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1.みんなのヒミツ

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 ぼくが知ってるお母さんのヒミツ。
 お母さんは、お父さんが昔ゴルフの大会でもらったトロフィーを漬物石にしている。
「大きさも重さもちょうどいいのよね」と、お母さんは言う。


 ぼくが知ってるお父さんのヒミツ。
 お父さんはときどき、お姉ちゃんが小さかったころのアルバムを見て泣いている。
「昔はこんなに懐いてたのになあ。いつも、『パパ抱っこ~』ってくついてきてさぁ……」
 ぼくが物心ついたころには、お姉ちゃんはもうパパのことをパパとは呼ばなくなっていたし、抱っこどころか触られるのもいやそうにしていた。だから、お父さんの言ってることが本当かどうかは、ぼくにはわからない。


 ぼくが知ってるお姉ちゃんのヒミツ。
 お姉ちゃんは、ダイエット中だと言いながら、仏壇にお供えしてあるまんじゅうをこっそり食べている。
 ぼくが戸口からじーっと見ていると、「しーっ、みんなにはナイショ!」と言って、ぼくにもこっそりおやつをくれる。


 ぼくが知ってるユウトのヒミツ。
 弟のユウトは、お化けをとても怖がっている。
「仏壇のまんじゅうがいつのまにか減っているのはね、おじいちゃんが食べちゃったからだよ」というお姉ちゃんの話を信じて、仏間には絶対にひとりで入らないようにしている。遺影の中のおじいちゃんは笑顔だけれど、ユウトはいつも目を合わせない。


 ぼくが知ってるおじいちゃんのヒミツ。
 おじいちゃんはお彼岸とお盆のとき以外でも、たまに家に来ている。
 こたつでうとうとしているおばあちゃんに話しかけて、おばあちゃんが適当に相づちを打つのを楽しんでいる。
 ぼくがじーっと見ていると、「お前もでっかくなったなあ」と頭をなでてくれる。


 ぼくが知ってるおばあちゃんのヒミツ。
 おばあちゃんは昔、歌手になるのが夢だった。
 今でも気が向けば、ぼくにだけ歌ってくれる。お父さんや、お母さんや、お姉ちゃんの前では恥ずかしくてダメみたい。


 ぼくとお母さんのヒミツ。
 お母さんはみんなが留守にしているとき、高級なお菓子をひとりでこっそり食べている。
 ぼくがじーっと見ていると、「みんなにはナイショだよ」と言ってぼくにもおやつをくれる。やっぱり、お姉ちゃんはお母さんの子だなって思う。


 ぼくとお父さんのヒミツ。
 お父さんは夜な夜な起きてきて、こっそり晩酌をすることがある。ぼくがじーっと見ていると、「みんなにはナイショだぞ」と言って、ぼくにもビーフジャーキーを分けてくれる。ぼくはこのビーフジャーキーが大好きだ!


 ぼくが知ってるお父さんのヒミツ。
 お父さんの靴下は、とてもクサい。


 ぼくとユウトのヒミツ。
 ぼくたちが庭で一緒にボール投げをして遊んでいたときに、ユウトが投げたボールが、アヤメの茎をぽっきり折ってしまったこと。今はセロハンテープでとめてある。
 ぼくはユウトと血のつながりはないけれど、ユウトのことは本当の弟みたいに大事に思っているんだ。だから、このヒミツは絶対に守り抜かなくちゃ! 早く強い風が吹いて、うやむやにしてくれるといいんだけどなぁ。


 ぼくが知ってるあの日のヒミツ。
 ぼくがこの家に初めて来た日、お父さんとお母さんはケンカしていてサイアクの雰囲気だったけど、ぼくがカーペットにお漏らししたことで、ふたりともそれどころじゃなくなった。ぼくが家じゅう走りまわると、小さなお姉ちゃんも一緒になって大はしゃぎした。お父さんとお母さんがどうやって仲直りしたのかは、ぼくの口からは言えない。でもそれからしばらくして、ユウトが生まれたんだ。


 ぼくとお姉ちゃんのヒミツ。
 毎週土曜日の午後、お姉ちゃんとぼくは一緒にどんぐりの木の公園まで散歩をする。ポメラニアンを連れた、大学生のお兄さんに会うために。
 お姉ちゃんはこのとき、いつも甘い香りをまとっている。


 ぼくが知ってるポメ太郎のヒミツ。
 ポメ太郎はお姉ちゃんになでてもらうのがとても好きだ。いつもしっぽをぶんぶん振り回してるから、ヒミツだと思ってるのはポメ太郎だけだけど。


 ぼくが知ってるお兄さんのヒミツ。
 お兄さんはバイト先のパン屋さんの、ふわふわの髪のお姉さんに恋をしている。でも、勇気がなくて気持ちはまだ伝えていない。ポメ太郎が言うには、ぼくのお姉ちゃんのほうがもっとかわいいって。ぼくもそう思う。

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