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第5話 生きてたらまた会おうぜ
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「虹治、うしろ!!」
「アリとチョウとでアリガチョウ!!」
背後から来た敵の脳天にきらりと光るつるぎ(ハエ叩き)を下ろす。今では笑い転げているときをねらわなくても、虫をはたき落せるようになった。けど、やっぱり何かを叫ばないと勢いに乗りきれない。
「お見事! 流れるような突きね」
「にしてもそのオヤジギャグはなんとかなんねーのか?」
「いやあ、何か言わないとしっくりこなくて」
おれたちは何度となく窮地に立たされながらそのたびにピンチを切り抜け、やっとこの要塞までやってきた。その間にも虫の呪いは世界に蔓延して、大変なことになっていた。虫に憑かれて自我を失くした人たちが、末期症状なのか、とってもアグレッシブになってしまったのだ。手当たり次第にものを投げつけて来たり、奇声を上げて体当たりしてきたり、羽交い絞めにしようと抱きついて来たり(これが精神的に一番怖い)。しかも標的は狭山家の血を引くおれたちだけ。
そんなことをやっているあいだにも、あっちの窓やこっちの棚かげから、頭に虫を乗せた無表情の衛兵が詰め寄ってくる。いやむしろ、人面虫のほうが本体で人はそれに操られているといったほうがいい。
「くそ、マジで虫みたいに沸いてくるな」
颯也が銃を乱射する。いいなあ、あっちの方がかっこいい。
「虹治、ここは私と颯也にまかせて先に進んで!」
「それ、このあと死ぬやつが言う台詞だろ? やめてくれよ」
「死ぬつもりはないわ。でも、虹治がお父さんを説得してくれなきゃ終わらないでしょ」
「おい、道ができたぞ。速く行け」
颯也が今しがた気絶させた人間を足でどけた。
「仲間をおいて行けるか!」
「きれいごと言ってる場合じゃないでしょ!」
「ったく面倒くさいやつらだな」
颯也がおれと螢子を細い通路に突き飛ばした。
「螢子、お前のスプレーそろそろガス欠だろ。だったらそいつのそばにいてやった方がまだ役に立つぜ」
扉が閉じていき、すき間から聞こえる颯也の声が遠くなる。
「じゃあな。生きてたらまた会おうぜ」
「颯也あぁぁぁぁぁぁぁ!!」
ガタンと重たい音が響く。
「あいつ、自分だけいいかっこしやがって!……」
「最期までとても勇敢だったわね……」
扉の向こうで「まだ死んでねーよ!!!」という叫び声がかすかに聞こえる。
通路は途中で階段に変わり、だだっ広い廊下に出た。壁には昆虫の写真や絵が飾ってあり、ところどころにカブトムシやクワガタの彫像が立っていた。いや甲冑じゃなくて甲虫かよと心の中で突っ込む。
「ここからはひとりで行くよ」
「え、でも……」
「相手が父さんとはいえ、今はどんな危険な人物に変貌してるかわからない。おれに何かあったら、すぐにここから逃げるんだ。いい?」
「……わかった。でも、私の力で何とかできると判断したときは迷わず飛び出すわ」
「だめって言っても聞かないんだろうな」
「よくわかってるじゃない」
螢子が優しく手を握った。こんなことは人生で初めてだった。神様が最期に情けをかけてくれたのかもしれない。
「きっとうまくいくわ。私たちがやってきたことは無駄じゃない」
「ああ、父さんを笑わせてみせるよ」
ハエ叩きソードを握り直し、両扉を押す。
……開かない。
「虹治、これスライド式だわ」
「7行前からやり直していい?」
「アリとチョウとでアリガチョウ!!」
背後から来た敵の脳天にきらりと光るつるぎ(ハエ叩き)を下ろす。今では笑い転げているときをねらわなくても、虫をはたき落せるようになった。けど、やっぱり何かを叫ばないと勢いに乗りきれない。
「お見事! 流れるような突きね」
「にしてもそのオヤジギャグはなんとかなんねーのか?」
「いやあ、何か言わないとしっくりこなくて」
おれたちは何度となく窮地に立たされながらそのたびにピンチを切り抜け、やっとこの要塞までやってきた。その間にも虫の呪いは世界に蔓延して、大変なことになっていた。虫に憑かれて自我を失くした人たちが、末期症状なのか、とってもアグレッシブになってしまったのだ。手当たり次第にものを投げつけて来たり、奇声を上げて体当たりしてきたり、羽交い絞めにしようと抱きついて来たり(これが精神的に一番怖い)。しかも標的は狭山家の血を引くおれたちだけ。
そんなことをやっているあいだにも、あっちの窓やこっちの棚かげから、頭に虫を乗せた無表情の衛兵が詰め寄ってくる。いやむしろ、人面虫のほうが本体で人はそれに操られているといったほうがいい。
「くそ、マジで虫みたいに沸いてくるな」
颯也が銃を乱射する。いいなあ、あっちの方がかっこいい。
「虹治、ここは私と颯也にまかせて先に進んで!」
「それ、このあと死ぬやつが言う台詞だろ? やめてくれよ」
「死ぬつもりはないわ。でも、虹治がお父さんを説得してくれなきゃ終わらないでしょ」
「おい、道ができたぞ。速く行け」
颯也が今しがた気絶させた人間を足でどけた。
「仲間をおいて行けるか!」
「きれいごと言ってる場合じゃないでしょ!」
「ったく面倒くさいやつらだな」
颯也がおれと螢子を細い通路に突き飛ばした。
「螢子、お前のスプレーそろそろガス欠だろ。だったらそいつのそばにいてやった方がまだ役に立つぜ」
扉が閉じていき、すき間から聞こえる颯也の声が遠くなる。
「じゃあな。生きてたらまた会おうぜ」
「颯也あぁぁぁぁぁぁぁ!!」
ガタンと重たい音が響く。
「あいつ、自分だけいいかっこしやがって!……」
「最期までとても勇敢だったわね……」
扉の向こうで「まだ死んでねーよ!!!」という叫び声がかすかに聞こえる。
通路は途中で階段に変わり、だだっ広い廊下に出た。壁には昆虫の写真や絵が飾ってあり、ところどころにカブトムシやクワガタの彫像が立っていた。いや甲冑じゃなくて甲虫かよと心の中で突っ込む。
「ここからはひとりで行くよ」
「え、でも……」
「相手が父さんとはいえ、今はどんな危険な人物に変貌してるかわからない。おれに何かあったら、すぐにここから逃げるんだ。いい?」
「……わかった。でも、私の力で何とかできると判断したときは迷わず飛び出すわ」
「だめって言っても聞かないんだろうな」
「よくわかってるじゃない」
螢子が優しく手を握った。こんなことは人生で初めてだった。神様が最期に情けをかけてくれたのかもしれない。
「きっとうまくいくわ。私たちがやってきたことは無駄じゃない」
「ああ、父さんを笑わせてみせるよ」
ハエ叩きソードを握り直し、両扉を押す。
……開かない。
「虹治、これスライド式だわ」
「7行前からやり直していい?」
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