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夜行列車2
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「お待たせしました! 生ビールです」
幾分かは慣れてきた手付きでテーブルの上にジョッキを置くと、それを心待ちにしていた茶色の毛並みのオオカミが、ありがとな! と言ってニカッと笑顔を見せた。
学生の頃に、ただ遊び金欲しさで数ヶ月間していた飲食店でのアルバイトの経験が思わぬところで少しは役に立っているのだろうか。とは言っても、こうして料理を運んだり皿洗いなんかのごく簡単なことしか出来ないけど。
この店、おおかみ亭は小さなテーブルが二つと六席ばかりのカウンターのこじんまりとした店にも関わらず、夕飯時には満席近い賑わいを見せる。なんでも、この集落でお酒を出しているのはここだけらしく、仕事終わりに一杯引っ掛けていくのがここの住人達の楽しみなのだそうだ。
「なあ、なあってば、アンちゃんよ」
すっかり回想に浸っていたところに、ビールの泡で口元に白髭を作ったオオカミから声が掛かった。
「あ、すみません、追加の注文ですか?」
既にジョッキの四分の一ほどが透明になっているとはいえ、追加注文するほどでは無いだろうし、空きっ腹を刺激して胃液をじわりと滲み出させるほどの匂いを漂わせている唐揚げもまだ皿に残っている。
「ちげえって。アンちゃん、ヴォルガのコレなのか?」
そう言ってニタニタを笑いながら小指を立ててみせる。
「いや、いやいやいや、違いますって。僕はただの……」
ただの従業員兼、居候。ないしは非常食。まあ、聞いたところ彼等オオカミ、正確には獣人は別に人間を取って食ったりはしないとのこと。僕みたいにたまに迷い込んだ人間を「食べてやるぞ」と脅して追い返すことは稀にあるみたいだけれど。そう……普通はすぐ追い返す筈なのだ。それなのに何故、ヴォルガさんは僕をここに留めておこうとするのだろうか。
「おいヤナ、尻尾の毛を全部むしられてぇのか」
不機嫌そうな唸り声がカウンターの奥から響いた。
「ケンイチ、料理あがったぞ!」
不機嫌の波は僕の方にも流れてきたようだ。ヤナと呼ばれたオオカミと目を合わせ、お互いに苦笑いをすると僕は軽く会釈をしてから出来上がった料理を運ぶべく厨房に戻った。ヴォルガさんは慣れた手付きで次の注文に取り掛かりながらも苛立ちを隠さない。幾分かの申し訳なさを感じながらも僕は気を取り直してまた仕事へと戻った。
暖簾を下ろす頃になっても、先ほど浮かんだ小さな憂慮の火種はまだ燻っていた。彼は何故、食べるだの監視するだのと嘘を吐いてまで未だに僕を此処に留め置いているのだろうか。人手が足りないからというのももちろんあるにしろ、それだけが理由とは思えない。いや、そうあって欲しい。
僕の頭の中にはまたあの時の出来事が鮮明に浮かび上がっていた。白い湯気の中に浮かび上がる灰色の毛並み。背中を伝い同調するお互いの鼓動。耳元で囁かれる荒い息遣いと、情欲の炎を宿して金色に輝く双眸。そして臀部に押し当てられた硬い滾り。あの時、逆上せて気絶するなんて失態を犯さなければ、その先に何が待ち受けていたのだろうか。
「さき、風呂はいるぞ。」
僕を一瞥してから足早に浴室へと向かう不機嫌そうな尻尾を見送りながら、心の中に立ち込めた霧は一層深さを増していく。なにも、なにもヴォルガさんと肉体関係を持ちたいだとか、性欲を発散したいといった邪な考えばかりでもない。あれが例え一晩の過ちであったとしても、たとえ言葉が紡がれなかったとしても、ああして誰かに強く求められることが、僕の存在意義を示していたように……いやそんな高尚ぶった言い訳はやめておこう。
あれ以来、一緒に入浴することもなく、眠る時も同じベッドに居ながら背中合わせ。あれは一時の気の迷いで、ヴォルガさんは人間の僕には興味も魅力も感じないのだろうか。合わせた背中から伝わる三十九度の平熱を感じるたびに、惨めさに身体が凍り付いていった。
「ヴォルガ……さん」
居ても立ってもいられなくなって、扉の向こうで始まった観客のいないストリップショーの主役に向かって恐る恐る声をかける。
「なっ、なんだよっ!?」
焦りと驚きを孕み裏返った声。これからリラックスしようという時に唐突に呼びかけてしまったことに罪悪感を感じながらも、今更後戻りはできない。
「一緒に、入ってもいいですか?」
また、あのしなやかな肉体を一目見たい、そしてあわよくば。
「は、ハアッ!? ダ、ダメだっ! 絶対入ってくんなよっ!!」
想像していたよりも強い拒絶の言葉に、これ以上はもはや交渉の余地もなかった。
風呂上がり、いつものようにベッドの上。何事もなくまた一日が終わろうとしている。このまま目を瞑ればきっといつもの明日が待っていて、忙しいながらも充実した日が待っているだろう。だから、こんな余計なことをしてそれを喪うリスクを取るべきではないのだろうけど。
「ヴォルガさん」
聞こえているのかいないのか。返事ともとれる大きな鼻息。
「人間は、嫌いですか?」
そう口に出すと、自らに対する嫌悪感が沸き上がってくる。
暫く置いてから、別に。と小さく返事が返ってきた。たったそれだけの言葉だのに、僕に尻尾が生えていたらブンブンと千切れんばかりに振り回していただろう。少なくとも嫌われてはいないんだという思いと、その裏に含まれた成分を期待して胸が高鳴ってしまう。
「えっと、その、つまり……」
どう切り出したものか。あなたとエッチがしたいんです! と単刀直入に切り出すわけにもいかないだろう。事実そうしたい気持ちは山々だけれども、そんな一方的で不躾なお願いができるはずもない。それになにも、自分が気持ちよくなりたいからという思いよりも、むしろたとえ性の捌け口としてだけであっても、誰かに、いやヴォルガさんに求められたくて仕様がなかった。
「なんだ? 言いたいことがあるなら言えよ」
あれこれと自分に言い訳を重ねているうちに、ヴォルガさんの苛立ちが大きく成長し始めた。まずい、早く切り出さないと機嫌を損ねてしまうし、気まずいまま明日を迎えなければならなくなってしまう。
「あー、あの、ヴォルガさん……というか、オオカミの人達って自分で抜いたりしないんですか?」
焦った僕の口をついて出てきたのは思いつく限りでも最悪の悪手だった。
「は、はぁっ!? お、お前熱でもあんのか?」
そりゃあ突然こんなことを言い出したらおかしくなったと思われても仕方ないだろう。だが、ここでやめるわけにはいかない。もう止まれない。無理矢理にでも、強引に押し切るしかない。
「い、いやあ、ここって歓楽街も無いですし、みなさんどうやって発散してるのかなぁって。」
声が裏返らないように、噛んでしまわないように。あくまで興味本位からくる生態調査を装ってみせる。
「他の奴らは時々人間に化けて街におりたりもしてるけど……俺は別にそういうの興味ねえし」
あ、人間の姿にもなれるんだ。普段この村の中で目にするのはオオカミの姿だけだから思いもつかなかったけれど、これだけの近代的な調度品を自分たちの手だけで作れるわけもないし、ここには電気だって通っているもんな。純粋に、彼等の生い立ちや文化についての興味が膨らんでくると共に、メラメラと燃え盛っていた熱が消えかける。いやダメだ、千載一遇のチャンスなんだぞ。もう二度とこの手の話は切り出せないかもしれない。
「じゃあ、ヴォルガさんは、その、どうやって」
まだ続けられる尋問に嫌気がさしたという音。静かな呼吸の音と、小さく鳴らす喉の振動が夜に広がって輪郭を消していく。
「おお、おれ、は、自分で、その……してる」
このまま黙殺されて、無かったことにされてしまうのだろうと諦めかけたところで、ヴォルガさんが消え入りそうな声で呟いた。その声色からきっと顔を真っ赤にしているであろうことが、緊張で体積を増した体毛越しに伝わってくる。
「そういうお前は、ど……どうなんだよっ」
矛先がいよいよ自分に向けられたことで手のひらにじわりと汗が滲む。誘導が上手くいってほくそ笑みたい気持ちと、とうとう勝負を仕掛けるのだという決意。
「あー……その、人間は、ですね、仲の良い者同士なら、おっ……お互いに見せあったり、その、手伝ったり、とかですね……」
質問に対しての回答としてはあまりにも頓珍漢すぎる。おまけにそんなことをするのはごく限られた一部の若者だけで、それは思春期に膨れ上がったパトスにまかせて踏んでしまう一過性の風邪みたいなものだ。
「だから、つまりその、ヴォルガさんが溜まってるなら」
相手が口を開く前にそう畳みかける。人間達の間ではまま行われることであって、何ら特異なことでは無いのだと強調して。あくまで、コミュニケーションの一環なのだと言い聞かせて。
「そ、そんっ、そういうのは、フツー恋人同士がやるもんだろ!」
正論すぎてぐうの音も出ない。そりゃあ僕だって野生動物じゃないんだから、そういうのは好意を寄せた相手としかしたくはない。いやむしろ野生動物だって、誰彼構わず交尾する訳ではなく、番になれると見定めた相手との子を成すのだから。ああいやそんなことを言いたいのではなくて。
寝返りを打つようにして身体を反転させると、大きな背中が目に飛び込んできた。予期しない行動にその肩がビクリと震える。そこに僕の手が触れる数百ミリ秒の間にいくつものシミュレーションを走らせてみるが、その結果はいずれも惨憺たるものだった。手を払い除けられ、この色狂いがと軽蔑に満ちた表情で罵られる。もう二度と、ここには居られなくなるかもしれない。折角掴んだ日常が僕の愚行によって粉々に砕かれてしまうかもしれない。息を止めて、ぎゅっと目を閉じて、神に祈るような気持ちで、獣毛に覆われた身体に手を触れる。頭の中で、ごめんなさいという言葉を念仏のように唱えながら。
「うおっ!? け、ケンイチ?」
接触を拒絶するように筋肉が硬く隆起して装甲を構成した。
「ヴォルガ、さん……」
指先が震えるのを諌めながら、肩口に置いた手を胸郭に向かって滑らせていく。寝間着の布地を押し上げるように膨らんだ体毛を均しながら、オオカミの体温を享受する。
「なっ、え……お、おいっ!」
ヴォルガさんは狼狽し困惑の声を上げながらも、拒絶のシグナルは未だに発報しておらずレモンジュースに留められている。
その反応に気を良くした僕の中の悪魔は更に増長して遠慮という言葉を頭の中から消し去る。ふかふかとした柔らかい産毛の生い茂るうなじに鼻を寄せて大きく息を吸い込むと、ひどく有機的で郷愁を湛えた匂いに肺が満たされた。あの浴槽での出来事の再現のようでいながらお互いの立ち位置は逆転している。このままオオカミの身体を貪って、情炎に身を焦がしてしまいたい。骨も残さず全てを喰らい尽くしてしまいたい。そんな思いが募って膨れ上がり破裂する寸でのところで、大きな耳を伏せされるがままに身を任せ、服従を示し慈悲を乞うように小さく鼻を鳴らすヴォルガさんの姿に気がついた。
「ヴォルガさんっ! ……んむっ」
自責の念に駆られながらも、耳の裏を鼻先で擦り付けてから尖った先端を口に含む。舌先で毛づくろいの真似事をしながら唾液でオオカミの毛を湿らせていく。
「あのっ、あの!」
「ニンゲン同士だと、これも、フツーなのか、よっ……」
僕の口元から伝播した興奮に飲まれたヴォルガさんが、苦し紛れに僕の心をチクリと刺した。
「普通じゃない、です……こういうのは」
子供の頃に思い描いていた、好きな子に告白するシチュエーションというものは、例えば学校の帰り道に暮れなずむ街を見ながらだとか、卒業式の日に体育館の裏にある“伝説の木”の下でだとか、そういうポエティックなモノだとばかり思い込んでいたのだが。
「す、好き、です……」
なんら情緒もなく、まるで発情した犬のように相手にのしかかりながら、この場には似つかわしく無い言葉を口に出していた。これ以上自分を取り繕って、孔雀の羽根を広げる余裕なんてこれっぽっちも無かったのだ。
「おま、わかってんのかよ……俺は」
好きです。もう一度確かめるようにそう言ってその身体に縋った。もう、飲み込めない。声帯から発せられた振動は空気中を伝い時速千二百キロメートルの速度で寝室内にちりばめられた。
「お前のせいだからな……」
ヴォルガさんが僕の方に向き直ると、羞恥と興奮に歪んだ顔で僕を睨みつける。ガシッと僕の手を掴んだかと思うと、そのまま勢いよく下されて股間に押し当てられた。薄手の布地が破れてしまうんじゃないかと思うくらいにテントは高く張り出して、オオカミの荒い息遣いと非同期に時折脈打っている。その輪郭を確かめるように指先でなぞると甘い吐息が漏れる。ヴォルガさんが僕に欲情してくれている、勃起してくれたというその事実だけで恐ろしいほどの脳内麻薬が急速に合成されて、全身が多幸感に溺れていく。
フワフワと夢見心地でヴォルガさんの顔を見ると、一瞬目が合ったあとすぐに気恥ずかしげに顔を逸らされた。思わず口角が吊り上がり、みぞおちから声にならない言葉が溢れ出す。
「俺も、お前のコト、嫌いじゃないぜ」
目を泳がせながらぶっきらぼうに言い放たれた言葉に後頭部を殴られて脳震盪を起こしかけるものの、一点、一点だけ僕には不満が残っていた。
二つの満月の中で揺れ動く黒点を追いかける。それぐらい察しろよ! と訴えかける唸り声。それでもまだ納得できない僕は、小首を傾げてまだ待ち続ける。
「あー、クソ……なんだ、俺も……好きだぞ」
やぶれかぶれで、いかにも言わされたという言い方ではあったものの、及第点はおろか百点満点と言っても良いだろう。
窓から差し込む月光がオオカミの姿を白いシーツの上に形づくる。
「け、ケンイチも脱げよっ!」
不満げに尻尾を暴れさせながらヴォルガさんが文句を口にした。
「綺麗だったので、つい」
言い訳のつもりは毛頭無かったのだがヴォルガさんは目で僕を急かす。上着を脱いで上半身裸になり、ズボンを脱ぎ捨ててお互いにパンツ一丁でテントを張っているという滑稽な光景だ。
「あの、ヴォルガさんからお先にどうぞ」
やはりこういう役目は歳上に譲らないとな。
「は、はぁっ!? ケンイチこそ歳下だろ! お前から脱げよっ!!」
あー、いるいる、都合のいい時だけ先輩風吹かす人。お互いに暫しの間睨み合っていたが、こんなことで張り合っているのが馬鹿らしくなってどちらからともなく吹き出した。
「じゃあ、いっせーので! で同時に脱ぎましょうか?」
その、なんというか、初めてのアレなんだから、もうちょっと情緒をもたせても良さそうなものだけど。
「わ、わかった。じゃあいくぞ、いっせーのーせっ!」
僕がパンツのゴム紐に手をかけたままじっとしていると、ヴォルガさんは勢いよくパンツをズリ下げて、その反動でビヨンと音が聞こえてきそうな程にちんぽが跳ねた。
人間のそれとは随分と見た目の異なるオオカミのちんぽ。内臓が飛び出したように、全体が赤黒く血管が絡みつきぶっくりと太ましい。根元には睾丸が付いているのかと見まごうばかりに腫れ上がった亀頭球があって、唐辛子のように尖った先端からは欲望の化身が今にもこぼれ落ちそうに水玉をつくっている。
「ず、ずりいぞっ!! お前も脱げよっ!」
ギャンギャンと吠え立てるオオカミに急かされて、覚悟を決めてから僕もパンツを下ろした。まあ、その、大きさは負けているかもしれないけれど、僕だって狂おしいくらいに興奮しているんだ。ゴクリ、と固唾を飲む音。交差する視線。お互いに、生まれた時からプログラムされていたソフトウェアが起動して、どちらからともなく歩み寄っていく。二つの影が一つの塊になった。
「んっ……ちゅっ、はあっ……」
どちらのものともとれない嬌声が上がり、熱い吐息を交換する。お互いの腹の下でははち切れそうに勃起したちんぽがぬるついた先走りを塗り付けあいながらチュクチュクと音を立てる。ヴォルガさんの長い舌が口内を掻き回しては唾液を啜る。
「ヴォルガさんっ……あっ、ふ、んんっ」
その責めに負けじと対抗しようとするものの、身体中をとろけさせ痺れるような甘さを与えるそれに抗う術はなかった。
「……ヴォル」
口内の開拓を一旦中止したヴォルガさんが、僕の鼻に自らの鼻先をスリスリと擦り付けながら呟いた。
「ヴォルって……呼んでくれよ」
この時の感情をどんな言葉で言い表せばいいのか答えは生憎持ち合わせていない。ただこの愛おしいオオカミの名を呼ぶことで精一杯だった。
「ああ……ヴォルっ、ヴォルぅ……」
喘ぐようにしてその名前を呼ぶと、それに応えるように尻尾が空気を攪拌する。ただ名前を呼ぶだけで、こんなにも満たされた気持ちになるなんて。いつまでもこうしていたい気持ちも吝かでは無かったが、先ほどからお互いの先走りに濡れて、まるでディープキスでもしているかのように水音を立てているちんぽをどうにか鎮めなければという思いもあった。
「あっ!? んっ、んんっ」
今度こそ僕が先に、と身体を動かそうとしたのを制して、ヴォルガさん、いやヴォルが僕の中央構造線を冷ついた鼻でなぞりながら沈下していく。乳首を舐め、大胸筋を押して、腹の匂いをクンクンと嗅いでから茂みの中に到達したそれは、止めどなく先走りを垂れ流し続ける尿道口にピタリと鼻をくっ付けて、うっとりとしたため息を漏らした。
「はあ……すげえ匂い……」
恥ずかしさで思考回路が焼き切れてしまいそうだ。半開きになったオオカミの下顎から突き出た犬歯がてらてらと光っている。
「あ、あのっ! も、もうっ」
これだけでも十分に目の保養、いや目の毒ではあるが、いくらなんでももう我慢の限界だ。ともかく抜きたい、射精したい、そんな願望に頭の中が支配される。湿った吐息が亀頭に吹きかかると、いても立ってもいられなくなってピンと垂直に張り出した耳を掴んで、ゆっくりと手前に引き寄せた。
くぷっ……じゅぷ、ぷっ
刀剣が鞘に収められるように、あるべき場所に帰るように、僕のちんぽがヴォルのマズルの中に飲み込まれていく。この身を全て焦がしてしまいそうな熱を湛えた肉壁が、亀頭の鋒によって掻き分けられていく。分断されたそれはすぐさまちんぽ全体を包み込み、時折尿道に残った先走りまで吸い付くそうとチュッチュと負圧を生じさせる。
「ああっ、ヴォル、ヴォルッ!!」
無意識のうちに腰を打ち付けながら、ちんぽに押されて膨らんだ頬を撫でると、どこか得意げに目が細められた。
「んぶっ……ちゅっ、すっげえ、熱い……」
ちんぽを咥えたまま感想を漏らすその姿がこの上なく扇情的であった。
くちゅ、にゅぐぐっ……ぶぷっ、ぬりゅっ
「ヴォル、気持ちいい! ちんぽ気持ちいいっ」
性器と化したマズルを堪能しながら、思考がそのままフィルターを通さずに声となって口から漏れてしまう。上顎の肉ひだで擦り上げられるカリ首も、長い舌で舐め回される裏筋も、先走りと唾液で泡立つグチュグチュとしたうがいのような音も、何もかもが僕の興奮と劣情を加速させていく。
ちゅくっ、ちゅっちゅ、にゅるるっ
「ちんぽ……ちんぽおいしい?」
耳の裏を掻きながら、そんな自己陶酔に溢れた質問を投げかける。美味しいわけ、無いだろう。ただの生殖器官に過ぎないのだから。そんな嘲笑めいた声が心の奥底から響いてくる。
「おいしっ、おいしいぞっ……ちゅぶっ……ケンイチのちんぽ、口の中でビクビクしてるぞ」
たまらず頭を掴んで根元までちんぽをねじ込んだ。長いマズルでなければきっと窒息してしまっていただろう。それでも幾分かは苦しげに喘いでいるが、決してちんぽからは口を離そうとはしなかった。
「ヴォルッ、好き……大好きっ! ちんぽ、ちんぽいっぱい食べてっ!」
抽送を繰り返す度に疼きが下腹部から湧き上がり、ちんぽからカウパーを溢れさせる。その度にコクコクとオオカミの喉は小さく鳴って、大きな身体の中に僕を取り込んでいくのだ。
「じゅるっ……こくっ……ずっと、ずっと我慢してたんだからなっ! にゅちゅっ! ちんぽ、ケンイチのちんぽっ!」
おんなじだったんだ。ずっとお互いに同じことを考えていたんだ。こんなことならもっと早くこの思いを伝えていればよかった。
くぽっ、くぷっ、じゅっ! じゅっぽ!
加速度的に快楽が駆け上がって、射精の準備がもう止められない段階まで進行している。
「毎日っ、毎日ちんぽたべてねっ! ああっ! ヴォルの口の中でちんぽ気持ちよくなっちゃってる……!! ヴォルの、ヴォルのちんぽも食べたいっ! エッチなちんぽいっぱい食べっこしようねっ!」
理性や羞恥といった概念はとうの昔に吹き飛んでしまって、ただ本能と欲望の突き動かすままにヴォルから与えられる快楽に溺れていた。このオオカミのマズルの中に思い切り射精したい。オオカミのちんぽを喰らい尽くしたい。毎日毎日、お互いの精液をその身体に取り込み合ったら、肉体を構成する物質の何パーセントがそれに由来するものになるのだろう。そんな倒錯的なカニバリズムに想いを寄せる。
「ああっ! ずっと毎日だからな!! ちゅぶぶっ! ぬぼ、ぬこっ! オレのも、俺のちんぽもいっぱい食べさせてやるからなっ……俺だけの……ぐぶぶっ! ぶっぽ、ちゅっちゅぐっ、んっんんっ!」
ちんぽからミルクを強請る搾乳の仔オオカミの動きが一層激しさを増した。もう決壊寸前、これ以上は我慢が出来ない。もう少しだけ、この背中からゾワリと突き上がる感触を楽しんでいたかったが、それも叶わない。でも、明日も、明後日も、その次の日も、ずっと先も、僕たちがここに居て、生きている限りは。
「ケンイチのちんぽ、エッチな味が濃くなって来てるぞっ……ほら、出しちまえよっ! んぐぶぶっ!」
そう言ってこれまでよりも更にマズルの中に飲み込まれると、もうそれ以上は耐えられなかった。
「あっ、いく、いくいくっ! でるっ! ふっ……うっ、んっ!」
びゅっ、びゅくっ、びゅぶ
「んぐっ、ごくっ……げほっ、ごくっ、ごく……」
飲み込む側から喉奥に向かって飛び出した精液にむせこみながらも、一生懸命に喉を鳴らして取り込んでいく姿がたまらなく愛おしい。嚥下する動きが射精直後には刺激が強過ぎて、くすぐったさに思わず腰を引いてしまう。
床には口の端からこぼれ落ちた、様々な液体の混合物が水溜りとなって広がり、ひどい匂いを部屋中に立ち込めさせている。吐精も完全におさまって、息も整ってきた頃合いになっても未だにちんぽを咥えて上目遣いに僕を見るオオカミ。眉間から後頭部にかけてなぞるように撫でるとうっとりと目を細めて、尻尾がゆらり。
「おわっ!?」
僕の前に跪いているヴォルに押し倒すようにして抱きつくと素っ頓狂な声が上がる。
「おっ、おい! ケン……んむっ……」
文句を言う前にその口を塞いでしまう。暫くの間は何かを言いたげにモゴモゴと口が動いていたが、やがて観念したのか抵抗が無くなった。射精後の賢者モードになった頭で、いま味蕾から伝わっているこの刺激は自分自身の精液によるものだとどこか冷静に考えながらも、ヴォルの唾液をすすり立派な犬歯を舌でなぞっていると、そんな些細なことはどうでも良くなってしまった。
「じゃあ……今度は僕が」
互いに床の上で組み合ったまま、期待と興奮にヴォルの目が燃える。いまにもはち切れんばかりに膨れ上がったこのちんぽを頬張りたい。獣欲に任せてガムシャラに突き立てられるそれを口の中に受け止めたい。そう思う気持ちと共に、ベッドの中で彼が見せた仔犬の表情をまた見てみたいという相反した気持ちも生まれていた。
「いいこ、いいこ」
銀の竪琴を取り扱う慎重な手つきでその身体を包み込み、指先で張り巡らされた弦を弾いていく。
「おっ、おいっ! 俺はイヌじゃねえっ!」
文句を垂れながらも、ひと撫でする度に身体を捩って悶えている。撫でられるの、好きなんだな。
「ああ……柔らかいお腹」
わしわしと腹の毛を手櫛で掻くと、クウンと情けない声があがった。柔らかい毛の下に硬くしなやかな筋肉をたたえている。別段、普段運動なんかをしている様子は無いから、この引き締まった身体は遺伝子によって定められた形なのだろうか。自らの少し弛み始めている腹と見比べて少しだけ嫉妬してしまう。
「僕だけの……可愛いワンちゃん」
グルルと抗議の唸り声。何も、本気でこの素晴らしい肉体と魂を持ったオオカミを見下そうという訳では無かったが、いじらしい反応に思わず嗜虐心が膨らみ始める。何より、いつまでもこうして腹を撫でていても、股間にそそり立つそれは満足しそうにないのだから。
「ちんちん」
左耳がピコリと跳ねてから、訝しげな顔で僕を見る。
「ほら、ちんちん」
ちんちんの部分を強調して、言い聞かせるようにもう一度言ってみる。少しの間はその言葉の意味を汲みかねたのか、眉を顰めて僕の顔をじっと見ていたのだが、その真意を理解したのだろう。表情筋が恥辱に溢れてピクピクと痙攣した。流石に度を過ぎてしまっただろうか。怒鳴りつけられてしまったら素直に謝ろう。それとも、有無を言わさず頭を掴まれて、オナホールのように滅茶苦茶に扱われるだろうか。それも案外悪くは無いかもな、そんな馬鹿げたことを考えていた。
「チッ……」
舌打ちをしてヴォルが立ち上がった。間も無く訪れる衝撃に備えて、無意識のうちに身体が硬直する。
「こっ、これで、満足かよ……」
胸の前で手をちょこんと揃え、腰を前に突き出してちんぽを強調する格好を見て、思わず呆気にとられてしまう。なんだ、幻か?
「おっ、お前、がっ! やれっていうからダロ!」
噛み付かんばかりの勢いで吠え立てながらも、ちんちんの体勢は維持したままだ。
「ヴォルガさ……ヴォル……」
その足元ににじり寄って見上げると、プイッと顔を逸らされた。それでも、名前を呼ばれたことに反応して、尻尾とちんぽがビクビクと動いた。
「ちゃんとちんちん出来てお利口さんだね?」
苦々しげなオオカミの口から小さく息が漏れた。
「こんなに大きくしちゃって。ちんちん見てほしかったの?」
返事の代わりに先走りがビュッと飛び出した。ああこういうの好きなんだな。心の中で二マリと笑ってしまう。先ほど出したばかりだと言うのに、また血液が集まり始めるのを感じる。今すぐに口いっぱいに頬張ってその塩辛さを味わいたい。でも、もう少しだけ我慢我慢……
苦しそうなちんぽに鼻を寄せてそこからモワリと香り立つ匂いを嗅いだ。お世辞にもいい匂いとは言えない。生臭くすえた匂い。それでいて、僕の脳みそをグシャグシャにかき混ぜて蕩けさせてしまう淫靡な匂い。自分だって人のをさんざん嗅いだくせに、自分が嗅がれるのには慣れていないのか切ない声を漏らしている。
「な、なあ……もう……ひゃんっ!?」
堪えきれずに懇願を始めたオオカミのちんぽに向かって息を吹きかけると甲高い悲鳴。あんなに精悍な顔からこんな声を出すなんて反則だぞ。
「ああおいしそう……」
芝居ではなく本心から出た声だった。吸い寄せられるように顔を寄せて、唇に触れるすんでのところで止める。そして尖らせた舌を伸ばしてちんぽ穴をほじくった。
「ふあっ、あ……ああっ……」
敏感なトコロを責められて、先走りを撒き散らしながら喘ぐオオカミ。より強い快楽を得るために腰を押し付けてなんとかちんぽを口内に収めようと試みる。別に無理矢理されても大歓迎なんだけどな。断続的に吐き出される磯の香りを満喫していると、先端だけから与えられるもどかしさに業を煮やしたヴォルの手が、僕の頭を鷲掴みにしてやろうとうろうろと機会を伺うもいつまで経ってもその時は訪れない。
ああ、それもそうか。今は従順なワンちゃんだからな。お互い熱に浮かされて始めた馬鹿げたロールプレイのルールすら律儀に守ってくれているのだ。
「ねえヴォル」
舌の上にふてぶてしい亀頭を乗せたまま問いかけると、目を閉じ歯を食いしばってちんぽの先っぽに意識を集中させていたヴォルが薄目を開ける。交わす視線の中に意思を込めた。
「あ、その……なんだ」
さっきだってあんなに乱れていたんだから今更恥じらうことなんてないだろうに。
「ち、ちんちんにご褒美欲しい…………ちんちん食べて……」
もちろんその提案を突っぱねる理由なんて微塵も無いし、これ以上焦らす理由も無かった。そっとヴォルの手を取って自分の手のひらと重ねて、後頭部に添えてからヴォルの身体の方に引き寄せる。とうとう念願の口内へと侵入を果たしたちんぽが僕の身体を満たしていく。長いマズルの無い人間の身体では息をするのも絶え絶えで、とても喋れる余裕なんて持ち合わせていない。さすがに根元までは飲み込めないものの、亀頭球の手前まで押し付けられると、ヴォルの長いオオカミちんぽが入っちゃいけない所にまで届いてしまう。歯を立てないようにだとか、舌を使って奉仕するだとかそんな余裕はもはやこれっぽっちも持ち合わせておらず、押し広げられた食道が気道を圧迫してゲップのような音が声帯から鳴った。
サイズの違いに気がついたヴォルが慌てて引き抜こうとするのを意地で制してから、大丈夫だよという返事の代わりに手を伸ばして腹を撫でる。
「グッ……ああヤベえ……熱くて溶けちまうっ!」
ぐぶぶぶっ……ごりゅっ、ずにゅっぐぼっ
遠慮と無遠慮の中間くらいの力を持って口内をちんぽで蹂躙される。目一杯開かれた口からは呼吸なんてできるはずもなく、鼻から大きく息を吸い込むと溺れて酸欠になった頭の中が大好きな匂いで満たされた。
「はあっ! あっ……グルッ……あっあっ!」
ぬこっ! ぐぷっ! ずっこぬっこ
「ケンイチ……ケンイチっ! 好きだっ、好きだぞっ!!」
顎の痛みも、息苦しさも、このオオカミから発せられる甘い言葉と鼻から抜けるいやらしい匂いに麻痺してしまう。ぐちゃぐちゃと掻き混ぜられて白い泡を立てる口内が、愛おしい存在に快楽をもたらしているのだと考えると、僕はこのために生まれ落ちたのでは無いかとすら思ってしまう。
「あっ、あああっ……ふっ、ぐううっ」
嬌声がどんどんと音階を高くしていって、程なく歓喜の瞬間が訪れることを告げていた。欲しい。ヴォルのモノが欲しい。でっぷりと垂れた金玉が空になってしまうまで、僕の身体で全部搾り取って独り占めしたい。限界まで押し広げられていた口内で更にちんぽが膨らんで、顎の関節がパキッと音を立てる。急速に尿道を駆け上がってくる精液の感触。
びゅっ! びゅるびゅっ! びゅーっ! びゅぴっ……
咽頭の先、気道に達したヴォルの先端から勢い欲望の白濁がよくほとばしる。飲み込むとか飲み込まないとか、もはやそういう次元ではなく、直接腹の中に叩きつけるような射精。嬉しいのに、嬉しいはずなのに生理的な反応からか目頭が熱くなり視界の中で顔をくしゃくしゃに歪めているヴォルの顔が一層滲んだ。
イヌの射精は長時間に及ぶと何かの文献で見た気がするが、その特性をしっかりと持ち合わせているらしい。現実にはもっと短いのだろうが、僕にとっては数十分、数時間にわたる長い吐精で胃の中は既にヴォルの精液で満腹だった。壊れたポンプのようにビクビクと律動を続けるヴォルのちんぽ。
「おごっ、えっ、オエエッ! げぶっ」
一滴たりともこぼしたくなんて無いのに、横隔膜が収縮して駆け上がった精液が、逃げ場を探して鼻から逆流する。鼻水のように垂れるそれが勿体無くて鼻をすすると一層濃いオオカミの匂いが脳みそを揺らした。
「わっ、わるいっ! 大丈夫かっ!?」
ずりゅりゅ、と身体の中に収めていたちんぽを引き抜き、慌てたヴォルが申し訳なさそうに背中をさすってくれた。また胃から逆流して吐き出しかけた精液をすんでのところで目を瞑り飲み干してから、精液と涎でドロドロになった顔で精一杯笑顔を作ってみせる。きっと目も当てられない酷い顔なんだろうけど。
僕が無事だったことに安堵したヴォルが、口の周りをペロペロと舐めとるくすぐったさがこの上なく幸せだった。
「お前なあ……いきなり飛ばしすぎ。オマケに無茶し過ぎだろ」
あれからシャワーを浴びて、ホカホカに温まったヴォルに腕枕をされていた。乾き切らずにまだしっとりとした毛並みが吸い付くようだ。
「でも、気持ちよかったでしょ?」
そう言ってやわやわと腹を揉むと、照れ臭そうにまあな、と呟く声。僕だって、こんなに気持ちいいことが世の中にあるんだろうかという位に気持ちよかった。それは単に肉体的な接触だけにとどまらず、互いの心を触れ合わせたことが一番の理由だった。
「ゔぉーるっ」
愛おしいその名前を呼んでみると、冷たい鼻先が僕の鼻にピトリと引っ付いた。
「なあ、俺のこと、ペットか何かだと思ってねえだろな?」
ムスッとして怖い顔を作ってみせた。そんな顔しても全然怖くなんかないんだけどね。
「うーん、あながち間違いじゃないかも」
即座にオイッという突っ込み。
「ずっと一緒に居たい、家族のような存在って意味ではね。」
布団の中でバッタンバッタン暴れ回る尻尾に大笑いしてしまう。その後、不貞腐れて口を利いてくれなくなったヴォルを慰めるのには少しばかりの時間を費やす羽目になった。
翌日、まだ夜と言うには早い黄昏時。
店内には僕とヴォルガさんと、ヤナさんの三人ぽっち。お客としては実質一人。ヴォルガさんがまな板の上で包丁を振るうリズミカルな音が響いている。
「お待たせしました、ビールです。今日も一日お疲れ様でした。」
いやあクタクタだぜ、暑いのは苦手なんだよな。と愚痴をたれながらビールに目を輝かせる姿を見ていると思わず笑みがこぼれる。これからも、ここで上手くやっていけそうな自信がどこからか湧き上がってきていた。
「それにしてもよお、随分仲良くなったみたいじゃねえか?」
うん? 言葉の意図を理解して尚、真意を理解しかねる。そりゃあ、昨日はその、そういうコトをしたけれど、この店に立っている間は公私混同はせずあくまでヴォルガさんと呼んでいるし、態度にだって出ないように上手く隠しているつもりだ。
「なんだヤナ、暑さで頭がおかしくなったのか?」
包丁から目を離さないまま、ヴォルガさんが手厳しい言葉をぶつける。この二人、軽口を言い合えるくらいには仲が良いんだな。ヴォルガさんの言葉を意にも介さず、アルコールが沁みてきたのかヘラヘラとした態度のオオカミ。本当になんだっていうんだろうか。
「ご褒美にちんちん食べて~ワンワンッ!」
わざとらしく芝居がかった口調で放たれた台詞に店内が凍った。え、いま、なんて。静止した時間の中で、茶色毛のオオカミだけが楽しそうにイヌの真似事をしてみせる。
ガシャンという音と共に、ヴォルガさんが包丁を持ったままカウンターから飛び出した。
「おお、おまっ! なんっ、どこで見てやがった!!」
フーフーと猫のように荒く鼻息を吐いて包丁を突き立てようとするヴォルガさんを止めるのに僕は必死だった。
「ちょ、ちょっと! ヴォルガさん落ち着いてっ!!」
危害が及ばないように制しながらも僕の頭の中にも同じ疑問が浮かんでいた。昨日のアレを……まさか見られていた?
「いやあ、だってなあ」
まるで危機感のない飄々とした声。
「オレの家、ココの隣だから。丸聞こえだっつーの」
ヴォルガさんは頭を抱えてうずくまり、ブツブツと呪詛を唱えていた。確かにまあ、あれだけ声を出せば聞こえてしまうわな。そんなことにも頭が回らないほどに興奮してしまっていた。別に覗かれていた訳でも何でもないのだから、ヤナさんには非が無いとも言えるし……
「そもそもケンイチがあんなコトさせるからだぞっ!」
「なっ、ヴォルだって尻尾振ってたくせに!」
売り言葉に買い言葉。夫婦喧嘩は犬も食わない。日曜日にコメディー映画でも観ているような態度で肩肘を付いて眺めるもう一匹のオオカミ。
「ヴォルぅ、おかわり~」
お前に飲ませるサケはねえっ! 一際大きな声が村中に響き渡った。
幾分かは慣れてきた手付きでテーブルの上にジョッキを置くと、それを心待ちにしていた茶色の毛並みのオオカミが、ありがとな! と言ってニカッと笑顔を見せた。
学生の頃に、ただ遊び金欲しさで数ヶ月間していた飲食店でのアルバイトの経験が思わぬところで少しは役に立っているのだろうか。とは言っても、こうして料理を運んだり皿洗いなんかのごく簡単なことしか出来ないけど。
この店、おおかみ亭は小さなテーブルが二つと六席ばかりのカウンターのこじんまりとした店にも関わらず、夕飯時には満席近い賑わいを見せる。なんでも、この集落でお酒を出しているのはここだけらしく、仕事終わりに一杯引っ掛けていくのがここの住人達の楽しみなのだそうだ。
「なあ、なあってば、アンちゃんよ」
すっかり回想に浸っていたところに、ビールの泡で口元に白髭を作ったオオカミから声が掛かった。
「あ、すみません、追加の注文ですか?」
既にジョッキの四分の一ほどが透明になっているとはいえ、追加注文するほどでは無いだろうし、空きっ腹を刺激して胃液をじわりと滲み出させるほどの匂いを漂わせている唐揚げもまだ皿に残っている。
「ちげえって。アンちゃん、ヴォルガのコレなのか?」
そう言ってニタニタを笑いながら小指を立ててみせる。
「いや、いやいやいや、違いますって。僕はただの……」
ただの従業員兼、居候。ないしは非常食。まあ、聞いたところ彼等オオカミ、正確には獣人は別に人間を取って食ったりはしないとのこと。僕みたいにたまに迷い込んだ人間を「食べてやるぞ」と脅して追い返すことは稀にあるみたいだけれど。そう……普通はすぐ追い返す筈なのだ。それなのに何故、ヴォルガさんは僕をここに留めておこうとするのだろうか。
「おいヤナ、尻尾の毛を全部むしられてぇのか」
不機嫌そうな唸り声がカウンターの奥から響いた。
「ケンイチ、料理あがったぞ!」
不機嫌の波は僕の方にも流れてきたようだ。ヤナと呼ばれたオオカミと目を合わせ、お互いに苦笑いをすると僕は軽く会釈をしてから出来上がった料理を運ぶべく厨房に戻った。ヴォルガさんは慣れた手付きで次の注文に取り掛かりながらも苛立ちを隠さない。幾分かの申し訳なさを感じながらも僕は気を取り直してまた仕事へと戻った。
暖簾を下ろす頃になっても、先ほど浮かんだ小さな憂慮の火種はまだ燻っていた。彼は何故、食べるだの監視するだのと嘘を吐いてまで未だに僕を此処に留め置いているのだろうか。人手が足りないからというのももちろんあるにしろ、それだけが理由とは思えない。いや、そうあって欲しい。
僕の頭の中にはまたあの時の出来事が鮮明に浮かび上がっていた。白い湯気の中に浮かび上がる灰色の毛並み。背中を伝い同調するお互いの鼓動。耳元で囁かれる荒い息遣いと、情欲の炎を宿して金色に輝く双眸。そして臀部に押し当てられた硬い滾り。あの時、逆上せて気絶するなんて失態を犯さなければ、その先に何が待ち受けていたのだろうか。
「さき、風呂はいるぞ。」
僕を一瞥してから足早に浴室へと向かう不機嫌そうな尻尾を見送りながら、心の中に立ち込めた霧は一層深さを増していく。なにも、なにもヴォルガさんと肉体関係を持ちたいだとか、性欲を発散したいといった邪な考えばかりでもない。あれが例え一晩の過ちであったとしても、たとえ言葉が紡がれなかったとしても、ああして誰かに強く求められることが、僕の存在意義を示していたように……いやそんな高尚ぶった言い訳はやめておこう。
あれ以来、一緒に入浴することもなく、眠る時も同じベッドに居ながら背中合わせ。あれは一時の気の迷いで、ヴォルガさんは人間の僕には興味も魅力も感じないのだろうか。合わせた背中から伝わる三十九度の平熱を感じるたびに、惨めさに身体が凍り付いていった。
「ヴォルガ……さん」
居ても立ってもいられなくなって、扉の向こうで始まった観客のいないストリップショーの主役に向かって恐る恐る声をかける。
「なっ、なんだよっ!?」
焦りと驚きを孕み裏返った声。これからリラックスしようという時に唐突に呼びかけてしまったことに罪悪感を感じながらも、今更後戻りはできない。
「一緒に、入ってもいいですか?」
また、あのしなやかな肉体を一目見たい、そしてあわよくば。
「は、ハアッ!? ダ、ダメだっ! 絶対入ってくんなよっ!!」
想像していたよりも強い拒絶の言葉に、これ以上はもはや交渉の余地もなかった。
風呂上がり、いつものようにベッドの上。何事もなくまた一日が終わろうとしている。このまま目を瞑ればきっといつもの明日が待っていて、忙しいながらも充実した日が待っているだろう。だから、こんな余計なことをしてそれを喪うリスクを取るべきではないのだろうけど。
「ヴォルガさん」
聞こえているのかいないのか。返事ともとれる大きな鼻息。
「人間は、嫌いですか?」
そう口に出すと、自らに対する嫌悪感が沸き上がってくる。
暫く置いてから、別に。と小さく返事が返ってきた。たったそれだけの言葉だのに、僕に尻尾が生えていたらブンブンと千切れんばかりに振り回していただろう。少なくとも嫌われてはいないんだという思いと、その裏に含まれた成分を期待して胸が高鳴ってしまう。
「えっと、その、つまり……」
どう切り出したものか。あなたとエッチがしたいんです! と単刀直入に切り出すわけにもいかないだろう。事実そうしたい気持ちは山々だけれども、そんな一方的で不躾なお願いができるはずもない。それになにも、自分が気持ちよくなりたいからという思いよりも、むしろたとえ性の捌け口としてだけであっても、誰かに、いやヴォルガさんに求められたくて仕様がなかった。
「なんだ? 言いたいことがあるなら言えよ」
あれこれと自分に言い訳を重ねているうちに、ヴォルガさんの苛立ちが大きく成長し始めた。まずい、早く切り出さないと機嫌を損ねてしまうし、気まずいまま明日を迎えなければならなくなってしまう。
「あー、あの、ヴォルガさん……というか、オオカミの人達って自分で抜いたりしないんですか?」
焦った僕の口をついて出てきたのは思いつく限りでも最悪の悪手だった。
「は、はぁっ!? お、お前熱でもあんのか?」
そりゃあ突然こんなことを言い出したらおかしくなったと思われても仕方ないだろう。だが、ここでやめるわけにはいかない。もう止まれない。無理矢理にでも、強引に押し切るしかない。
「い、いやあ、ここって歓楽街も無いですし、みなさんどうやって発散してるのかなぁって。」
声が裏返らないように、噛んでしまわないように。あくまで興味本位からくる生態調査を装ってみせる。
「他の奴らは時々人間に化けて街におりたりもしてるけど……俺は別にそういうの興味ねえし」
あ、人間の姿にもなれるんだ。普段この村の中で目にするのはオオカミの姿だけだから思いもつかなかったけれど、これだけの近代的な調度品を自分たちの手だけで作れるわけもないし、ここには電気だって通っているもんな。純粋に、彼等の生い立ちや文化についての興味が膨らんでくると共に、メラメラと燃え盛っていた熱が消えかける。いやダメだ、千載一遇のチャンスなんだぞ。もう二度とこの手の話は切り出せないかもしれない。
「じゃあ、ヴォルガさんは、その、どうやって」
まだ続けられる尋問に嫌気がさしたという音。静かな呼吸の音と、小さく鳴らす喉の振動が夜に広がって輪郭を消していく。
「おお、おれ、は、自分で、その……してる」
このまま黙殺されて、無かったことにされてしまうのだろうと諦めかけたところで、ヴォルガさんが消え入りそうな声で呟いた。その声色からきっと顔を真っ赤にしているであろうことが、緊張で体積を増した体毛越しに伝わってくる。
「そういうお前は、ど……どうなんだよっ」
矛先がいよいよ自分に向けられたことで手のひらにじわりと汗が滲む。誘導が上手くいってほくそ笑みたい気持ちと、とうとう勝負を仕掛けるのだという決意。
「あー……その、人間は、ですね、仲の良い者同士なら、おっ……お互いに見せあったり、その、手伝ったり、とかですね……」
質問に対しての回答としてはあまりにも頓珍漢すぎる。おまけにそんなことをするのはごく限られた一部の若者だけで、それは思春期に膨れ上がったパトスにまかせて踏んでしまう一過性の風邪みたいなものだ。
「だから、つまりその、ヴォルガさんが溜まってるなら」
相手が口を開く前にそう畳みかける。人間達の間ではまま行われることであって、何ら特異なことでは無いのだと強調して。あくまで、コミュニケーションの一環なのだと言い聞かせて。
「そ、そんっ、そういうのは、フツー恋人同士がやるもんだろ!」
正論すぎてぐうの音も出ない。そりゃあ僕だって野生動物じゃないんだから、そういうのは好意を寄せた相手としかしたくはない。いやむしろ野生動物だって、誰彼構わず交尾する訳ではなく、番になれると見定めた相手との子を成すのだから。ああいやそんなことを言いたいのではなくて。
寝返りを打つようにして身体を反転させると、大きな背中が目に飛び込んできた。予期しない行動にその肩がビクリと震える。そこに僕の手が触れる数百ミリ秒の間にいくつものシミュレーションを走らせてみるが、その結果はいずれも惨憺たるものだった。手を払い除けられ、この色狂いがと軽蔑に満ちた表情で罵られる。もう二度と、ここには居られなくなるかもしれない。折角掴んだ日常が僕の愚行によって粉々に砕かれてしまうかもしれない。息を止めて、ぎゅっと目を閉じて、神に祈るような気持ちで、獣毛に覆われた身体に手を触れる。頭の中で、ごめんなさいという言葉を念仏のように唱えながら。
「うおっ!? け、ケンイチ?」
接触を拒絶するように筋肉が硬く隆起して装甲を構成した。
「ヴォルガ、さん……」
指先が震えるのを諌めながら、肩口に置いた手を胸郭に向かって滑らせていく。寝間着の布地を押し上げるように膨らんだ体毛を均しながら、オオカミの体温を享受する。
「なっ、え……お、おいっ!」
ヴォルガさんは狼狽し困惑の声を上げながらも、拒絶のシグナルは未だに発報しておらずレモンジュースに留められている。
その反応に気を良くした僕の中の悪魔は更に増長して遠慮という言葉を頭の中から消し去る。ふかふかとした柔らかい産毛の生い茂るうなじに鼻を寄せて大きく息を吸い込むと、ひどく有機的で郷愁を湛えた匂いに肺が満たされた。あの浴槽での出来事の再現のようでいながらお互いの立ち位置は逆転している。このままオオカミの身体を貪って、情炎に身を焦がしてしまいたい。骨も残さず全てを喰らい尽くしてしまいたい。そんな思いが募って膨れ上がり破裂する寸でのところで、大きな耳を伏せされるがままに身を任せ、服従を示し慈悲を乞うように小さく鼻を鳴らすヴォルガさんの姿に気がついた。
「ヴォルガさんっ! ……んむっ」
自責の念に駆られながらも、耳の裏を鼻先で擦り付けてから尖った先端を口に含む。舌先で毛づくろいの真似事をしながら唾液でオオカミの毛を湿らせていく。
「あのっ、あの!」
「ニンゲン同士だと、これも、フツーなのか、よっ……」
僕の口元から伝播した興奮に飲まれたヴォルガさんが、苦し紛れに僕の心をチクリと刺した。
「普通じゃない、です……こういうのは」
子供の頃に思い描いていた、好きな子に告白するシチュエーションというものは、例えば学校の帰り道に暮れなずむ街を見ながらだとか、卒業式の日に体育館の裏にある“伝説の木”の下でだとか、そういうポエティックなモノだとばかり思い込んでいたのだが。
「す、好き、です……」
なんら情緒もなく、まるで発情した犬のように相手にのしかかりながら、この場には似つかわしく無い言葉を口に出していた。これ以上自分を取り繕って、孔雀の羽根を広げる余裕なんてこれっぽっちも無かったのだ。
「おま、わかってんのかよ……俺は」
好きです。もう一度確かめるようにそう言ってその身体に縋った。もう、飲み込めない。声帯から発せられた振動は空気中を伝い時速千二百キロメートルの速度で寝室内にちりばめられた。
「お前のせいだからな……」
ヴォルガさんが僕の方に向き直ると、羞恥と興奮に歪んだ顔で僕を睨みつける。ガシッと僕の手を掴んだかと思うと、そのまま勢いよく下されて股間に押し当てられた。薄手の布地が破れてしまうんじゃないかと思うくらいにテントは高く張り出して、オオカミの荒い息遣いと非同期に時折脈打っている。その輪郭を確かめるように指先でなぞると甘い吐息が漏れる。ヴォルガさんが僕に欲情してくれている、勃起してくれたというその事実だけで恐ろしいほどの脳内麻薬が急速に合成されて、全身が多幸感に溺れていく。
フワフワと夢見心地でヴォルガさんの顔を見ると、一瞬目が合ったあとすぐに気恥ずかしげに顔を逸らされた。思わず口角が吊り上がり、みぞおちから声にならない言葉が溢れ出す。
「俺も、お前のコト、嫌いじゃないぜ」
目を泳がせながらぶっきらぼうに言い放たれた言葉に後頭部を殴られて脳震盪を起こしかけるものの、一点、一点だけ僕には不満が残っていた。
二つの満月の中で揺れ動く黒点を追いかける。それぐらい察しろよ! と訴えかける唸り声。それでもまだ納得できない僕は、小首を傾げてまだ待ち続ける。
「あー、クソ……なんだ、俺も……好きだぞ」
やぶれかぶれで、いかにも言わされたという言い方ではあったものの、及第点はおろか百点満点と言っても良いだろう。
窓から差し込む月光がオオカミの姿を白いシーツの上に形づくる。
「け、ケンイチも脱げよっ!」
不満げに尻尾を暴れさせながらヴォルガさんが文句を口にした。
「綺麗だったので、つい」
言い訳のつもりは毛頭無かったのだがヴォルガさんは目で僕を急かす。上着を脱いで上半身裸になり、ズボンを脱ぎ捨ててお互いにパンツ一丁でテントを張っているという滑稽な光景だ。
「あの、ヴォルガさんからお先にどうぞ」
やはりこういう役目は歳上に譲らないとな。
「は、はぁっ!? ケンイチこそ歳下だろ! お前から脱げよっ!!」
あー、いるいる、都合のいい時だけ先輩風吹かす人。お互いに暫しの間睨み合っていたが、こんなことで張り合っているのが馬鹿らしくなってどちらからともなく吹き出した。
「じゃあ、いっせーので! で同時に脱ぎましょうか?」
その、なんというか、初めてのアレなんだから、もうちょっと情緒をもたせても良さそうなものだけど。
「わ、わかった。じゃあいくぞ、いっせーのーせっ!」
僕がパンツのゴム紐に手をかけたままじっとしていると、ヴォルガさんは勢いよくパンツをズリ下げて、その反動でビヨンと音が聞こえてきそうな程にちんぽが跳ねた。
人間のそれとは随分と見た目の異なるオオカミのちんぽ。内臓が飛び出したように、全体が赤黒く血管が絡みつきぶっくりと太ましい。根元には睾丸が付いているのかと見まごうばかりに腫れ上がった亀頭球があって、唐辛子のように尖った先端からは欲望の化身が今にもこぼれ落ちそうに水玉をつくっている。
「ず、ずりいぞっ!! お前も脱げよっ!」
ギャンギャンと吠え立てるオオカミに急かされて、覚悟を決めてから僕もパンツを下ろした。まあ、その、大きさは負けているかもしれないけれど、僕だって狂おしいくらいに興奮しているんだ。ゴクリ、と固唾を飲む音。交差する視線。お互いに、生まれた時からプログラムされていたソフトウェアが起動して、どちらからともなく歩み寄っていく。二つの影が一つの塊になった。
「んっ……ちゅっ、はあっ……」
どちらのものともとれない嬌声が上がり、熱い吐息を交換する。お互いの腹の下でははち切れそうに勃起したちんぽがぬるついた先走りを塗り付けあいながらチュクチュクと音を立てる。ヴォルガさんの長い舌が口内を掻き回しては唾液を啜る。
「ヴォルガさんっ……あっ、ふ、んんっ」
その責めに負けじと対抗しようとするものの、身体中をとろけさせ痺れるような甘さを与えるそれに抗う術はなかった。
「……ヴォル」
口内の開拓を一旦中止したヴォルガさんが、僕の鼻に自らの鼻先をスリスリと擦り付けながら呟いた。
「ヴォルって……呼んでくれよ」
この時の感情をどんな言葉で言い表せばいいのか答えは生憎持ち合わせていない。ただこの愛おしいオオカミの名を呼ぶことで精一杯だった。
「ああ……ヴォルっ、ヴォルぅ……」
喘ぐようにしてその名前を呼ぶと、それに応えるように尻尾が空気を攪拌する。ただ名前を呼ぶだけで、こんなにも満たされた気持ちになるなんて。いつまでもこうしていたい気持ちも吝かでは無かったが、先ほどからお互いの先走りに濡れて、まるでディープキスでもしているかのように水音を立てているちんぽをどうにか鎮めなければという思いもあった。
「あっ!? んっ、んんっ」
今度こそ僕が先に、と身体を動かそうとしたのを制して、ヴォルガさん、いやヴォルが僕の中央構造線を冷ついた鼻でなぞりながら沈下していく。乳首を舐め、大胸筋を押して、腹の匂いをクンクンと嗅いでから茂みの中に到達したそれは、止めどなく先走りを垂れ流し続ける尿道口にピタリと鼻をくっ付けて、うっとりとしたため息を漏らした。
「はあ……すげえ匂い……」
恥ずかしさで思考回路が焼き切れてしまいそうだ。半開きになったオオカミの下顎から突き出た犬歯がてらてらと光っている。
「あ、あのっ! も、もうっ」
これだけでも十分に目の保養、いや目の毒ではあるが、いくらなんでももう我慢の限界だ。ともかく抜きたい、射精したい、そんな願望に頭の中が支配される。湿った吐息が亀頭に吹きかかると、いても立ってもいられなくなってピンと垂直に張り出した耳を掴んで、ゆっくりと手前に引き寄せた。
くぷっ……じゅぷ、ぷっ
刀剣が鞘に収められるように、あるべき場所に帰るように、僕のちんぽがヴォルのマズルの中に飲み込まれていく。この身を全て焦がしてしまいそうな熱を湛えた肉壁が、亀頭の鋒によって掻き分けられていく。分断されたそれはすぐさまちんぽ全体を包み込み、時折尿道に残った先走りまで吸い付くそうとチュッチュと負圧を生じさせる。
「ああっ、ヴォル、ヴォルッ!!」
無意識のうちに腰を打ち付けながら、ちんぽに押されて膨らんだ頬を撫でると、どこか得意げに目が細められた。
「んぶっ……ちゅっ、すっげえ、熱い……」
ちんぽを咥えたまま感想を漏らすその姿がこの上なく扇情的であった。
くちゅ、にゅぐぐっ……ぶぷっ、ぬりゅっ
「ヴォル、気持ちいい! ちんぽ気持ちいいっ」
性器と化したマズルを堪能しながら、思考がそのままフィルターを通さずに声となって口から漏れてしまう。上顎の肉ひだで擦り上げられるカリ首も、長い舌で舐め回される裏筋も、先走りと唾液で泡立つグチュグチュとしたうがいのような音も、何もかもが僕の興奮と劣情を加速させていく。
ちゅくっ、ちゅっちゅ、にゅるるっ
「ちんぽ……ちんぽおいしい?」
耳の裏を掻きながら、そんな自己陶酔に溢れた質問を投げかける。美味しいわけ、無いだろう。ただの生殖器官に過ぎないのだから。そんな嘲笑めいた声が心の奥底から響いてくる。
「おいしっ、おいしいぞっ……ちゅぶっ……ケンイチのちんぽ、口の中でビクビクしてるぞ」
たまらず頭を掴んで根元までちんぽをねじ込んだ。長いマズルでなければきっと窒息してしまっていただろう。それでも幾分かは苦しげに喘いでいるが、決してちんぽからは口を離そうとはしなかった。
「ヴォルッ、好き……大好きっ! ちんぽ、ちんぽいっぱい食べてっ!」
抽送を繰り返す度に疼きが下腹部から湧き上がり、ちんぽからカウパーを溢れさせる。その度にコクコクとオオカミの喉は小さく鳴って、大きな身体の中に僕を取り込んでいくのだ。
「じゅるっ……こくっ……ずっと、ずっと我慢してたんだからなっ! にゅちゅっ! ちんぽ、ケンイチのちんぽっ!」
おんなじだったんだ。ずっとお互いに同じことを考えていたんだ。こんなことならもっと早くこの思いを伝えていればよかった。
くぽっ、くぷっ、じゅっ! じゅっぽ!
加速度的に快楽が駆け上がって、射精の準備がもう止められない段階まで進行している。
「毎日っ、毎日ちんぽたべてねっ! ああっ! ヴォルの口の中でちんぽ気持ちよくなっちゃってる……!! ヴォルの、ヴォルのちんぽも食べたいっ! エッチなちんぽいっぱい食べっこしようねっ!」
理性や羞恥といった概念はとうの昔に吹き飛んでしまって、ただ本能と欲望の突き動かすままにヴォルから与えられる快楽に溺れていた。このオオカミのマズルの中に思い切り射精したい。オオカミのちんぽを喰らい尽くしたい。毎日毎日、お互いの精液をその身体に取り込み合ったら、肉体を構成する物質の何パーセントがそれに由来するものになるのだろう。そんな倒錯的なカニバリズムに想いを寄せる。
「ああっ! ずっと毎日だからな!! ちゅぶぶっ! ぬぼ、ぬこっ! オレのも、俺のちんぽもいっぱい食べさせてやるからなっ……俺だけの……ぐぶぶっ! ぶっぽ、ちゅっちゅぐっ、んっんんっ!」
ちんぽからミルクを強請る搾乳の仔オオカミの動きが一層激しさを増した。もう決壊寸前、これ以上は我慢が出来ない。もう少しだけ、この背中からゾワリと突き上がる感触を楽しんでいたかったが、それも叶わない。でも、明日も、明後日も、その次の日も、ずっと先も、僕たちがここに居て、生きている限りは。
「ケンイチのちんぽ、エッチな味が濃くなって来てるぞっ……ほら、出しちまえよっ! んぐぶぶっ!」
そう言ってこれまでよりも更にマズルの中に飲み込まれると、もうそれ以上は耐えられなかった。
「あっ、いく、いくいくっ! でるっ! ふっ……うっ、んっ!」
びゅっ、びゅくっ、びゅぶ
「んぐっ、ごくっ……げほっ、ごくっ、ごく……」
飲み込む側から喉奥に向かって飛び出した精液にむせこみながらも、一生懸命に喉を鳴らして取り込んでいく姿がたまらなく愛おしい。嚥下する動きが射精直後には刺激が強過ぎて、くすぐったさに思わず腰を引いてしまう。
床には口の端からこぼれ落ちた、様々な液体の混合物が水溜りとなって広がり、ひどい匂いを部屋中に立ち込めさせている。吐精も完全におさまって、息も整ってきた頃合いになっても未だにちんぽを咥えて上目遣いに僕を見るオオカミ。眉間から後頭部にかけてなぞるように撫でるとうっとりと目を細めて、尻尾がゆらり。
「おわっ!?」
僕の前に跪いているヴォルに押し倒すようにして抱きつくと素っ頓狂な声が上がる。
「おっ、おい! ケン……んむっ……」
文句を言う前にその口を塞いでしまう。暫くの間は何かを言いたげにモゴモゴと口が動いていたが、やがて観念したのか抵抗が無くなった。射精後の賢者モードになった頭で、いま味蕾から伝わっているこの刺激は自分自身の精液によるものだとどこか冷静に考えながらも、ヴォルの唾液をすすり立派な犬歯を舌でなぞっていると、そんな些細なことはどうでも良くなってしまった。
「じゃあ……今度は僕が」
互いに床の上で組み合ったまま、期待と興奮にヴォルの目が燃える。いまにもはち切れんばかりに膨れ上がったこのちんぽを頬張りたい。獣欲に任せてガムシャラに突き立てられるそれを口の中に受け止めたい。そう思う気持ちと共に、ベッドの中で彼が見せた仔犬の表情をまた見てみたいという相反した気持ちも生まれていた。
「いいこ、いいこ」
銀の竪琴を取り扱う慎重な手つきでその身体を包み込み、指先で張り巡らされた弦を弾いていく。
「おっ、おいっ! 俺はイヌじゃねえっ!」
文句を垂れながらも、ひと撫でする度に身体を捩って悶えている。撫でられるの、好きなんだな。
「ああ……柔らかいお腹」
わしわしと腹の毛を手櫛で掻くと、クウンと情けない声があがった。柔らかい毛の下に硬くしなやかな筋肉をたたえている。別段、普段運動なんかをしている様子は無いから、この引き締まった身体は遺伝子によって定められた形なのだろうか。自らの少し弛み始めている腹と見比べて少しだけ嫉妬してしまう。
「僕だけの……可愛いワンちゃん」
グルルと抗議の唸り声。何も、本気でこの素晴らしい肉体と魂を持ったオオカミを見下そうという訳では無かったが、いじらしい反応に思わず嗜虐心が膨らみ始める。何より、いつまでもこうして腹を撫でていても、股間にそそり立つそれは満足しそうにないのだから。
「ちんちん」
左耳がピコリと跳ねてから、訝しげな顔で僕を見る。
「ほら、ちんちん」
ちんちんの部分を強調して、言い聞かせるようにもう一度言ってみる。少しの間はその言葉の意味を汲みかねたのか、眉を顰めて僕の顔をじっと見ていたのだが、その真意を理解したのだろう。表情筋が恥辱に溢れてピクピクと痙攣した。流石に度を過ぎてしまっただろうか。怒鳴りつけられてしまったら素直に謝ろう。それとも、有無を言わさず頭を掴まれて、オナホールのように滅茶苦茶に扱われるだろうか。それも案外悪くは無いかもな、そんな馬鹿げたことを考えていた。
「チッ……」
舌打ちをしてヴォルが立ち上がった。間も無く訪れる衝撃に備えて、無意識のうちに身体が硬直する。
「こっ、これで、満足かよ……」
胸の前で手をちょこんと揃え、腰を前に突き出してちんぽを強調する格好を見て、思わず呆気にとられてしまう。なんだ、幻か?
「おっ、お前、がっ! やれっていうからダロ!」
噛み付かんばかりの勢いで吠え立てながらも、ちんちんの体勢は維持したままだ。
「ヴォルガさ……ヴォル……」
その足元ににじり寄って見上げると、プイッと顔を逸らされた。それでも、名前を呼ばれたことに反応して、尻尾とちんぽがビクビクと動いた。
「ちゃんとちんちん出来てお利口さんだね?」
苦々しげなオオカミの口から小さく息が漏れた。
「こんなに大きくしちゃって。ちんちん見てほしかったの?」
返事の代わりに先走りがビュッと飛び出した。ああこういうの好きなんだな。心の中で二マリと笑ってしまう。先ほど出したばかりだと言うのに、また血液が集まり始めるのを感じる。今すぐに口いっぱいに頬張ってその塩辛さを味わいたい。でも、もう少しだけ我慢我慢……
苦しそうなちんぽに鼻を寄せてそこからモワリと香り立つ匂いを嗅いだ。お世辞にもいい匂いとは言えない。生臭くすえた匂い。それでいて、僕の脳みそをグシャグシャにかき混ぜて蕩けさせてしまう淫靡な匂い。自分だって人のをさんざん嗅いだくせに、自分が嗅がれるのには慣れていないのか切ない声を漏らしている。
「な、なあ……もう……ひゃんっ!?」
堪えきれずに懇願を始めたオオカミのちんぽに向かって息を吹きかけると甲高い悲鳴。あんなに精悍な顔からこんな声を出すなんて反則だぞ。
「ああおいしそう……」
芝居ではなく本心から出た声だった。吸い寄せられるように顔を寄せて、唇に触れるすんでのところで止める。そして尖らせた舌を伸ばしてちんぽ穴をほじくった。
「ふあっ、あ……ああっ……」
敏感なトコロを責められて、先走りを撒き散らしながら喘ぐオオカミ。より強い快楽を得るために腰を押し付けてなんとかちんぽを口内に収めようと試みる。別に無理矢理されても大歓迎なんだけどな。断続的に吐き出される磯の香りを満喫していると、先端だけから与えられるもどかしさに業を煮やしたヴォルの手が、僕の頭を鷲掴みにしてやろうとうろうろと機会を伺うもいつまで経ってもその時は訪れない。
ああ、それもそうか。今は従順なワンちゃんだからな。お互い熱に浮かされて始めた馬鹿げたロールプレイのルールすら律儀に守ってくれているのだ。
「ねえヴォル」
舌の上にふてぶてしい亀頭を乗せたまま問いかけると、目を閉じ歯を食いしばってちんぽの先っぽに意識を集中させていたヴォルが薄目を開ける。交わす視線の中に意思を込めた。
「あ、その……なんだ」
さっきだってあんなに乱れていたんだから今更恥じらうことなんてないだろうに。
「ち、ちんちんにご褒美欲しい…………ちんちん食べて……」
もちろんその提案を突っぱねる理由なんて微塵も無いし、これ以上焦らす理由も無かった。そっとヴォルの手を取って自分の手のひらと重ねて、後頭部に添えてからヴォルの身体の方に引き寄せる。とうとう念願の口内へと侵入を果たしたちんぽが僕の身体を満たしていく。長いマズルの無い人間の身体では息をするのも絶え絶えで、とても喋れる余裕なんて持ち合わせていない。さすがに根元までは飲み込めないものの、亀頭球の手前まで押し付けられると、ヴォルの長いオオカミちんぽが入っちゃいけない所にまで届いてしまう。歯を立てないようにだとか、舌を使って奉仕するだとかそんな余裕はもはやこれっぽっちも持ち合わせておらず、押し広げられた食道が気道を圧迫してゲップのような音が声帯から鳴った。
サイズの違いに気がついたヴォルが慌てて引き抜こうとするのを意地で制してから、大丈夫だよという返事の代わりに手を伸ばして腹を撫でる。
「グッ……ああヤベえ……熱くて溶けちまうっ!」
ぐぶぶぶっ……ごりゅっ、ずにゅっぐぼっ
遠慮と無遠慮の中間くらいの力を持って口内をちんぽで蹂躙される。目一杯開かれた口からは呼吸なんてできるはずもなく、鼻から大きく息を吸い込むと溺れて酸欠になった頭の中が大好きな匂いで満たされた。
「はあっ! あっ……グルッ……あっあっ!」
ぬこっ! ぐぷっ! ずっこぬっこ
「ケンイチ……ケンイチっ! 好きだっ、好きだぞっ!!」
顎の痛みも、息苦しさも、このオオカミから発せられる甘い言葉と鼻から抜けるいやらしい匂いに麻痺してしまう。ぐちゃぐちゃと掻き混ぜられて白い泡を立てる口内が、愛おしい存在に快楽をもたらしているのだと考えると、僕はこのために生まれ落ちたのでは無いかとすら思ってしまう。
「あっ、あああっ……ふっ、ぐううっ」
嬌声がどんどんと音階を高くしていって、程なく歓喜の瞬間が訪れることを告げていた。欲しい。ヴォルのモノが欲しい。でっぷりと垂れた金玉が空になってしまうまで、僕の身体で全部搾り取って独り占めしたい。限界まで押し広げられていた口内で更にちんぽが膨らんで、顎の関節がパキッと音を立てる。急速に尿道を駆け上がってくる精液の感触。
びゅっ! びゅるびゅっ! びゅーっ! びゅぴっ……
咽頭の先、気道に達したヴォルの先端から勢い欲望の白濁がよくほとばしる。飲み込むとか飲み込まないとか、もはやそういう次元ではなく、直接腹の中に叩きつけるような射精。嬉しいのに、嬉しいはずなのに生理的な反応からか目頭が熱くなり視界の中で顔をくしゃくしゃに歪めているヴォルの顔が一層滲んだ。
イヌの射精は長時間に及ぶと何かの文献で見た気がするが、その特性をしっかりと持ち合わせているらしい。現実にはもっと短いのだろうが、僕にとっては数十分、数時間にわたる長い吐精で胃の中は既にヴォルの精液で満腹だった。壊れたポンプのようにビクビクと律動を続けるヴォルのちんぽ。
「おごっ、えっ、オエエッ! げぶっ」
一滴たりともこぼしたくなんて無いのに、横隔膜が収縮して駆け上がった精液が、逃げ場を探して鼻から逆流する。鼻水のように垂れるそれが勿体無くて鼻をすすると一層濃いオオカミの匂いが脳みそを揺らした。
「わっ、わるいっ! 大丈夫かっ!?」
ずりゅりゅ、と身体の中に収めていたちんぽを引き抜き、慌てたヴォルが申し訳なさそうに背中をさすってくれた。また胃から逆流して吐き出しかけた精液をすんでのところで目を瞑り飲み干してから、精液と涎でドロドロになった顔で精一杯笑顔を作ってみせる。きっと目も当てられない酷い顔なんだろうけど。
僕が無事だったことに安堵したヴォルが、口の周りをペロペロと舐めとるくすぐったさがこの上なく幸せだった。
「お前なあ……いきなり飛ばしすぎ。オマケに無茶し過ぎだろ」
あれからシャワーを浴びて、ホカホカに温まったヴォルに腕枕をされていた。乾き切らずにまだしっとりとした毛並みが吸い付くようだ。
「でも、気持ちよかったでしょ?」
そう言ってやわやわと腹を揉むと、照れ臭そうにまあな、と呟く声。僕だって、こんなに気持ちいいことが世の中にあるんだろうかという位に気持ちよかった。それは単に肉体的な接触だけにとどまらず、互いの心を触れ合わせたことが一番の理由だった。
「ゔぉーるっ」
愛おしいその名前を呼んでみると、冷たい鼻先が僕の鼻にピトリと引っ付いた。
「なあ、俺のこと、ペットか何かだと思ってねえだろな?」
ムスッとして怖い顔を作ってみせた。そんな顔しても全然怖くなんかないんだけどね。
「うーん、あながち間違いじゃないかも」
即座にオイッという突っ込み。
「ずっと一緒に居たい、家族のような存在って意味ではね。」
布団の中でバッタンバッタン暴れ回る尻尾に大笑いしてしまう。その後、不貞腐れて口を利いてくれなくなったヴォルを慰めるのには少しばかりの時間を費やす羽目になった。
翌日、まだ夜と言うには早い黄昏時。
店内には僕とヴォルガさんと、ヤナさんの三人ぽっち。お客としては実質一人。ヴォルガさんがまな板の上で包丁を振るうリズミカルな音が響いている。
「お待たせしました、ビールです。今日も一日お疲れ様でした。」
いやあクタクタだぜ、暑いのは苦手なんだよな。と愚痴をたれながらビールに目を輝かせる姿を見ていると思わず笑みがこぼれる。これからも、ここで上手くやっていけそうな自信がどこからか湧き上がってきていた。
「それにしてもよお、随分仲良くなったみたいじゃねえか?」
うん? 言葉の意図を理解して尚、真意を理解しかねる。そりゃあ、昨日はその、そういうコトをしたけれど、この店に立っている間は公私混同はせずあくまでヴォルガさんと呼んでいるし、態度にだって出ないように上手く隠しているつもりだ。
「なんだヤナ、暑さで頭がおかしくなったのか?」
包丁から目を離さないまま、ヴォルガさんが手厳しい言葉をぶつける。この二人、軽口を言い合えるくらいには仲が良いんだな。ヴォルガさんの言葉を意にも介さず、アルコールが沁みてきたのかヘラヘラとした態度のオオカミ。本当になんだっていうんだろうか。
「ご褒美にちんちん食べて~ワンワンッ!」
わざとらしく芝居がかった口調で放たれた台詞に店内が凍った。え、いま、なんて。静止した時間の中で、茶色毛のオオカミだけが楽しそうにイヌの真似事をしてみせる。
ガシャンという音と共に、ヴォルガさんが包丁を持ったままカウンターから飛び出した。
「おお、おまっ! なんっ、どこで見てやがった!!」
フーフーと猫のように荒く鼻息を吐いて包丁を突き立てようとするヴォルガさんを止めるのに僕は必死だった。
「ちょ、ちょっと! ヴォルガさん落ち着いてっ!!」
危害が及ばないように制しながらも僕の頭の中にも同じ疑問が浮かんでいた。昨日のアレを……まさか見られていた?
「いやあ、だってなあ」
まるで危機感のない飄々とした声。
「オレの家、ココの隣だから。丸聞こえだっつーの」
ヴォルガさんは頭を抱えてうずくまり、ブツブツと呪詛を唱えていた。確かにまあ、あれだけ声を出せば聞こえてしまうわな。そんなことにも頭が回らないほどに興奮してしまっていた。別に覗かれていた訳でも何でもないのだから、ヤナさんには非が無いとも言えるし……
「そもそもケンイチがあんなコトさせるからだぞっ!」
「なっ、ヴォルだって尻尾振ってたくせに!」
売り言葉に買い言葉。夫婦喧嘩は犬も食わない。日曜日にコメディー映画でも観ているような態度で肩肘を付いて眺めるもう一匹のオオカミ。
「ヴォルぅ、おかわり~」
お前に飲ませるサケはねえっ! 一際大きな声が村中に響き渡った。
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