地縛霊おじさんは今日も安らかに眠れない

naimaze

文字の大きさ
59 / 65

第59話 友

しおりを挟む
「先輩ー、酒持ってきたっすよー」

 時刻は深夜零時。

 多くの居酒屋ではラストオーダーが終わって、店じまいをする時間帯。

 当然、俺も本日の営業はすでに終了していて、もう歯も磨き終わって、寝る準備万端で布団に挟まっているのだが……そんな中、その男はやってきた。

「またのお越しをお待ちしていまーす……」

 だから俺がそいつを無視するように布団の中で丸くなって背を向け、営業終了の旨を伝えるのは当たり前だろう。

「えー、そんなこと言わないで一緒に飲みましょうよー、ねー、ねー」

 だが、そいつはそんな俺の対応なんてお構いなく部屋に入ってきて、布団の中で丸まっている俺を揺さぶり始める。

 はぁ……せっかく、今日は工事とかが休みの日らしくて、しっかり夜に眠れそうだったんだがな……。

「分かったよ、一杯だけな」

「さっすが先輩、今日もいっぱい持ってきたんで、好きなだけ飲んでいいっすよー。あ、もちろん、これはパクった奴じゃなくて、ちゃんと稼いだ給料で買ってきたやつっす」

「……一杯だけな」

 しばらく前と同じように、しばらく前とは少し違うやり取りをして、俺と錬は、プルタブを開けた缶をぶつける。

 久しぶりの酒は、前に飲んだものよりも少し冷えている気がして、うまかった。

「幽霊を相手に酒を売ってくれるお店を見つけたんすよ、しかも、この時間にやってる店を」

「へー、別に食べたり飲んだりしなくても活動できる幽霊相手に、わざわざご苦労なことだね」

「何言ってるんすか、酒は元から生きるのに必要ない嗜好品っすよ? それに、よくあるじゃないっすか、酒好きだった故人の墓にお気に入りだった酒をかけてやる、みたいなやつ」

「あー、あれ、本当はダメらしいな……墓石が変色したりカビたりするから」

「え? マジっすか? 知らなかったぁー」

 やはりいつも通りここに来る前から飲んでいたのか、既に出来上がっている錬は、俺の返答に対していちいち大げさにリアクションを取る。

 恋人が出来て少しは落ち着いたと思ったんだが、相変わらずシラフで会う機会の少ない奴だな……。

 俺はその後も、アルコールですっかり顔を赤く火照らせた錬が話す雑な話題に対して、雑な返答をしては、雑なリアクションを眺める、ということを繰り返した。

 雑談と呼ぶにも雑過ぎるやり取りだが、酒が入っていると、何故かその雑さが心地よかったりするんだよな……。

 ……だけど、今日はちょっと、その心地よさに、少し引っかかりがあった。

「別にタイミングとか伺わなくていいぞ、何か話したいことがあるんだろ?」

「……あー、分かっちゃいましたか?」

 錬のノリが、いつもよりも少し大げさだったし、会話の度に少しだけ変な間があったからな……。

 こいつとあまり宅飲みをしていないやつだったら気づかないレベルかもしれないが、何を好き好んでそんな関係になったのか、俺は伊達にこいつと酒を飲み交わしていないからか、心の底から遺憾ながら、気づいてしまったのだからしょうがない。

 そして、こいつが話そうとしていた話題も、きっと静子ちゃんの事なのだろうと、何となく察しが付く。

「美鈴ちゃんあたりから聞いたのか?」

「そうっすね、聞きました」

 大方、宇井さんから美鈴ちゃんに伝わり、それが錬の耳にまで届いたってところだろう。
 こいつはただのアホな飲んだくれに見えて、意外と人の事を気にするところがあるからな……この話題がこいつの耳に入ったら、間違いなくやってくると予想していた。

「別に俺は気にしてないから大丈夫だ。それより、ネココのことを励ましに行ってやってくれないか?」

「ネココのとこには、美鈴ちゃんが行ってるっす」

「はぁー、カップル揃ってカウンセリングとは、ご苦労なこった」

 まぁ、確かに、あの状態のネココのところにこいつが行っても、威嚇されてひっかかれて追い返されるだけか。
 感情的な問題もあるだろうし、似た感性を持っている同性同士の方が話しやすいこともあるだろうしな。

「先輩、本当に気にしてないっすか?」

「ん? ああ……っていうか、気にしたって、そうなっちゃったもんはしょうがないだろ」

「そう言うことじゃなくてっすね……」

「だいたい……お前も分かるだろ? 今の形が世の中にとって一番自然なんだ、生きている人間が幽霊と関われる方が……」

「先輩!!」

「っ……な、なんだよ」

 ガンッ、と、錬がちゃぶ台を叩き、その勢いのまま身を乗り出して、俺の胸ぐらを掴む。
 俺は、酔っ払うにしても酔い過ぎだと言ってその手を払おうとしたが、まっすぐこちらを見つめている錬の目が全く酔っていない様子なのを見て、上げかけていた手を下ろした……。

「ここは酒の席っすから、愚痴や本心、大歓迎っすよ?」

 その様子を見た錬は、俺の胸ぐらを離すと、そう言いながら、いつも通りの笑顔で、俺の飲みかけの缶を差し出す……。

 突然の解放と、差し出された酒……。

 俺は、笑顔の錬と、その手渡された酒を交互に見つめると、それを一気に飲み干して……。

 ガラガラ、と、近くの窓を勢いよく開けると……。

「気になって気になって! 夜も眠れんわぁぁああああ!!!!!」

 ……外の暗闇に向かって、力いっぱい、思いっきり、そう叫んだ。

「先輩、近所迷惑っすよ」

 そしてついでに、急にはしごを外した錬の頭をバシンッとひっぱたいた……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

死霊術士が暴れたり建国したりするお話

はくさい
ファンタジー
 多くの日本人が色々な能力を与えられて異世界に送りこまれ、死霊術士の能力を与えられた主人公が、魔物と戦ったり、冒険者と戦ったり、貴族と戦ったり、聖女と戦ったり、ドラゴンと戦ったり、勇者と戦ったり、魔王と戦ったり、建国したりしながらファンタジー異世界を生き抜いていくお話です。  ライバルは錬金術師です。  ヒロイン登場は遅めです。  少しでも面白いと思ってくださった方は、いいねいただけると嬉しいです。

おじさん、女子高生になる

一宮 沙耶
大衆娯楽
だれからも振り向いてもらえないおじさん。 それが女子高生に向けて若返っていく。 そして政治闘争に巻き込まれていく。 その結末は?

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

ユニークアイテムな女子(絶対的替えの効かない、唯一無二の彼女)「ゆにかの」

masuta
キャラ文芸
恋と友情、そして命を懸けた決断。青春は止まらない。 世界を股にかける財閥の御曹司・嘉位は、U-15日本代表として世界一を経験した天才投手。 しかし、ある理由で野球を捨て、超エリート進学校・和井田学園へ進学する。 入学式の日、偶然ぶつかった少女・香織。 彼女は、嘉位にとって“絶対的替えの効かない、唯一無二の存在”だった。 香織は、八重の親友。 そして八重は、時に未来を暗示する不思議な夢を見る少女。 その夢が、やがて物語を大きく動かしていく。 ゴールデンウィーク、八重の見た夢は、未曾有の大災害を告げていた。 偶然か、必然か……命を守るために立ち上がる。 「誰も欠けさせない」という信念を胸に走り続ける。 やがて災害を未然に防ぎ、再びグラウンドへと導く。 その中で、恋もまた静かに進んでいく。 「ずっと、君が好きだった」告白の言葉が、災害と勝負を越えた心を震わせる。 それぞれの想いが交錯し、群像劇は加速する。 一人ひとりが主人公。人生に脇役はいない。 現代ファンタジーとリアルが交錯する青春群像劇。 本作は小説家になろう、オリジナル作品のフルリメイク版です。

処理中です...