太子の婚約者エリスは、無実の罪を着せられた際、必死に弁解しようと叫び散らした結果「見苦しい」と断罪され、処刑されてしまった。 死に戻った彼女は悟る。「口は災いの元。二度目の人生は、何があっても口を閉ざして生き延びよう」と。 しかし、断罪の場で恐怖のあまり沈黙を貫いた結果、その姿は「弁解せず耐え忍ぶ高潔な令嬢」として称賛されてしまう。 さらに、人間嫌いの冷徹宰相クラウスに「私の静寂を理解する唯一の女性」と盛大な勘違いをされ、求婚されてしまい……!? 「君の沈黙は、愛の肯定だね?」(違います、怖くて固まっているだけです!) 「この国の危機を、一目で見抜くとは」(ただ臭かったから鼻を押さえただけです!) 怯えて黙っているだけの元悪役令嬢と、彼女の沈黙を「深遠な知性」と解釈して溺愛する最強宰相。 転生ヒロインの妨害も、隣国の陰謀も、全て「無言」で解決(?)していく、すれ違いロマンティック・コメディ! 最後はちゃんと言葉で愛を伝えて、最高のハッピーエンドを迎えます。

処理中です...