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第57話 少し前の病室にて
しおりを挟む人間の大人っていうのは、バカばっかりニャ……。
もっと子供のことを信頼して、自由に生きるための選択を奪わないで欲しいニャ……。
出会ったばかりの人を好きになったって、幽霊のことを好きになったって、その人が亡くなったお父さんに似てたって、別にそれで楽しく過ごせているなら、それでいいニャ……。
両親がいなくたって、人間の友達がなかなか出来なくったって、別に他に仲のいい友達がいるなら、それでいいニャ……。
将来が心配だとか、可愛そうだとか、余計なお世話ニャ……。
……。
静子にゃんが事故にあってから、昔のことばっかり思い出す……。
施設を抜け出して、ずっと近所の猫と一緒に遊んでいた、あの頃……。
今思うと、流石に、道路に飛び出した猫を助けるために自分が犠牲になったのは、ネココ自身もちょっと心を寄せすぎていたなとは思うけど……それでも、あの頃、周りの大人とか子供とかと仲良くなれる気がしなかったから、仕方なかったニャ……。
「ニャー……」
病院のベッドにもたれかかって、そこで寝ている静子にゃんの手を握る。
実際には、ベッドにもたれかかれてないし、手も握れてニャいけど……触れなくても、ネココの気持ちは届くはず。
自分とどこか似ている気がする静子にゃんと出会ってから、ネココは静子にゃんとずっと一緒にいて、いつも手を繋いで一緒に寝てたニャ……。
あの頃、猫と一緒に遊んでいた時みたいに、何も言わなくても、なんとなく相手の気持ちが分かったし、一緒に食べるご飯は美味しかったニャ……。
「う……ん……?」
「!? ……静子にゃん!?」
小さな声が聞こえて顔を上げると、静子にゃんが目を開けていた。
それは、ただ目を開けているだけで、力がこもってはいなかったけど、確かに開けていた。
「ずっと心配してたニャ! どこか痛いところとかニャいかニャ?」
静子にゃんは、ゆっくり視線を動かして周りを見ているみたいだけど、ネココの声には答えない……聞こえていないのか、声が出ないのかニャ……?
「待ってるニャ! 今看護師さんを呼んであげるニャ!」
ネココは、近くにあったナースコールを、霊体化してから、ボタンを押す。
ピンポーン、と、家のチャイムとかと比べると少し高い感じの音が聞こえた。
機械の一部が霊体化してても動くかどうか分からなかったけど、ちゃんと動いてよかったニャ……。
「すぐに看護師さんが来ると思うから、安心して待ってるニャ!」
その声にも、静子にゃんは応えない。
首は動くみたいだけど、頷くのはまだ難しいのか、そういう仕草もなかった。
タッタッタッタ、と、誰かがこの部屋に近づいてくる足音が聞こえた。
静子ちゃんと一緒に、そちらへ視線を向けると、そこにあったドアが、コンコン、とノックされた後、「失礼します」という声が聞こえて、清潔感のある白い服を着た女の人と、白衣を着た女の人が部屋に入ってきた。
看護師さんと一緒に、お医者さんも来てくれたみたいニャ。
「四条さん、目が覚めたんですね?」
お医者さんは、静子にゃんの寝ているベッドまで近づくと、そんな風に声をかけながら、その目を覗き込んだり、額に手を当てたりしている。
静子にゃん、大丈夫かニャ……?
「声を出すことは出来ますか? 普通の声量で、『あー』と言ってみてください」
「あー……」
!?
お医者さんがそう声をかけると、静子にゃんは、か細いけど、ちゃんと声を出せていた。
声が出せなくなったわけじゃなかったみたいでよかった……だけど、それならネココにも返事を返して欲しいニャ。
「腕、持ち上がります?」
お医者さんがそう言うと、静子にゃんは、ゆっくりと首を振った。
「そうですか……あれ? その状態で、どうやってナースコールを?」
「ナース……コール……?」
「はいはーい! ネココが押したニャ! 静子にゃんがこんな時に病室にいないどこかのおじさんと違って、ネココは偉い猫ニャ!」
「さっきまでご家族の方がいらっしゃったとか?」
「違うニャ! ネココが押したニャ! 静子にゃんも、役に立たないおじさんの代わりに、親切な猫が押してくれたって説明してくれてもいいニャ!」
お医者さんの言葉に、ひとつひとつ、茶々を入れてみるけど、いつもならクスクスと小さく笑ってくれる静子にゃんが、今日は全然笑ってくれない。
静子にゃんが、まだそこまで元気がないのか、ネココのアピールが足りないのか……うーん、とにかく、まだまだ静子ちゃんを元気づけるための精進が必要かもしれないニャ。
「ふむ……まぁ、いいでしょう。名越さん、四条さんのご家族の方に連絡を取って、四条さんが目を覚ましたことをお伝えしてください」
「わかりました」
お医者さんの指示を聞いて、看護師さんが部屋を出て行く。
「それで、これからの予定ですが……」
それからもネココは、お医者さんの言葉に茶々を入れたり、思い切って静子にゃんに抱き着いてみたり(実際には触れてない)したけど、静子にゃん何にも反応してくれニャかった……。
いつもなら、はいはい、って、少し窘めるように頭を撫でるふりをしてくれながら、ふわふわで優しい笑顔を向けてくれるのに……。
「静子にゃ……」
そして、そのまま、寝息を立てて寝てしまった……。
お医者さんの話が途中だったのはどうでもいいけど、ネココの話もまだ途中だったのに……。
いつもなら、どんなにつまらない話でも最後まで聞いてくれるのに……。
ネココは、またベッドにもたれかかって、静子にゃんの手を握る。
……いや、実際には、握れていない。
ネココは、静子にゃんの手に触れることもできないし、その手が温かいのか冷たいのかすら分からない。
でも、今までは、それでも、心のどこかで繋がりを感じたし、声も聞けて、お話も出来たのに……。
「静子にゃん……っ」
ネココの目から溢れた大粒の水滴が、静子にゃんの手を透き通って、そのままベッドも突き抜けて、どこかに消えていった。
ネココは、涙でベッドシーツを濡らすこともできない……。
静子にゃんに触れられないし、お話しすることもできない……。
本当はそれが普通なんだってことくらい、分かるけど……でも、なんで、こんな急に……。
「ズズッ」
鼻水をすすって、袖で涙を拭って、立ち上がる。
子猫なネココには、何でこんなことになったのか、分からニャい……。
子猫なネココじゃ、何をしたらいいのかも、分からニャい……。
でも……。
「とりあえず礼二くんのところに行くニャ!!」
ネココは、化猫配達ニャ。
本当はちょっと持っていきたくニャいお知らせでも、ちょっとえっちなコーナーがある漫画雑誌でも、ネココはそれを待っている人のところに届けるのニャ!
そう意気込んで、ネココは閉まっている窓から飛び出す。
もう雨は止んでいたけど、まだ空は分厚い雲に覆われていた。
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