ノーザンライツ

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君のかたち

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 あれからどうしたかあまり記憶にもない。
 目を覚ますといつもの巣穴にいて、傍らにはシロがうずくまって寝息を立てている。
 不明瞭な意識のまま、頭を起こして大きく息を吸うと、欲望と絶望の入り乱れた臭いに思わず眉間に皺を寄せた。鼻の奥に張り付いた、底冷えした興奮の塊を吐き出すと視界の端で白い饅頭が動く。
 シロは俺の顔を見るなりビクリと身体を緊張させると、素早く身体を起こして俺に向き直って、群のアルファにするように頭を下げて上目遣いに俺を見つめる。身体は低く、尻尾は股の間に挟まって、自分は下位のものであり抵抗の意志は無く、絶対の服従を約束するのだと語っていた。
 俺は、こいつに対してなんて声をかければいいのだろう。シロは石像の様に動かない。
「……なあ」
 遠くで鳥の声が聞こえた。
 言葉が浮かんでは霧散していく。己の意気地の無さに腹を立てながらも、舌が喉に貼り付いて動かない。
 覆い被さるようにしてそっとシロに近づくと、恐怖からか身体が強ばって真っ白な毛を逆立たせる。そのまま倒れ込むようにシロにもたれかかると、腹の辺りにじわりと温もりが伝わってくる。
 純白をすっかり夜の色で塗り潰して隠してしまうと、少し苦しそうに身体をよじるが、お構いなしにシロを抱きくるめて、たいして眠くもないのに目を閉じた。
 石の様に固まっていたそれも、やがて観念したのか徐々に柔らかく変質して俺のかたちになっていく。
 ごめん。そう声に出たのか、心の中で呟いただけなのかは定かでは無かったが、ただいまはこの温もりを貪り続けるケダモノと化していたかった。
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