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第39話 原宿
しおりを挟む若者の街、原宿。
昔は各メディアでそんな風に呼ばれていたと思うが、今でもその街はそう呼ばれているんだろうか。
まぁ、もし、俺が知っている知識から時代が変わっていて、現代を生きている人たちがそう呼んでいないとしても、幽霊たちからは今もなお、そのキャッチフレーズで親しまれている街らしい。
自分たち幽霊は、一般的には、生きている人間から目視されることは無いし、霊体化されていないモノに触れることも出来ない。
だから当然、普通の店に入っても、店員に相手にされないし、商品を手に取ることもできないということになる。
けれど、その昔……。
幽霊でも、流行りのファッションを楽しみたいし、友達と美味しいコーヒーを飲みながらお喋りしたい! という夢を原動力に、それを実現するための計画を立てて、仲間を集め、実行した幽霊が存在したらしい。
実現した内容は、特定の日、あるいは特定の時間帯に限り、幽霊および霊感のある人間しか利用できなくなるという期間を設定した、幽霊向けのお店を作ること。
それは、最初からそれを前提にオープンした店もあれば、既にオープンしていたお店が協力してくれるようになったという事例もあるようだ。
その計画は、今もなお後継者たちによって維持・展開されて続けていて、今や世界各地に、幽霊に対しても商売してくれているお店がそれなりの数存在するらしい。
そして原宿はなんと、そんな幽霊向けのお店が一番最初にオープンした、この計画の始まりの地と言われていて、娯楽好きな若い幽霊たちの間では、発祥の地、聖地として親しまれているとのこと。
協力してくれているお店の数や種類を見ても、少なくとも日本国内では、他のどんな土地よりも充実していて、一つ一つのお店が幽霊に対して特定の曜日や時間帯しか営業していないとしても、その数が多いこともあり、いつ行ってもどこかしらのお店が営業しているらしい。
若い幽霊たちの間では、そんな『日替わりで行けるお店が変わる』ということすらも楽しみの一部とされていて、毎日通っても飽きないデートスポットとして大活躍しているそうだ。
「原宿が、幽霊に人気なデートスポットねぇ……」
確かに、街のところどころに怪しい店があったのは覚えてるけど、まさか隠れて幽霊が利用している店があったなんて知らなかったな……。
っていうか、この世には幽霊カップルなんてものがそんなに存在するのかよ……さっさと成仏すればいいのに。
まぁそんなわけで、当然、その場所は、錬と美鈴ちゃんの恋を応援していた自分たちの目にも留まり、現在、当事者である二人と、そのサポートをしている二人は、その街にいるわけだが……。
「どうだ? 作戦はうまくいってそうか?」
「問題ないニャ! 錬っち、ヘタレの変態の割に頑張ってるニャ!」
「美鈴さんの方も、恥ずかしいのか、慣れてないのか、ちょっと遠慮が強かったり、つんけんした態度を取っていたりする場面がありますが、心の内では楽しんでいそうな雰囲気を感じますよ……何だかちょっと羨ましいです」
ネココも静子ちゃんも、初デートを満喫している二人に対して何となく辛口な評価だが、デートの方は問題なく進んでいそうだな。
最初は、錬が指名手配犯で、美鈴ちゃんが警察官という、どうあがいてもくっつきそうにない状態にある二人が本当に付き合えるのか不安しかなかったが、もしかしたら、美鈴ちゃんの方も錬に対してまんざらでもない気持ちを抱えていたんだろうか。
まぁ、そんな彼女が奇抜すぎるファッションで現れたのにも驚いたが、今、おしゃれな喫茶店でお喋りを楽しいんでいる美鈴ちゃんは、デート開始時に羽織っていたモコモコショールを紙袋の中に仕舞い、最初に行った服飾店で錬がプレゼントした夏用のストールを羽織っている。
俺の手元にある雑誌に「彼女のファッションが行き先に合っていなかったら、指摘せずにさりげなく代わりの服飾品をプレゼントすることで正してあげよう」というアドバイスが乗っていてよかったな。
どんなデートの達人が書いたのかは分からないが、地縛霊として廃ビルの敷地内から出られず、スマホを通して指示することしか出来ていない俺に役立てる機会をくれてありがとう。
まぁ、遠くから二人の様子を見守っているネココと静子ちゃんも、二人の話している内容までは聞こえていないようなので、俺の指示がどれほどの効果を与えているのかも、二人の会話が弾んでいるのかどうかも分からないんだが、そこは発起人である錬を信じるしかないだろう。
「だが、この調子なら、あとは放っておいても問題なさそうだな」
「ニャ? ということは、ネココたちはもう解散かニャ?」
「ああ、タイミングを見て静子ちゃんの持っているスマホを錬に返して、俺たちは引き上げると伝えてくれ」
「了解ニャ!」
「んで、忘れてないと思うが、帰りに俺の頼んだお使いもよろしくな」
「はいっ、礼二さんに似合うお洋服と、何か美味しいお菓子ですよね? わたしに任せてくださいっ」
「にゃー、そういえばそんなことを頼まれていたような気もするニャ」
「……んじゃ、どうやらネココは覚えてないらしいし、俺が二人に渡す予定だったお小遣いは、静子ちゃんが全部使っちゃっていいからなー」
「ニャニャ! 思い出し……ばっちり覚えているニャ! お土産の配達なら、化猫配達のネココにお任せニャ!」
「ふふふ」
今回の協力にあたって、いつも幽霊らしくあちらこちらをフラフラと飛び回っているネココはともかく、静子ちゃんは姿を隠すことも空を飛ぶこともできない生身の人間で、わざわざ電車代まで出して原宿まで出向いてくれた。
そんな彼女のために、協力費ということで錬からもバイト代が出ているが、俺も誘った側の大人として、何かしら見返りを用意するべきだろうと、お使いで余ったおつりは自由に使っていいという体で、特に使う予定の無いお金を往復の電車代含め渡してある。
幽霊は他の遺品と同様、生前の貯金を自由に使える権利が与えられているらしく、地方公務員の宇井さんにそれを使いたいと相談したら、霊界銀行とやらで代わりに手続きをしてくれて、俺が生前、仕事で忙しすぎて全然使えていなかった貯金が使えるようになった。
生きていたら必須だった衣食住も気にしなくていい幽霊には、基本的にお金の使い道なんて無い上に、俺は反則技で、ネココからただで色々なものを貰って生活しているからな……こういう時に使わないと永遠に使わないだろう。
「とりあえず今日はお疲れ様。遊びまわるのはいいが、普通の人間から見たら静子ちゃんは一人で遊びに来ている女子高生だからな、遊んでいる最中も、帰りも、十分に気を付けるんだぞ」
「了解ニャ! 静子にゃんはネココが! 原宿にいる全幽霊の力を借りてお守りするニャ!!」
「お前自身が守るんじゃないんかい」
「ふふふ、わたしも気を付けるので大丈夫ですよ、ありがとうございます」
まぁ、確かに、原宿には今日も静子ちゃんと同じ霊感持ちや、幽霊で溢れているらしいので、何があったところで何とかなりそうかもな……。
俺は二人に作戦完了と解散を告げて、スマホの通話を終了する。
これにて、恋のキューピット大作戦、終了だ。
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