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氷の中
しおりを挟む「……それで、お前……いや俺たちは一体なんなんだ?」
こんな質問をしたところで何の意味もなさないのだろうが。シロは無機質に俺の顔をじっと眺めてから、鼻から小さく息を吐いておもむろに口を開く。
「ごめんね、わからない。」
それっきり、困ったような表情でまた俺を見つめる。シロの目はいつだって綺麗だ。
「はぁ? なんだよそれ。お前さっき人間がどうとか、いかにも知ったかのような事を言ってただろうが。」
理不尽な状況から来る苛立ちから来る怒りが半分と、残りは呆れ。目の前の白い毛むくじゃらは耳を伏せて鼻頭をぺろりと舐める。
「……うん。僕が知っているのはさっき言った事だけ。僕たちはただのオオカミじゃなくて」
ここからは僕の想像なんだけれど、と前置きしてからシロは続ける。
「きっと、人間に作られた存在なんだと思う。とは言っても、もう居ないから何が目的だったのかもわからないけど。」
こいつが俺をからかったり、冗談を言っている訳でも無さそうだ。段々と恐怖や怒りといった感情が薄れて、脳味噌が透明な箱のなかで冷え始める。
「じゃあ、俺がここに来る途中に見た奴らはなんだったんだよ?」
そうだ、俺は確かにこの目で人間を見た。怖くて近づけなかったけれど、二本足で動く奴らを何度か見かけた。
「それはわからないなぁ。でも、もうこの世界に人間が居ないのは確かだよ。」
だから、なんでそう言えるんだよ。またアドレナリンが分泌され初めて、眉間に皺が寄り始める。そもそも、いきなりこんな事言い出すし、変な草でも食べてラリってるんじゃねぇのかコイツ。
「だってぇ……」
俺の様子には構わず、あらぬ所を眺め思いだし笑いなのかニヤニヤとしてみせ、ともすれば涎でもたらさんばかりの心底楽しそうな表情。
「最後のは僕が食べちゃったからぁ」
恍惚として語るソレから飛び退いた。背中の辺りがピリピリと痺れて毛が逆立つ。生憎にも出口はシロが塞ぐ形になっている。コイツの狩りを見た限りでは、そんなに力は無さそうに見えた。体格だって俺の方が一回り大きい。押しのければ逃げ出せるか……しかし、何を隠しているかはわからない。俺の前では非力で気の弱いオオカミを演じていただけだと考えるべきだ。見た目に騙されるな。静かに吐く息に唸り声が混じる。
「やだなぁ、そんな目で見ないでよ」
下卑た笑顔を張り付かせながら近づいてくる。
「ねぇ、クロくん」
若干姿勢を落としながらにじり寄るそれから目を離さないようにしながら、脚の筋肉に力を込めて臨戦態勢を取る。こんな事したくない。だって、シロはいい奴だったじゃないか。
「あ……ヒッ!?」
首もとにぬるい感触。気の迷いが俺の行動を鈍らせた。ダメだこのままじゃ……
「あぁ、いい匂い。」
シロがすぴすぴと鼻を鳴らす音が間近に聞こえる。毛皮越しに伝わる体温に場違いな心地よさを感じる。安堵とも諦めともつかぬ大きなため息を吐くと、空気を吹き付けられた耳がくすぐったそうに暴れた。
「なあ、おまえは」
毛繕いするように胸元を舐められているうちに、何もかもどうでも良くなってしまう。どうなっても良いじゃないか、きっとシロは俺に敵意を持っていない。
生ぬるい空気が支配する中、遠くで甲高い獣の声が響いていた。
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衝撃。でもこの作品めちゃくちゃいいね。
ありがとうございます。
ご感想頂きありがとうございます!
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