やさしい桃太郎、鬼退治へ行く

文月みつか

文字の大きさ
9 / 9

第9話 黍団子は永遠に

しおりを挟む
 あれほどたくさんあった宝はあっという間にその場にいた村人たちが持ち去ってしまい、残ったのは重たい石臼だけだった。

「いいのかよ。あれはお前がもらったものだったのに」

 サルが言った。

「ええ、どうせあんなにたくさん持ち帰れませんから。かえって身軽になってよかったです」

「石臼を抱えて身軽って言っちゃうところがすごいよねー」

 キジは逃げ回って疲れたのか、桃太郎が抱える石臼の上にとまっていた。

「呆れるほど懐の深いやつだな。嫌いじゃないが」

 そういうイヌの首には、さきほどの争奪戦で棚ボタ的に手に入れた、赤い絹のスカーフがまかれていた。

「ところでみなさん、帰らないんですか? そろそろ僕の家についてしまいますけど」

「あったりめーだ! 褒美は山分けって言っただろ」とサル。

「いや、僕は特に何もしていないですし、褒美がもらえるとは限りませんよ……」

「だとしても、オイラは何か食わせてもらうまでは帰らないからな」

「サルが行くなら私も見張りに行かねばならない。桃太郎にはかなわなくても、お年寄りをだます魂胆かもしれないからな」

「んなことしねーよクソ犬」

「寂しいこと言いっこなしだよ桃さん。オレたちの仲じゃん。今日は晩御飯くらいごちそうになっていくよ」

「……餌付けってむやみにするもんじゃないですね。でも長旅に付き合ってくれたのだから、キジさんの言うとおり夕飯くらいはごちそうしなきゃですね。ただし、おじいさんとおばあさんをびっくりさせちゃダメですよ」


 一行はまもなく桃太郎の育った小さな家にたどりついた。

 桃太郎は小さく深呼吸して、家の戸を開けた。

「おじいさん、おばあさん、ただいま戻り……」

「おい、早まるんじゃない! 頼むから落ち着いて、その鉈を下ろしてくれ」

「あの子がいなければ私は生きてゆけないんです! あなただって同じでしょう? さあ、もう覚悟を決めてくださいな。でもあなたを殺ったあと私もすぐに行くから、安心してくださいまし」

 ばあさんは鉈をぎゅっと握り直し、壁際のじいさんに一歩近づいた。

「あっ、桃太郎帰ってきたのか! 助けてくれ、ばあさんが情緒不安定で……」

 桃太郎はゆっくりと戸を閉めた。

「……いいのか? 止めに入らなくて」

 サルが心配そうに言った。

「いつものことなので。少し時間が経てばおさまるから大丈夫です」

「なかなかの衝撃だったな。じいさんのすがるような目を見たか?」

 そのとき続けざまに悲鳴があがり、イヌはぶるっと身震いした。

「桃さん、こんなところで育ったんだ。鬼をも恐れぬはずだよ」

 キジはてくてくと最後尾にまわった。

 ほどなくして、戸口が内側からすっと開けられ、にこやかなばあさんが出迎えた。

「おかえり桃太郎! 遅かったじゃないか。心配してたんだよ」

「ただいまおばあさん。すみません、鬼ヶ島は思ったより遠くて。でもお土産も持ってきたんで、許してください」

「無事に帰ってきただけで十分だよ。おや、そっちはお友達かい? つっ立ってないでお上がり」

 イヌ、サル、キジはさきほどのことで少し腰が引けていたが、桃太郎にうながされ囲炉裏を囲んで座った。

「私はね、あんたがちゃんと役目を果たして帰ってくると信じていたんだよ。でも万が一ってときのために、心の準備だけはしておこうと思ってね。そしたらちょうどあんたがひょっこり現れて驚いたのなんの」

「びっくりしたのはこっちの方だが……ところで、あれは放っておいていいのか?」

 イヌが壁に刺さった鉈の下で膝を抱えているじいさんを見やった。

「いいんだよ、いっつもフラフラしてんだから。たまに反省してもらわないと。この前地主さんにもらったお金だって勝手に持ち出して全部使っちまうし。しょうのない人でしょ? なんて、私らのつまらない話なんかいいんだよ。あんたたちの積もる話を聞かせておくれ」

 桃太郎は旅の一部始終を話して聞かせた。たびたびイヌ、サル、キジが口をはさみ、あることないこと言うので、冒険譚は実際より何倍も壮大かつ武勇にとんだものになった。

「まあまあ、それは大変な旅路だったねえ。この勇敢なお友達がいなきゃどうなっていたかわからないよ」

「まったくだな。何かお礼をしなければ」

 このときにはじいさんもすっかり調子を取り戻していた。

「といっても、うちには大したごちそうもないんだけどね。黍団子だけは作れるから、たくさん食べておくれ」

 3匹はとても喜んだ。

「あ、おばあさん、それならお土産にもらった石臼で粉を挽きましょう。重いから僕がやりますね」

「やっぱりあんたがいると頼もしいねえ」

 桃太郎は黍の実をほんの少し臼に入れ、取っ手を回した。すると、きめ細かな白い粉が次から次へとあふれ出てきた。

「ど、どうなっているんでしょう? 明らかに入れた分より増えてますよこれ」

「さすが鬼のくれた石臼。ただものじゃないな」とサル。

 桃太郎が石臼を回さなければ粉も止まり、回し続ければ無限に出てくるのだった。

「楽しそうだな! どれ、俺もやってみよう」

 じいさんが代わって取っ手をつかんだが、石臼はびくともしなかった。

「そんじょそこらの奴には扱えないということか。ふむ……」

 じいさんはあごに手をやった。

「これってきっとすごく高価なものですよね? いいんですかねえ? 返してきた方が……」

「いや、かえって失礼っしょ」とキジ。

 とにもかくにもその粉で黍団子を作ってみると、これが大変おいしかった。

「前からおばあさんの作る黍団子はおいしいと思ってましたけど、なんだかグレードアップしてますね」

「はあ、オイラお腹いっぱいだ。幸せー」

 サルもイヌもキジも、満腹になるまで食べた。

「はは……すごいぞ、こいつは一儲けできる!」

 じいさんは立ち上がった。


 それからしばらくして、地主から受け取った褒美を元手に、一家は団子屋を構えた。地主は桃太郎を婿養子にする話を熱心にすすめたが、桃太郎は丁重に断り、精力的に店を手伝った。

 団子屋の評判はたちまち国中の人の知るところとなり、長らく繁盛した。この店にはサル、イヌ、キジや、その他の人ならぬものたちもこぞって足を運び、世間話や与太話に花を咲かせたということである。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

処理中です...