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第二章 最強のお兄ちゃんは帝都へ行く
寝言
陽が完全に沈んでしまう前に、僕たちは今日の野営の準備を整えた。少し先にある小高い丘からは、帝都の街並みが既に見えていた。
けれども、東方から帝都へと入るには検問所を通らないといけないらしい。夕方には検問所は閉まるようで、僕たちは明日の午前中に検問所を通過する運びとなった。
「帝都まではこいつらを逃がすことはできねえから、一人ずつ交代で見張りをする。」
「うん!」
夜も更けた頃に、カルサさんが布を張って作った簡易的な天幕の方を見て言った。一つには四人の近衛を押し込めている。もう一つは、ベリル様とカルサさんと僕が寝泊まりするものだけれど、見張り役として一人が外へ出るので実質二人で使うことになる。
「明日には帝都の検問所だから、今日だけだ。どうしても、この地点だけは野宿になっちまうんだよなあ。」
「ここは安全?」
少し開けた森の中は、近くに細い川も流れていて夕食の準備や水浴びなど使い勝手が良かった。その割には人気が少ない。
「ああ。この辺りは見ての通り何もない。さっき丘の方から帝都が見えただろう?大体の旅客は、この先まで行くんだ。だがな、結局のところは検問所の開門時間に間に合わねえから、門の近くで居座ることになる。だったら、少し離れたこの場所の方が水にも不自由しないし、目立つこともないから便利なんだよな。」
「なるほど。安易に人がいる場所に早く向かう必要もないのか。かえって変ないざこざに巻き込まれる可能性もあるもんね!」
「そういうことだ!特に、俺たちみたいな訳ありはな。・・・・コハク、おまえはベリル様と先に休んでおけ。」
「わ、分かった!」
そうは言ったものの、ちょっと気まずいなあ。
ベリル様は結局、ガイトさんの怒り云々の後は一言も口を開かなかった。僕は、道中で気になったことをカルサさんに質問していたけれど、その会話にベリル様が混ざることもなかった。
それに、何となくだけれど、ベリル様は帝都に近づくにつれて存在感を弱めているような気がする。一緒に乗馬していても、ふとベリル様の存在が遠くに感じて、僕は何度か背後を振り返った。その度に目は合ったけれど、すぐに逸らされてしまった。夕食の時もカルサさんとは必要最低限の話しはしたけれど、正直、昼までの雰囲気よりも重い気がする。
仕方あるまい!!!全てはあの近衛たちのせいだ!!!
僕は思い切って天幕の布を僅かにめくって中へと入り込んだ。
既にベリル様は眠っていた。掛け布の隙間からきらきらと輝く銀髪がのぞいている。
わあっ・・・・きれい・・・・
「タツノキミさん・・・・」
僕は思わず、その髪に手を伸ばしかけて引っ込めた。いけない。早く寝よう。
いそいそと自分の掛け布を引っ張って、目を閉じた。
◇◇◇
「・・・・っ!!!」
やっぱり何故だか心臓がドキドキと脈打って上手く眠れない時に、隣りから、か細い呻き声が聞こえた。
「ベリル様・・・・?」
僕はそっと起き上がって、ベリル様の方を見た。ベリル様は額に薄っすらと汗をかき、浅い呼吸を繰り返していた。
「し、失礼します!」
本当は起こしたり声をかけたりしない方が良いのだけれど、あまりにも切なそうなので、僕はベリル様の背中をなるべく静かに撫でた。
ベリル様は背中を丸めるようにして寝ていたけれど、呼吸が整っていくと徐々にその身体から不自然な力が抜けていった。
よかった・・・・。どうか、夢の中は穏やかでありますように。
「・・・・アンバー?」
縋るように呼ばれた、僕だけど僕じゃない名前にドキリとした。
「・・・・ベリル様。もう大丈夫だよ。」
小さな声で、かつてアンバーだった時のような口調と共に背中をぽんぽんすると、ベリル様は再び深い眠りへと落ちて行った。
(よかったぁ・・・・)
ほっとしたけれど、僕の心臓はキュッと締め付けられるように痛み出した。
◇◇◇
「コハク!そろそろ朝飯の準備するぞー!」
「あれっ?・・・・見張りは?」
カルサさんの声でハッと意識が覚醒した。どうやらいつの間にか眠っていたようだ。天幕の隙間から入ってくる光で、今が朝だと理解した。
「一晩だけだからな。俺一人で充分だった。」
「そんなあ・・・・」
カルサさん、一睡もしないで近衛四人の天幕の前で見張りをしていたのか。本人はどうってことないような顔をしているけれど、起こしてくれたら良かったのにな。
「それより、おまえ。ベリル様の精神安定剤かなんかなのか?」
「何それ?!」
僕がとぼとぼとしながら小川の水を汲みに行こうとしていると、カルサさんに変なことを言われた。
「いや。別に深い理由はないが、昨日みたいなことがあると大体夜は魘されることが多いからな。無視すれば良いって本人は言ってるけど、睡眠までは制御できねえだろう?」
「そっか。・・・・昨夜は別に何もなかったよ。」
いや、本当はあったけれど何となく言いたくはなかった。
「なら、俺は一晩見張り役をしていて正解だったわけだな。そもそも見張りも俺の仕事だから、別に構わねえんだけどさ。」
始めから交代で見張りだなんて考えてなかったのだろうな、この人。
「カルサさんも今日はどこかで休んでね。」
「今日は帝都だからな。宿にするぞ。」
「宿!」
「コハクは宿に泊まるのも初めてか。」
宿がどう言うものかは知っているけれど、泊まることは初めてだ。僕はブンブン首を縦に振った。野営も楽しかったけれど、宿も楽しみだ。
「うん!・・・・あっ!僕、そろそろベリル様を起こしてくるね!」
「助かる!それが一番骨が折れる仕事だ!」
ベリル様、寝起き悪過ぎるもんね!
僕は水を汲み終えると、まだ起きて来ないベリル様がいる天幕へと走った。
けれども、東方から帝都へと入るには検問所を通らないといけないらしい。夕方には検問所は閉まるようで、僕たちは明日の午前中に検問所を通過する運びとなった。
「帝都まではこいつらを逃がすことはできねえから、一人ずつ交代で見張りをする。」
「うん!」
夜も更けた頃に、カルサさんが布を張って作った簡易的な天幕の方を見て言った。一つには四人の近衛を押し込めている。もう一つは、ベリル様とカルサさんと僕が寝泊まりするものだけれど、見張り役として一人が外へ出るので実質二人で使うことになる。
「明日には帝都の検問所だから、今日だけだ。どうしても、この地点だけは野宿になっちまうんだよなあ。」
「ここは安全?」
少し開けた森の中は、近くに細い川も流れていて夕食の準備や水浴びなど使い勝手が良かった。その割には人気が少ない。
「ああ。この辺りは見ての通り何もない。さっき丘の方から帝都が見えただろう?大体の旅客は、この先まで行くんだ。だがな、結局のところは検問所の開門時間に間に合わねえから、門の近くで居座ることになる。だったら、少し離れたこの場所の方が水にも不自由しないし、目立つこともないから便利なんだよな。」
「なるほど。安易に人がいる場所に早く向かう必要もないのか。かえって変ないざこざに巻き込まれる可能性もあるもんね!」
「そういうことだ!特に、俺たちみたいな訳ありはな。・・・・コハク、おまえはベリル様と先に休んでおけ。」
「わ、分かった!」
そうは言ったものの、ちょっと気まずいなあ。
ベリル様は結局、ガイトさんの怒り云々の後は一言も口を開かなかった。僕は、道中で気になったことをカルサさんに質問していたけれど、その会話にベリル様が混ざることもなかった。
それに、何となくだけれど、ベリル様は帝都に近づくにつれて存在感を弱めているような気がする。一緒に乗馬していても、ふとベリル様の存在が遠くに感じて、僕は何度か背後を振り返った。その度に目は合ったけれど、すぐに逸らされてしまった。夕食の時もカルサさんとは必要最低限の話しはしたけれど、正直、昼までの雰囲気よりも重い気がする。
仕方あるまい!!!全てはあの近衛たちのせいだ!!!
僕は思い切って天幕の布を僅かにめくって中へと入り込んだ。
既にベリル様は眠っていた。掛け布の隙間からきらきらと輝く銀髪がのぞいている。
わあっ・・・・きれい・・・・
「タツノキミさん・・・・」
僕は思わず、その髪に手を伸ばしかけて引っ込めた。いけない。早く寝よう。
いそいそと自分の掛け布を引っ張って、目を閉じた。
◇◇◇
「・・・・っ!!!」
やっぱり何故だか心臓がドキドキと脈打って上手く眠れない時に、隣りから、か細い呻き声が聞こえた。
「ベリル様・・・・?」
僕はそっと起き上がって、ベリル様の方を見た。ベリル様は額に薄っすらと汗をかき、浅い呼吸を繰り返していた。
「し、失礼します!」
本当は起こしたり声をかけたりしない方が良いのだけれど、あまりにも切なそうなので、僕はベリル様の背中をなるべく静かに撫でた。
ベリル様は背中を丸めるようにして寝ていたけれど、呼吸が整っていくと徐々にその身体から不自然な力が抜けていった。
よかった・・・・。どうか、夢の中は穏やかでありますように。
「・・・・アンバー?」
縋るように呼ばれた、僕だけど僕じゃない名前にドキリとした。
「・・・・ベリル様。もう大丈夫だよ。」
小さな声で、かつてアンバーだった時のような口調と共に背中をぽんぽんすると、ベリル様は再び深い眠りへと落ちて行った。
(よかったぁ・・・・)
ほっとしたけれど、僕の心臓はキュッと締め付けられるように痛み出した。
◇◇◇
「コハク!そろそろ朝飯の準備するぞー!」
「あれっ?・・・・見張りは?」
カルサさんの声でハッと意識が覚醒した。どうやらいつの間にか眠っていたようだ。天幕の隙間から入ってくる光で、今が朝だと理解した。
「一晩だけだからな。俺一人で充分だった。」
「そんなあ・・・・」
カルサさん、一睡もしないで近衛四人の天幕の前で見張りをしていたのか。本人はどうってことないような顔をしているけれど、起こしてくれたら良かったのにな。
「それより、おまえ。ベリル様の精神安定剤かなんかなのか?」
「何それ?!」
僕がとぼとぼとしながら小川の水を汲みに行こうとしていると、カルサさんに変なことを言われた。
「いや。別に深い理由はないが、昨日みたいなことがあると大体夜は魘されることが多いからな。無視すれば良いって本人は言ってるけど、睡眠までは制御できねえだろう?」
「そっか。・・・・昨夜は別に何もなかったよ。」
いや、本当はあったけれど何となく言いたくはなかった。
「なら、俺は一晩見張り役をしていて正解だったわけだな。そもそも見張りも俺の仕事だから、別に構わねえんだけどさ。」
始めから交代で見張りだなんて考えてなかったのだろうな、この人。
「カルサさんも今日はどこかで休んでね。」
「今日は帝都だからな。宿にするぞ。」
「宿!」
「コハクは宿に泊まるのも初めてか。」
宿がどう言うものかは知っているけれど、泊まることは初めてだ。僕はブンブン首を縦に振った。野営も楽しかったけれど、宿も楽しみだ。
「うん!・・・・あっ!僕、そろそろベリル様を起こしてくるね!」
「助かる!それが一番骨が折れる仕事だ!」
ベリル様、寝起き悪過ぎるもんね!
僕は水を汲み終えると、まだ起きて来ないベリル様がいる天幕へと走った。
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