地縛霊おじさんは今日も安らかに眠れない

naimaze

文字の大きさ
25 / 65

第25話 釈放

しおりを挟む
「……本物の幽霊さん……ですか?」

「はい。私も、この容疑者2名も、既に命を失った存在です」

「「んぐもがー!」」

 夏の夜。
 廃ビルの一室。

 段ボールの上に敷かれたゴザに座って、ちゃぶ台を挟んでお茶をすすっている女性二人と、その横で、布団で簀巻きにされて転がされている男二人。

 簀巻きにされているうちの片方が、この廃ビルの主(地縛霊)である俺で、もう片方が、生前は俺の職場の後輩だったが現在は飲んだくれの幽霊をやっている、管野 錬くだの れんなわけだが、錬はともかく、俺の方は別に容疑者と言われるような行動をした覚えが無ければ、当然、簀巻きにされるような筋合いは無い。

 そこで座ってお茶を飲んでいる女性の片方、ホラー番組の企画でこの廃ビルに訪れたグラビアアイドル、平井ひらい るあ が、どうやら心霊スポットとして話題になりつつあるこの廃ビルで、丸々二日間、一人きりで過ごすという、番組スタッフの無茶な指示に振り回されていたのを、陰ながら助けようとしただけだ。

 その際に、転びそうになった彼女を思わず抱きかかえるという状況には陥ってしまったが、別に狙ってやったわけじゃないし、今だって、正座している彼女のスカートの中が見えそうになっているが、それは縛られて転がされているせいであって、決して俺のせいじゃない。

 くっ……あと少し……あと少しなんだが……。

 ……コホン。

 そして、俺と後輩をこんな状態にしたのは、ちゃぶ台でお茶を飲んでいるもう片方の女性、苦掘 美鈴にがほり みすず
 生前も今も現役の警察官らしいが、何故か彼女が着ている制服は現実には存在しないミニスカタイプの制服なので、どうあがいてもコスプレにしか見えない。

 彼女は見た目的にも若いし、普通に似合っているので、こちらとしては全然いいのだが、現実ではミニではない正式なスカートタイプの制服を着た女性警察官も見かけなったこの時代に、本職の警察官が、漫画や映像作品でしか登場しないようなコスプレ衣装を着ているというのは、一体どんな理由があるのだろうか。

「うーん……そう言われても、あんまり実感が湧きませんねぇ……こうしてしっかり見えていますし、お喋りも出来ていますし……」

「まぁ、そうかもしれませんね……では、試しに私の手に触れてみてください」

 そう言って、コスプレ警官の美鈴ちゃんは、グラビアアイドルの るあちゃんの前に自身の手を差し出す。
 その光景を見て、るあちゃんは、半信半疑ではあるかもしれないが、ゴクリと唾をのみ、緊張した様子で、その手に触れようと手を伸ばすが……。

「え? ……あれ? 嘘……本当に触れない……はわわっ……今、背筋がゾクゾクってしましたっ!」

「まぁ、とりあえず、これで信じていただけましたかかね?」

「はい……あ、でも、こちらの方には触れられましたけど……こちらの方は生きている方ではないんですか?」

「触れられ、た……?」

 ギロッ、と、美鈴ちゃんが、寝転がされている俺を睨む。

「もご!?」

 いやいや! るあちゃんがここで言った「触れられた」っていうのは、「触れることが出来た」って意味で、「人が故意に触れてきた」って意味じゃないでしょ!?

 確かに、どちらともとれる言い回しだし、実際に俺が故意に触れたから間違ってはいないんだけど! そんな、触れるって言っても、彼女が転びそうになったところを、ちょっと抱きかかえるような形で受け止めただけだから! 正当な理由からだから!

 と、俺は美鈴ちゃんに必死に訴えかけるが、口をガムテープで縛られているのでどうあがいても「もごもご」としか言葉を発せない。
 ……まぁ、そうじゃなくても、彼女は人の話を聞かないという前例があるから、あまり意味があるとは思えないが。

「いえっ、違いますっ! この方は私が転びそうになったところを支えてくれただけで……」

「……」

 ほら、触れられた彼女自身がこうして弁護してくれているにも関わらず、こっちに疑いの視線を向けたままだし。

 というか、事情聴取だか何だか知らないが、状況を詳しく聞きたいからって、その場所として勝手に俺の部屋を選んだのは美鈴ちゃんなんだが……。
 まぁ、別に俺がここ土地の権利書を持っているわけでも、この部屋の賃貸契約書を持っているわけでもない、ただ俺が地縛霊として行動できる範囲の中で勝手に住み着いただけの部屋だから、ここを使うことに関しては強く言えないが……事情を聞くために来たんだから、ちゃんと事情を聞いてくれよ。

「まぁ、いいでしょう……被害者が被害を訴えなければ、それは事件という扱いにはなりませんからね」

「ほっ……よかった」

 美鈴ちゃんはまだ釈然としない様子だったが、るあちゃんの弁護により、俺は口に貼られていたガムテープを剝がされ、布団の拘束を解かれることとなった。
 どうでもいいが、この間のお泊り会でネココが新たに追加していった布団がそのままこの部屋に置かれたままなんだが、元の場所に返さなくていいんだろうか……。

 それにしても、まだ俺のことを睨んでいたり、容疑者とか被害者とか、逮捕したパターンの呼び方をしてくる美鈴ちゃんと違って、るあちゃんは本当に良い子だなぁ。
 おじさん、この件が落ち着いた後も、ファンを続けるよ……テレビ無いけど。

 ……と、解放された喜びを感じながら、そんなことを考えていると。

「あれ……? さっきは触れられたのに……」

 いつの間にか、るあちゃんがすぐ側まで近寄ってきていて、俺の身体を触ろうと、ペタペタと、いや、スカスカと、その手を俺の腕や胸に擦り抜けさせていた。

「ふんっ」

「わわっ……触れないと思ったら、急に触れるように……」

 なので、半実体モードを発動して、彼女が触れるようにしてやる。

 分かりやすくムキムキアピールをするようなポーズをしながら発動してみたものの、別に全く鍛えられていない軟弱な胸板をペタペタと触る彼女の手がくすぐったい。

「……コホン」

 俺としては別にいつまでその時間が続いても構わなかったが、視線を上げると、美鈴ちゃんが手錠を片手に咳払いしていたので、このくらいにしておいた方がいいだろう。

 何はともあれ、とりあえず状況の説明だな……このポルターガイスト能力とかも含めて。

 地縛霊になったばかりのかつての俺もそうだったように、今まで知らなかった世界のことを知る彼女は驚くだろうが、いつかの静子ちゃんのように、何故か急に俺たち幽霊のことが見えるようになってしまって、ついでに声も聞こえるようになってしまったのだから仕方ない。

 少し長くなるかもしれないが、まだ夜は始まったばかり……少々我慢して、俺たちのことを聞いてもらうとしよう……俺も睡眠時間を犠牲にしているのだから。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

死霊術士が暴れたり建国したりするお話

はくさい
ファンタジー
 多くの日本人が色々な能力を与えられて異世界に送りこまれ、死霊術士の能力を与えられた主人公が、魔物と戦ったり、冒険者と戦ったり、貴族と戦ったり、聖女と戦ったり、ドラゴンと戦ったり、勇者と戦ったり、魔王と戦ったり、建国したりしながらファンタジー異世界を生き抜いていくお話です。  ライバルは錬金術師です。  ヒロイン登場は遅めです。  少しでも面白いと思ってくださった方は、いいねいただけると嬉しいです。

おじさん、女子高生になる

一宮 沙耶
大衆娯楽
だれからも振り向いてもらえないおじさん。 それが女子高生に向けて若返っていく。 そして政治闘争に巻き込まれていく。 その結末は?

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

ユニークアイテムな女子(絶対的替えの効かない、唯一無二の彼女)「ゆにかの」

masuta
キャラ文芸
恋と友情、そして命を懸けた決断。青春は止まらない。 世界を股にかける財閥の御曹司・嘉位は、U-15日本代表として世界一を経験した天才投手。 しかし、ある理由で野球を捨て、超エリート進学校・和井田学園へ進学する。 入学式の日、偶然ぶつかった少女・香織。 彼女は、嘉位にとって“絶対的替えの効かない、唯一無二の存在”だった。 香織は、八重の親友。 そして八重は、時に未来を暗示する不思議な夢を見る少女。 その夢が、やがて物語を大きく動かしていく。 ゴールデンウィーク、八重の見た夢は、未曾有の大災害を告げていた。 偶然か、必然か……命を守るために立ち上がる。 「誰も欠けさせない」という信念を胸に走り続ける。 やがて災害を未然に防ぎ、再びグラウンドへと導く。 その中で、恋もまた静かに進んでいく。 「ずっと、君が好きだった」告白の言葉が、災害と勝負を越えた心を震わせる。 それぞれの想いが交錯し、群像劇は加速する。 一人ひとりが主人公。人生に脇役はいない。 現代ファンタジーとリアルが交錯する青春群像劇。 本作は小説家になろう、オリジナル作品のフルリメイク版です。

処理中です...