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後輩オオカミくんの話3
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「あ、あの、あの……本当に申し訳ありギャンッ!」
テーブルの上のカップと皿が震度4で揺れる。勢い良く振りかぶった頭をしとどにぶつけて、悲しそうな悲鳴をあげながらうずくまる尾高くん。見ているこっちが痛いくらいだ。
「んで、そいつ誰なんだよ。」
目の前の悲劇を意に介さず、半分齧ったショートケーキの苺が刺さったトライデントもといフォークを尾高くんに向けながら僕をじろりとすわった目で睨みつける。口の中にモノを入れたまま喋るなって何度も言っているのに、帰ったら躾が必要だな。
「はぁ……さっきも言ったけど、彼は会社の後輩で」
そう言いながらポチの手を取ってフォークを手繰り寄せ、残りの苺を一口に食べてやった。その瞬間、あ゛あ゛っ!! オレのイチゴ! と悲痛な叫び声。
「今日は僕が誘って食事に付き合ってもらったの。それで」
怒りと悲しみの疾風怒濤が押し寄せて、潤み始めた目尻を親指で掬ってやってから頭をゆっくりと撫でる。相変わらず瞳の奥には燃え盛る炎が映っていたが、垂直にそそり立っていた両耳はやや後ろに傾いていく。
「僕が寒そうにしていたから、尾高くんが暖めてくれていた、それだけ。」
そう言って後頭部を軽くポンポンと叩いた。
「誤解を招くような事をしてしまって……すみません……」
テーブルに突っ伏していた尾高くんが、恐る恐る上目遣いに見上げる。地鳴りの様な唸り声をあげながらも、乱暴に尻尾を振り回しているポチの姿を見て面食らった後に口元が緩む。
「……なに笑ってんだよ。」
羞恥心をかき消すように吐き出された苦し紛れの言葉。
「す、すみません……あ、その、お二人はとてもお似合いだな……なんて。」
続けて小さくすみませんと言って頭を下げる。尾高くんが悪い訳ではないのに謝らせてしまって胸が痛む。誤解も解けただろうから、ちゃんとポチと二人で尾高くんに謝ろう。
「だ、だろっ!? オレとリョウ、似合ってるよなっ!?」
ふんす、と鼻息を吐きながら興奮気味にテーブルに乗り出す。
「ええ、素敵なカップルです。」
尾高くんはふんわりとした笑顔でこたえる。ただ笑顔のはずなのに、どこか物悲しげな表情。それとは正反対のニヤケ面のバカオオカミ。
「カップルっておま……わかってんじゃねえかよ! くくっ……」
そう言って尾高くんの背中をバンバン叩くと、尾高くんは引きつった愛想笑いをしながらこくこくと頷く。
「こら、ポチ。ちょっと……ポチくん? ポチ。ポーチっ!」
舌をでろりと出してにやけているその頬を摘んでから、寝起きの毛布みたいな肌触りのそれを釣り上げるように引っ張っていく。
「おい、ちょっと、リョウ! 痛いって! ひゃめろよぉっ!」
抗議の声には耳を貸さない。
「尾高くん、変な事に巻き込んじゃってごめんね。」
尾高くんからすればとんだとばっちりだろう。折角いい気分で焼肉を食べた帰りにバカでっかくて柄の悪いオオカミに絡まれたんだから。むぐむぐと吠え声を上げるソレをちらちらと見ては申し訳なさそうに、僕の方こそと恐縮する尾高くん。
「って事だから。ポチ、ごめんなさいは?」
バツの悪そうな顔で唸り声をあげた後、鼻を掻いてから尾高くんに向き直る。
「わ、悪かった……な。疑っちまって。」
そう言って頭を下げる。
「僕の方からも、本当にごめんね。」
嫌われても文句言えない。今度何か埋め合わせでもできればいいんだけれど。
「長い間付き合わせちゃってごめん。じゃあそろそろ……」
立ち上がって辺りを見渡した瞬間、周囲の客が一斉に目をそらす。カウンターにいる店員に至っては、背中を向けて肩を震わせている始末だ。あれだけ大声で騒いだらそりゃあ注目の的にもなるよな。店で騒ぎ立てた申し訳無さよりも、恥ずかしくて暫くこの店には来れないなという気持ちの方が少しだけ優っていた。
「じゃあ、尾高くん駅まで送るね。」
会計を済ませた後、ようやく店を出た僕たちは駅に向かって歩き出した。僕が先陣を切って歩き、左手には尾高くん、右手には買い物袋を持ったポチが少し遅れてついてくる。オオカミ2匹を連れて歩いていると、人の波が自然と割れていく。まるで桃太郎か何かになったような、なんとも居心地の悪さを感じる。
「あの、僕もうこの辺で大丈夫ですので……」
堅苦しい沈黙を破ったのは尾高くん。そりゃあ一刻もはやく解放されたいだろう。じゃあ、と言いかけた所でまた別の声が割り込んだ。
「……なあ、ウチ来いよ。」
予想外の言葉に二人して振り向く。
「明日休みだろ? その、なんつうか、詫び入れさせろよ。」
まったくどこでそんな言葉覚えてきたんだか。
「嫌か?」
戸惑っている尾高くんに畳み掛ける。
「ちょっとポチ。嫌がってるでしょ?」
そう言って不躾な要望をたしなめようとしたところで、尾高くんが小さく口を開いた。
「お、お邪魔じゃ、ないですか?」
いや待ってくれ、どういう展開なのこれ。
「気にすんなって。ちょうどツマミになりそうなもの買ったところだったし。」
そう言って手に持っていた買い物袋を見せつける。あ。夜中にポテチはダメだって言ったのにもう。
「北原さんがご迷惑でなければ……その、えと」
もごもごと口ごもる。ポチが、な? という視線を僕によこした。この空気で断ったら完全に僕が悪者じゃないか。大きくため息をついてから、時計を見る。スーパーはまだ開いているはずだ。
「デザートも買っていこうか。あ、ポチはさっきケーキ食べたから無しね。」
なんでだよお、と叫ぶその頭を軽くはたいてから、僕たちはまた歩き出した。心なしか尾高くんの歩調は軽やかだった。
「そういやお前さあ、名前は?」
だらしない格好で座布団に座り、缶チューハイをあおりながらポチが口を開いた。
「お、尾高です。」
さっきも尾高くんだって紹介しただろう。まあ怒りのあまり記憶に残らなかったのだろうか。
「そうじゃなくて、下の名前!」
楽しいのか不機嫌なのかよくわからない表情で、尾上くんに迫る。
「賢一、です……」
尾高くんは座布団のうえにちょこんと正座したまま答える。そんなに畏まらなくていいよ、と声をかけてからテーブルにつまみを並べる。
「じゃあ、ケンな! オレはポチ!」
おいおい苦笑いされてるぞ。馴れ馴れしい上に口が悪いのはよろしくないな、今度みっちり躾てやろう。
「はい、ポチさん。」
そう言われると、むふ、とニヤけて上機嫌に尻尾を揺らす。まあオオカミ同士仲良くしてもらえれば嬉しいんだけど。どうしても人間の中で生活していると、獣人ならでは、オオカミならではの悩みだってあるだろうし、同族でしか分かち合えない事だってあるだろう。尾高くんは単身就職でこっちに来たばかりで色々不安だろうし、ポチだって普段こんな態度でいても案外小心者だからなあ。
「じゃあ、僕のことはリョウって呼んでね。」
仲睦まじそうなオオカミにほんの少しだけ嫉妬した僕は、そう言いながら腰を下ろした。
「りょ、リョウ……さん……」
そんな頬赤らめて上目遣いに言うのは反則だぞ。思わず頭を撫でてしまいそうになった手をぐっと堪えて笑顔を作る。オオカミの頭を撫でる行為は、親子や恋人同士など、相当に仲が良いもの同士でだけ許されることで、気軽に頭を撫でる事は場合によっては相当な侮辱行為と取られる。まあ、人間同士でもよく知らない相手に頭撫でられたら気持ち悪いけど。
アルコールの力も手伝ってか、程なくして尾高くんもといケンくんとポチはずいぶん打ち解けたようだった。冬毛は暖かそうだと羨ましがられるけど、着膨れして大変だとか暖房の効いた屋内に入ると暑くてたまらないとか、満員電車に乗っていて抜け毛が隣の人にくっ付いたら舌打ちされたとか、オオカミあるあるで盛り上がっている。
「こないだもさー、満月みながら遠吠えしたらマンション追い出すぞって怒られちまってよお。」
そりゃ夜中にあんな大声出したら近所迷惑だっつうの。
「あはは、僕も実家に居た頃は田舎だったんで気兼ねなく遠吠え出来たんですけど、この辺りじゃそういうの厳しいですもんね。」
虫の声が聞こえるような山奥で、月明かりの下でケンくんとその家族が遠吠えのコーラスを響かせる様を想像して、田舎暮らしも存外悪くはないかもな、と思った。
「もう、この間だってカラオケ連れて行ってあげたでしょ。」
思いっきり遠吠えさせてあげたくて時々連れて行くんだけれど、せっかくカラオケに行ったんだから僕だって何か歌いたい時だってある。それでも、マイクなんて使わなくても部屋中の空気を震わせるその歌に聞き惚れてしまって、リモコンを操作する手なんて止まってしまうんだ。
「いやー、それでも急にしたくなる時あるんだよなぁ、特に……」
そこまで言って、ポチとケンくんは顔を見合わせてにやりと笑う。
「「救急車!」」
二匹してゲラゲラ笑いながら、学校のテストの時間にあのサイレンの音が聞こえるや否や、オオカミ連中は皆んなして口元を押さえて必死に耐えただのと、思い出話に花を咲かせる。なんだか兄弟みたいだなぁ。こうして打ち解ける速さも、イヌ科の本能から来るものなのだろうか。
「ところでよお、ケン。」
笑っていたポチが、不意に真顔で声のトーンを落とす。
「お前、リョウのこと好きなんだろ。」
エアコンの唸る音だけが響いていた。
テーブルの上のカップと皿が震度4で揺れる。勢い良く振りかぶった頭をしとどにぶつけて、悲しそうな悲鳴をあげながらうずくまる尾高くん。見ているこっちが痛いくらいだ。
「んで、そいつ誰なんだよ。」
目の前の悲劇を意に介さず、半分齧ったショートケーキの苺が刺さったトライデントもといフォークを尾高くんに向けながら僕をじろりとすわった目で睨みつける。口の中にモノを入れたまま喋るなって何度も言っているのに、帰ったら躾が必要だな。
「はぁ……さっきも言ったけど、彼は会社の後輩で」
そう言いながらポチの手を取ってフォークを手繰り寄せ、残りの苺を一口に食べてやった。その瞬間、あ゛あ゛っ!! オレのイチゴ! と悲痛な叫び声。
「今日は僕が誘って食事に付き合ってもらったの。それで」
怒りと悲しみの疾風怒濤が押し寄せて、潤み始めた目尻を親指で掬ってやってから頭をゆっくりと撫でる。相変わらず瞳の奥には燃え盛る炎が映っていたが、垂直にそそり立っていた両耳はやや後ろに傾いていく。
「僕が寒そうにしていたから、尾高くんが暖めてくれていた、それだけ。」
そう言って後頭部を軽くポンポンと叩いた。
「誤解を招くような事をしてしまって……すみません……」
テーブルに突っ伏していた尾高くんが、恐る恐る上目遣いに見上げる。地鳴りの様な唸り声をあげながらも、乱暴に尻尾を振り回しているポチの姿を見て面食らった後に口元が緩む。
「……なに笑ってんだよ。」
羞恥心をかき消すように吐き出された苦し紛れの言葉。
「す、すみません……あ、その、お二人はとてもお似合いだな……なんて。」
続けて小さくすみませんと言って頭を下げる。尾高くんが悪い訳ではないのに謝らせてしまって胸が痛む。誤解も解けただろうから、ちゃんとポチと二人で尾高くんに謝ろう。
「だ、だろっ!? オレとリョウ、似合ってるよなっ!?」
ふんす、と鼻息を吐きながら興奮気味にテーブルに乗り出す。
「ええ、素敵なカップルです。」
尾高くんはふんわりとした笑顔でこたえる。ただ笑顔のはずなのに、どこか物悲しげな表情。それとは正反対のニヤケ面のバカオオカミ。
「カップルっておま……わかってんじゃねえかよ! くくっ……」
そう言って尾高くんの背中をバンバン叩くと、尾高くんは引きつった愛想笑いをしながらこくこくと頷く。
「こら、ポチ。ちょっと……ポチくん? ポチ。ポーチっ!」
舌をでろりと出してにやけているその頬を摘んでから、寝起きの毛布みたいな肌触りのそれを釣り上げるように引っ張っていく。
「おい、ちょっと、リョウ! 痛いって! ひゃめろよぉっ!」
抗議の声には耳を貸さない。
「尾高くん、変な事に巻き込んじゃってごめんね。」
尾高くんからすればとんだとばっちりだろう。折角いい気分で焼肉を食べた帰りにバカでっかくて柄の悪いオオカミに絡まれたんだから。むぐむぐと吠え声を上げるソレをちらちらと見ては申し訳なさそうに、僕の方こそと恐縮する尾高くん。
「って事だから。ポチ、ごめんなさいは?」
バツの悪そうな顔で唸り声をあげた後、鼻を掻いてから尾高くんに向き直る。
「わ、悪かった……な。疑っちまって。」
そう言って頭を下げる。
「僕の方からも、本当にごめんね。」
嫌われても文句言えない。今度何か埋め合わせでもできればいいんだけれど。
「長い間付き合わせちゃってごめん。じゃあそろそろ……」
立ち上がって辺りを見渡した瞬間、周囲の客が一斉に目をそらす。カウンターにいる店員に至っては、背中を向けて肩を震わせている始末だ。あれだけ大声で騒いだらそりゃあ注目の的にもなるよな。店で騒ぎ立てた申し訳無さよりも、恥ずかしくて暫くこの店には来れないなという気持ちの方が少しだけ優っていた。
「じゃあ、尾高くん駅まで送るね。」
会計を済ませた後、ようやく店を出た僕たちは駅に向かって歩き出した。僕が先陣を切って歩き、左手には尾高くん、右手には買い物袋を持ったポチが少し遅れてついてくる。オオカミ2匹を連れて歩いていると、人の波が自然と割れていく。まるで桃太郎か何かになったような、なんとも居心地の悪さを感じる。
「あの、僕もうこの辺で大丈夫ですので……」
堅苦しい沈黙を破ったのは尾高くん。そりゃあ一刻もはやく解放されたいだろう。じゃあ、と言いかけた所でまた別の声が割り込んだ。
「……なあ、ウチ来いよ。」
予想外の言葉に二人して振り向く。
「明日休みだろ? その、なんつうか、詫び入れさせろよ。」
まったくどこでそんな言葉覚えてきたんだか。
「嫌か?」
戸惑っている尾高くんに畳み掛ける。
「ちょっとポチ。嫌がってるでしょ?」
そう言って不躾な要望をたしなめようとしたところで、尾高くんが小さく口を開いた。
「お、お邪魔じゃ、ないですか?」
いや待ってくれ、どういう展開なのこれ。
「気にすんなって。ちょうどツマミになりそうなもの買ったところだったし。」
そう言って手に持っていた買い物袋を見せつける。あ。夜中にポテチはダメだって言ったのにもう。
「北原さんがご迷惑でなければ……その、えと」
もごもごと口ごもる。ポチが、な? という視線を僕によこした。この空気で断ったら完全に僕が悪者じゃないか。大きくため息をついてから、時計を見る。スーパーはまだ開いているはずだ。
「デザートも買っていこうか。あ、ポチはさっきケーキ食べたから無しね。」
なんでだよお、と叫ぶその頭を軽くはたいてから、僕たちはまた歩き出した。心なしか尾高くんの歩調は軽やかだった。
「そういやお前さあ、名前は?」
だらしない格好で座布団に座り、缶チューハイをあおりながらポチが口を開いた。
「お、尾高です。」
さっきも尾高くんだって紹介しただろう。まあ怒りのあまり記憶に残らなかったのだろうか。
「そうじゃなくて、下の名前!」
楽しいのか不機嫌なのかよくわからない表情で、尾上くんに迫る。
「賢一、です……」
尾高くんは座布団のうえにちょこんと正座したまま答える。そんなに畏まらなくていいよ、と声をかけてからテーブルにつまみを並べる。
「じゃあ、ケンな! オレはポチ!」
おいおい苦笑いされてるぞ。馴れ馴れしい上に口が悪いのはよろしくないな、今度みっちり躾てやろう。
「はい、ポチさん。」
そう言われると、むふ、とニヤけて上機嫌に尻尾を揺らす。まあオオカミ同士仲良くしてもらえれば嬉しいんだけど。どうしても人間の中で生活していると、獣人ならでは、オオカミならではの悩みだってあるだろうし、同族でしか分かち合えない事だってあるだろう。尾高くんは単身就職でこっちに来たばかりで色々不安だろうし、ポチだって普段こんな態度でいても案外小心者だからなあ。
「じゃあ、僕のことはリョウって呼んでね。」
仲睦まじそうなオオカミにほんの少しだけ嫉妬した僕は、そう言いながら腰を下ろした。
「りょ、リョウ……さん……」
そんな頬赤らめて上目遣いに言うのは反則だぞ。思わず頭を撫でてしまいそうになった手をぐっと堪えて笑顔を作る。オオカミの頭を撫でる行為は、親子や恋人同士など、相当に仲が良いもの同士でだけ許されることで、気軽に頭を撫でる事は場合によっては相当な侮辱行為と取られる。まあ、人間同士でもよく知らない相手に頭撫でられたら気持ち悪いけど。
アルコールの力も手伝ってか、程なくして尾高くんもといケンくんとポチはずいぶん打ち解けたようだった。冬毛は暖かそうだと羨ましがられるけど、着膨れして大変だとか暖房の効いた屋内に入ると暑くてたまらないとか、満員電車に乗っていて抜け毛が隣の人にくっ付いたら舌打ちされたとか、オオカミあるあるで盛り上がっている。
「こないだもさー、満月みながら遠吠えしたらマンション追い出すぞって怒られちまってよお。」
そりゃ夜中にあんな大声出したら近所迷惑だっつうの。
「あはは、僕も実家に居た頃は田舎だったんで気兼ねなく遠吠え出来たんですけど、この辺りじゃそういうの厳しいですもんね。」
虫の声が聞こえるような山奥で、月明かりの下でケンくんとその家族が遠吠えのコーラスを響かせる様を想像して、田舎暮らしも存外悪くはないかもな、と思った。
「もう、この間だってカラオケ連れて行ってあげたでしょ。」
思いっきり遠吠えさせてあげたくて時々連れて行くんだけれど、せっかくカラオケに行ったんだから僕だって何か歌いたい時だってある。それでも、マイクなんて使わなくても部屋中の空気を震わせるその歌に聞き惚れてしまって、リモコンを操作する手なんて止まってしまうんだ。
「いやー、それでも急にしたくなる時あるんだよなぁ、特に……」
そこまで言って、ポチとケンくんは顔を見合わせてにやりと笑う。
「「救急車!」」
二匹してゲラゲラ笑いながら、学校のテストの時間にあのサイレンの音が聞こえるや否や、オオカミ連中は皆んなして口元を押さえて必死に耐えただのと、思い出話に花を咲かせる。なんだか兄弟みたいだなぁ。こうして打ち解ける速さも、イヌ科の本能から来るものなのだろうか。
「ところでよお、ケン。」
笑っていたポチが、不意に真顔で声のトーンを落とす。
「お前、リョウのこと好きなんだろ。」
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